スイスの電力はどうなっている?:ジュネーブ便り4
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2008年におけるスイスの総電力量は約6万9千ギガワット時で、日本の約16分の1です。人口は日本の約16分の1にあたる780万人なので、一人当たりの電力消費は日本とほぼ同じということになります。電力生産の一番はアルプスの水を使った水力で55%、約3万8千ギガワット時です。しかし日本の水力発電量は約8万ギガワット時ですから、日本に比べれば2分の1以下ということになります。
ジュネーブでも水力発電所を見ることができます。アルプスの山々から集まったスイスの湖、レ・マンの水は、ローヌ川を通って地中海へと流れます。レ・マンからローヌ川を約1km下ったところに、発電容量8千7百キロワット、年間の発電量約21ギガワット時の小さな貯水式水力発電所(Seujetダム)があります(写真)。
水力に続いて原子力が40%、石油・天然ガス火力や再生可能エネルギーなどが5%であります。スイスの場合、年間で最も電力需要が増加するのは暖房需要が増える冬の正午前なので、発電設備は冬の需要と生産量を一致させることが重要なポイントとなります。しかし水力ばかりでなく、原子力まで季節変動を受け、冬の生産量が落ち込みます。どうやって解決しているのでしょうか?
スイスの水力発電は、ダムを持たない流込式とダムを持つ貯水式が主です。流込式は半分弱を占めていますが、このタイプの発電量は河川の水量に大きく依存します。夏は雪解けの豊富な水量で十分な発電が可能になりますが、冬には水量が減り、ダム湖の凍結等も重なって発電量が減少します。
またスイスでは原子力についても、雨量に左右されます。日本の火力・原子力発電所は全て海沿いに立地し、タービンを回す蒸気の冷却を海水で行っています。福島原発の冷却システムが津浪に襲われたのもこのためです。しかしスイスの場合、海が無いこともあって、川の水を利用して、冷却塔(日本では地熱発電所でよく見かけます)で蒸気を冷却します。そのため津浪の心配はないのですが、水不足になると冷却水が不足して発電量が落ちるそうです。
従って、電力の供給量は季節変動を受け、また雨量の少ない年は年間の発電量が減少します。年によっては大幅に減少し、その減少幅は1万ギガワット時にもなります。
冬に需要が増えるのに、供給が減る。どうしているのでしょうか。それは陸続きの国だからできるのでしょうが、冬は主にフランスの原子力発電所から輸入しています。電力需要が下がる夏は、逆に主にイタリアに輸出しています。輸出入の量は電力消費量全体の約半分です。年にもよりますが輸出がやや輸入を上回っています。つまりスイスは、石油・天然ガスといった一次エネルギーは完全な輸入国ですが、二次エネルギーである電力に関しては、概ね少ないながらも輸出をしています。
2011年5月、スイス政府は、福島原発における事故を受けて、2034年までに、「脱原発」を実現することを決定しました。40%を占める原子力発電に代わるものとして注目されているのが、風力や太陽光などの再生可能エネルギーです。しかしその実態はどうでしょうか。
2008年の統計を見ると、ゴミ・バイオマス発電が全体の発電量の3.5%をしめています。ゴミやバイオマスは発電の他、熱利用も盛んです。しかし太陽光発電や風力発電は合わせて0.1%にも満たないのが現状です。地熱発電も大きな注目を浴びているのですが、まだ計画段階で発電量はゼロです。
スイスでは現在2万5千ギガワット時程度を4発電所5基の原子力で発電していますが、今後徐々に廃炉されることとなります。この不足分については、再生可能エネルギーが頼りにならないとするとやはり輸入に頼ることになるのでしょうか。人口が少ないスイスでもエネルギーの安全保障は、食料以上に難問であることがわかります。
欧州原子核研究機構(CERN)はジュネーブ市の西端、フランスとの国境付近にあります。CERNは地下100メートルに埋設した全周 27 km の円形加速器、高さ25 m、全長44 m、重量7000 tの大型粒子検出器を使って、ビッグ・バン理論解明のための素粒子・原子核物理の実験を行っています。しかしそこで消費電力量は莫大で、年間1千ギガワット時と言われています。スイス全体の電力消費が6万9千ギガワット時ですから、相当な量であることが分かります。40万人の人口を抱えるジュネーブ市は冬に電力需要が増加します。それに対して水力も原子力も冬場は発電量が下がる可能性があります。場合によっては冬季、CERNの加速器の運転を停止する、あるいは再開を見送ることもあるとのことです。