IPCC (気候変動に関する政府間パネル) が訴える地球温暖化対策としての「低炭素化」が要請する「パリ協定」のCO2の排出削減を化石燃料消費の節減に代えること、すなわち、“日本を含む先進諸国の経済成長を抑制する”ことが、世界の貧富の格差の拡大を解消し、世界の平和を導きます
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎
(要約);
① いま、化石燃料が枯渇に向うなかで、その国際市場価格が高騰し、それを使えない人や国が出てきて、貧富の格差が拡大し、世界の平和が脅かされています。それが国際テロ戦争です。この国際テロ戦争を無くすには、貧富の格差を解消する以外にありません
② この世界の貧富の格差を解消する方法として、私どもは、世界各国が協力して、残された化石燃料を、今世紀いっぱい、公平に分け合って大事に使うことを提唱しています。具体的には、2050年を目標に、全ての国が、一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値1.54 石油換算トン にするとしています
③ この私どもが提言する世界の化石燃料消費の節減の実行では、一人当たりの化石燃料消費が大きい先進諸国には、大きな節減努力が強いられますが、中国を除く途上国の多くでは、当面、化石燃料消費を増加して経済成長を継続する余地が残されています
④ この私どもの「世界の化石燃料消費の節減案」は、いま、国際的な合意で進められている「パリ協定」の「地球温暖化対策としてのCO2 排出削減の目標」を「化石燃料消費の節減目標」に変えることで実行可能となります。先進諸国の経済発展の抑制こそが、貧富の解消のために求められます
⑤ この私どもの「化石燃料消費の節減案」であれば、いま、「パリ協定」からの離脱を表明している米国トランプ大統領の翻意を促し、その協力も得て、CO2 排出削減を化石燃料消費に換えた「パリ協定」が実行可能になることが期待できます
⑥ 貧富の格差を解消し、世界に平和を導く、そのカギを握っているのが、2000年代以降、急速な経済成長の結果、世界最大の化石燃料消費国になった中国です。その中国には、国内に生じた大きな貧富の格差を解消するためにも、経済成長の抑制を必要とする厳しい化石燃料消費の節減が求められます
(解説本文);
① いま、化石燃料が枯渇に向うなかで、その国際市場価格が高騰し、それを使えない人や国が出てきて、貧富の格差が拡大し、世界の平和が脅かされています。それが国際テロ戦争です。この国際テロ戦争を無くすには、貧富の格差を解消する以外にありません
人類がエネルギー資源としての化石燃料消費の増加を今まで通り継続すれば、大気中の温室効果ガス(CO2)濃度が増加し、地上気温が上昇して、生態系に取り返しのつかない変化が起こるとされています。これが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する地球温暖化の脅威です。この温暖化の脅威を防ぐ方法として、IPCCは、大気中へのCO2の排出量を削減するCCS(化石燃料燃焼排ガス中からのCO2の抽出、分離、埋立方式)と呼ばれる方法の使用を、世界の政治に推奨しています。なるほど、この方法で、大気中へのCO2の排出は確実に削減できるかもしれません。しかし、この方法で、CO2の排出を削減するには、お金がかかりますから、このお金を稼ぐためには、世界経済のさらなる成長が求められ、そのエネルギー源としての化石燃料の消費が増加されることになります。その結果、有限の地球資源としての化石燃料が枯渇して、その国際市場価格の高騰を招くことになり、化石燃料を使えない人や国が出て来ます。すなわち、貧富の格差が いま以上に拡大し、これにより、世界の平和が侵害されることになります。
この貧富の格差が平和の侵害をもたらすとする私どもの考えには、異論があるかも知れません。しかし、いま、現実に、この貧富の格差が、宗教と結びついて、国際テロ戦争が起こっているのです。これが、ナショナリズムの台頭を招き、世界平和を侵害しています。この国際テロ戦争を無くし、世界に平和をもたらすには、現存する貧富の格差を、何としてでも解消する以外にありません。
② この世界の貧富の格差を解消する方法として、私どもは、世界各国が協力して、残された化石燃料を、今世紀いっぱい、公平に分け合って大事に使うことを提唱しています。具体的には、2050年を目標に、全ての国が、一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値1.54 石油換算トン にするとしています
いま、経済成長を支えている化石燃料の枯渇後に、その代替として利用できるのは、原発電力と再エネ電力しかありません。しかし、いま、世界の一次エネルギー消費(電力)の比率は、40 % 程度ですから、これら原発および再エネ電力に全面的に依存する、いわゆる電力化社会を創設するためには、現在のエネルギー消費構造の大幅な変革が要請されます。しかし、これには、一定の時間が必要になります。したがって、この化石燃料枯渇後の電力化社会に移転するまでの期間は、先進国と途上国の間の貧富の格差を解消するためにも、地球上に残された化石燃料をできるだけ公平に分け合って大事に使う以外に方法がありません。この具体的な方法として私どもが提言しているのが、世界各国の一人当たりの化石燃料消費量の値を、2050年を目標に、現在(2012年)の世界平均の1.54トン-石油換算 / 年にする方法です。ただし、今後の各国別の人口の増減には違いがあることを考慮して、2050年目標の各国の一人当たりの化石燃料消費の値には、2012年を基準にした人口の増減比に応じた補正を行う必要があります。
いま、この私どもが提言する化石燃料消費の節減を今世紀いっぱい継続したとすると、日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 1 )と略記)に記載されたBP(British Petroleum)社のデータに化石燃料種類別の可採年数 R/P(現在の科学技術の力で、経済性を考慮して採掘可能と推定される確認可採埋蔵量Rを、その年の生産量Pで割って得られる値)の2012年度の値は、表1 に示すように与えられます。
表 1 化石燃料種類別の確認可採埋蔵量Rと生産量Pおよび可採年数R/P、2012年
(エネ研データ(文献 1 )に記載のBP社データをもとに作成)
注; *1;BP社データの値を石油換算トン に換算して示しました *2; この表中に記載の(確認可採埋蔵量R)を(生産量P)で割った値とは、多少違いがありますが、BP社データとして記載の値を示しました
今後の科学技術の進歩により、確認可採埋蔵量Rの値が増加する可能性が考えられますが、一方で、化石燃料の枯渇に伴う国際市場価格が高騰することを考えると、確認可採埋蔵量R の増加はあるとしても、余り大きくないと考えられます。すなわち、化石燃料の消費を現在(2012年)の値に止めても、石炭を除いて、化石燃料(石油、天然ガス)は、枯渇する(その資源量が少なくなり、国際市場価格が高騰して使えない人や国が出て来る)ことは間違いないと考えるべきです。
この世界平和の実現のための貧富の格差の解消を目的として、世界の全ての国に協力を要請する、私どもが提言する「化石燃料消費の節減案」は、実現困難な、単なる理想論に見えるかもしれません。しかし、以下に述べるように、いま、国際的な合意となって進められている、地球温暖化対策としての「パリ協定」のCO2の排出削減目標を、この私どもが提言する化石燃料消費の節減に換えることで、それが実現可能となります。
③ この私どもが提言する世界の化石燃料消費の節減の実行では、一人当たりの化石燃料消費が大きい先進諸国には、大きな節減努力が強いられますが、中国を除く途上国の多くでは、当面、化石燃料消費を増加して経済成長を継続する余地が残されています
この私どもの提言案「世界中の全ての国の今世紀いっぱいの年間平均の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の1.54石油トン にすること」の実現の可能性を検討するために、IEA(国際エネルギー機関)のデータから、各国の一人当たりの化石燃料の消費量の値を試算し、その年次変化を図 1 に示しました。
注; 1)各国の一人当たりの化石燃料消費量の値は、IEAデータに記載の化石燃料消費(石炭)、化石燃料消費(石油)、化石燃料消費(天然ガス)の合計を、それぞれの国の、その年の人口で割って求めました。 2)2050年の星印は、2012年の世界平均の一人当たりの化石燃料消費の値 1.54 トン-石油換算 / 年 です。ただし、上記(②)の本文中に記したように、各国の値は、今後の人口の増減に応じた補正を行う必要があります。
図 1 世界および各国の一人当たりの化石燃料消費の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算して作成)
この図1 に見られるように、世界各国の一人当たりの化石燃料消費の値の最近の年次変化は、一部の国を除いて、私どもが世界の化石燃料消費の節減目標とした2050年の値、図中の星印の値を目指していると見てよさそうです。
とは言っても、この化石燃料消費の節減目標の達成には、この図1 に示すように、化石燃料消費の大きい先進諸国には、この化石燃料の大きな節減努力が要請されます。一方で、現在、すでに、一人当たりの化石燃料消費量が世界平均を上回る中国を除く途上国では、まだ、かなりの化石燃料消費の増加の余地が残っています。
④ この私どもの「世界の化石燃料消費の節減案」は、いま、国際的な合意で進められている「パリ協定」の「地球温暖化対策としてのCO2 排出削減の目標」を「化石燃料消費の節減目標」に変えることで実行可能となります。先進諸国の経済発展の抑制こそが、貧富の解消のために求められます
実は、この私どもの「世界の化石燃料消費の節減案」と同じようなことが、国際的に合意されている「地球温暖化対策としてのCO2の排出削減」のための「パリ協定」の実行のなかで行われています。すなわち、この「パリ協定」では、今世紀中のできるだけ早い時期に、世界のCO2の排出をゼロにするとして、各国が、自主的に、将来のCO2の排出削減目標値を決めるとしています。
ところで、このCO2の大気中への排出は、化石燃料の消費に伴うほか、僅かに、セメントの製造の際の石灰岩の焼成に伴っても起こりますが、その量は僅かですから、CO2の排出量は化石燃料消費量にほぼ比例します。したがって、一人当たりの化石燃料消費の節減目標を示す上記(③)の図1は、化石燃料消費をCO2排出量に置き換えることで、「パリ協定」でのCO2排出削減目標を表わす図に変換することができます。
エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAデータをもとに、世界の主要国のCO2排出削減の自主目標値から計算される2020年および2030年のそれぞれの国の一人当たりのCO2排出量の値を計算して、2014年までのそれぞれの国の一人当たりのCO2排出量の年次変化の曲線につなげたのが 図 2です。この 図2 では、図1におけると同様、2050年のCO2排出削減の目標値として、2012年の世界平均の一人当たりのCO2排出量の値を星印で示しました。
注; 図中、2050年の星印は、2012年の世界平均の一人当たりのCO2排出量の値です。
図 2 世界および各国の一人当たりのCO2 排出量の年次変化、および2014年までの実績値と、2020年および2030年の各国のCO2 排出量の自主目標値
(エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAデータをもとに作成)
この 図 2 を上記(③)の図 1 と比較して頂けば判るように、私どもが主張する「世界の化石燃料消費の節減案」が、いま国際的な合意のもとで進められている、地球温暖化対策としての「パリ協定」が目標としているCO2の排出削減を、化石燃料消費の節減に代えることで、実行可能となることが判って頂けると思います。
ただし、ここで注意しなければならないのは、逆に、CO2の排出を削減するとして、例えば IPCCが推奨するCCS(化石燃料燃焼排ガスからのCO2の抽出・分離・埋立)の方法を使用したのでは、CO2の排出は削減できても、それが化石燃料消費の節減になるとは限らないことです。これに対して、「パリ協定」として進められているCO2の排出削減に、CCSのような方式を用いなければ、化石燃料の消費量とCO2の排出量の間には次式の関係が成立します。
(CO2排出量)=(化石燃料消費量)×(CO2排出量原単位) ( 1 )
ここで、CO2排出量原単位とは、単位化石燃料消費当たりに排出されるCO2の量で、化石燃料種類別に、エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータとして与えられています。
この化石燃料種類別の(CO2 排出量原単位)の値を用いて、2012年の世界の化石燃料消費量の値から計算されるCO2排出量、および、同じ2012年の化石燃料の確認可採埋蔵量を消費し尽したと仮定したときのCO2排出総量の計算値を表2 に示しました。
この表2 の計算結果から、私どもが提案するように、化石燃料消費量(2012年)の値を今世紀いっぱい(2013年から2100年まで88年間)続けた場合のCO2 排出総量は、
(34.4 ×109トン)×(100 – 12 )= 3.03兆トン-CO2となります。また、化石燃料の確認可採埋蔵量の全量を消費したときのCO2の排出総量は、表2 に示すように3.15兆トン-CO2と与えられています。
いま、この化石燃料の消費に伴うCO2の排出が地球温暖化の脅威をもたらすとして問題になって、何としても、いますぐのCO2の排出削減を行わなければならないとするのが、世界における科学の常識になっています。しかし、この地球温暖化の脅威を訴えるIPCCの「温暖化のCO2原因説」が正しかったとしても、地球温暖化に関するIPCCの第5次評価報告書に示されるように、CO2排出の総量が、この表2 の化石燃料の消費量とCO2の排出量の関係から得られるように、3兆トン-CO2程度に止まれば、地球地上気温上昇は、人類の歴史のなかが、気温上昇の脅威に耐えることができたとされる2℃ 以下に止まります。すなわち、人類にとって怖いのは温暖化ではなく、化石燃料の枯渇に伴う貧富の格差の拡大による世界平和の侵害なのです。
以上、詳細については、私どもの近刊(文献2 )の「第3章 地球温暖化より怖いのは世界の化石燃料の枯渇に伴う貧富の格差の拡大による世界平和の侵害である」をご参照ください。
表 2 化石燃料消費量とCO2排出量の関係
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算して作成)
注; :*1;IEAデータによる単位化石燃料消費量当たりのCO2排出量、*2;IEA データに与えられた値(2012年) *3;(化石燃料消費)×(CO2排出量原単位)として求めました *4;BP社による値(2012年)、表1 から再録しました *5 (確認可採埋蔵量)×(CO2排出原単位)として求めました *6:IEAデータとしては、2012年のCO2排出量は32.02 十億トン/年と、若干、違った値が与えられています
⑤ この私どもの「化石燃料消費の節減案」であれば、いま、「パリ協定」からの離脱を表明している米国トランプ大統領の翻意を促し、その協力も得て、CO2 排出削減を化石燃料消費に換えた「パリ協定」が実行可能になることが期待できます
米国のトランプ大統領は、CO2の排出削減を目的とする「パリ協定」からの離脱を表明しています。理由は、いま、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を目的とした「パリ協定」の実行では、途上国のCO2排出削減に必要なお金を先進国が支出する「国際的排出権取引」などの方法が主として用いられようとしているため、先進国としての米国の経済的な負担が大きくなり、一国主義を掲げるトランプ大統領が、このお金の支出を嫌っているからとされています。 図3 に示すように、いま、世界の1/6 近くのCO2を排出している米国が、CO2の排出削減を目的とする「パリ協定」を離脱したのでは、協定の目標の達成がおぼつかないことになります。
注;括弧内数値は、各国のCO2排出量の世界に対する比率 %
図 3 世界各国のCO2排出量、2014 年
(エネ研データ(文献 1 )に記載の IEAデータをもとに作成)
これに対して、私どもが提案する「化石燃料消費の節減案」であれば、米国は、このような途上国援助のための経済的な支出の必要がありません。
一方、化石燃料資源量(石炭、石油、天然ガス、それぞれについて)の各国の確認可採埋蔵量(現在の科学技術の力で経済的に採掘できる値)R を、その国の化石燃料それぞれの消費量Pc で割った自給可採年数R/Pcの値では、表3 に示すように、米国でも、327年と圧倒的に大きい石炭を除いては、石油で7.5 年、天然ガスで11.1年と小さいことを考えると、米国でも、自国の経済の維持のためにも、化石燃料消費の節減に世界の協力を得て、これら(石油、天然ガス)の国際市場価格を安定化させることが必要となるはずです。したがって、私どもが提唱する化石燃料消費の節減を目的とする「パリ協定」であれば、トランプ大統領にも、協力して頂けると期待できるのではないでしょうか。
表 3 世界および米国、中国の化石燃料の可採年数(R/P)と自給可採年数(R/Pc)、年、2014 年 (エネ研データ(文献 1 )に記載の BP(British Petroleum)社データ(確認可採埋蔵量、生産量、2014 年)とIEAデータ(化石燃料消費、2014年)をもとに計算、作成)
注; *1 ;世界および各国の可採年数は世界および各国の確認可採埋蔵量R の値を、世界およびその国の生産量P の値で割った値 *2 ; 各国の自給可採年数は、国別の確認可採埋蔵量R の値を、その国の化石燃料消費量 Pcの値で割った値
⑥ 貧富の格差を解消し、世界に平和を導く、そのカギを握っているのが、2000年代以降、急速な経済成長の結果、世界最大の化石燃料消費国になった中国です。その中国には、国内に生じた大きな貧富の格差を解消するためにも、経済成長の抑制を必要とする厳しい化石燃料消費の節減が求められます
上記(⑤)の図3 に示すCO2の排出量を化石燃料の消費量に代えて、その世界に対する比率を求めてみると、中国の値は、24.9 %(CO2では28.32%)、米国が16.5%(CO2では15.82 %)と多少の違いが見られます。これは、中国が同じ化石燃料でも、CO2排出の多い石炭の使用比率が多いためですが、化石燃料消費においても、世界の約1/4と圧倒的に大きな値を占めているのが、高度成長の結果、いまや、米国に次いで世界第2の経済大国になった中国です。これは世界の18.8%(2014年)を占める人口の多さのせいもありますが、図1に見られるように、近年の一人当たりの化石燃料消費の急速な上昇も大きく影響しています。ちなみに、2014年の化石燃料消費量は1990年の値の4.2倍にもなっています。すなわち、図1 に見られるように、2014年の値の一人当たりの化石燃料消費が、私どもの提言する化石燃料消費の節減目標値(2012年の世界平均の値)をかなり超えています。したがって、また、図2に見られるように、「パリ協定」の目標を守るためには、一人当たりのCO2排出量を、すなわち、化石燃料消費量を節減せざる得なくなっています。
しかし、いまの中国には、高度経済成長の結果としてもたらされた都市住民と農民の間の大きな貧富の格差が存在します。この格差の解消のために、中国政府は、今後も経済成長を継続するとしています。また、地球温暖化対策として、先の京都議定書の場合、CO2排出削減義務を免除されていた中国は、今回の「パリ協定」では、このCO2排出削減義務を逃れることができません。いまの中国において、この経済成長を続けながら、CO2の排出を削減するために大きな障害になっているのが、経済成長の指標になっている単位GDP増加当たりのCO2排出量の値の異常に高い値です。
エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAデータを用いて、この「単位GDP増加当たりのCO2排出量(以下、「CO2/GDP比」と略記します)」の年次変化を、他国と比較して、図 4に示しました。ただし、GDPとしては、国際間の比較のために、2010年平均の為替レートを用いた米ドル換算の実質GDPの値を用いました。
図 4 世界および各国の「CO2 / GDP比」の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに作成)
この「CO2 / GDP 比」の値の計算に用いたGDPとして、実質GDPを用いたので、この図4に見られる中国の「CO2 / GDP比」の値の1980 から2010年の大幅な低下には、対米ドル為替レートの値が大きく影響していると考えられます。しかし、この低下が終わった後の「CO2 / GDP比」の値は、ロシアやインドの値とほぼ同じで、先進諸国の値に較べるとまだかなり高い値を示します。この{CO2 / GDP比}の先進国に較べての高い値の原因としては、いまや、世界の工場になったと言われている発展途上国中国における産業のエネルギー消費構造があると考えられます。すなわち、先進国における単位GDP増加当たりのエネルギー消費、したがってCO2排出量の大きい産業を引き受けることで、高い経済成長を続けることができたのです。一方、先進諸国では、お金を使ってお金を生み出すマネー資本主義のトリックが、少ないエネルギー消費で、GDPの上昇を可能にする仕組みができているのです。
このように見て来ると、中国において、私どもの提唱する化石燃料消費を節減する「パリ協定」の改訂目標を達成するためには、先進諸国におけると同様、経済成長の抑制のなかで、国内の貧富の格差を解消する以外に方法がないのではないかと考えられます。いや、経済の高度成長の結果、前記(⑤)の表 3に示す化石燃料の可採年数(R/P)と自給可採年数(R/Pc) の値の違いに見られるように、いまや化石燃料資源の輸入国になった中国は、今後、経済成長の抑制によって化石燃料消費を節減しなければならない厳しい現実に、これからどう対応するかが大きなエネルギー政策課題になると考えざるを得ません。
<引用文献>
1. 日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー経済統計要覧、省エネセンター、2016年、2017年
2. 久保田 宏、平田賢太郎、松田智;「改訂・増補版」化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――、Amazon 電子出版、Kindle、2017年
ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他
平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。
経済成長至上主義は止めるべき、もったいない主義です未来は、ご意見に賛同します🍀