(要約)現代石油文明の次はどんな文明か (第1章)
|現代文明の生き血、石油の基礎知識
1. 現代文明を創った質の高い石油
現代社会はエネルギーの質が最高級の石油を「生き血」とする文明です。その石油が地下にどのように存在しているのか、高等教育、社会教育で基礎的なことすら教えていない。だから石油の文明的意味をどう理解したらよいかわからない。シェールガス、メタンハイドレートについて正しく理解できない。
2. 石油の生成と油田の形成
石油の起源は、生物遺骸が泥質堆積物と一緒に堆積したもので、石油根源岩といいます。石油根源岩は地下数千メートルにまで埋没し、地球の圧力と温度を受けて、何百万年もかかって石油が生成されます。石油は、地層圧と浮力によって石油根源岩から排出され、水より軽いので上方へ移動し、孔隙の多い貯留岩に集積して油層が形成されます。そのような油層が上下に何層も隣接したものを油田と名付け、石油生産のユニットになります。各々の油層の孔隙の中には、岩石粒子に付着している石油と流動できる石油の2種類があります。油層の中を流動して坑井を通して採油できる石油が可採埋蔵量として評価されます。その可採量は概ね30%ですが、貯留岩の性状、石油の粘性度によって異なります。
3.石油生産の特徴
油田に一本の石油生産井を掘削し、その生産井からの生産量の推移を考えます。生産の初期には石油にかかる地層圧が高いので勢いよく自噴します。ときが経つと地層圧が減少して自噴力が弱まります。石油生産をはじめると石油生産坑井に向かってその周辺から石油が流入して生産に寄与しますが、石油が流れ出た周辺では地層水が孔隙に浸入してきます。やがて地層水も採掘の坑井へ流入し、地層圧が減少して自噴できなくなります。そのため、油田の中に水などを注入して地層圧を上げたり、ポンプで揚げで採油します。
一本の石油生産坑井での生産量は、生産の初期には大きいですが、次第に減衰していきます。このような採油の一生から、石油油田の経済的な寿命が有限であることが分ります。
油田の面積は10km2程度から1,000km2を超えるものまで様々です。世界一のガワ―ル油田は4,000km2に及びます。予め地球科学的調査を実施して油田の規模や構造、油層分布の概要を把握しますが、どんなに調査技術を進歩させても、油田を生産の前に完全に把握することは不可能です。生産実績を重ねることによって分かってくるものです。
油田の中に順次、生産井を掘削していきます。油田全体の生産量は、生産初期から生産坑井が油田全体に広がるにつれて増加します。そして油田全体の最大生産量(ピーク)に達してプラトーに推移し、その後は減少していきます。
4. 油田の分布と埋蔵量
油田、天然ガス田は、堆積盆地の中や縁辺部に形成されます。堆積盆地には石油根源岩、貯留岩が累層しています。500近い数の大小さまざまな堆積盆地で油田、天然ガス田が分布していますが、世界の石油の可採埋蔵量の半分以上は、5つの堆積盆地(中央アラビア、ルブアルハリ、ザクロス、西シベリア、東ベネズエラ)に偏在しています。
IEAの報告(2010年)によると、既に1兆1280億バーレル生産し、残りの可採埋蔵量:1兆2,410億バーレル、それに今後の新発見期待量を含めて、究極的な回収可能資源量は2兆4,490億バーレルとされています。しかし、生産中の油田の残存可採埋蔵量すら正確だとはいえません。主要産油国が1980年代中葉にいきなり埋蔵量を増やしました。OPECが生産量の各国割り当てする場合、埋蔵量が多い方が、生産割当量が大きくなるというメリットがあります。したがって将来予測する場合、埋蔵量でみるよりも、石油ピークがいつ頃なのか、減耗率がいくらかで見る方がわかりやすいと思います。
50億バーレル以上の超巨大油田は1980年以降、ほとんど発見されていません。ついに、世界の石油消費量/年の伸びが、減少する発見量/年を1984年に超えてしまいました。
5.石油文明の展開と石油の区分
石油文明が全盛の時代まで、石油とは在来型石油のことでした。それがピークに至って、非在来型石油への関心が高まりましたが、違いを理解することが重要です。在来型石油/ガスとは、貯留岩のなかに流体の状態で濃集している石油で、油田の若い時期に自噴能力のある油田です。非在来型石油はそれ以外の形態で地下に存在し、自噴能力のない石油です。
石油はエネルギー収支比が高く、安いから石油文明が成り立ちます。その石油が2005年に生産ピークに至り、価格も100ドル/バーレルにはいりました。石油文明を維持するには、石油のEPRが10は必要といわれています。そこで、従来からの区分「在来型石油」「非在来型石油」にとらわれず、EPR≧10をイージーオイル、それ以下のものをハードオイルと名付けます。シェールオイル、オイルサンド、メタンハイドレートは、石油文明を支える代替ではありません。在来型石油の生産が減退してEPRが減少すると、ハードオイルの仲間入りをします。最近、大水深海洋油田が発見されてもEPRが10以下です。
(要約)現代石油文明の次はどんな文明か (第2章)
文明を測る科学的ツール
石油文明が黄昏期の今日、石油文明は継続可能なのか、必然的に終焉していくのか、次の文明のエネルギー、社会のシステムはどうなのか。このような文明の盛衰を測る科学的ツールとして、エントロピー増大原理および、エネルギー収支比(EPR)が有効だと考えます。EPR=生産されるエネルギー(出力)÷生産するのに必要なエネルギー(入力)で定義されます。余剰エネルギー=出力―入力=入力×(EPR-1)です。
1. 自然と社会を規定するエントロピー増大原理
文明のエネルギー史観にはエントロピーの法則が根本的です。その要点を列記しますと、
① 物質、エネルギーが変化すると、エントロピーが発生する。
② エントロピーは物質と熱エネルギーに付随して移動する。
③ 物質、エネルギーは、自然にエントロピーが増大する方向に変化する。例えば‘熱が高
温のモノから低温のモノに流れる’、‘物が拡散する’。
④物質、エネルギーを、エントロピーの低い方向へ変化させるためには、エントロピーの
低いエネルギーの助けが必要である。
「モノを製造する」とは、エントロピーの高い原料資源に対して、低エントロピーのエネルギーを投入して、エントロピーが低い製品を造ることです。 副産物として、エントロピーの高い廃棄物が必ず生じます。
モノの製造による廃物・廃熱は、適切な量を適切な方法で大気と水、生態に排出すると、循環的に処理されます。そうでないと自然、社会に蓄積されて、それらを劣化します。社会の状態が秩序から無秩序に変化すると、社会のエントロピー増大です。日本は1980年代の一億総中流のころと比べて、社会エントロピーが非常に増大しています。
2. 一次エネルギーは自然の恵み
「資源とは、濃集していること、大量にあること、経済的な場所にあること」。これは石井吉徳東京大学名誉教授が、資源の本質を的確、明快に表現したフレーズです。「地球は有限、エネルギーは質がすべて」という、全く明快なショートフレーズも同じです。
一次エネルギー資源は地球環境の中に賦存している「自然の恵み」です。その恵みを人間が知恵でもって取り出して「文明の力」として利用しています。一次エネルギーを人工的に創り出すことはできません。原子力発電も必ず一次エネルギーを消費します。
一次エネルギーには、石油、石炭、天然ガス、非在来型石油、非在来型天然ガス、ウラン、太陽、風、地熱、地中熱、バイオマス等があります。石油は、エネルギー濃集度が高く、生活温度で液体の最も優秀なエネルギー資源です。