産業再生のインフラ基盤の強化のための政策を急げ

日本経済の危機状態及び大震災後の中で、政策のイノベーションの遅れや産業育成政策や社会インフラの投資の構造の議論が遅れている。経済状態が破産状態にあることも危機であるが、大震災後、将来の重要産業が新たな戦略施策を確立できず、また再生に向けての布石が有効な効果を実現することもなく、後ろ向きの対策に終始していることである。特に新しい成長産業を創造し、新たな政策・戦略の基盤の確立に着々と対応する能力が欠如していることである。
かつて不況期や経済の転換期には、負の資産処理とともに、新たな産業基盤の整備や産業の強化施策に、強力な対応をしてきた姿勢は今完全に喪失している。新産業転換には、将来環境の見通し、対応する産業基盤の環境の整備、産業創造と転換の資源投入、産業育成施策等総合的な対策が重要である。また国際競争力のある産業を育成するには、付加価値のある産業を創造し、コスト競争力によるだけの産業モデルからの脱却が重要でもある。
特に新産業への転換には、危機意識と社会的イノベーションが重要な役割を果たす。社会の仕組みや制度及び条件等の社会インフラが平行して変革される必要がある。その基本の変革の上に立つ、成長のための産業育成政策や社会インフラ投資の構造変革の議論が遅れている。
経済再生は、金融システム等の改善による資金流動性の正常化等とともに、21世紀の将来事業に向けての構造改革と成長戦略が両輪である。しかし、大震災後も、本来の構造改革ではなく、増税論議や経費削減等のいわば手直し論議で後ろ向きの対策に終始している。
産業の創造に不可欠な社会の仕組みや社会インフラの変革は、表面的な手直しの範囲にとどまっている。激動する環境を乗り切るためには、劇的なソーシアルイノベーションを必要とする。ソーシアルイノベーションは、本質的な課題の見極めとリスクを負う気概と危機意識が重要な動機である。しかし現在の我が国は、危機意識が極めて薄いのが現状である。こうした議論の場合には、必ず官庁や関係産業政策主導者は、「しっかり対応をしている。またはこれこれの政策を打っている」と言う反論がなされてきた。これに対して、こうした政策等を本来研究するべき学界も産業界もマスコミも国民も、無力のまま本来の議論をいつか忘れ、またさらに思い出したように政策課題が問われると、そのときには当事者の「短絡的ともいえる」手が打たれており、そこでは「やっています」という反論が有効になる。この思考循環を断ち切るためには、実証的な分析研究や先行する欧米との比較や正確な政策実行における矛盾点を長期に亘り指摘していく必要がある。
競争条件の厳しい企業戦略では、こうした展開に於いては、トップ経営会議等で現状の問題の分析を徹底的に行い、変革の意思決定を明確にした上で、対応戦略策定と実行計画を作成する。その計画を目標管理としてブレークダウンし、結果のフローや評価を体系的に行うことになる。しかし我が国の行政では、分析すべき問題点やその分析結果やそのプロセスも明確ではなく、また決定のプロセスも明確ではない。特に総合的な政策に於いては、策定された計画がどう実行されているのかフォローすることが少ない。このことは、国民の税金をいわば闇に葬るという深い溝が存在するといっても過言ではない。政策の都合の悪い事項は官僚が上手く包み込む。何故なら国民にすべてを知らせることは、悪だからである。ここには「政策のジレンマ」とも言うべきものが存在する。転換戦略には新しい知恵とともに、従来の積重ねた資産を変更することが条件でもある。既存の資産は、既存の政策を実現するプロセスで、より強力な効果を発揮していく。このプロセスを切断するためには、転換に必要な周辺インフラをも変更するか、また新しく体系的に整備することが重要になる。この構図は、政策モデルを政策の実現のための幾つかの主体的な対象の側に立って、条件等をブレークダウンする方法を行う必要がある。こうした実行の仕組みを策定しないことが、我が国の方向や決定をうやむやのままにし、時の過ぎ行くままに彷徨する結果をもたらしていく。バブル崩壊後この15年の喪失は、この繰り返しでもあった。今必要なものは、後ろ向きの政策実行ではなく、政策ジレンマを乗り越えて将来の布石を打つ政策と実行である。そして主力となる政策のみでなく周辺のインフラ政策をも同時的に行うインフラ基盤政策の総合化プロセスである。今こそ情報社会から知識社会に向けての新産業へと転換が必要であるが、その政策には少なくとも新しい政策の枠組みが必要である。まず「知識社会」の定義や内容及びその転換と強化の本質的な意味を明確にし、そのための重要技術育成政策や産官学一体となった強化の方向と資源配分が第一である。次にそこで生産される価値は、国民の課題解決知であり、新しい環境変化での枠組みを内包する先行知であり、総合知である。これを社会化し、産業化するのには、課題解決のための幾つかの技術や新技術及びソフトの融合技術であり、システムである。しかもこれまでと異なる知を産業化するための投資構造の変革や金融の仕組みの変化、企業の経営戦略の策定方法の展開、経営の意思決定や人材評価の変革やその仕組みの転換、大学やビジネススクールや研究機関の新しい教育カリキュラム、課題解決のコンサルティング等の幅広い環境と関連企業の自立、政策変革の理論、産業理論、経営理論の研究とその成果、人材育成の方向付けと育成の具体化、新しい知的集積の創造等分厚い転換実行のための社会インフラが整備強化されなくてはならない。しかしこうした転換にともなう、体系的で膨大な仕組みをともなう構造構築に対する「構想力」や「実行力」や民間の「自由な仕組み」の創造できる環境の整備が常になされず、「できる範囲の転換」に終わることがこの数年繰り返されているのが実体である。政策に伴う議論のみでなく、課題をどう解決するのか、そのための仕組みや構造をどう構築し、結果の評価とフォロー等をどうするのかを討議し実現するプロセスが、今後の政策策定に必要な環境作りのために不可欠なのである。さらに生きた政策策定には、プロ人材の育成と人材の流動化が大きな条件になる。米国では「シンクタンク」の活動を「アイディア・インダストリー」(アイディア産業)と総称する。政策策定がレベルの高さを競い、新しい政策視点で、将来の課題解決に向けたアイディアの産業化は、今後の国際的な競争力の大きな比重を占めることになる。我が国の政策策定に於いて、国民の公平な評価の場が確立され、切磋琢磨する政策競争環境が出来上がることを推進したい。
 
 

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