Dmitry Orlov氏の『夢の奇妙な論理』

 本稿は、"Reinventing Collapse"の著者であるDmitry Orlov氏のブログCLUBORLOV 2012419日付けの記事The Strange Logic of Dreams を訳したものである。シフトムにて以前、オルロフ氏のエッセイ『崖の底にある藁の山』を紹介したが、本稿は『崖の底にある藁の山』における、頭でわかっているはずの人が行動に移せないのはなぜか、という問いに対する思索の続篇である。行動以前に、考え方の問題(否認)をクリアにしなければならない。

 
 Maria Rubinke

 前に私は、行動することが必要とされる否応無しの理由が与えられているのに、行動しないでいるのはなぜか、という問いを発した。私たちは酵母よりも賢いのだろうか?おそらく、賢くない。だが、ひょっとするとこの問題は、私たちの行動における無能についてではなくて、より重要なことには、考えることにおける無能に関することではないのだろうか。論理の力に口先では同意するものだが、たいていは虚構の世界に住むことを選んで、そこで、意識の世界にはあるが見えない対象を表す抽象的な記号を操ってしまうわけだ。各人は個別の意識の世界に住んでいて、もっと根本的には、多くの異なる世界があって、事実上別々の夢を見ていて、決して夢から覚めることはない、ということなのだろうか?

 
 ジグムント・フロイトは次のジョークでもって夢の奇妙な論理を取り上げた。
 
1.私は絶対にあなたからやかんを借りなかった。
2.私があなたにやかんを返したときには壊れてなかった。
3.私があなたからやかんを借りたときに、やかんは既に壊れていた。
 
 スラヴォイ・ジジェクは彼の著書Violenceに、上記の「矛盾した主張の列挙は、否定しようとすることの否認によって、私は壊れたあなたのやかんを返した、ということを浮き彫りにする」と書いている。
 
 もっとありふれた例はこうだ。宿題をしなかった子どもの言い訳の典型的なリストだ。

1.私は宿題をなくした。
2.私の犬が宿題を食べた。
3.私は宿題が課されたとは知らなかった。
 
 同様の反事実的条件文の三つは、多くの長期にわたる、見たところでは解決し得ない政治的衝突においても繰り返されているように思われる。それぞれの反事実的条件文はそれ自体の虚構の世界に引きこもっている。(それはそれ自体が対応する世界の中においてのみ真になり得る)三つの支離滅裂な主張が勘案される結果は、認識上のくさびを形成して、さらなる合理的思考を否認することだ。

 たとえば、ここに示すのは、イスラム過激派がホロコーストに対して反応する方法をシジェクはどのようにみたかである。
 
1.大虐殺はなかった。
2.大虐殺はあったが、ユダヤ人には当然の報いだった。
3.ユダヤ人の大虐殺は当然の報いではなかったが、ナチスがユダヤ人に対して行ったようなことをユダヤ人がパレスチナ人に対して行うことによって、ユダヤ人は文句を言う権利を喪失している。
 
 アラブとイスラエルの分裂の他の側面においても、私たちは同様の三つの主張を見いだす。
 
1.神はいない(イスラエル人はたいてい無神論者である)
2.私たちは神に選ばれた民である、神はパレスチナを私たちに与えた。
3.パレスチナは私たちのものだ、何世紀も前に私たちがそこに住んでいたという単純な理由で。
 
 私がこの問題を取り上げたのは、衝突を考察するためではなく、何が衝突を解決させないかを指摘するためだということに留意していただきたい。双方が一つではなく複数の矛盾する夢を見ているのだ。彼らが目覚めない限り、和解はあり得ない。だが、もし彼らが目覚めるならば、彼らは彼らの戦略的な夢の見解を放棄しなければならないし、交渉の席に着かねばならならなかったという地位を失うことになるだろう。ある日、彼らが夢から覚めると、映画が終わってしまったことには気づかずに、彼らの世界はなくなっていることだろう。
 
 もっと身近な話題では、昨年、ウォール・ストリートを占拠せよというすばらしい見世物について、わけのわからぬ「要求」や活発ながらもまとまらぬ意見と論じられたことがあった。占拠者たちは彼らが存在すること、そして距離をあけて立っていることをかなり強烈に訴えた。あれは政治的反乱などではなく、存在論的な反乱だったのだ。「私たちはあなた方とは違う」という主張だ。しかるに、特定の要求をすることは、不必要だったのだろう。占拠者たちは、意味はなくともリズミカルな何かを繰り返し叫ぶことでも、同様の(おそらくはより大きな)効果を達成することができただろう。
 
       かくかくしかじかかくかくかくかく
       かくかくしかじかかくかくかくかく
 
 結果的に、政治評論家たちは、次のような三つの主張をぶちまけた。
 
1.占拠者たちは特定の要求を欠いている。
2.占拠者たちの要求は不合理なものだ。
3.占拠者たちの要求に応えても問題を解決しないだろう。
 
 彼らは眠っていて、ご推察の通り、占拠という夢を見ていたわけだ。ある日、彼らは夢から覚めて、映画が終わってしまったことには気づかずに、彼らの世界はなくなっていることだろう。
 
 それまでの間、みなさん、お休みなさい。

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