「大飯原発再稼働阻止」訴訟に提出の「反射法地震探査」のテータ評価

田村 八洲夫

【大飯原発と反射法地震探査】
原子力発電所の安全性評価の一つに、建屋の地下の地盤強度の評価があります。そのために、地震発生履歴、地表地質調査、トレンチ断層調査、ボーリング地質調査に加えて、反射法地震探査が非常に重要な調査ツールです。反射法地震探査では、建屋近傍に調査ラインを設定して地震計を規則的な間隔で並べ、近傍の路上で、起震車で規則的な間隔で人工地震を起こして、地下の地層境界面で反射した地震波のデータを収集して地下構造を把握します。反射法地震探査の有意さは、長い調査ラインにわたって地下地質構造の連続した断面が、500m程度の深さ迄、概要把握できることです。他の調査法では、浅部の点データのみです。
下図は、大飯原発の敷地の近傍で実施された反射法地震探査の調査ラインを示す平面図と反射断面図です。調査ラインは、原発の南側を通るA測線とそれに東側で直交するB測線の2本です。関西電力が裁判に提出した反射法の資料は、調査ラインの平面図とA測線とB測線のわずか3枚(丙28号証)で、関連データがありません。一方、原子力規制委員会へは、基準地震動評価のために膨大な資料を出しています。行政と司法へ提供する情報の大きな格差があります。

 

【反射断面と関電の解釈】

関西電力は提出した「丙28号証」の資料の中で、「地下500mくらいまで反射波が確認され、その範囲内では特異な構造は認められない。」と、反射断面を構造解釈して「建屋地下の地盤強度が一様である」と誘導しています。本当にそうでしょうか。

 

【一専門家の反射断面の簡単な解釈】
初めて反射断面を見る方には、黒と白の模様が何を意味しているか分からないと思いますが、それぞれが地層の境界が反射波という物理量で表現されたモノと思ってください。大事なことは、「その範囲内では特異な構造は認められない。」という関西電力の私見が正しいかどうかです。反射波で表現された地層境界の形状が、平らに一様に見えるか、変化しているか、特異な構造に見えるかどうかです。裁判官、弁護士の皆さんが、関西電力の私見の真偽を見抜けるかどうかのポイントです。
私のような、反射法地震探査の技術で油田発見に従事してきた者から見ると、この反射断面を一瞥して、大飯原発の建屋の近傍の地下構造は変化しており、断層の存在が推定されると判断します。なぜなら、①反射波列の形が水平あるいは単調な傾斜でなく、畝ったりしていること、②反射波列がずーっと連続的に連なっていなくて、何カ所かで破断されていること、③回折波という特異な波列が見られ断層の存在を強く示唆していること、④そして回析波の現れ方から、推定される断層の走っている方向が、原子炉建屋の方向ではと危惧されることです。

上の図は、わたしが 関西電力が提出の反射断面(「丙28号証」)の上で、主な反射波列をPDFにある黄色いマーカーでなぞったモノです、反射波列が並行でないし、うねった箇所もあります。反射波列が切れている箇所がラインの500m~700mの区間で顕著にみられます。そして、700m地点辺りの反射波列の途切れのところに、回折波がいくつも見られ(マーカーで楕円形で囲んであるモノ)、反射波列も短く途切れ途切れになっています。断層の存在が推定され、しかも回折波の形状から断層の伸びが建屋の方ではと恐れます。

 

【結 言】
関電の反射断面から「その範囲内では特異な構造は認められない。」は科学的事実から逸脱した虚偽の判断だといえます。関西電力にも反射法地震探査の分る人がいるはずですが。科学的公正を是とする裁判に、別の力が働いているのではと訝ります。安全のためには「怪しきは認めない」が一番ですが、推定が事実か詰めるには、詳しい調査に委ねるべきです。
裁判官、弁護士の中に、反射断面から地下構造の極く概要を見抜ける人は非常に限られていると思います。原告団の一員、あるいはサーポーターとして、反射法地震探査の分る人、学会が関与することが必須だと考えます。科学的公正を別の力から守るためにもです。

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