「新型コロナウイルス問題(以下、コロナ問題)と略記」についての緊急事態宣言が全国一斉で解除されました。しかし、その前提条件となるべき、「PCR検査」の全国民への実施が行われていません。そのなかで、安倍首相のさらなる成長による政権維持のために、日本経済を破綻に導く赤字財政の積み増しが行われようとしています

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 「コロナ問題」解決のための前提となるべき「PCR検査」の全国民への実施の条件が満たされないままに、安倍晋三首相による政治権力維持のための緊急事態宣言が解除されました

⓶ 「コロナ問題」は世界の問題です。日本で緊急事態宣言が解除できても、世界で実質的な収束が達成されなければ、安倍首相が強く求めてきたオリンピックも開けないでしょう。「コロナ問題」は、これからも繰り返しやって来ます。世界中が協力して、完全な感染防止対策をつくることこそが求められなければなりません

⓷ 「コロナ問題」を政治権力を維持するための経済成長の継続の目的に利用しようしている安倍首相は、いま、空前絶後の財政出動で日本産業の成長を維持するとして、日本経済を破綻の淵に陥れようとしています

⓸ (補遺);「コロナ問題」第2波の到来が懸念される事態が起こっています。この第2 波の速やかな収束のためにも、「PCR検査」数のいますぐの拡大が求められます

 

(解説本文);

⓵ 「コロナ問題」解決のための前提となるべき「PCR検査」の全国民への実施の条件が満たされないままに、安倍晋三首相による政治権力維持のための緊急事態宣言が解除されました

「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」について。4月7日(2020年)に緊急事態が宣言されてから一月半の5月25日、政府により、この宣言の解除の条件とされた、地域(都道府県)別の人口百万当たり0.5人以下の条件が満たされていない地域を含めた全国の宣言が解除されました。

私どもが主張する科学的に根拠のある本来の緊急事態宣言解除の条件は、感染者数が一定期間(1週間程度?)ゼロでなければなりません。そのためには、全国民が「PCR検査」を受け、陽性と判断された感染者が非感染者と完全に隔離され、同時に、隔離された感染者に対する感染症治癒のための医療設備が完備されていなければなりません。

諸外国に比べて、この「PCR検査」の数が圧倒的に少ない日本の現状では、この全国民への「PCR検査」の実施は非現実的かもしれません。しかし、より簡易な方法として、最近開発された「抗原検査」や「抗体検査」と組み合わせれば、全国民を対象とした「PCR検査」実施の可能性が保証されることになるでしょう。すなわち、この「抗原検査」や「抗体検査」を組み合わせた全国民への「PCR検査」の実施こそが、政府による「緊急事態宣言解除」の必須条件となるべきだと私どもは考えます。

さらに、今回の緊急事態宣言の解除に当たっては、政府が決めた解除の条件を満たしていない地域(都道府県)を含めた全国一斉の解除が行われたことに問題があることを付記させて頂きます。私どもは、先ず、今回、政府が決めた全国一斉の解除で、第2波、第3波の感染拡大が来ることが予測されていますが、そのときの感染拡大の判断は、地域(都道府県)別に行い、それぞれの地域での感染防止対策が採られるべきことを提案します。すなわち、感染者ゼロが守れている地域では、政府が今回決めた「生活様式のガイドライン」にしたがって、経済危機をもたらすような感染防止対策を講じる必要はないです。各地域別に、その地域の長(知事)が、その地域の実情に合った感染防止対策を講じて、その実行をお願いすればよいのです。

これに対して、感染者の増加ゼロが実行できない地域に限って、その地域住民への「PCR検査」の実施が求められ、その結果として、感染者ゼロが達成できればよいのです。これが、「コロナ問題」で、地方自治の実践のなかで、日本の経済危機を最小限に止めて、日本経済が生き残る道だと考えます。

 

⓶ 「コロナ問題」は世界の問題です。日本で緊急事態宣言が解除できても、世界で実質的な収束が達成されなければ、安倍首相が強く求めてきたオリンピックも開けないでしょう。「コロナ問題」は、これからも繰り返しやって来ます。世界中が協力して、完全な感染防止対策をつくることこそが求められなければなりません

日本において、特にアベノミクスのさらなる成長の継続を、景気回復対策による政治権力の維持のために必要だとしている安倍晋三首相にとっては、世界の観光客の増加を目的として、3.11福島の過酷事故によりもたらされた東電福島第一原発の放射能汚染水が「完全にコントロールされている」とする自らの発言で、その誘致を決めた東京オリンピックの開催のために、今回のコロナ問題の早期の収束を国内問題として解決しようとしました。この安倍首相の政治姿勢が、結果として、この困難な「コロナ問題」への初動対策の遅れにつながったとみてよいのではないでしょうか? 懸案の東京オリンピックの開催は、来夏に予定されていますが、この「コロナ問題」が、世界の問題として解決されない限り、その実施は難しいのではないでしょうか? 特に、収束の目途が立っていない貧困な途上国における感染拡大を防ぐための適正な措置が採られることが求められます。

したがって、いま、この世界の「コロナ問題」の収束を考えるとき、世界の全ての国の協力が不可欠な条件として求められます。いま、それを阻んでいるのがトランプ米大統領の最近の言動です。トランプ大統領が訴える「コロナ問題」の発生源についての科学的な真相は不明ですが、いま、このコロナ問題で、世界で大量の死者が出るとともに、かつて、世界大戦によって、その解決が図られたような世界経済の大恐慌が起ころうとしている現実のなかで、この「コロナ問題」の収束のために最も重要な役割を担っている中国政府を攻撃するような言動は許すことができません。今秋に予定されている大統領選挙に、米国民の良識が働くことを、私どもは心から願っています。

このコロナウイルスによる感染症の拡大は、今後も、形を変えて訪れるでしょう。世界の全ての国の協力による科学技術の進歩が、この問題を解決する以外に、持続可能な社会に人類が生き残る道はありません。

 

⓷ 「コロナ問題」を政治権力を維持するための経済成長の継続の目的に利用しようしている安倍首相は、いま、空前絶後の財政出動で日本産業の成長を維持するとして、日本経済を破綻の淵に陥れようとしています

「コロナ問題」について、安倍首相にとって怖いのは、その感染の拡大によって多くの尊い人命が失われることではなく、政治権力の維持のための経済成長の継続ができなくなることではないでしょうか? 確かに、日本では、感染者のなかの死亡者の比率が、諸外国に比べて圧倒的に少ないようです。これは、欧米人に較べて、東洋人が、今回の新型コロナウイルスに対する抵抗力が強いためではないかと言う説もあるようですが、真相は不明です。ただ、日本では、感染症に対する医療技術が優れており、また、医療技術者の献身的な努力があったことは見逃せない事実だと思います。

それはともかく、貿易立国としてのグローバル化社会のなかで高度の成長を遂げてきた国産エネルギー資源の乏しい日本の経済が、今回の「コロナ問題」による国際貿易量の削減のなかで生き残るためには、政治による産業再生のための財政的支援が必要だとする安倍首相だけでなく、野党まで一緒になっての主張には、私どもは、必ずしも賛同することができません。

それは、いま、「コロナ問題」に関連しての産業の再生は、現政権の政治権力を維持する国内景気の回復のために利用される恐れがあるからです。例えば、いま、これまで日本経済を強力に支えてきた自動車産業が経済的な苦境にあると報道されています。しかし、これは、今回の「コロナ問題」による世界経済のマイナス成長が予測されるなかで、消費者が、新車の換えを控えているためだと考えられます。したがって、いま、政府が、経済的な支援を行っても、この自動車産業の苦境を救うことができません。この自動車産業に限らず、各種産業においても、「コロナ問題」による休業や廃業を余儀なくされるところが多数出てきていますし、これからもその数が増えることが予測されますが、これらの産業への政府の経済的な支援は国家財政の赤字を大きく積み増すことになります。

すなわち、いま、この政府による経済的な支援金額を最小化するためには、今回の「コロナ問題」で、企業の休廃業を強いられる経営者や従業員の生活を保障するための支援にのみ向けられるべきです。さらに、これらの財政支出金額は、一般会計での税収の範囲内に止めるべきで、予算の組み換えによる軍事費の増額のような無駄を廃止して必要金額が捻出されるべきです。

これに対し、停滞する産業の再生を支援する国家財政の支出では、その金額が大きくなり、安倍首相が主張するような、赤字国債の発行を前提とした基礎的財政収支(プライマリーバランス)を無視した巨額の補正予算が組まれなければならなくなります。

いま、日本の産業の再生を図るために、安倍首相が行おうとしている空前絶後の規模、世界最大の対策とされる本年度の補正予算の財政支出では、「コロナ問題」による経済危機を回避するための財政支出だけでなく、アベノミクスのさらなる成長のためとして、種々の名目での財政支出が行われようとしています。そのなかに、安倍首相が訴える「コロナ問題」収束後の日本経済のV字回復のための産業の再生を経済的に支援するための予算も含まれているようです。

しかし、「コロナ問題」が発生する以前から、世界経済の成長を支えてきたエネルギー源としての化石燃料資源の枯渇が迫るなかでは、国債の発行による財政赤字の積み増しは、日本経済を破綻の淵に陥れる大きなリスクを抱えているのです。いや、日本経済だけでありません。この「コロナ問題」発生により、世界経済が、人類が、いままで経験したことのない大恐慌に襲われると予想されるのです。この予想される世界経済の大恐慌を防ぐ唯一の方法は、世界の全ての国が協力して、この「コロナ問題」を一刻も早く収束させること以外にないのです。

 

⓸ (補遺);「コロナ問題」第2波の到来が懸念される事態が起こっています。この第2 波の速やかな収束のためにも、「PCR検査」数のいますぐの拡大が求められます

緊急事態宣言の全国一斉の解除が決まった直後、それまで23日間、感染者数ゼロを記録していた北九州市で、6日間連続で感染者の発生が見られました。直近の28日(⓹月)の21人を含めた43人の中の21人もの感染ルートが不明な人がおります。また、その年代も20代、30代の若者が多いことから、ゴールデンウイーク明けの外出自粛要請が解かれたあとの「コロナ問題」の第2波の到来ではないかとの懸念が、全国の知事の間にも広がり、いま、改めて、この第2波の速やかな収束を図るための「PCR検査」数の拡大加が訴えられています。確かに、上記(⓵)したように、「コロナ問題」の完全な収束のための全国民への「PCR検査」のいますぐの実施は経済的にも大変なことと考えられます。しかし、これが、「コロナ問題」の第2波の到来を防止するための一部地域を対象とした支出であれば、その金額も。上記 ⓷ した「コロナ問題」による経済損失を補償するために必要な赤字財政支出の金額に較べれば少なくてすむはずです。

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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