(第5章) 石油文明の黄昏                 (要約)現代石油文明の次はどんな文明か

(要約)現代石油文明の次はどんな文明か             
  (第5章) 石油文明の黄昏

1.石油ピークで石油文明の黄昏

イージーオイルが現代文明を発展させました。1987年に石油食い潰し時代に入り、2006年に石油生産量ピークに至りました。ピークプラトーで推移する石油文明は黄昏期です。

文明を動かす余剰エネルギーは、維持管理エネルギーと自由裁量エネルギーとに分けられます。石油ピークに至ると資本主義が無限の成長を求めても、早晩、自由裁量エネルギーはなくなり成長できなくなります。それでも成長させようとすると、文明の維持管理エネルギーを減らします。福島原発や高速道路、JR北海道にみられる管理手抜き事故が増加し、社会の機能と秩序が確実に劣化します。

 

2.石油ピークが進行中

IEA2010年に報告書で発表しました。実際に世界の石油生産量は2006年まで上昇を続け、それ以降の年生産量は、プラトーに推移しています。イギリスのある報告書では「可能性として2015年までにピークオイルが訪れる」と論じています。IMF「石油価格は……、歴史的に控えめに見積もっても、・・・・今後10年間で2倍近くに高騰する」と論じています。

サウジアラビアはスウィングプロデューサーの立場を放棄しています。ヌアイミ石油相はバーレル当たり100ドルの原油価格は「妥当」だとしています。IEAの報告によると、2008年の石油減退量は概略470万バーレル/日で、ガワール油田の日産量に匹敵します。

 市場経済ルールが石油に通じなくなりました。2005年以降、石油価格が高騰のトレンドにあり、石油価格が高騰しても、開発投資を増やしても、イージーオイルの生産量増も、新発見量が取るに足らないモノで、世界の石油供給量はプラトーで推移しています。

   

3.一次エネルギー全体の生産ピーク

Paul Chefurkaは、ウランピークが2020年に、石炭と天然ガスのピークがともに2025年に、そして全エネルギー量の供給ピークが2020年に到来すると予想しています。2015年~2025年の頃の一次エネルギーは、石炭と天然ガスが主役になります。石炭は2020年~2035年はピークがプラトーの状態で続くと見られ、再び石炭文明かもしれません。 

現在の世界石油生産のEPRは平均的に見て10余りだといわれています。2020年には石油全体のEPRが5まで下がるといわれています。EPR5以下だと石油文明を駆動するエネルギーでなく、石油価格の高騰、石油由来商品の高騰も明白です。

 

4. 石油ピークによる文明の矛盾深化

≪グロバリゼーションの矛盾≫

 GDPの成長率が石油生産量の年増加率の約2倍の振れ幅の相関を示すデータがあります。石油が減耗して供給量が減少し続けると、石油文明の経済が深刻な危機に陥ります。それに耐えられる経済社会構造への転換に、早く取り組まなければ社会が崩壊します。

1990年代から経済のグロバリゼーションのかたちで文明が変調しています。「石油は有限・高価」の圧力の下で、資本主義経済は実体経済から金融経済へ変貌し、低賃金の国へ生産工場の移転を進めます。従来の経済国際主義は、「得意な生産の分業・交易」でしたが、石油高騰時代のグロバリゼーションでは、カネとモノの流れがいっそう分離してきました。

この新たなグロバリゼーションによって、資本主義経済のシステムに3つの基本的な変化が強化されました。ひとつはカネによるモノ支配です。次に、カネがカネを生む経済システムです。3つ目は、モノとヒトの移動の長距離化です。

日本はグロバリゼーションを進めることによって、日本社会の安定を壊す3つの事態をもたらしました。膨大な赤字国債の累積、食糧の海外依存の拡大、深刻な格差社会化です。

GDPGPIの乖離≫

‘経済成長が国民の幸福につながっていないのではないか’と、誰しも思います。実は、1968年に米国のロバートケネディが、「GDPには私たちの『生きがい』につながるものがすっぽり抜け落ちている」といいました。米国のシンクタンクRedefining Progress社は1995年に、GDPに替わる真の進歩指標として、GPI(=Gross Progress Indicator)を定義しました。GPIは社会の持続的な発展を意図するものです。同社は、「米国は1960年代まではGDPGPIはともに成長したが、1974年以降のGPIは低迷し、米国の社会は進歩していない」と報告しました。1974年より現在まで、米国ではGDPは成長していますが、社会の真の進歩や幸福に役立たない経済活動が年々増えていることを物語っています。

≪一極集中と地方の没落≫

石油文明の最たるものは、日本の東京文明です。東京一極集中が強まっています。東京・首都圏への地方からの集中は、人口、地方で作った食料、地方で作った電力、地方で治水した水、そして地方で教育した人材にまで及んでいます。大量に不足する食料は、60%も海外依存です。東京文明はすでに高速道路、新幹線、航空路・航路が非常に長く発達しています。さらにリニアカー建設で、文明の都市巨大化の自己運動が止まりません。

しかし、東京文明の立地は軟弱地盤です。地形起伏も複雑、埋立地が広がっています。いつ来るかわからない東京大震災で文明の機能、市民生活が重大な麻痺に陥りましょう。

≪フードマイレージとバーチャルウォーター≫

日本の石油文明は、食糧と水の膨大な量を地球全体に依存しています。日本は一人当たり450kg/年、1.2kg/日の食糧を、平均してペルーあたりから輸送している勘定です。日本のフードマイレージは韓国+米国+イギリス+ドイツ+フランスの合計に匹敵し、日本のフードマイレージで3.18億バーレルの石油を消費しています。石油輸入量の21%です。

外国に依存している水、バーチャルウォーターがあります。1トンの食糧生産に必要な水は、牛:20,600トン、豚:5,900トン、大豆:2,500トン、小麦:2,000トンです。牛丼は石油と水を食っているようなものです。そして、日本が輸入している食料の生産に消費している水は450億トン/年で、国内の農業用水544億トンの80%になります。その多くが、米国、豪州などの地下水です。その地下水が減耗しています。

 

5.石油ピークによる石油文明社会の劣化

≪総中流社会から格差社会へ≫

1980年頃、日本型経営の特徴として、品質の高いモノ作り能力、日本型雇用慣行(終身雇用、年功序列賃金、企業別組合)が評価されていました。国民の大多数は所得が年々増え、将来に不安を覚えず、消費の旺盛な「一億総中流」でした。1990年代になって新自由主義が上陸し雇用慣行は放棄され、雇用と賃金が格差化され、格差社会へ転換しました。

格差社会では富が偏在し、国民の大多数が低所得層に転落します。社会の格差化が進むと、購買力の低下だけでなく、生きる活力と幸せを求める希望が失われます。格差分断によって、鬱・孤独・自殺・犯罪などの社会病理が深刻になります。さらに絆の希薄、家族の分解、未婚男女の急増、極端な少子化など、社会の共生と継承の要件が失われてきています。そして、限界集落、ホームレス、買物難民などが生じ、社会不安が増幅されます。

 ≪国民の数の減少と質の劣化≫

石油ピークの時代になって、資本は労働コスト削減を選択しています。石油輸入量の増減と完全失業者数の増減が逆相関を示すデータがあります。石油ピークが進んでいくと企業活動が悪化し、失業者数の増加、低賃金の構造が作り出されます。日本の労働力人口(役員を除く)は5,350万人、そのうち非正規社員は2043万人、38.2%です。非正規社員の賃金は年齢に関係なく平均300万円以下であり、結婚して子供を養っていけません。

日本の少子化の根っ子は、賃金格差と、子育てコストが高いこと、カネがないと子孫を残せないことにあります。非正規社員は生涯低賃金だけでなく、人格的な差別を受け易く、簡単に解雇されます。これでは日本人の多くが一生を自分だけで閉じるだけで、子孫につなげていけません。世代間の助け合いが成り立たず、年金制度の破綻は明白です。

国民の質は、教育の質に依存します。偏差値偏重の教育では人格形成の教育が軽視されています。進学後も就職問題に縛られます。思考がHow toで止まり、Whyの問いかけに至らない。利己にとらわれ、利他に及ばない。真理ではなく利害で行動してしまいます。

利害関係は、大学にまで及んでいます。大学の研究者は、真理だと思うところに従って社会に啓蒙するところに値打ちがあります。カネの誘惑に決して負けないのが大学人のモラルであるはずです。しかし、多くの大学人は侵されているのが現実です。

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