地球温暖化より怖いのは世界の化石燃料の枯渇に伴う貧富の格差の拡大による世界平和の侵害です

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約):

⓵ 途上国の経済発展に必要な資金を得るために、地球温暖化をもたらした先進国の責任が問われています

⓶ 途上国にとっての「温暖化適応策」が、経済成長に必要なお金を先進国から引き出す手段とされています

⓷ 「温暖化適応策」にお金をだす必要は無いとして「パリ協定」を離脱したトランプ前米大統領の後を継いだバイデン新米大統領は、温暖化対策のための「パリ協定」での脱炭素化の実現に、世界の全ての国の協力を得ようとして必死になっています

⓸ 地球上の化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、その消費節減のための世界各国の協力の方法として、残された化石燃料を公平に大事に分け合って使う方法を提案しました

⓹ 地球にとって、人類の生存にとっての真の脅威は、やがて、やって来るとの保証のない温暖化の脅威ではなく。確実にやって化石燃料資源の枯渇です

⓺ 世界平和のために、化石燃料消費配分の均等化こそが求められています

 

(解説本文):

⓵ 途上国の経済発展に必要な資金を得るために、地球温暖化をもたらした先進国の責任が問われています

地球温暖化対策として、先の2013年までの暫定的な各国の温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2))の排出削減目標値を決めた「京都議定書(地球温暖化の防止のための国際会議、1997年、京都で開催)」の協議では、化石燃料の大量消費によるCO2の排出で温暖化を引き起こしたのは先進国だとして、途上国には、その排出削減義務が免除されていました。

一方で、地球温暖化を防止する対策として、世界のCO2の効果的な排出削減のためには、途上国の協力も必要だとされて採用されたのが、「CO2排出権取引の制度」でした。先進国が開発したCO2排出削減技術を途上国に移転することで、途上国での排出削減量を自国の排出削減量に加算できるとするものです。しかし、その取引量を左右する単位CO2排出量当たりの取引価格が、この取引を希望する先進国と途上国との間のオークションで決められるとの非科学的な方法が採用されたことで、この制度は、途上国が先進国から経済発展に必要な資金援助を得るための道具として使われることになりました。

この「CO2排出権取引制度」は、先進国がCO2排出削減量を規定されて、どうしてもそれを守らなければならない条件下でのみ機能する仕組みでした。ところが、「京都議定書」制定以降の各国のCO2排出削減量目標値を決めたCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)の協議の場では、経済発展を続けている途上国にも応分のCO2排出削減を実施することが求められるとともに、各国が自主的な削減目標を決めることになり、CO2排出量の超過に罰則規定が無くなったので、先進国にとって、この制度を利用する必然性がなくなりました。

結果として、途上国にとっては、地球温暖化対策を口実として、先進国から、経済発展に必要なお金を引き出す手段が無くなってしまいました。このような状況のなかで、2015年の暮れのCOP 21(第21回のCOP)の協議の場に出てきたのが「温暖化適応策」でした。

 

⓶ 途上国にとっての「温暖化適応策」が、経済成長に必要なお金を先進国から引き出す手段とされています

この「温暖化適応策」の主体は、最近、その発生頻度と被害規模が大きくなったと報道されている異常気象への適応策になっています。2013年秋から2014年にかけて発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の第5次評価報告書では、この異常気象が温暖化に起因するとされています。世界の気象学者の集まりであるIPCCの発表を根拠として、途上国が、この異常気象による被害を防止するための対策費用を、今すぐ拠出することをCOP 21の場で、先進国に要求しました。すなわち、途上国による自国の経済発展のためのお金を先進国に求める新たな手段としての「地球温暖化適応策」が、上記した「CO2排出権取引」に代わって用いられるようになったと言ってよいでしょう。

IPCCは、この温暖化適応策の根拠となっている異常気象が温暖化によるとの主張には科学的な根拠があるとしています。しかし、異常気象としての、例えば、台風の規模の増大が地球温暖化に伴う海水温の上昇によるとして説明できたとしても、上記したように、IPCCが温暖化の原因としているCO2の排出を削減することで、海水温を下げることができるとの科学的な保証は得られていません。いや、世界が協力してCO2の排出削減が実行できるとする保証すら得られていないのです。であれば、現実的な適応策としては、いま起こっている、あるいは起こるかもしれない異常気象による災害を防ぐための対策に直接お金を使う方が、CO2排出削減対策にお金を使うより、費用対効果がより大きいし、先進諸国も、これには異を唱えることはできないはずです。

温暖化の適応策として、COP 21で取り上げられたもう一つの問題に、いくつかの小さな島国における海面水位の上昇があります。温暖化に伴う海水面の上昇は、これらの島国の存亡に関わるとして、高潮対策に要する資金援助が先進国に求められています。 米国などのCO2排出大国が、この要求に応じるとともに、「野心連合」として、これら島国諸国の訴える地球気温上昇幅1.5 ℃の目標を支持しました。しかし、この海面水位の上昇が温暖化によるとの科学的な証拠は存在しません。陸地に対する海水面の相対的な上昇は、人口の増加に伴う地下水の汲み上げなどによる地盤沈下に起因するとするのが科学技術の常識です。したがって、この島国による高潮対策としての防潮堤の建設工事などへの先進国への資金援助の要請も、COP 21とは別の場で協議されるべきです。

以上から判るように、いま、途上国にとっての地球温暖化適応策とは、経済成長に必要なお金を先進国から引き出す手段になっているとみてよいと考えることができます。

 

⓷ 「温暖化適応策」にお金をだす必要は無いとして「パリ協定」を離脱したトランプ前米大統領の後を継いだバイデン新米大統領は、温暖化対策のための「パリ協定」での脱炭素化の実現に、世界の全ての国の協力を得ようとして必死になっています

それはともかくとして、IPCCが主張するように、異常気象が温暖化のせいだとしても、この異常気象による災害は、温暖化とは無関係な自然災害とともに、先進国と途上国の差別無しに、世界中に大きな経済的な損失をもたらします。ただし、一般に、先進国に比べて、国土面積が広く、また、現代的な防災設備が施されていない途上国のほうが、その被災規模が大きくなると考えられます。

さらに、途上国の多くでは、このような防災対策を実施する技術やお金が不足しています。それが、途上国が、異常気象を温暖化のせいだとして、この温暖化を引き起こした先進国にお金を要求する理由になっています。しかし、上記(⓶)したように、異常気象が温暖化によるものだとの科学的な証拠は得られていませんから、この途上国の要請は必ずしも妥当なものとは言えません。

すなわち、先進国が、世界の異常気象に対する防災対策にお金を出すとなると、それは自国分とともに二重の経済的な負担を強いられることになります、これが、一国主義、アメリカ第一を掲げていた米国の前大統領トランプ氏が、「パリ協定」を離脱する理由となりました。世界第二のCO2排出国の米国の協力なしでは、温暖化対策としての「パリ協定」のCO2の排出削減目標は達成できませんから、米大統領選挙でトランプ氏に辛勝したバイデン米国新大統領は、温暖化対策のための「パリ協定」のCO2排出削減の実行に、世界の全ての国の協力を得るために必死になっています。

 

⓸ 地球上の化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、その消費節減のための世界各国の協力の方法として、残された化石燃料を公平に大事に分け合って使う方法を提案しました

IPCCの第5次評価報告書は、世界が現状の化石燃料消費の増大を継続すれば、大気中のCO2濃度の増加により、地球生態系に取り返しにつかない脅威がもたらされるとしています。しかし、私どもの試算では、世界各国が協力して化石燃料消費の節減に努めれば、地球上の化石燃料の可採埋蔵量の制約もあり、IPCCが主張するような厳しい温暖化の脅威が起こることはないと考えられます。

経済力のある大国が、経済成長のために、化石燃料の可採埋蔵量の制約を無視して、その消費を継続すれば、化石燃料資源の配分の不均衡による国際的な貧富の格差が拡大します。すでに、それが現実のものになっています。この貧富の格差の拡大が、宗教と結びついて起こっているのが、アルカイダによる国際テロであり、これを軍事力で抑えつけた米国が主導する先進派遣国への反撥がイスラム国(IS)にまで発展して、世界の平和に大きな脅威を与えています。

この化石燃料資源の公平な配分方法として、私どもが提案しているのが、「世界の全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を等しくすること」です。この方法は、また、「パリ協定」における一人当たりのCO2排出量を等しくすることになり、その年次変化を示す図 1 で表すことができます。

この 図 1 には、トランプ米元大統領による「パリ協定」離脱前の米国を含む世界各国が提出したCO2排出削減率の目標値から人口の変動を無視して計算される一人当たりのCO2排出量の値も示しました。この図 1 に見られるように、ロシア、中国を除いては、私どもが提案している2050年の一人当たりの化石燃料消費量の値をCO2の値に換算したCO2排出量目標値に向かっていることを見てとれます。すなわち、いま、ロシア、中国を含めた世界中の国が協力して、「私どもが提案する化石燃料消費の節減目標」の達成に努力することが、「パリ協定」でのCO2の排出削減目標の達成に繋がることが判って頂けると思います。

これを言い換えれば、やがてやってくる化石燃料の枯渇に備えて、私どもが提案する化石燃料消費節減の方法」こそが、いま、地球温暖化対策として世界の国際的な公約となっているCO2の排出削減の実行を可能にする唯一の方法であることも判って頂けると考えます。

注; 図中の十字印は、2050年の目標値として求められる2012年の世界平均の一人当たりのCO2排出量の値4.53 トンCO2 /年。ただし、各国の目標値は、それぞれの国の人口の増減による変化を考慮して補正する。

1 各国の一人当たりのCO2排出量の年次変化と、私どもが提案する世界の化石燃料消費の節減目標値(日本エネルギー経済研究所編のエネルギー経済統計要覧(文献1 )に記載のIEAのデータをもとに作成)

 

⓹ 地球にとって、人類の生存にとっての真の脅威は、やがて、やって来るとの保証のない温暖化の脅威ではなく。確実にやって化石燃料資源の枯渇です

上記(⓸)した2015年の暮れに閉幕した「パリ協定」の協議では、先の京都議定書(2007年)でCO2排出の削減義務を免除された途上国を含めて、すべての国が、それぞれの国の国情に応じて、一定のCO2排出削減義務を負担するとの世界の150ヶ国の合意が得られたことが大きな成果として報道されました。

「パリ協定」の目標が地球温暖化対策としてのCO2の排出削減であるから、世界のCO2の排出大国の米国や中国を含めた大多数の国がCO2排出量の削減に合意したことは、一定の成果であったと言ってよいでしょう。しかし、各国がCO2の排出削減の自主的目標値を提示するだけで、それをどうやって実現するかの具体的な方策が明らかにされないままでは、温暖化防止のための世界のCO2排出削減の目標の達成に「パリ協定」の合意の効果があったと言うことはできません。

これに対して、上記(⓸)に私どもが提案した「世界の全ての国が、今世紀中の世界の年間平均の一人当たりの化石燃料消費量を現在(2012年)の値 1.54 石油換算トン にする」方法が実現できれば、確実に、「パリ協定」が求める地球温暖化対策としての今世紀末の気温上昇幅を2 ℃ 未満に抑えるために必要なCO2の排出削減目標が達成できます。

いま、地球にとって、人類の生存にとって、本当の脅威は、起こるかどうか判らない温暖化の脅威ではなく、地球上の有限な資源としての化石燃料資源の枯渇です。

したがって、地球と人類を救うためには、この私どもが「パリ協定」の協議の場のCOP 21に提案した「世界各国の合意目標を、CO2の排出削減から、化石燃料消費の節減に切り替える」方法が、改めて世界に訴えられ、その実行が迫られなければならなりません。この実行こそが、いま、その枯渇が言われる化石燃料を、世界中が公平に分け合って大事に使い、長持ちさせる実行可能な唯一の方法なのです。

 

⓺ 世界平和のために、化石燃料消費配分の均等化こそが求められています

2015年の暮れにパリで開かれたCOP 21の直前に、同じパリで起こった国際テロ事件の原因も、地球温暖化によると報道されました。

シリアで続いていた旱魃に、アサド独裁政権への軍事的反乱が加わって、大量の避難民が生み出された、シリア以外のイスラム圏からを含めた難民が、避難先でいわれなき差別を受けたことがこのテロ事件の原因とされています。フランスで「これは戦争だ」とされた国際テロを防ぐためには、世界が協力して、この国際テロ組織を撲滅しなければならないとされています。しかし、この国際テロ発生の根本原因を正確に把握し、それを除去しない限り、地球上に真の平和は生まれてきません。

私どもは、この国際テロ戦争の真の原因は、資本主義社会の経済成長を支えてきた化石燃料資源の配分の不均衡による貧富の格差であると考えています。この貧富の格差が宗教と結びついて、アルカイダに始まりイスラム国に至る国際テロ戦争にまで発展しました。したがって、資本主義社会における成長のエネルギー源の化石燃料資源の枯渇が迫っているいま、経済力のある大国が、現在の化石燃料消費の増加を継続すれば、その配分の不均衡はさらに拡大しますから、それを使いたくとも使えない国や人々が出てきます。

この国際テロ戦争を終わらせるための先進諸国の有志連合による空爆の強化は、事態を一層、混迷に導くだけです。世界に真の平和を取り戻すためには、世界各国が協力して富の配分を図るために、地球上に残された化石燃料を公平に再配分する以外にありません。その唯一の方法が、上記(⓶)した、私どもが提案する、「各国の一人当たりの化石燃料消費量を、すべての国に共通に配分する」目標を達成することでなければなりません。

実は、これが、いま、世界中が地球温暖化地策として取り組んでいる「パリ協定」での協議の対象であったCO2の排出削減を、化石燃料消費の節減に切り替えることで、世界中の全ての国の合意を得て、世界平和に脅威をもたらしている貧富の格差の解消へと導くことで実現できます。さらには、また、「パリ協定」 を主導してきたIPCCにとっても、地球温暖化の脅威を訴えて授与されたノーベル平和賞に報いることのできる唯一の道であると考えます。

 

<引用文献>

  1. 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2020年版」、省エネルギーセンター、2020 年

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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