日本国民は、世界一高い電力料金を払って、アベノミクスのさらなる成長による政治権力の保持を目的とした原発電力の利用を継続する必要はありません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約):

⓵ やがて枯渇する化石燃料の代替として用いられてきた原発電力が、3.11福島の過酷事故で失われたいま、政治権力の保持のためのアベノミクスのさらなる成長の継続を目的として、継続、利用されようとしています

⓶ 日本では、石油危機により、火力発電のコストより安くなったとされた原発電力の利用が、高い電力料金を国民に押し付けながら、その利用が継続されてきました

⓷ 化石燃料の枯渇が迫る以前に、その代替として用いられるようになった原発電力を利用するために、原発の発電コストが低いとのトリックを用いて、国民に高い電力料金が押し付けられてきましたし、これからも押し付けられるのです

 

(解説本文);

⓵ やがて枯渇する化石燃料の代替として用いられてきた原発電力が、3.11福島の過酷事故で失われたいま、政治権力の保持のためのアベノミクスのさらなる成長の継続を目的として、継続、利用されようとしています

資本主義国家の政治にとって、その権力を保持するためには、経済成長が継続されていること、すなわち、国内景気が維持されていることが必須だと考えられているようです。したがって、この資本主義経済の成長を支えてきた化石燃料エネルギー資源の枯渇が迫っているいま、経済成長が抑制されるのが必然と言ってよいなかでも、世界の政治は、何とか、世界の経済成長を維持したいと必死になっているように見えます。

この世界経済の成長抑制が必然とされるなかで、化石燃料資源のほぼ全量を輸入に依存する日本において、化石燃料の代替として利用されてきた原発電力の将来を大きく制約する3.11 福島第一原発の過酷事故が起こったのです。この事故により、2010年度まで、国内の全電力量の1/4近くを占めていた原発が稼働を停止せざるを得なくなりました。

この失われた電力を補うために、日本の電力事業では、それまで、50 % 程度の稼働率で運転していた化石燃料を用いる火力発電の設備稼働率を60 % 程度に引き上げることで、稼働を停止した原発の電力を賄うことができています。 にも拘らず、政府は、原発の稼働に、新しい安全性の基準を設けて、この基準に合格した原発を、順次、再稼動させようとしています。しかし、3.11福島事故の厳しい現実に対応して新設された新しい安全基準に適応するためには、安全対策設備の建設に大きな金額の投資と時間が必要となるために、この再稼動の実行は思うように進んでいません。しかしながら、この原発電力の大部分が失われた現状のなかでも、国民の懸命の省エネ努力によって、国民にとっての生活と産業用の電力の供給には不自由していません。

すなわち、やがて確実にやって来る化石燃料資源の枯渇が迫るなかでも、化石燃料の代替としてのエネルギー(電力)は、当面は、国民の徹底した省エネ(節電)努力による総発電量の年次減少を前提として、化石燃料のなかで最も安価な石炭を用いる火力発電を利用するとともに、この石炭火力の発電コストより安価になることを条件として、化石燃料の代替の自然エネルギー(再生可能エネルギー)電力の種類を選んで、順次、その利用を進めて行けば、安全性のリスクの大きい原発電力を利用する必要はないのです。

何故、このような不必要な原発電力の利用の継続が求められるのでしょうか? それは、上記したように、政治権力の保持に必要な経済再生(景気回復)のためのエネルギーの獲得が、アベノミクスのさらなる成長戦略のなかで求められているからです。

 

⓶ 日本では、石油危機により、火力発電のコストより安くなったとされた原発電力の利用が、高い電力料金を国民に押し付けながら、その利用が継続されてきました

やがて枯渇する化石燃料の代替として用いられるようになった原発電力ですが、化石燃料の枯渇がまだ現実のものとはなっていないなかで、その実用化開発・利用の拡大が、1970年代の初め頃から急速に進められました。

日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 1 )と略記)に記載のIEA(国際エネルギー機関)の一次エネルギー消費(原子力)のデータをもとに作成した、世界および日本の原発電力の発電量としての一次エネルギー消費(原子力)の年次変化を、図1 に示しました。

図 1 世界および日本の一次エネルギー消費(原子力)の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAの一次エネルギー消費(原子力)のデータをもとに作成)

 

この 図 1 に見られるように、1970年代以降、急速に増加していた各国(日本と米国)の原発電力の発電量は、やがて、その増加を停止するようになりました。エネ研データ(文献 1 )に記載の原発電力関連データをもとに、原発発電量が増加しなくなる時点での各国の総発電量に対する原発電力発電量の比率を求めてみると、その値は20 ~ 30 % 程度に止まります。これは、原発電力は、その発電コストが主として設備の建設コストに依存するために、その生産電力を経済的に効率良く利用するためには、出力変動の小さい条件下での稼働が要請されるからです。すなわち、日本では、原発電力は、80 % 程度の高い一定の年間平均稼働率を保つように利用されてきました。一方で、その発電コストが、主として使用燃料の価格に支配されて、出力負荷変動への融通性の強い火力発電が、年間平均稼働率を 50 % 程度の低い値で併用されることで、両者合計の発電コストの低い値が維持されていたのです。

ところで、この日本の場合、原発電力が利用されるようになった1970年代以前の火力発電用の燃料としては、当時、水より安いと言われた石油(重油と原油)が主として用いられていました。これは、第2次大戦後の高度経済成長期が、安い石油の時代と一致した日本における特異な事情であったと言えます。他の先進国の多くでは、火力発電用の燃料には、以前から使われていた石炭が主として使われていたと考えられます。この火力発電用の石油の国際市場価格が、1970年代に、安い原油の産地、中東での2度の軍事紛争によって、一挙に10倍以上に跳ね上がったのです。これが、世界経済に大きな影響を与えた石油危機です。

経済性の問題から見れば、日本でも、この石油ショック以降、火力発電の燃料を、石油に較べてより安価になった石炭(一般炭)に変換すべきだったのです。しかし、地域環境問題が煩くなっていた当時の日本の石炭火力の利用では、その排ガス処理の問題を解決する必要があったので、この燃料変換が大幅に遅れてしまいました。結果として、高くなった石油火力の利用を継続した日本での公共電力料金が、図2 に示すように世界一の高値になったのです。なお、この日本の電力料金の高値のなかには、原発電力の利用に伴う原発立地での地元対策費等が含まれています。

 

図 2 世界各国の電力料金(産業用)の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )記載のIEAデータをもとに作成)

 

⓷ 化石燃料の枯渇が迫る以前に、その代替として用いられるようになった原発電力を利用するために、原発の発電コストが低いとのトリックを用いて、国民に高い電力料金が押し付けられてきましたし、これからも押し付けられるのです

原発電力が用いられるようになった1970年度の半ば頃から、上記(⓶)したように、石油危機により、原油の国際市場価格が急騰しました。エネ研データ(文献 1 )に記載の国内のエネルギー価格のデータをもとに計算した、単位発熱量当たりの化石燃料の種類別輸入CIF価格(産地での購入価格に輸送費と保険料を加算した値)が、図3に示すように、乱高下を繰り返しながら上昇しました。この図3に見られるように、この原油価格と、これに密接に追従する液化天然ガス (LNG) に較べて、発電用の石炭(一般炭)の国際市場価格は、比較的安定した安値が維持されました。

図 3 単位発熱量当たりの化石燃料種類別の輸入CIF価格の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )記載の国内のエネルギー関連データをもとに作成)

 

いまでも、現代文明社会を支えている電力の主体である火力発電電力用の燃料の選択は、この単位発熱量当たりの輸入CIF価格を考慮して決められるはずです。しかし、原発電力を含む発電方式の種類別の発電量の年次変化は、図4 に示すように、必ずしも、そのようになっていません。この発電方式種類別の発電量の総発電量に対する比率、すなわち、電源構成の最適値(ベストミクス)が、国のエネルギー基本計画のなかで追及されるべきだとされています。

しかし、発電設備には安全性から決められた法定の使用期間がありますから、各発電設備に対して、この法定使用期間を守りながら、経済最適な電源構成のベストミクスを求めることはできません。少なくとも、この図4に示す発電方式種類物発電量の年次変化は、ベストミクスからは遠いものと考えられます。

図 4 旧一般電気事業者(旧電力会社)の発電種類別発電量の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )に記載の国内発電電力量の年次変化データをもとに作成)

 

以上、図3および図4を見て頂けば判るように、政府のエネルギー政策では、科学的な根拠のない原発電力の発電コストが、化石燃料を用いた火力発電の発電コストより安いとするトリックを使って、国民から世界一高い電力料金を取り上げることで進められてきたと見ることができます。

さらに、この原発電力の発電コストが石炭火力発電のコストより安いとのトリックが、その後、現在まで使われているのは、1990年頃から、科学の原理だと言われるようになった地球温暖化の脅威でした。IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張するようになった、この化石燃料消費の継続による温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2))の排出の増加に伴う温暖化の脅威です。このIPCCが主張する地球温暖化の脅威論が、広く世界の政治を支配するようになり、この温暖化の脅威を防ぐためのCO2排出の削減のために、原発電力が使われるべきだとされ、その代償として、日本国内では、いまも、高い電力料金が徴収されています。さらに、今後、温暖化を防止しながら、経済成長を継続するためとして原発電力を利用すれば、今後もこの状況が続くのです。

これに対して、私どもは、安倍政権の命脈を保つための原発電力の利用を否定した上で、世界の化石燃料消費量を、現在(2012年)の値以下に保つように節減すれば、IPCCが主張する温暖化の脅威は起こらないと主張しています。具体的には、世界の全ての国が、2050年の一人当たりの化石燃料消費量の値を2012年の世界平均の一人当たりの値に保てばよいのです。これは、また、今年末のCOP 26で協議されるパリ協定の各国のCO2排出削減目標とも一致した、唯一の実現可能な温暖化対策にもなります。

詳細については、私どもの近刊(文献 2 )をご参照下されば幸いです。

 

<引用文献>

  1. 日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2019、省エネルギーセンター、2019年
  2. 久保田 宏、平田賢太郎;温暖化物語が終焉します いや終わらせなければなりません 化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります 電子出版 Amazon Kindle 版 2019 年、9 月

 

ABOUT  THE  AUTHER

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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