何故、いま、「第5次エネルギー基本計画」のなかで、2030年度の原発比率の20 ~ 30% が必要なのでしょうか?(補遺 その1) 化石燃料枯渇後に備えて、正しいエネルギー政策を創るためには、化石燃料資源量換算の一次エネルギー消費における電力化率の値を正しく把握する必要があります

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 第5次エネルギー基本計画のなかで、2030年の原発比率が問題にされていますが、これは、電源構成のなかの原発電力の比率の値です。エネルギー政策のなかで、この値を問題にするのであれば、この値が化石燃料資源量換算の「一次エネルギー消費における電力化率(一次エネルギー消費(合計)のなかの一次エネルギー(電力)の比率)」の値が、正しく把握されていなければなりません

② 「国内の一次エネルギー消費における電力化率」の値は、化石燃料代替として用いられている原発電力や再生可能エネルギー(再エネ)電力について、それらの使用が、化石燃料を用いる火力発電の代替になるとして求められた「化石燃料資源量換算の一次エネルギー消費(電力)」の値の一次エネルギー消費(合計)の値に対する比率(百分率)として求めることができます

③ 世界の一次エネルギー消費における電力化率の値は、国内における電力化率を求める方法とは異なり、原発電力や再エネ電力についての一次エネルギー消費量の値について、IEA(国際エネルギー機構)が決めた値が用いられています。原発電力や再エネ電力が、化石燃料を用いる火力発電の代替として用いられている現状では、一次エネルギー消費(電力)の値を、電力の種類によらず、火力発電の代替とする日本の方式への統一が求められるべきです

④ 日本の正しいエネルギー政策をリードすべきエネ研データ(文献1 )では、国内における電力化率の値が示されていません。これが、化石燃料資源換算量で与えられる一次エネルギー消費における電力化率の値を無視して、電源構成のなかの原発比率を問題にする「第5次エネルギー基本計画」に繋がっていると考えられます

⑤ 化石燃料の枯渇後、その代替として用いられるのが原発電力ではなく、再エネ電力だとしても、それは、電力化率の値の高い電力化社会での再エネ電力の使用でなければなりません。この科学の常識を無視して、日本のエネルギー政策のなかに迷い込んだのが、地球温暖化対策として進められた国策「幻想のバイオ燃料」であり、新しく進められようとしている「幻想の水素社会」です。「一次エネルギー消費における電力化率」の定量的な把握こそが、化石燃料枯渇後に備えた正しいエネルギー政策の立案のために求められます

 

(解説本文);

① 第5次エネルギー基本計画のなかで、2030年の原発比率が問題にされていますが、これは、電源構成のなかの原発電力の比率の値です。エネルギー政策のなかで、この値を問題にするのであれば、この値が化石燃料資源量換算の「一次エネルギー消費における電力化率(一次エネルギー消費(合計)のなかの一次エネルギー(電力)の比率)」の値が、正しく把握されていなければなりません

今夏(7月4日)、閣議決定された第5次エネルギー基本計画でのなかで、2030年度における電源構成のなかの原発電力比率20 ~22 %、また、再生可能エネルギー(再エネ)電力比率22 ~ 24 %の目標数値の妥当性が問題になっています。ここで問題になっているのは、電源構成のなかの原発電力および再生可能エネルギー(再エネ)電力の比率です。ところで、化石燃料がエネルギー源の主体を占める現状では、エネルギー政策のなかで問題にされるべきは、化石燃料資源量換算として与えられている「一次エネルギー消費量」の値で与えられる原発電力比率です。この値を知るためには、いま、現代文明社会のなかで、便利なエネルギーとして利用されている電力について、その値を一次エネルギー消費量の値として、電力以外のエネルギーを含めた「一次エネルギー消費合計量」のなかの電力の比率、「一次エネルギー消費における電力化比率」の値が正しく知られなければなりません。

ところで、日本のエネルギー政策の立案のためなどに、最も重要な統計データを与えてくれるはずの日本エネルギー経済研究所編の「エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 )と略記)には、この一次エネルギーについて、国内では「一次エネルギー国内供給」とし、同時にこのエネ研データ(文献1 )に記載のIEA(国際エネルギー機構)のデータでは「一次エネルギー消費」としています。以下、本稿では、差しつかえない範囲で、このIEAデータの「一次エネルギー消費」の用語を使わせて頂きます。

例えば、本稿の下記 ② に示すように、国内における現在(2016年度)の電力化率の値を44.7 %として、この値が2030年においても変わらないとすると、その時の電源構成のなかの原発比率20 % は、一次エネルギー消費(合計)のなかの僅か8.9 % にしかなりません。したがって、今後とも省エネ(節電)努力を継続すれば、原発電力に依存しないで、生活と産業用に必要なエネルギーを賄うことができることになります。実際に、現在(2016年度)の一次エネルギー消費(原子力)の一次エネギー消費(合計)(一次エネルギー国内供給)のなかの比率が0.4% に満たないなかで、日本経済は、「アベノミクスにおけるさらなる成長」を求めさえしなければ、何の支障もありません。

いま、文明社会を支えている化石燃料の枯渇が、現実の脅威になっているなかで、その代替として1970年代から実用化されてきた原発電力が、3.11福島の事故で、今後の利用・拡大を許されないことが明らかになりました。それは、いま、小泉元首相らが訴えるように、再稼動を含めた原発の使用が、人類の生存に脅威を与える放射性核燃料廃棄物の処理・処分の方法の未確立のまま、その費用が推定できないとして次世代に先送りされているからです。さらには、この化石燃料を用いる火力発電代替の原発電力の利用が、いま、国際的な合意を得て進められている地球温暖化対策のCO2の排出削減を目的として、エネルギー基本計画のなかに入り込んで、この国のエネルギー政策に大きな混迷をもたらしています。すなわち、本来、やがて枯渇する化石燃料の代替として用いられるべき原発電力が、地球温暖化対策のCO2排出削減のために、いますぐ用いられて、電力料金の値上げで国民に経済的な負担を強いているのです。これが、今夏、閣議決定された「第5次エネルギー基本計画のなかの原発比率20 ~22 % の値です。

これら、いま、エネルギー政策の立案において問題になっている化石燃料代替の原発も、地球温暖化対策としての再生可能エネルギー(再エネ)も、その利用形態の主体は電力です。これに対して、現在のエネルギー利用の主体である化石燃料は、電力用以外にも、広く用いられています。その典型例が現代文明の利器と言われる自動車用の液体燃料です。これら、電力および電力以外のエネルギーを総合して、その量を表すのに用いられているのが、やがて枯渇する化石燃料資源の換算量として与えられる「一次エネルギー消費(供給)量」です。

すなわち、化石燃料枯渇後のネルギー政策の立案に際しては、この一次エネルギー消費(供給)量のなかの一次エネルギー消費(電力)の値を正確に定量的に把握し、さらには、その今後の変化を予測しなければなりません。しかし、残念ながら、本来であれば、日本のエネルギー政策の立案に、最も重要な統計データを与えてくれるはずのエネ研データ(文献1 )には、この一次エネルギー消費における電力化率の値が、きちんと定義され、数値として与えられていません。

そこで、以下、本稿では、この一次エネルギー消費における電力化率の値を求める方法を提示します。

 

② 「国内の一次エネルギー消費における電力化率」の値は、化石燃料代替として用いられている原発電力や再生可能エネルギー(再エネ)電力について、それらの使用が、化石燃料を用いる火力発電の代替になるとして求められた「化石燃料資源量換算の一次エネルギー消費(電力)」の値の一次エネルギー消費(合計)の値に対する比率(百分率)として求めることができます

原代文明社会の消費エネルギーのなかの電力の比率を表わしたのが「電力化率」の値です。化石燃料資源量の枯渇が問題になる社会では、この「電力化率」の値は、この化石燃料の資源量に注目した一次エネルギー消費量で表わさなければなりません。ところが、国内において、エネルギー関する最も信頼できるデータを与えてくれるはずのエネ研データ(文献1 )には、この「一次エネルギー消費量における電力化率」の値が記載されていません。

すなわち、エネ研データ(文献1 )には、電力は、通常使われている発電量の単位 kWhで表わすとともに、それを、通常、熱量の単位kcal で表した「最終エネルギー消費」量で示されています。一方、このエネ研データ(文献1 )のはじめに記された「解説」では、上記(①)した、化石燃料を用いた火力発電での、単位発電量kWhを得るのに必要な化石燃料の消費量を、その発熱量で表した、一次エネルギー消費(電力)の値が、「一次電力」と言う言葉で示されています。

この「一次電力」、すなわち、化石燃料を用いる火力発電の電力量を、化石燃料資源の発熱量 kcalで表した「一次エネルギー消費量」の値として求める方法は、次式で表わすことができます。

(一次エネルギー消費(電力)kcal)= (発電量kcal )/ (火力発電の発電効率) ( 1 )

この ( 1 ) 式を、

(一次エネルギー消費(電力)kcal )= (発電量kWh)×(一次エネルギー換算係数) ( 2 )

として求められる(一次エネルギー換算係数kcal /kWh)の値を、エネ研データ(文献1 )の「解説」では、

2005年度以降2012年度までは、火力発電の(発電効率)=40.88 % として、(860 kcal /kWh) / 0.4088 = 2,105 kal /kWh、

2016年度は(発電効率)= 41.46 % として、2,074 kcal/kWh

としています。

したがって、エネ研データ(文献1 )に与えられている2016年度の発電量の値 999,891百万 kWhから、( 2 ) 式を用いて、

(一次エネルギー消費(電力))=(999,891百万kWh)×(2,074 kcal/kWh )

= 207,377 ×1010 kcal

と計算されます。

また、エネ研データ(文献1 )に与えられている2016年度の一次エネルギー国内供給の値463,518 ×1010kcal から、

(一次エネルギー消費における電力化率)

=(207,377 ×1010 kcal)/ ( 463,518×1010kcal ) = 0.447 = 44.7 %

と求められます。

さらに、エネ研データ(文献1 )に記載されている国内発電量のデータをもとに計算される一次エネルギー消費(電力)の値を基に計算した「国内の一次エネルギー消費における電力化率」の値、および、同じエネ研データ(文献1 )に与えられている「最終エネルギー消費(電力)」の値を、「最終エネルギー消費(合計)」の値で割って求められる、「国内の最終エネルギー消費における電力化率」の値の年次変化を 図1 に示しました。 ただし、私どもの手持ちのエネ研データ(文献1 )が、2008年版以降であったため、一次エネルギーにおける電力化率の値の計算に必要な化石燃料を用いる火力発電の(発電効率)の値が2005年度以降に限られていたために、一次エネルギー消費における電力化率の値は、2005年度以降になっています。また、最終エネルギーにおける電力化率の値としては、エネ研データ(文献1 )に記載の国内データから求めた電力化率の値とともに、参考として下記(③)に記述したように、エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータにおける国内(日本)の電力化率の値も記しました。

この 図1に示す最終エネルギー消費における電力化率の年次変化に見られるように、一次エネルギー消費の電力化率についても、過去の値では、その年次変化での上昇が推定されます。しかし、この過去の電力化率を上昇させた主な要因としては、使用上の便利さを追求するなかで、家庭用の電化製品の普及など、民生用のエネルギー消費のなかの電力使用量の増加が、そろそろ、限界にきていることが指摘されなければなりません。一方で、今後は、化石燃料の枯渇によるその市場価格の高騰に伴う再エネ電力の使用量の増加が、電力化率の上昇をもたらすとも考えられますが、省エネ(節電)の徹底による電力消費の節減効果も考えられるので、当面の電力化率の予測には、これらの不確定な要因があります。したがって、長期的な視野に立った、エネルギー政策の基本計画は、この電力化率とは無関係な化石燃料消費の節減による省エネの徹底が中心となるべきで、今夏、閣議決定された「第5次エネルギー基本計画の原発電力比率とは、無関係に進められることになると考えるべきでしょう。

注; *1;最終エネルギー消費における(国内発表のデータから)の電力化率の値は、エネ研データの最終エネルギー消費(電力)および最終エネルギー消費(合計)の値から計算しました。 *2;最終エネルギー消費における(IEAに提供のデータから)電力化率の値は、本稿 ③ のIEAデータに記載の日本の最終エネルギー消費における電力化率の値です。 *3;一次エネルギー消費における電力化率の値は、エネ研データに記載の火力発電の(発電効率)の値を用いて計算した一次エネルギー消費(電力)の値を用いて計算しました。

国内の電力化率の年次変化(エネ研データ(文献1 )に記載の国内の発電量、最終エネルギー消費のデータ等をもとに計算して作成)

 

③ 世界の一次エネルギー消費における電力化率の値は、国内における電力化率を求める方法とは異なり、原発電力や再エネ電力についての一次エネルギー消費量の値について、IEA(国際エネルギー機構)が決めた値が用いられています。原発電力や再エネ電力が、化石燃料を用いる火力発電の代替として用いられている現状では、一次エネルギー消費(電力)の値を、電力の種類によらず、火力発電の代替とする日本の方式への統一が求められるべきです

エネ研データ(文献1 )の「解説」には、国際のエネルギー統計として用いられているIEAのデータでは、火力発電以外の電力について、この(一次エネルギー消費(電力))の値が電力の種類ごとに違うとしています。

この一次電力(一次エネルギー消費(電力))の値を,IEA統計では、原子力では、0.26 Mtoe/TWhで、発電効率33 %となるとしています(Mtoe/TWh は、104 kcal/kWhですから、上記(②)の( 2 )式の(一次エネルギー換算係数)の値は2,600 kcal/kWhとなり、発電効率は、860/2,600 = 0.33 =33 % となります)。次いで、水力他は0.0286 Mtoe/TWh(=286 kcal/kWh)となり、発電効率100%となるとありますが、これは、明らかなミスプリントで、正しくは、0.086 Mtoe/TWh(860 kcal/kWh)として、発電効率が860/ 860 =100% とすべきです。また、地熱は 0.86Mtoe/TWh(=8600 kcal/kWh)で、発電効率は860 /8,600 = 10 % と記述されています。

この一次電力の値の、水力他の値のミスプリントは、エネ研データの2014年版以降から続いています。それはともかくとして、IEA統計において、何故、化石燃料を用いる火力発電以外の電力の一次エネルギー消費の値として、このように、電力の種類ごとに異なった値が用いられているのか、理解に苦しみます。また、このIEAデータでは、エネルギーの単位として、化石燃料、なかで、最も枯渇が早いとされている石油の消費量、すなわち「石油換算トン(Mtoe)」の値が用いられています。ただし、原油の発熱量の平均値を10,000 kcal/kg として、1 Mtoe(石油換算百万トン)= 1010 kcal と与えられます。

したがって、エネルギーの有用な使用形態としての電力についても、その一次エネルギー消費(一次電力)の値は、このIEAデータにおいても、国内におけると同様、発電方式の如何にかかわらず、火力発電の発電効率の平均値を用いて、上記(②)の ( 1 ) 式を用いた一次電力への換算が行われるべきです。このようにして、求められた(一次エネルギー消費(電力))の値を、化石燃料消費の合計量として与えられる(一次エネルギー消費)の値で割って求められるのが、「一エネルギー消費における電力化率」でなければなりません。

すなわち、このような、大きな問題点のある一次エネルギー消費(電力)の値を用いたIEAデータですが、「世界の電源構成(発電量ベース)TWh」の値とともに、「世界の電源構成(投入べース)石油換算百万トン」の値が記載されています。

したがって、この電源構成(投入ベース)の値が、世界の一次エネルギー消費(電力)の値を表わすとして、この値と、同時に記載されている「世界の一次エネルギー消費」の値から、「世界の一次エネルギー消費における電力化率」の値を計算して、IEAデータに記載されている「世界の最終エネルギー消費における電力化率」の値とともに図2 に示しました。ただし、上記 ② の図1 におけると同様、私どもの手持ちのエネ研データ(文献1 )が2008年版以降ですから、この「一次エネルギー消費における世界の電力化率」の値も、2005年以降の値しか求められていません。

注;*1;最終エネルギーにおける電力化率は、IEAデータに記載されたものをそのまま再録、*2;一次エネルギーにおけるは電力化率はIEAデータの「世界の電源構成(投入エネルギギー)の値から計算しました。

2 世界の電力化率の値の年次変化(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに作成)

 

なお、参考として、IEAデータから求めた、世界各国の2016年の「一次エネルギー消費における電力化率」の値を表 1 に示しました。この表に見られるように、「一次エネルギー消費における電力化率」の値は、先進国(OECO35)が40 %程度、途上国(非OECD)から中国を除くと30 % 程度となり、国による差は余り大きくないと見てよいようです。

 

 表 1 世界の主要国の一次エネルギー消費における電力化率の値、2016 年、%

 (エネ研データ(文献1 )記載のIEAデータをもとに計算し値)

注; *1; 中東とアフリカは地域の値で示しました。

 

④ 日本の正しいエネルギー政策をリードすべきエネ研データ(文献1 )では、国内における電力化率の値が示されていません。これが、化石燃料資源換算量で与えられる一次エネルギー消費における電力化率の値を無視して、電源構成のなかの原発比率を問題にする「第5次エネルギー基本計画」に繋がっていると考えられます

現代文明社会を支えている化石燃料の枯渇に備えての正しいエネルギー政策を立案するために重要な役割を果たすはずのエネ研データ(文献1 )には、上記したように、「化石燃料資源量換算の一次エネルギー消費における電力化率」の値、および、その求め方が記述されていません。

また、最終エネルギー(電力)の値が示されていますが、その値が、一般に、計測可能な発電量から、それが、どのように求められるかについても記されていません。エネ研データ(文献1 )に与えられている国内の発電量と最終エネルギー消費(電力)量の値から、両者の関係を次式で表わして見ました。

(最終エネルギー(電力)=(発電量kWh)×(860kcal/kWh)

×(発電量の最終エネルギーへの換算係数)        ( 3 )

エネ研データ(文献1 )に記載の最終エネルギー(電力)の値と、国内の発電量データをもとに、この ( 3 ) 式から計算される(発電量の最終エネルギーへの換算係数)の値が、 1.13 程度と与えられていることが判りました。

なお、この ( 3 ) 式の関係が、エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータにも見ることができ、IEAデータから求められる(発電量の最終エネルギーへの換算係数)の値は、国内データから計算される値とほぼ同じ値が求められます。

一方、エネ研データ(文献1 )の「解説」では、一次エネルギー消費(電力)と発電量の間には、上記 ② の ( 1 ) 式に示されるように、化石燃料資源換算量で定義される一次エネルギー消費量の定義から、化石燃料を用いる火力発電の(発電効率)の値を用いて、直接、一エネルギー消費(電力)の値が求められるとしています。すなわち、最終エネルギー(電力)の値を求める ( 3 ) 式の(最終エネルギーへの換算係数)のようなものは含まれていません。しかし、一次エネルギー消費(電力)の値は記載されていませんから、これを実証する方法がありません。唯一、一次エネルギー消費(電力)の値が記載されている水力(発電)について、2016年度の発電量84,717 百万kWhから、上記(②)の ( 1 ) 式を用いて一次エネルギー消費の値を求めてみますと、

(84,717×106 kWh)×(2,105 kcal/kWh) = 17,833×1010 kcal

と得られます。これを、同じエネ研データに記載の水力の一次エネルギー供給の値16,317×1010 kcal と比較して見ると、一次エネルギー消費(電力)の場合にも、最終エネルギーにおけると同様、(一次エネルギー消費の換算係数)= 1.09が含まれているのではないかと考えられます。

であれば、エネ研データ(文献1 )の「解説」に、「一次電力」の求め方として、このような(補正係数)の使用の意味と、具体的な値が示されなければなりません。

確かに、エネルギー政策の立案に際し、この一次エネルギー消費における電力化率の正確な値は、必ずしも要求されないかもしれません。しかし、将来の化石燃料枯渇後の社会に備えて、電力化率の値を問題にするのであれば、図1および図2に見られるように、化石資源量換算で表わされる(一次エネルギー消費における電力化率)の値がと(最終エネルギー消費における電力化率)との間の大きな違いがあることが、エネ研データ(文献1 )には、正しく、定量的に示される必要があると考えます。

 

⑤ 化石燃料の枯渇後、その代替として用いられるのが原発電力ではなく、再エネ電力だとしても、それは、電力化率の値の高い電力化社会での再エネ電力の使用でなければなりません。この科学の常識を無視して、日本のエネルギー政策のなかに迷い込んだのが、地球温暖化対策として進められた国策「幻想のバイオ燃料」であり、新しく進められようとしている「幻想の水素社会」です。「一次エネルギー消費における電力化率」の定量的な把握こそが、化石燃料枯渇後に備えた正しいエネルギー政策の立案のために求められます

1970年代に起こった石油危機を契機に、その開発・利用が進められたのがバイオマス原料の液体燃料(バイオ燃料)です。大騒ぎされた、このバイオ燃料が実用化されなかったのは、再生可能と言われたバイオマス原料の利用可能量が余りにも少なかったからです。この現実が無視されて、このバイオ燃料の開発・利用が、地球温暖化のCO2排出削減に目標を変えて、5年間で6.5兆円を超す国費を浪費した結果、幻想として消え去りました。化石燃料(石油)の枯渇後の電力化社会の到来は、科学の必然です。石油で走る自動車は、電気自動車(EV)に代るだろうとして、EUでは、その推進のための法的な措置が行われようとしています。こんなこと、石油危機後に行われた石油代替のバイオ燃料の開発研究が失敗に終わった歴史を基にした机上での事業可能性調査(FS)を行えば、結果は容易に予測できたはずです。民間の事業であれば必ず行われたFSが行われなかったのは、この国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」が、著名な学者先生の主導で計画・実行されたため、メデイアによる盲目的な支援があったからです。

もう一つ、いま、化石燃料枯渇後の再エネとして、脚光を浴びているのが水素エネルギー社会です。水素をエネルギー源とする燃料電池を搭載した燃料電池車(FCV)、トヨタのMIRAIに、安倍首相が試乗したことで、メデイアが一斉に水素元年と囃したてました。日本の輸出産業のチャンピオンである自動車が、再エネ電力を使って、無限に存在する水(H2O)を電気分解してつくられる水素(H2)を燃料として走り、日本経済のさらなる成長を約束するとされているのが、水素エネルギー社会です。しかし、考えて下さい。同じ再エネ電力を使うのであれば、それを直接利用した電気自動車(EV)を走らせる方がはるかにエネルギー効率がよく、経済的なことは、中学生でも判る科学の常識です。

このような、科学技術の常識を無視したエネルギー政策が国策として推進されるのは、化石燃料の枯渇後、その代替として用いられるべき再エネ電力が、化石燃料換算の一次エネルギー消費量として定量的に評価されて、その発電総量のなかの比率、電力化率の値が正しく求められていないからだといってよいでしょう。

 

<引用文献>

1、日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2008~2018年版、省エネセンター

2、久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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