「世界一やさしいエネルギーの授業」が訴える「エコ(地球温暖化対策としてのCO2排出削減) 」の国際公約を守るための原発の再稼働が本当に必要でしょうか?(その1)  正しいエネルギー政策の認識に立てば、私どもは不必要と考えます

東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部・事務局長 平田 賢太郎

(要約)

① はじめに; 原発の再稼働を巡って国論が大きく2分されているなかで、日本は、「エコ(地球温暖化対策としてのCO2排出削減)」の国際公約を守るために、原発を再稼働しなければならないとの政府の方針を、「世界一やさしいエネルギーの授業(以下、「この授業」)」が支持しています
② 「この授業」のLesson 1 初心者編;10分でわかる!エネルギー問題の「全体像」では、国際公約とされている「エコ(CO2の排出削減)」の要請から、政府が進めている原発の再稼働が必要だとしています。これに対して、私どもは、化石燃料の枯渇が迫っているなかで、世界が協力して、その消費量を現状(2012年)の値に抑えれば、この「エコ」の要請する温暖化の脅威は起こらないから、事故リスクのある原発の再稼働は必要がないと主張します
③「この授業」のLesson 2 中級者編;「えつ、そうだったの原子力発電」として、Lesson 1で必要だとした原発の再稼働を是認する理由を、「電気料金が安く」なる、「エコ(経済的)」だ、「安全は確保できる」、「廃棄物問題も技術進歩で解決できる」からとしています。これに対して私どもは、原発を再稼働させなければ、「絶対の安全」が保たれ、また、「処理・処分の方法がない使用済み核燃料廃棄物」の量を増加させないで済むから。原発の再稼働は必要がないと主張しています

 

(解説本文)

① はじめに; 原発の再稼働を巡って国論が大きく2分されているなかで、日本は、「エコ(地球温暖化対策としてのCO2排出削減)」の国際公約を守るために、原発を再稼働しなければならないとの政府の方針を、「世界一やさしいエネルギーの授業(以下、「この授業」)」が支持しています

3.11 福島の過酷事故から7年近く経ったいま、この事故の影響で運転を停止している原子力発電所(原発)の再稼働を巡って、国論が大きく2分されています。
日本経済の成長を支えてきたエネルギー源の主体である化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰するなかで、この化石燃料の代替として期待されて、その開発が進められてきた原発電力の殆どが失われている現状で、国民の生活と産業用に必要なエネルギーの供給に責任を持つ政府は、現在運転停止中の原発を再稼働させることで、さらなる成長を遂げようとしています。
これに対して、原発電力が殆ど使われていない現状でも、国民の生活と産業用に必要なエネルギーに不足していないことから、事故リスクを冒してまで運転停止中の原発を再稼働する必要はないと訴える人々が大勢居ます。これが原発の再稼働を巡る国論の2分です。
ところで、いま、圧倒的な日本の政治勢力は、原発の再稼働を進める現政府を支持していますから、これに反対して脱原発を訴える人々に残された道は、原発立地住民を原告として起こされている原発再稼働の差し止め裁判に勝利して、自分たちの願いを叶えるほかありません。しかし、この原発裁判で、政府は、国が新しく決めた安全基準を満たすに十分な安全対策が採られていると原子力規制委員会が認めた原発の再稼働を許可するとしており、その判断は裁判官の技術的知識の深さによっても変わってきますが、現状では、原発再稼働を進める政府側に有利な判決が下される状況になっています。
この原発裁判の結果にも影響を及ぼしかねないのが、いま、国際的な公約にもなっている「エコ」、すなわち、地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減の要請に対する人々の対応の違いです。すなわち、政府および政府のエネルギー政策を支持する人々は、この「エコ」のために、どうしても、原発の再稼働が必要だと訴えています。一方で、この政府の方針に反対して、脱原発を訴える人々は、この「エコ」のために、自然エネルギー(国産の再エネ)を利用すれば、事故リスクがある上に、核燃料廃棄物の処理・処分の方法が確立されていない原発の再稼働は必要がないとしています。すなわち、この同じ「エコ」の必要を認めながら、そのための対応の方法で、意見が正反対に分かれています。
この現状のなかで、出てきたのが、この原発の再稼働の政府側方針の支持を主張する「世界一やさしいエネルギーの授業(以下、「この授業」)」です。最近、発表された「この授業」が、いま、インターネット上で、「初めて知った」の声続々などと、大きな評判になっているようです。
ところで、「この授業」の「はじめに」には、「この授業」を初めた動機を、「正しいエネルギーに関する指導書が存在しない」からだとしています。ここで言う「エネルギー」を、「エネルギー政策」と読み替えると、この認識は私どものそれと一致しています。
この同じ認識のもとで、私どもは、現在、最も信頼できるエネルギー・経済のデータを公表していると言ってよい日本エネルギー経済研究所編の「EDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 )と略記)」をもとに、可能な限りのエネルギー政策に関連したデータの定量的な解析を行った結果、自分たちの頭で判断できる「正しいエネルギー政策の指導書:「化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉」を作成し、発表しました。
この私どもの書いたもの(以下、「私どもの近刊(文献2)」は、一般の人には、わかり難いと言われます。エネルギー政策の問題で、科学技術の視点から正確に書こうとすると、どうしても、数値による説明が多くなり、さらには、数式が入ったりして、一般の人には近づき難くなります。しかし、この近づき難さを理由に、この「私どもの近刊(文献 2 )」の内容が、「正しいエネルギー政策の創設」に反映されないのでは、日本は救われません。
以下、世界一やさしいとされる「この授業」の三つのLessonごとに、自問自答(Q&A)方式で進められている内容の概略を紹介し、これを「私どもの近刊(文献2 )と対比することで、原発の再稼働の問題を巡る「正しいエネルギー政策を創る」ための私どもの主張を述べさせて頂きます。
② 「この授業」のLesson 1 初心者編;10分でわかる!エネルギー問題の「全体像」では、国際公約とされている「エコ(CO2の排出削減)」の要請から、政府が進めている原発の再稼働が必要だとしています。これに対して、私どもは、化石燃料の枯渇が迫っているなかで、世界が協力して、その消費量を現状(2012年)の値に抑えれば、この「エコ」の要請する温暖化の脅威は起こらないから、事故リスクのある原発の再稼働は必要がないと主張しています

「この授業」では、エネルギー資源としての化石燃料の殆ど全てを輸入に依存していて、水力を含む再エネなどの国産エネルギーの自給率が僅か6 %に過ぎないなかでも、電力は足りているじゃない?の質問を設定して、その答として、震災後に停止した原発の電力を補うための火力発電の電力が、電源構成のなかの88 % にも上昇しており、その結果が、いま、国際的な合意を得て進められている「エコ(地球温暖化対策のためのCO2の排出削減)」の動きに逆行しているとしています。
また、化石燃料を使う火力発電の代わりに、「再エネに依存する社会を目指せばよいのでは?」との質問に対して、現在、電源構成のなかの水力の9 %を含めて12 %の再エネ電力を100 %にするのは非常に難しいから、どうしても、現在、実用化されている「準国産で、大規模で安定な電力を供給できる原子力発電の利用が必要になる」としています。さらに、地球温暖化対策を協議してきたCOP 21(国連温暖化会議)で決まった「パリ協定」でのCO2排出削減率にその方向が見えた としています。すなわち、2030年までに、国が決めた電源構成のなかの再エネの比率を22~24 %、それで足りない分の20~22%を安全性が確認された原発の再稼働で補えばよいとしています。
以上の「この授業」の初心者編の基本的な問題点として、私どもは、まず、(エネルギー)=(電力)とされていることを指摘したいと思います。実は、(電力)は、私どもの生活と産業用に必要な(エネルギー)のなかの一部なのです。エネ研データ(文献1 )で用いられている、と言うよりは、そこで引用されているIEA(国際エネルギー機関)が用いている(エネルギー)としては、化石燃料資源量換算で与えられる「一次エネルギー消費(供給)」の値が用いられています。すなわち、現代文明生活を支えているエネルギー源の主体が化石燃料である現状においては、(電力)についても、その効用は、それ(電力)を生産する火力発電に必要な化石燃料資源量の値、「一次エネルギー(電力)」の値が用いられなければなりません。計量可能な(発電量kWh)の値から、火力発電での発電効率を考慮して与えられる化石燃料資源量換算のこの「一次エネルギー(電力)」の「一次エネルギー(電力以外)」を含めた「一次エネルギー(合計)」に対する比率(「一次エネルギー電力化率」)の値は、国によって違いがありますが、現状では、一般に1/2以下(日本では47 %)です。したがって、震災以前の日本の電源構成のなかの原発電力の比率、約1/4 (=25 %)から、「一次エネルギー消費(国内供給)」のなかの「一次エネルギー(原子力)」の比率は1/8 ( =1/2×1/4)以下となります。この値であれば、電力以外(例えば自動車用燃料)を含めた省エネ努力などで何とかなる値です。したがって、事故などで大きな経済的なリスクのある原発の再稼働は必要がないと考えるべきです。
「この授業」では、このエネルギー政策の評価のために用いられている「一次エネルギー」の概念が正しく理解されていないために、上記したように、「エコ」の目標の達成のために要求される「エネルギー源種類別の利用量(一次エネルギーで表される)の比率」=「エネルギーミクス」=「電源構成の値」とされています。信じられないことには、国のエネルギー政策においても、これと同様な「過ち」がみられ、これが、この国のエネルギー政策を混迷に導く大きな要因になっています。
なお、もう一つ非常に大事なことがあります。これは、私ども以外、誰にも指摘されていないことですが、実は、地球温暖化対策としての「エコ」が要請するCO2の排出量が、化石燃料資源量に大きな制約を受けることです。私どもの試算では、現状の科学技術力で経済的に採掘できる化石燃料の確認可採埋蔵量(エネ研データ(文献1 )に記載のBP社のデータ)の全量を使い尽くした時に排出されるCO2の総量は3.2 兆トンと計算されます。また、世界の化石燃料の消費を、今世紀いっぱい、現在(2012年)の値に止めることができれば、今世紀末までのCO2の排出総量は2.8兆トンに止まります。これらの量であれば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する地球気温の上昇は2 ℃以下に止まると推定されますから、IPCCが主張する生態系に不可逆なダメージを与えるような温暖化の脅威は起こらないことになります。したがって、化石燃料が枯渇して、その市場価格が高騰し、それを使えなくなる人や国が出て来ることが予想されるなかで、大事なことは、地球温暖化対策としてのエコ(CO2の排出削減)ではなくて、世界各国が協力して、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うことでなければなりません。この場合、先進国の一員としての日本は、経済成長が大幅に抑制されることになります。しかし、それを嫌って、成長のエネルギーを原発電力に依存すれば、事故リスクと、未解決の核燃料廃棄物の処理・処分の問題を次世代送りすることになります。
以上、詳細は、私どもの近刊(文献2 )をご参照頂きたいと思いますが、これが、私どもが、日本における原発を再稼働すべきでないとする理由です。化石燃料枯渇後のその代替のエネルギー源は、やがて高騰する化石燃料より安価に利用できる再エネの種類を選んで利用すればよいのです。

 

③ 「この授業」のLesson 2 中級者編;「えつ、そうだったの原子力発電」として、Lesson 1で必要だとした原発の再稼働を是認する理由を、「電気料金が安く」なる、「エコ(経済的)」だ、「安全は確保できる」、「廃棄物問題も技術進歩で解決できる」からとしています。これに対して私どもは、原発を再稼働させなければ、「絶対の安全」が保たれ、また、「処理・処分の方法がない使用済み核燃料廃棄物」の量を増加させないで済むから。原発の再稼働は必要がないと主張しています

「この授業」のLesson 2 では、原発の再稼働を是認する理由として4つのデーマが挙げられています。
まず、テーマ1として、「実は家計の味方だった!?」として、原発電力が安価だったと主張しています。すなわち、震災以降、失われた原発電力を補うために、火力発電量が増えて、燃料代が、震災前に較べて3兆円も増加した結果、家庭用電気料金が25 %増加したとしています。しかし、エネ研データ(文献1 )に記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータでみる限り、震災後の日本の電気料金は、家庭用、産業用とも、さほど上がっていませんから、この電気料金の増加は何かの間違いと考えられます。一方、震災以降、火力発電用燃料の輸入金額が増加したことは事実です。しかし、それは、石油危機の後、一桁以上も大幅に価格が急騰した燃料用の石油の代わりに、安価な石炭火力への転換が、国際的な共通認識とされるようになった「エコ(地球温暖化対策のCO2排出削減)」の要請から、遅れたためです。また、家庭用電気料金について言えば、この「エコ」のための再エネの利用を拡大する目的で政府が進めている「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」の適用による値上がりが、いま、問題になっています。
次いで、このLesson 2 のテーマ2として、「エコなエネルギーとは?」として、震災後、原発電力の代替として、やがて枯渇する高価な化石燃料(石油)の消費が増加しているから、少ないエネルギー資源(ウラン?)量で大量のエネルギーを生み出すことのできる原発電力の利用が、「エコ」={エコノミー(経済的)}となり、それが地球温暖化対策の「エコ」にもつながるとして、政府が進めている原発の再稼働の必要性を主張しています。これに対して、私どもは、事故リスクを継続させる上に、次世代送りしなければならない使用済み燃料の処理処分の費用を積み増す原発の再稼働は、長い目で見て、「エコ(経済的)」ではないと考えます。
また、このLesson 2のテーマ3 は、「実は、今では日本の原発の審査基準は世界一厳しい!?」として、原発の再稼働における安全性の問題を述べています。まず、食中毒の問題を引き合いにだして、この世に「絶対安全なもの」なんて無いと知っておこうとしています。その上で、原発の再稼働では、震災後につくられた世界一厳しい安全基準に、原子力規制委員会が合格したと認められるもののみが再稼働が許されるとしています。すなわち、日本の原子力行政では、経済産業省による推進(アクセルと)と環境省に所属するようになった原子力規制委員会による規制(ブレーキ)がバランスする仕組みができているとして政府の原発再稼働の方針を全面的に支持しています。しかし、ここで、とりあげられているのは、どうしても原発を動かさなければならない場合の安全性です。したがって、原発を持たなくても済むことができれば、すなわち、原発についての事故リスクに関する「絶対の安全」は保たれます。人が生きて行くための食や、文明生活に欠かせないと考えられている自動車や飛行機の安全とは違うのです。
さらに、テーマ4 で「実は最終処分に10万年は過去の話!?」として、原発の稼働での使用済み核燃料廃棄物の処理・処分の問題が取り上げられています。その処分に10万年がかかるとして「使用済み燃料の最終処分場が決まっていない」ことを理由に、脱原発を訴える小泉元首相の主張を引き合いに出して、科学技術の進歩で、この10万年を8,000年に、さらには300年に短縮できる技術開発が進められているから、2040年までを見据えて処分場を決めて行けばよいとする政府の方針を支持しています。
ここで、問題になるのは、この廃棄物の処分にかかる期間が10万年から300年になるためには、技術進歩が前提となりますが、現状では、その目途が全くついていないことです。であれば、現状で、この処理・処分の困難な廃棄物を積み増すことになる原発の再稼働は行うべきでないとするのが、科学技術を生業としてきた私どもの考えです。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2017,、省エネセンター、2017年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田智;「改訂・増補版」化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――、Amazon 電子出版、Kindle、1917年

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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