Dmitry Orlov氏の『戦争の始め方および帝国からの逃れ方』
| 本文でも触れられるが、2014年9月24日の国連総会におけるオバマ大統領の演説では、目下、世界が直面する脅威として「エボラ出血熱の感染拡大 outbreak of Ebola」「ヨーロッパにおけるロシアの侵略行為 Russian aggression in Europe」「シリアとイラクにおけるテロリストの残虐性 brutality of terrorists in Syria and Iraq 」が挙げられた。ロシアは名指しで非難されたわけである。これに応じるかたちで、ロシアのプーチン大統領は2014年10月24日にソチで開催されたバルダイ・ディスカッション・クラブの大会で講演を行い、”Putin Just Gave One Of The Most Anti-American Speeches Of His Career ”と記事にされるくらいにアメリカの政策を露骨に非難した。
協調関係の発生を論じた「反復囚人のジレンマ」の考察を知る者ならば、プーチン大統領の出方(TIT FOR TAT)は妥当であり、アメリカの次の出方が世界の行方を方向付けると考えるだろう。
本稿は、Dmitry Orlov氏のブログCLUBORLOV 2014年10月21日付けの記事”How to start a war and lose an empireを訳したものである。この頃の日本の偏向気味のメディアの報道姿勢からは世界情勢がよく伝わってこないが、どうやら事態は相当に緊迫しているようである。
1年半ほど前に私は、敵の姿と題して、アメリカがロシアをどのように見ようとしているかについてのエッセイを書いた。そのとき私はロシアに滞在しており、アメリカの反露レトリックとそれに対するロシアの反応を観察した後で、その時に重要だと思われたいくつかの考察を行った。私は重要と思われる傾向をうまく言い当てたと思うが、その後の進展のペースが速く、その考察が今では時代遅れになったので、ここに改訂版を示したい。
当時、その関心はまださほど高くなかった。企業弁護士でいかさま師のマグニツキーという名の男の周りにはノイズが多かったが、彼は逮捕され、公判前の拘置中に死んだ。もちろん逮捕されていない、もっと大物の西側のいかさま師のネタを彼はつかんでいたのだ。アメリカ人はこの出来事を人権侵害として扱うことにし、人権を侵害する者としてレッテルを貼られたロシア人に対して制裁を加える、いわゆる「マグニツキー法」で応じた。ロシアの立法府はジーマ・ヤコヴレフ法で対抗したが、この名称はアメリカ人の養子となって鍵のかかった自動車に9時間放置されて殺されたロシア人の孤児にちなむものだ。この法律はアメリカ人の孤児殺しの鬼がこれ以上ロシア人の孤児を養子にすることを禁じたものだ。それはメロドラマの馬鹿馬鹿しさに匹敵する事態だった。
だが、1年半で、どんな変化が生じたことか!ウクライナは1年半前、20年前の独立以来ずっと一定のペースで崩壊していたが、今では本当に破綻国家になっており、その経済は落ち込み、一つの地域が消失し、二つ以上の地域が公然たる暴動の最中で、国のほとんどはオリガーキー(寡頭政治の少数独裁者)が資金提供する暗殺部隊によって脅迫されており、アメリカの傀儡が名目的に仕切っているものの次に起こることにびくびくしている。シリアとイラクは、1年半前には小康状態だったが、本格的な戦争が勃発して以来、アメリカの援助で形成されたるイスラム・カリフ統治領の支配下に大部分が置かれ、イラク経由のアメリカ製の武器で武装された。深刻なアメリカの外交政策の失敗を背景として、アメリカは最近、あたかもNATOがロシア国境に向かってずっと東進していった事実がなかったことであるかのように、「NATOの近くに」軍隊を持つロシアを非難することを適当だと考えた。驚くことではないが、米ロの関係は今、厳しい警告を発することが適当だとロシア人が考えるまでに達している。ロシア人を脅迫する西側諸国のさらなる試みは核兵器を使った対決を招来するかもしれない。
失敗続きのアメリカの振る舞いは異常なほど一貫しており、何が何でも現実と向き合うことを断固として拒否している。ちょうど前と同じように、シリアでアメリカ人は穏健な親欧米派のイスラム教徒をずっと探している。そのイスラム教徒はアメリカがやりたいこと(バッシャール・アル=アサドの政権転覆)を望んでいるものの、彼らが捕まえることができる異教徒の侵略者のすべてを滅ぼし続ける手前で踏み留まることが想定されている。そのような都合のよいイスラム教徒は存在しないと思われるが、そういう事実が何ら当該地域でのアメリカ人の戦略に影響を及ぼしていないわけだ。
同様に、ウクライナでは、「自由と民主主義」や「開かれた社会」などといったことへのアメリカ人の過分な投資がファシストと内戦による占められた政府を作り出しているという事実も、アメリカ人によれば、ロシア人のプロパガンダにすぎないというのだ。ヒトラーのウクライナ人親衛隊の旗の下にパレードし、ナチの協力者を国家的英雄であるかのように指名しているということが、彼らには十分わかっていない。彼らがナチスであることを証明するには、このナチスは何をしなければならないのだろうか?オーブンを作ってユダヤ人を焼くのか?彼らがオデッサでやったように、ビルに火を放って人々を虐殺し、ドネツクでやったように、武器を持たない市民を後ろから射撃して墓穴に投げ込むようなことが、物事をうまく進めるようには思えない。ナチのような悪党によって支配されることを多くの人々が拒否し、絶えずそういう輩に抵抗してきた事実も、アメリカ人は「親ロシア分離主義者」とレッテルを貼る理由にしているのだ。このことが、次に、ウクライナにおける問題でロシアを非難して、ロシアに制裁を課すために利用された。その制裁はロシアがウクライナから軍隊を引き揚げるや再検討されるとのことだが、困ったことに、ウクライナにロシア軍はいないのだ。
このような振る舞いが新しいことではないことに気づいていただきたい。アメリカ人はターリバーンがウサーマ・ビン・ラーディン(彼はCIAの工作員だった)を引き渡さないという理由で、アフガニスタンに侵攻した。アメリカが9/11事件にウサーマ・ビン・ラーディンが関与しているという証拠を作り出さなければ、そんな証拠はなかったのだ。アメリカ人はまた、サッダーム・フセインが大量破壊兵器を引き渡さないからと、イラクに侵攻した。大量破壊兵器はなかった。アメリカ人は、ムアンマル・アル=カダフィーが役職を明け渡さないからと、リビアに侵攻した。彼は独裁者ではなかった。アメリカは、バッシャール・アル=アサドが自国民に向けて化学兵器を使っているという理由で、シリアに侵攻する準備をした。アサドはそんなことしていなかった。そして今、アメリカ人は、ロシアがウクライナを不安定化して侵略したという理由で、ロシアに制裁を課した。ロシアはいずれもやっていない(アメリカがそうしたのだ)。
ロシアに対する制裁はアメリカ人に非現実性を加えることになる。なぜならば、制裁がロシア政府にロシア政府がやりたかったことをする勢いを与え、「ブーメラン」となって西側諸国に打撃となるからだ。この制裁は多くのロシア人ビジネスマンと高官の権利を侵害するもので、彼らはすぐに西側諸国の銀行からお金を引き出し、西側の学校や大学から子供を引き揚げさせて、彼らはアメリカ人の言いなりではなく愛国的なロシア人であることを示すためにできるあらゆることを実行した。その制裁は多くのロシアのエネルギー関連企業に影響を与え、技術と金融における西側諸国のソースを切り離すことになったが、このことは先ず西側諸国のエネルギー関連企業の売り上げを害して、競合する中国の企業を助けることになった。SWIFT システム(註:国際銀行間通信協会、Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略、銀行やその他の金融機関の間の通信を取り扱うネットワークを運営する組織。)からロシアを切り離す脅迫もあり、ロシアと西側諸国の間で資金を移動することが難しくなるだろう。だが、このような脅迫が代わりに作り出したことは、ロシアに独自のRUSSWIFTシステムを導入する勢いを与えたことであり、それはイランをも巻き込み、金融面での制裁を課そうとするさらなるアメリカの取り組みを無効にするものだ。
制裁は経済的打撃をもたらすことを意図したものだが、ロシアに短期的な経済的打撃を与えようとする西側諸国の取り組みは失敗している。原油価格の大きな下落と相俟って、制裁はロシアが財政的に打撃を被ることになると考えられていたわけだが、制裁は同時にルーブル安をもたらしたので、ロシアの財政への正味の影響は良くも悪くもない。原油価格が下がり、そして、部分的には制裁のお陰で、ルーブルが下がり、それでいて原油の売り上げはまだかなりがドル建てなので、ロシアの税収は以前とほぼ同じレベルにある。ロシアの石油関連企業は外国からドルを稼ぎ国内ではルーブルを使うので、彼らの生産経費は影響を受けていない。
ロシア人もまた対抗措置の制裁を課すことで応じ、そして、制裁の影響をすみやかに無効化することに着手した。ロシアはEUからの生産物の輸入を禁じ、EUの農民を脅かした。特に反ロシアのEU加盟国は打撃を受けた。バルト諸国およびポーランドはすぐにGDPの多くを失った。制裁に加わることを拒否したセルビアは例外とされた。ここで、メッセージは簡単だ。何世紀も続いてきた友好関係が問題なのだ。アメリカ人が望むことがアメリカ人が得るものではないのだ。そして、EUとは単なる紙切れなのだ。かくして、対抗措置としての制裁がアメリカとEUの間にくさびを打ち込んでいる。EU内では、(制裁が最も打撃となっている)東欧と西欧の間にくさびを打ち込んでいる。もっとも重要なことは、アメリカがヨーロッパの友達ではないという簡単なメッセージを制裁が伝えていることだ。
長期的にはもっと甚大なことに発展しそうな他のことが続いている。ロシアはヒントを示しており、西側から東側に向きを変えている。世界中で貿易関係を支配しようとするアメリカの試みについて、その多くは病的であってワシントンへの貢ぎ物にも飽きたと言わんばかりの、あからさまな挑戦的態度を活用している。ロシアは、米ドルと米連邦準備制度からの抜け道となる国際的銀行システムをまとめる主要な役割を担っている。この取り組みにおいては、世界の半分以上の地域と人が正直にロシア側につき、大声援を送っている。こういうわけで、ロシアを孤立させようとする取り組みは意図したこととは反対のことを生み出している。つまり逆に、世界の残りから西側諸国を孤立させているのだ。
他面では、制裁が実のところ有益なものにもなっている。EUからの食材の輸入禁止はロシア国内の農業にはプラスの恩恵となっており、政治的に重要な教訓を運んでいる。つまり、あなたに噛みつく人の手から食料を受け取るな、ということだ。ロシアはすでに世界最大の穀物輸出国の一つだ。食料自給できない理由などないのだ。また、ロシア国境地帯でのNATOの侵犯(目下、ロシア第二の都市サンクトペテルブルグに近いエストニアには米軍が駐留)に臨んで、再軍備する勢いが軍需となって工業の再構築への刺激を与えている。この度の軍事費は、最終的な民間転用を最初から計画に入れて、ソビエト時代よりもいくらか賢く計画されている。かくして、世界一のジェット戦闘機と共に、輸出向け民間機を製造し、エアバスやボーイングと競合し始めることになりそうだ。
だが、これは始まりにすぎない。ロシア人は公平なはずの土俵が彼らに対してはかなり歪められていることをついに認識したように思われる。ロシア人は二つの鍵となる方法においてワシントンのルールでプレーすることを強いられている。西側の信用へのアクセスを確保するために、三つの大きな西側信用格付け機関での信用格付けを高く保って、ワシントンの意向を曲げることによって。また、彼ら自身の信用を発行する際には西側のルールブックでプレーすることによって、つまり人為的に国内金利を高くすることで。その結果、アメリカ企業は楽に彼らの営業の資金繰りをできて、人為的に競争力を高めることになった。だが、今では、ロシアが急いで米ドルの傘下から出ようとするにつれて、貿易を二国間の通貨協定(貿易不均衡が生じたら金で埋める)へと移行させながら、利点を活かすために印刷機を回転させる方法を模索してもいる。現在までのところ、ワシントンから伝えられた指図は、「俺たちはお金を好きなだけ印刷出来るが、お前たちには出来ないだろう。俺たちはお前たちを滅ぼすだろう」というものだ。だが、この脅迫はますます虚しく響いている。ロシアはもうアメリカ債務を買い取るためにドル建ての儲けを用いなくなりつつある。現在提出されている提案は、サンクトペテルブルクと7時間帯離れたウラジオストクに二つの石油仲買会社を設立し、ロシアの石油輸出への支払いはルーブル以外では不可能とするというものだ。すると、外国の石油バイヤーはペトロ・ルーブルを、二国間貿易を通して、正直な方法で稼がねばならなくなるだろう。ロシアが輸入したいモノを十分に作れないならば、石油の支払いに金を用いることも(金の供給が続く限り)可能だ。ロシア人はルーブルを印刷することができるが、このような印刷の確保は国内インフレを導かず、石油の出る蛇口と石油輸出関税を調節して、インフレを輸出することができる。ジョージ・ソロスのような者がルーブルの切り下げを狙って攻撃することを決めても、ドル準備を溜め込む必要がなく、ロシアは単純にしばらくルーブルの印刷を減らして通貨防衛できる。
これまでのところ、これらすべては典型的な経済戦争のように思われる。アメリカ人は、服従させるために空爆するか従わない者に制裁を課しながら、お金を印刷することで欲しいモノすべてを手に入れたがる。だが、2014年早々、状況は一変した。キエフにはアメリカが扇動した軍隊がいた。死んだも同然と思われた人々を見放すのではなく、ロシア人はクリミアを再生するために迅速で輝かしい成功となる作戦を実施して、キエフの軍事政権を打ち負かし、軍事政権が残りの旧ウクライナ領域への支配を強化することを妨げるために、厳密に想像上のロシア・ウクライナ国境を通って、ボランティア、武器、装置、人道的支援を運び込み、なおかつ数十万人の難民を外に出した。これらすべてはNATO軍との直接的な軍事衝突を回避しながら成し遂げられた。起こっていることの一部始終を夜のニュースで見たことで、ロシアの人々は政治的眠りから目を覚まし、政治的関心を持って動向に注意を払うようになり、プーチンの支持率を天井越えにした。
これらすべての「見通し」は、ホワイトハウスに具申したいくらいに、不吉なものだ。私たちは第二次世界大戦の戦勝70周年記念を前にしている。それは、ロシアがほとんど一国でヒトラーを打ち負かしたことを誇りにする、ロシア人にとっての重要な機会である。同時に、アメリカ(ロシアの自ら指名した大敵)はロシア国境のすぐそばで(ロシア人やウクライナ人の中には、国境のロシア側だと言うものもいる)ナチズムの妖怪を呼び覚ましてそれを養うためにこの機会を使っているのだ。すると、このことがロシア人に世界の国々の中でもロシア独自の歴史的使命を呼び覚ますことになる。それは、ナポレオンのフランスだろうとヒトラーのドイツだろうとオバマのアメリカだろうと、すべての他の国々の世界支配への試みを挫くという使命だ。およそ一世紀ごとに、いくつかの国がその歴史を忘れてロシアを攻撃する。その結果はいつも同じだ。大勢の死体が散らばった雪の吹きだまり、パリに向かって疾駆するシアの騎兵隊、あるいはベルリンに向かって進む戦車だ。この度のことがどのような終幕を迎えるのか、誰が知っているというのか?ブリュッセルとワシントンD.C.の通りをパトロールする勲章のない緑の制服を着た礼儀正しい武装した男を巻き込むことになるのだろう。時間だけが語ることだろう。
オバマはすでに力量以上のことをやろうとしており、状況に応じて振る舞うべきべきだ、とあなたは思うだろう。彼の自国での人気はおよそプーチンとは逆で、つまるところ、オバマはエボラ出血熱よりましだが、大差ないというというところだ。言動が無意味で無能であるにしても、彼は何も成し遂げることができず、国内外での彼の取り組みは大変な失敗である。この国民的マスコットに転じたソーシャルワーカーはそもそも何に取り組もうと考えていたのだろうか?嗚呼、ロシア人の見方では、彼はロシアとの戦争を宣言しようと決めていたのだね!あなたがそれを知らないならば、国際連合総会での彼の演説を見てみることだ。それはホワイトハウスのウェブ・サイトにも掲載されている。彼は、世界が直面している三つの最たる脅威として、ロシアをエボラ出血熱とISISの間に挟んだのだ。ロシア人の目を通せば、彼の演説は宣戦布告として読めるだろう。
それは新しい混合型の戦争だ。核兵器を用いた衝突の回避における昔の冷戦時代の基準によって、アメリカはむしろ不注意でいるけれども、死に至る全面戦争ではない。これは嘘と不当な中傷に基づいた情報戦争である。それは、制裁を用いた、金融および経済面での戦争である。それは、選挙で選ばれた政府を暴力によって転覆することやロシア国境地帯での敵国の体制支援を特色とする、政治的戦争である。そして、無駄だとしてもエストニアに少数の米軍を駐留させるという無礼な動きを用いた、軍事的戦争である。そして、この戦争の目的は明白である。それはロシアを経済的に衰えさせ、政治的に崩壊させ、地理的にばらばらにし、言いなりになる属国にして西側諸国に事実上ただで(協力的な少しのオリガーキーや悪党に少しの施しをするだけ)天然資源を供給させることだ。だが、そういうことは起こりそうもないように見える。というのは、御存じのように、多くのロシア人が実際に良い状態にあり、人々は西側での人気コンテストでは勝ち目がないものの人々を勝利に導くリーダーを選ぶからだ。
たとえどんなにわかりにくく混乱しているとしても、好もうと好まざるとに関わらず、アメリカとロシアが戦争状態にあるという認識に立ち、ロシアの人々は、なぜ戦争なのか、そして、何を意味するのかを理解しようとしている。明らかにアメリカは、遅くとも1917年の革命のときから、ロシアを敵とみなしている。たとえば、第二次世界大戦の終結後、アメリカの軍事立案者がソビエトに対する核攻撃を発動することを考えていたことが知られている。彼らを躊躇させた唯一のことは彼らが十分な爆弾を持っていなかったという事実であり、核攻撃の効果がロシアによるヨーロッパの乗っ取りを思いとどまらせる前にロシアがヨーロッパを乗っ取ると考えていた。(当時ロシアは核兵器を保有していなかったが、ヨーロッパの真ん中に多くの在来型の武器を持っていた。)
だが、なぜ戦争が今宣言されたのか?なぜ国民のミスリーダー(註:mislead「誤った方向に導く」)に転じたソーシャルワーカーによって戦争が宣言されたのか?敏感な観察者の中には、彼のスローガン「希望に関する大胆さthe audacity of hope」に言及し、「大胆さaudaciousness」(ロシア語では多分に「愚かさ」のように聞こえる)が彼をナポレオンやヒトラーみたく宇宙のリーダーになりたくさせる彼の主要な人間性の一端かもしれないと推測するものもいる。彼の最初の大統領選挙(頭が悪く若いアメリカ人に火を着けた)からのちんぷんかんぷんな選挙活動に注目し、様々な冷たい軍人について良いことを言っていたと発見した者もいる。ところで、オバマが生まれながらの資質に恵まれた歴史を学究の徒であり如才ない地政学の徒であるとあなたは思うだろうか?(この質問はおよそ笑いを誘う。なぜならば、ほとんどの人々は、彼が低能で、彼のアドバイザーが彼に言うように話したことならどんなことでも彼が繰り返し口にしていることを知っているからだ。) ウゴ・チャベスはかつてオバマのことを「ホワイトハウスの中にいる人質」と読んだが、さほど外れてはいなかったのだ。では、どうして彼のアドバイザーはロシアとの戦争に、今年今すぐにでも突き進もうと、かくも熱心なのだろうか?
アメリカはほとんどの人々が想像できる以上に急速に崩壊に向かっているからだろうか?この筋の説明はこんな感じだ。軍事攻撃と無制限の紙幣印刷による世界支配というアメリカの目論見は私たちの目の前で失敗している。民衆はこれ以上の「派兵boots on the ground」には興味がなく、空爆はアメリカ人が組織化と装備を助けた軍人の統治に何もしない、ドルのヘゲモニーは日に日に消え去っていき、そして、連邦準備制度は魔法の財布を切らして株式市場のクラッシュと国債市場のクラッシュの間の選択に直面している。金融/経済/政治面での潰滅に向かう、この降下現象を食い止めるか少なくとも未然に防ぐために、空爆だろうと革命だろうと感染だろうと(ただし、この最後のものはコントロールが困難だ)、どんな手段を使おうとも、アメリカは速やかに世界のすべての競合する経済を実らせないように行動しなければならない。ロシアは明白な標的である。なぜならば、ロシアは、アメリカに立ち向かって投げ倒すだけの国際的なリーダーシップを実際に示せる世界で唯一の常識を持った国だからだ。それゆえ、他国の歩調を揃えるために、ロシアが先ず罰されねばならないのだ。
私はこの類の説明に同意しないわけではないが、さらにいくつか加えたい。
第一に、アメリカのロシアに対する攻撃は、残りの世界のほとんどに対するのと同じで、アメリカ人が「facts on the ground」と呼んでいることに関するものであり、これは創り出すのに時間がかかる。世界は1日で出来たわけではなく、1日で壊されることもない。(核兵器を使えば別だが、それはアメリカを含む誰にとっても勝てない戦略である)対して、金融界全体の脆い機構はすぐにでも崩壊し得るわけであり、この点でロシアはリスクを小さくしながら多くのことを達成できよう。金融面では、ロシアの立場はとても堅固であり、このたびの経済制裁にもかかわらず、三つの西側の信用格付け機関でさえロシアの格付けを下げるほど厚かましくはない。なにしろ、外国の債務を積極的に即金で支払い、記録的な高さの財政黒字を出し、黒字収支であり、実物の金の準備高を積み上げていて、(米ドルの抜け道となる)大きな国際貿易契約に調印しなくなって1ヶ月経っていない国なのだ。比較するならば、アメリカは死体が歩いているようなものだ。記録的低金利ながら毎月短期債務の数兆ドルを借り換え続けることができなくなれば、債務や手形の利払いができなくなる。さようなら、社会保障制度、こんにちは、暴動である。さようなら、軍事請負人と連邦法の施行、こんにちは、大混乱と国境開放。今や、「facts on the ground」を変えることは物理的行動を必要とするが、金融界における出口への殺到を導くことは十分な大声でびっくりするほどの「ブー!」と叫ぶことを誰かに要求するだけのことだ。
第二に、現時点で、アメリカ人の支配層エリートはほとんど完全に老いぼれていることが理解されねばならない。老人は医学的な意味で実際に老衰していると思われる。前国防長官レオン・パネッタを見たまえ、彼は新刊書を売りつけているが、今なおシリアのバッシャール・アル=アサドが自国民を毒ガス攻撃したと非難しているのである!今では他の誰でも、あれは、アメリカがシリアを爆撃するための口実にするために、サウジの支援で馬鹿なシリアの反逆者が遂行した偽旗作戦の攻撃だったと知っている。あなただって知っているだろう、昔の「大量破壊兵器」のナンセンスが繰り返された、と。(ところで、この類の嘘の根拠に関する愚かしい主張の繰り返しということも、耄碌したことの確かな兆候のように思われる。)あの計画は、プーチンとラブロフが介入して、直ぐに説得してアサドに役に立たない化学兵器の在庫を捨てさせたので、うまくいかなかった。アメリカ人は激怒した。誰もがこの話を知っている、パネッタ前国防長官以外は。御存じのように、アメリカの高官が一度嘘をつき始めるや、嘘の止め方を知らないのだ。話はいつも嘘で始まり、そして、最初の話と矛盾する事実が現れるにつれて、事実はただ無視される。
老いぼれたガードマンについてはもうたくさんだが、彼らの後釜はどうなっているのだろう?そう言えば、若手のお手本にハンター・バイデン、副大統領の息子がいる。彼は去年の夏にウクライナに売春麻薬ツアーに行って、軽率にもウクライナ最大の天然ガス会社(あまりガスが残っていない)の重役に就任した。彼はただコカイン狂であることを暴露されただけだった。副大統領の息子のような多くの生まれつき聖油で清められた者に加えて、これまで高い地位での職業を準備されてきたアイビーリーグの卒業生が一杯集まってしきりに泣き言を言っている多くの家畜小屋もある。デレシーウィックツ教授の言う「優秀な羊」だ。
そのような人々に、若者にせよ老人にせよ、良い効果をもたらすことは多くはない。国際的な財政窮迫、軍事的失敗、人道主義のカタストロフ、すべてこれらのことは、話題に持ち出すや薔薇色の見通しをあまりにもネガティブにして、反響しながらあなたに取り憑く。そして、実際に感じることができる唯一の打撃は金銭勘定への打撃となる。
それは私たちを私の最初の地点へと戻す。「ブー!」