石油代替エネルギーはない:バイオや太陽光の「質」は低い

『週刊東洋経済』(2010年9月11日号)からの転載

長老の智慧 その2【全4回】

 
石井吉徳
(もったいない学会会長・元国立環境研究所所長・東京大学名誉教授)

石油ピークがはっきりした今、石油に替わるエネルギー源が求められている。しかし、投入に対する出力で測る「エネルギーの質」で考えると、石油ほど優れたエネルギー源はほかにはない。

石油の供給は2005年にピークを打って減少を始めています。新エネルギーが期待されるのですが、石油を代替できるエネルギーはない、というのが私の考えです。エネルギーの「質」を考えると、おのずとそういう結論になるのです。

エネルギーの質を評価するのに最も有効な手段は、EPR(エネルギー・プロフィット・レシオ)です。投入したエネルギーに対して、どれだけのエネルギーを得られるか、金額ではなく、エネルギー量で表したものです。米ポストカーボン研究所の上級研究者であるリチャード・ハインバーグ氏は、名著『パーティーは終わった』の中で、石油のEPRは100と述べています。

一方、ここ数年注目されているエネルギー資源に、オイルサンドがあります。重質油を含んだ砂岩のことで、埋蔵量の多いカナダで採掘が進んでいます。このEPRは1・5程度。砂岩から重質なタールを取り出すために大量の水蒸気で洗い流す必要があり、高温の水を作り出すのに膨大な天然ガスを使うからです。しかも、露天掘りが多いので広域の環境を破壊しており、その修復に必要なエネルギーを考えると、1を割り込むとみられています。

太陽光発電のEPRは0・98という算出結果があります。太陽電池を作るためのエネルギー投入が多いからです。大出力の産業用には、大きな鏡を何百枚も使って太陽光を集めなければならず、これに必要なエネルギーは膨大となります。

植物の有機物を利用するバイオエネルギーも注目されています。しかし、サトウキビ由来のバイオエタノールのEPRは1・7、トウモロコシ由来のバイオエタノールは1・3などと、決して高くはありません。サトウキビやトウモロコシは人間の重要な食料でもあります。食料不足が心配される世界で、車燃料のためにトウモロコシを作ることは人間にとって賢い選択なのでしょうか。

原子力のEPRは日本で17という数値があります。しかし、その燃料として使われるウランは、石油と同様、限りある資源です。ウランは生産の2倍の早さで消費されており、「ウランピーク」も、それほど遠くない将来に訪れるでしょう。放射性廃棄物の問題もあります。原子力は今後、重要度を増すでしょうが、液体燃料で、多目的資源でもある石油を、そっくり代替することはできないのです。

このほか、風力のEPRは3・9など。結局、石油ほど優れたエネルギー源はないのです。

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