アベノミクスのさらなる成長戦略を継承した菅義偉新首相による「温室効果ガス2050年ゼロ」宣言は、地球温暖化対策にならないだけでなく、世界平和を脅かしている貧富の格差の解消にも貢献しません (その 2 )地球温暖化防止のための「2050年までのCO2排出ゼロ」が世界の流れだとしても、日本がこの流れに乗って「2050年CO2排出ゼロ」を実行しても、地球温暖化を防止することはできませんし、その必要もありません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 菅首相に「2020年CO2 実質ゼロ」を宣言させた世界の流れとは一体何なのでしょうか?

⓶ 今回の菅首相の「2050年までのCO2排出ゼロ」は、2閣僚の進言によったとありますが、一体、何のために、2 閣僚が、このような提言を行ったのでしょうか?

⓷ 化石燃料の枯渇が迫るなかで、世界の全ての国が協力して、地球上に残された化石燃料を大事に使うことこそが、人類が、平和な世界に生き残る唯一の道です

 

(解説本文);

⓵ 菅首相に「2020年CO2 実質ゼロ」を宣言させた世界の流れとは一体何なのでしょうか?

菅首相が、所信表明演説で、「2050年までのCO2排出ゼロ」を宣言した次の日の10月27日の朝日新聞(2020/10/27)は、「脱炭素 日本もようやく」の大見出しで、「菅義偉首相が2050年の温室効果ガスの実質ゼロを掲げた背景には、国際的な脱炭素の流れに取り残されかねない事情もある。」としたうえで、菅政権のこの問題に対する今後の取り組みに注文を付けています。

この朝日新聞(2020/10/27)の記事で、「世界の脱炭素の流れ」については、「120カ国が先行法制化」として、各国が「2050年までのCO2排出ゼロ」を宣言しているなかで、いままで、それを行わなかったのは、トランプ大統領の下の米国と日本だけで、それが、菅政権の下でようやく行われるようになったことに、歓迎の意を表しているように見えます。しかし、その実行のためには、再エネ電力の利用とともに原発電力の利用が必要ですが、東京電力福島第一原発事故の後で、国民の多数が反対するなかでの原発電力の取り扱いをどうするかの政府の具体策が示されていないことを指摘するだけで、明確な対応策が提言されていません。これは、ジャーナリズムの限界かも知れませんが、今回の菅首相の宣言に期待を寄せるのであれば、その実行のための具体策の提言がなければならないと私どもは考えます

 

⓶ 今回の菅首相の「2050年までのCO2排出ゼロ」は、2閣僚の進言によったとありますが、一体、何のために、2 閣僚が、このような提言を行ったのでしょうか?

上記(⓵)の同じ朝日新聞(2020/10/27)の記事の小見出しに、「2閣僚進言 目玉政策に」と書いてありました。この2閣僚とは、安倍前内閣から留任した小泉新次郎環境相と梶山弘志経済産業相です。小泉氏の場合、昨年(2019年)暮れの「パリ協定」における温暖化対策としてのCO2排出の削減目標を協議したCOP 25(第25回気候変動枠組締約国会議)に日本を代表して出席し、当時の日本政府の石炭火力発電所の新増設計画が、地球温暖化を訴える国際環境保護派によるジャパンパッシングを受けるなかで、何の反論もできなかったので、次回のCOP 26の会議で、自分の存在感を目立たせるために、今回の菅首相の「2050年CO2排出ゼロ」が必要だとして首相への進言を行ったものと言ってよいでしょう。 もう一人の梶山経産相の場合は、今回、世界各国の「CO2排出削減の流れ」に便乗して、日本の石炭火力の新増設計画を見直して、古い発電効率の悪い石炭火力発電所を廃止し、お金のかかる再エネ電力の開発と、福島第一原発の過酷事故後、運転停止を余儀なくされている原発の再稼動を進めている張本人なのです。これら二人の進言によって宣言された菅首相の「2050年CO2ゼロ」を利用して、「新型コロナウイルス問題」の影響で、今年の暮れから来年の「コロナ問題」収束後に延期されたCOP 26を乗り切ろうとしているのです。

しかし、下記(⓷)するように、日本が、こんなことをしても、地球の温暖化の脅威を防ぐことはできませんし、世界の化石燃料消費を節減し、世界の貧富の格差の解消による国際平和の維持に貢献することもできないのです。

 

⓷ 化石燃料の枯渇が迫るなかで、世界の全ての国が協力して、地球上に残された化石燃料を大事に使うことこそが、人類が、平和な世界に生き残る唯一の道です

いま、世界各国がCO2の排出ゼロを目指すのは、地球温暖化を防止するためとされています。しかし、先の本稿の菅首相による「温室効果ガス2050年ゼロ」(その 1 )で述べたように、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する「温暖化のCO2原因説」が正しいと仮定しても、世界第5位のCO2排出量を持ちながら、世界の3.55 %(2016 年の値)しか排出していない日本が、菅首相の所信表明演説で宣言した「2050年までにCO2排出ゼロ」を実現しても、地球の温暖化を防止することはできません。

いま、「コロナ問題」による世界経済の落ち込みが、なかなか回復しないなかで、菅首相が地球温暖化対策として宣言した「2050年までにCO2排出ゼロ」で無駄に国民の貴重お金を浪費する必要はどこにもありません。

また、これは、IPCCの国内委員のお一人でありながら、IPCCによる温暖化の脅威を「科学の仮説」だと主張しておられる杉山太志氏の受け売りですが、洪水の発生が地球温暖化に起因するとして、CO2の排出削減に無駄なお金を使うよりは、洪水による被害の発生を防ぐために直接お金を使う方が、経済的に、お金がかからないとする考えが科学の常識でなければなりません。

すなわち、化石燃料の枯渇が迫るなかで、世界の全ての国が協力して、地球上に残された化石燃料を大事に使うことこそが、人類が、平和な世界に生き残る唯一の道なのです。

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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