AI ブームに代表される技術革新は何のために求められるべきなのでしょうか?

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ AI ブームの技術革新の実用化のトップにされている自動運転車は、人間生活での必需品とは遠い存在です

⓶ いま、人類社会で進められている、軍事兵器のへのAI技術の利用の拡大は、国際間の軍事紛争の危機を煽るだけではないでしょうか?

⓷ AI 技術開発のもたらす人間社会への影響には、AI技術が雇用を奪う問題があります。この問題に対しては、人間は、もっと、その存在の尊厳を厳しく主張すべきと考えます

 

(解説本文);

⓵ AI ブームの技術革新の実用化のトップにされている自動運転車は、人間生活での必需品とは遠い存在です

朝日新聞(2020/1/13)の記者解説の欄の「AI ブーム 光と影」として、

技術革新は何のため 問い直す時

との見出しで、編集委員の堀篭俊材氏による私どもエネルギー科学の技術者にとっても、今後のエネルギー関連の技術開発のあるべき姿と技術者の責任を問う、貴重な論説が掲載されました。この論考の要約の初めにもあるように、「人口知能(AI)は、単なるブームから、自動運転や医療機器で実用化の段階に入った」とあります。

さらに、いま、AI技術のトップに躍り出たように見える自動運転については、今夏の東京オリンピック・パラリンピックの選手村では、運転手の姿のない自動運転システムが注目を集めるだろうとしたうえで、この夢の世界を現実に近づけているのは、深層学習とよばれるAIの技術だとしています。ここで、深層学習とは、コンピューター自身が学んで賢くなる機械学習の一種で、これを使ってAIの機能が飛躍的に上がり、いまのAIブームが到来したとしています。

じかし、私どもに言わせれば、このオリンピック村の自動運転は、日本政府が、日本の科学技術力を海外に宣伝するための政治ショウに過ぎません。世界の、そして日本の自動車から運転手が居なくなることは、あったとしても、特異な好き者のなせる業だと考えます。オリンピックの選手村と競技場の間の決まったところを往復すのであれば、自動車に運転手は必要がないかもしれませんが、行き先がそのたびに変わる通常の自動車のより多くの利用では、無人運転のメリットは存在しません。また、この無人運転の一般的な普及では、後(➂)でも触れますが。タクシーの運転手の雇用の問題があります。さらに、自動運転での安全性を問題にするのであれば、有人の車に、AIで働く安全装置をつければよいだけの話です。

では、何故、この自動運転がAI技術利用のチャンピオンとして躍り出たのでしょうか?それは、自動車産業の近未来の発展のための技術革新がAI技術に求められたからです。自動運転を言い出したのは、AI技術をビジネスとする企業です。AI技術の企業が、自動車産業を乗っ取ろうとしているのだと言ってよいでしょう。

 

⓶ いま、人類社会で進められている、軍事兵器のへのAI技術の利用の拡大は、国際間の軍事紛争の危機を煽るだけではないでしょうか?

このAI技術による自動運転の実用化に対して、堀篭氏が取り上げている医療機器への深層学習機能をもったAI技術の応用では、その技術開発の主権は、医療技術の開発研究者にあります。AI 技術は、単に彼らを支援しているだけです。すなわち、AI技術が、この医療機器開発技術の前途を支配することはありません。今後のAI技術開発の在り方は、この形態が規範となるべきです。

AI技術開発の進展につれて、このAI技術がまだ存在しなかった頃の産業用のロボットに始まり、次々と人間の仕事を代行するようになっています。しかし、この堀篭氏の論考にも記されているように、人間の仕事は多数あり、AI技術が支援できないような、人間の高度な科学技術的判断を必要とする仕事が多数残っているはずです。

その代表例は、いま、AI技術の利用で問題にされなければならない重要な課題として、軍事兵器へのAI技術の利用があります。戦争のための攻撃用のミサイルだけでなく、平和憲法によって戦争を放棄した日本においても、国家安全保障のための必要最小限の武器を保有すべきとの意見が世論を支配していますから、AI技術の支援を受けた軍事兵器が次々と利用されるようになっています。しかし、現在の国際情勢からみて、これは、経済大国の間で、現在も続けられているいる単なる軍備拡張競争のイタチごっこにしかすぎません。いま、日本にミサイルを撃ち込んできそうな国は北朝鮮とされていますが、それは、日本が、北朝鮮に対し、米国と一緒になって経済制裁をしているからです。この経済制裁の解除を要請するために、金正恩が脅しをかけていると考えるべきです。

もし、AIが万能であれば、この冷戦の問題にも解決を与えてくれるAI技術が開発されてもよいはずですが、そんなことは、望むべくもないでしょう。この問題を解決するためには、平和憲法を盾にした日本人が、冷静に判断して、世界平和への道を追求する方策を考える以外にありません。例えば、日本政府が、金正恩に対して、拉致問題の代償として、経済制裁を解除すると言ってみたらどうでしょうか? その時に、彼の本音が見えてくるはずだと私どもは考えるのですが。

 

⓷ AI 技術開発のもたらす人間社会への影響には、AI技術が雇用を奪う問題があります。この問題に対しては、人間は、もっと、その存在の尊厳を厳しく主張すべきと考えます

このAI技術革新に関する堀篭氏の論考には、今のAIは、人間にとってかなり難しい仕事はできないし、逆に、とても簡単な仕事もこなせない。ビジネスを企画したりできないだけでなく、拭き掃除や、物を取り換えることもままならない。AIが得意なのは、デスクワークのような定型的な仕事だとあります。したがって、いろんな推計があるようですが、日本の場合、AI技術の進歩により、将来、労働人口の15 % 程度、一千万人の雇用がAIにより奪われると予測されているとしています。

しかし、この予測の雇用喪失の予測データのなかには、上記(⓵)の自動運転でのタクシーの運転手のように、本当にAIに雇用を奪われるかどうか判らないケースも含まれると考えられます。現代文明社会を民主的に進化させるためには、労働雇用の安定化の問題は欠かすことができません。特に、日本の場合、少子高齢化が進むなかで、労働年齢の上昇にどう対応するかも重要な課題になるでしょう。堀籠氏も指摘しておられるように、進歩するAI 技術を使いこなすことのできる人材を養成する機構をつくるとことも必要でしょうが、そこから落ちこぼれる人を救済する社会システムを創ることがより強く求められるでしょう。

ここで、より重要な問題を指摘させて頂きます。それは、いま、現代文明社会を支えてきた成長のエネルギー源としての化石燃料消費の枯渇が迫るなかで、世界の経済成長の抑制が否応なく迫られるとの厳しいい現実です。この問題でも、この厳しい社会状況に対応するためにどうすればよいかを考えるAIが求められてもよいはずですが、それは、当然、いままでの経済成長をも目的としたビジネスの成立を対象としたAIとは違った、いままで存在しなかったAI でなければなりません。当然、いまある自動運転のAIなんかは、除外されるしょう。また、ロボットの製造・普及のような人間から仕事を奪うようなAIも入ってこないでしょう。いや、AIなんかは要らない。いままでどおり、人間でできることは人間がやることで、雇用問題を解決すべきだとなると私どもは考えます。すなわち、人間が、ロボットに、したがって、AI に追いだされることを無くすることがより強く求められます。それは、人間が技術革新の成果として作り上げた機械の上に君臨していた時代への復活です、さらには、化石燃料資源の枯渇による経済成長が抑制されるのですから、上記(⓶)した軍事費にお金を使う余裕もなくなり、世界平和の実現が可能になります。これは、理想論のようですが、人類が、化石燃料の枯渇後の世界に生き延びる唯一の道と考えるべきです。

もちろん、人間は、人間がつくった、現存するAIに職を奪われるべきではないのです。あくまでも、AIは、人間にとっての豊かな生活をつくるために使われるべき道具なのです。すなわち、人間は、その存在の尊厳を主張すべきです。特に、現代文明社会の科学技術革新を担ってきた科学技術者には、そのような気概を持つことが強く求められなければなりません。

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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