不条理なFIT制度を適用した再エネ電力の地産地消は国民に対する反逆行為である

(FIT制度による国民のお金で支えられる地産地消のメガソーラ事業の不条理)

朝日新聞2016/5/9の社説に“電力改革と地域社会「地産地消」の新たな姿を”とあった。この4 月からの電力小売りの自由化を機に、消費者が電力を自由に選べるようになって、再生可能エネルギー(自然エネルギーあるいは新エネルギーともよばれている。以下、再エネと略記)電力の地産地消への取り組みが各地で広がりを見せているとして、そのさらなる推進を訴えている。

3.11福島の原発事故をきっかけに、身近にある再エネへの依存が注目されるようになり、地産地消の電力・エネルギー事業が各地で起こっているとしたうえで、例として「小田原メガソーラ市民発電所」の事業が紹介されている。2014年から市民ファンドとして1億円を集めて発電を始め、年間発電量 約103万kWhで300世帯分の電力を賄っているとある。ただし、一世帯当たりの月平均電力消費量は286 kWh(=(103万kWh/年)/ 300 /(12月/年)と計算される。なお、日本エネルギー経済研究所(以下、エネ研と略記、文献 1 )のデータから、2014年度の全国平均の一世帯当たりの電力消費量は411 kWh/月と計算されるが、この発電量から、太陽光発電設備(家庭用以外、メガソーラ)の年間平均設備稼働率を11 % として計算すると、設備容量1,070 kW(=(103万kWh/年)/(8,760 h/年)/ (0.11) )のメガソーラが建設されたことになる。この発電設備の建設と維持の費用を50万円/kWとすると、約5億円(=(50万円/kW)×(1,070 kw))の設備建設・維持費が必要になると試算されるから、市民ファンド1億円との差額4億円程度を、このメガソーラ設備の運営企業が負担したことになる。再エネ電力の利用拡大のための国の「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」を適用して、このメガソーラの生産電力の買取価格を38円/kWh(当時の価格、現在は低下しているが、契約時以降も設備の認可を受けた時の契約価格で買取って貰える仕組みになっている)として、年間の電力売上金額は、約4,000万円(=(38円/kWh)×(103万kWh))になる。この売り上げで、設備投資金額の5億円を回収するには、12.5(=(5億円) / (4,000万円))年かかると計算されるが、FIT制度によるメガソーラ電力の買取は、20年間続くことになっているから、この20年から12.5年を差し引いた7.5年間の事業収益は3億円(=(4,000万円/年)×7.5)と概算される。この収益金を、この事業への投資金額に比例して配分すると、この収益金の8 割程度が中央のメガソーラ設備の運営企業に持って行かれることになる。

問題はそれだけではない。再エネ電力へのFIT制度の適用では、この電力の買取金は、広く全ての国民の家庭用の電力料金の値上げによって賄われることになるから、結局、この市民発電所は、中央の私企業としてのメガソーラ事業者のために、せっせと全国民からお金を集めて貢いでいることになる。

これでは、一体、誰のための市民発電所事業であろうか? また、国民の声をリードするとしている新聞が、何のために、このような理不尽な地産地消の再エネ電力生産事業の推進を、その社説で訴えるのであろうか?

 

(FIT制度による家庭用電力料金の値上げは、電力の自由化後も続く)

このようなメガソーラ電力生産事業を全国展開した場合について考えてみる。いま、一般電気事業者(自由化前の電力会社)による家庭用電力の4 % が再エネ電力(太陽光発電を主体とする再エネ)で賄われて、そのFIT制度による買取価格を36円/kWhとすると、家庭用電気料金の値上げ金額は、1.44 円/kWh ( = (36円/kWh)×0.04)と計算される。この値は、いままで地域電力を独占していた各電力会社ごとに異なるはずで、私の居住地域の東京電力の電気料金等領収書の再エネ発電賦課金額を電力使用量で割って求めた東京電力管内の再エネ電力賦課価格(再エネ電力の利用による電力料金の値上げ額)を、昨年度(2015年度)の電力料金の領収書から計算すると、1.57円/kWhとなり、上記の推定計算値に近い値が得られる。

今年(2016年)の4月から、家庭用電力の小売りが自由化されるなかで、政府は、地球温暖化の防止に貢献することされる再エネ電力の利用を拡大させるために、今後も、FIT制度を継続するとしている。したがって、消費者の多数が4月以降、新規電力供給事業者としてメガソーラを主体とする再エネ電力生産者との電力購入契約を増やして、再エネ電力利用量を増加させれば、家庭用電力料金の再エネ発電賦課金額が増加することになる。

今回の自由化を前に、資源エネルギー庁は、この値上げ幅が2.25円/kWhになると発表している。と言うことは、この4月以降の再エネ電力の平均買取価格を35円/kWhとすると、家庭用電力供給量のなかの再エネ電力の比率が6.4%(=0.064 = (2.25円/kWh) / ( 35円/kWh)に増えると想定していることになる。したがって、今後、家庭用供給電力のなかの再エネ電力の比率を、例えば30 %まで増やす場合、FIT制度での買取価格が30円/kWhに下がっても、家庭用電力の再エネ賦課価格は9円/kWh(=(30円/kWh)×0.30)となる。これでは、貧乏人はたまったものではない。

 

(再エネ電力利用拡大のためのFIT制度は、その発祥の地、EUで曲がり角に来ている)

このFIT制度の適用による再エネ電力の利用拡大は、地球温暖化対策として、EU諸国で先行して実施されていた。そのEU諸国で、再エネ電力の利用拡大によって、図1に示すように、家庭用電力の料金が大幅に値上がりした。その結果、市民の反発を受けて、FIT制度での買取価格が高い太陽光発電の設備容量の年次増加に、図2に示すような、2012年以降の急速な停滞が見られるようになった。

実は、再エネ電力の利用・拡大をリードしてきたEU諸国をはじめ世界の再エネ電力の主体は、太陽光ではなく風力である。発電量ベースで風力発電量/太陽光発電量の比率の値(2014年)を計算して示した表 1 に見られるように、日本は世界各国に較べて一桁以上低い値を示す特異な国であると見ることができる。したがって、もし、日本が現状のまま、太陽光発電主体の再エネ電力の利用・拡大にFIT制度の適用を進めると、家庭用電力料金は、間違いなく世界一になる。ただし、後述するように、太陽光発電には、そのような導入可能量(ポテンシャル)はないから、そのようなことにはならないであろう。

 

図 1 世界各国の電力料金(家庭用)の年次変化

(エネ研データ(文献1 )記載のIEAデータをもとに作成)

2 世界各国の太陽光発電設備容量の年次変化

(エネ研データ(文献1 )記載のBP社のデータをもと作成)

 

ⅰ 世界各国の風力発電量/太陽光発電量の比率(2014年)の値

(エネ研データ(文献 1 )記載のBP社データをもとに、作成)

 

ドイツ  イギリス  イタリア フランス アメリカ 中国 インド 日本 世界

風力/太陽光比*1   2.13    5.57   1.06  3.67  8.22   9.31   5.11  0277   4.70

 

注 *1 ;風力発電量/太陽光発電量 比率、設備容量の値から発電量の値を推定して計算した。

 

以上から明らかなように、朝日新聞の社説が主張するFIT制度の適用を前提とした地産地消のメガソーラの利用・拡大は、全国民、特に貧しい人々から集めたお金を、メガソーラの設備建設の事業者に貢ぐことで、いま、問題になっている貧富の較差を拡大するだけの、まさに、社会正義に反する、民主主義国家では許されない行為と言わざるを得ない。

 

(地球温暖化対策としての再エネ利用拡大を目的としたFIT制度は、速やかに廃止されるべきである)

では、何故、いま、再エネ電力の利用を拡大しなければならないとして、このような理不尽なことが起こるのであろうか?それは、日本政府が国策として推進しているエネルギー政策のなかに、地球温暖化対策の問題が迷い込んでいるからである(文献 2 )。

いま、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機関)が主張する温暖化の脅威を防ぐためには、その原因とされているCO2の排出を削減するために、国民に経済的な負担をかけても、エネルギー源としての再エネの今すぐの利用・拡大が図られなければならないと殆どの人が思い込まされている。この今すぐの再エネの利用・拡大を促すために考えられたのがFIT制度である。

EUで考えられたこのFIT制度の導入に対して、はじめ、日本国内では、この制度の適用による電力料金の値上げが、産業の発展を妨げるとして、産業界による強い反対があった。これに対して、鳩山25 %のCO2排出削減を訴えていた民主党政権下の政府は、産業用電力料金に対する配慮を行うことで産業界を説得して、このFIT制度の導入を閣議決定したのが、奇しくも、3.11福島原発事故当日の午前であった。その日の午後に起こった原発事故の後で、脱原発に宗旨替えをした菅直人元首相が、原発電力の代替には自然エネルギー(再エネ)が必要だとして、自分の首(首相の地位)と引き換えに成立させたのが、このFIT制度である。すなわち、地球温暖化対策としての再エネ電力の利用・拡大のためのFIT制度が、原発電力の代替の今すぐの再エネ電力の導入のためのFIT制度に姿を変えて、2012年7月に施行された。

したがって、EU、特に、それをリードしていたドイツに較べて、その導入が7年近く遅れた日本での再エネ電力の導入のためのFIT制度では、その目的の中に、原発電力の代替としての今すぐの再エネ電力の利用が求められた。とは言え、基本的には、地球温暖化対策としての再エネの利用・拡大と、そのためのFIT制度であることは、EUと変わらない。                                                                                        いま、地球上に住む全ての人類にとっての脅威であるとされる地球温暖化は、人類の生存と産業活動に伴うCO2の排出に起因するとされている。しかし、これは、IPCCによる科学の仮説である。すなわち、IPCCの第5次評価報告書(2013 ~ 2014年)をもとにした私どもの調査研究の結果では、CO2の排出削減によってIPCCが主張する温暖化を防げるとする科学的根拠は存在しない。さらに、また、世界各国が、枯渇の迫っている化石燃料を分け合って大事に節約して使えば、IPCCが主張するような今世紀中の温暖化の脅威をもたらすCO2の地球大気中への放出は起こらない。これを言い換えれば、温暖化を防止するとして、化石燃料の代替として.今すぐの再エネ電力の利用・拡大を進める必要は存在しないし、そのためのFIT制度の存在意義もなくなる(文献 2 参照)。

最近、私の聞いた話では、いま、長野県の蓼科霧ヶ峰高原で、牧野組合所有の遊休地188 ha が売りに出され、そこに、東京の企業が89 MWのメガソーラを建設することが計画されている。長野県では、今年度からメガソーラの設置には、県による環境アセスメントを必要とするとの改正が行われたために、設置までに3年近くが必要とされるようになったが、それでも、現在、諏訪6市町村で、20件もの1000kW以上のメガソーラの新設計画の申請があって、この設置のための森林の伐採や、景観の破壊など、深刻な環境影響が心配されるとして、地域住民による計画の破棄を求める運動が起こっているとのことである。同様なことが国内各地で起こっているようである。

しかし、これらのメガソーラの利用計画は、それを支えているFIT制度がなくなれば、成り立たない。すなわち、国民の利益に反するだけでなく、その立地の地域住民も反対しているメガソーラの利用・拡大を阻止するためにも、今すぐの再エネ電力の利用・拡大を目的としたFIT制度は、速やかに廃止されなければならない。

 

(地産地消にならないメガソーラーは廃棄物の山を残して消え去る

もちろん、いま、電力生産の主体を担っている化石燃料が、やがて、枯渇に近づいたときには、私どもの生活と産業のためのエネルギーは再エネ電力に頼らざるを得なくなる。しかし、そのときに頼るべき再エネ電力は、現状で最も安価に供給される石炭火力の発電電コストが資源枯渇の影響を受けて高くなったときに、FIT制度の適用無しで、より安価に供給可能な再エネ電力でなければならない。

現状の化石燃料発電主体の電力の代替として使用できる再エネ電力では、その発電設備の製造・使用に要する金額(発電コスト)が、設備の使用期間(寿命)中の発電量の販売金額で回収される必要がある。私ども(文献2 )は、これを可能にする設備の製造・使用の金額を化石燃料発電の代替を可能とする「限界設備価格( L )」として、再エネ電力が化石燃料による火力発電に代替、利用できる条件とした。現在、FIT制度の対象とされている再エネ電力の種類別に、その試算値を、FIT制度の施行時に政府が、再エネ生産が収益事業として成立するために必要と認めた「設備コスト( T )」 の値とともに表2に示した。

もう一つ化石燃料発電代替の再エネ電力の利用・普及のためには、現在の化石燃料発電主体の国内総発電量(国民の省エネ努力もあり2000年代に入って殆ど変っていない)との比較でのそれぞれの「再エネ電力の導入可能量(ポテンシャル)」の値が問題にされなければならない。この導入ポテンシャルの国内発電量に対する比率の試算値を表3 に示した。

 

表2 再エネ電力利用でのエネルギー源種類別「限界設備価格」の試算結果

(文献2から引用、計算の方法等詳細は文献3 参照)

 

太陽光(家庭外)太陽光(家庭) 風力 (陸上) 風力(洋上)中小水力   地熱

限界価格 L*1(万円/kW)  11.8        11.4      48.9~41.5    60.8~53.2    153~149   124~121

設備コストT*2 (万円/KW)    52.5         51.3        36~125      36~125     104~125   129~195

 

注  *1 ;再エネ電力生産により発電用の化石燃料の輸入金額が節減でき、その金額を国の補助金として、事業者に交付できるとしたときの「限界設備価格」Lの略.。設備コストT の最小値と最大値に対して計算した。ただし、現行の化石燃料主体の市販電力の単位発電量当たりの輸入化石燃料CIF 価格を6.53円/kWh とした。 *2  ;政府の決めたFIT 制度での設備建設コストT 、設備建設費に設備維持費{(年間設備維持費)×(使用年数Y)}を加算して求めた値、設備規模の最大と最小に対する値を示した。

 

再エネ電力種類別の「導入可能量(ポテンシャル)」の推定値の対国内発電量比

(文献 2から引用、環境省の調査報告書をもとに作成した。 計算方法等詳細は文献3 参照)

 

太陽光(住宅)太陽光(非住宅)風力(陸上)風力(洋上)中小水力 地熱 バイオマス*1

対国内発電量比率*1 %    2.7        10.2         60.1         411       7.1    7.5    ( 0.8 )

 

注 *1 ;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年度)1,156,888百万kWhに対する比率

 

先ず、表2に示す限界設備価格L と現状の設備建設コストTの値の対比から判るように、FIT制度の適用無しでも安価に利用できる可能性のある再エネ電力としては地熱や中小水力が優先的に使用されるべきである。しかしながら、これらの再エネ電力の導入ポテンシャルの国内発電量に対する比率が、表3に示すように地熱で7.5 %、中小水力で7.1 % と非常に小さい。したがって、表2に示すL とTの値の比が地熱や中小水力に較べてやや小さいが、表3に示す導入ポテンシャルの現状電力量に対する比率が4.7倍(=471 %)もあると見積もられている風力発電が、将来的な利用の主体になると考えられるべきである。

いま、EUで、そして世界で、再エネ電力の主体は風力である。日本で、この風力の利用が遅れているのは、発電の適地が需要地を遠く離れていて、送電線の新設が必要だからとされている。しかし、導入ポテンシャルの大きい風力発電の適地は広く国内に分布しており、送電線を理由にして風力発電の利用を拒むのは、FIT制度の適用で、メガソーラに高い買取価格を設定して、優先的な利用拡大を進めている政府の言い逃れであると言ってよい。

以上から、将来的にも、FIT制度の適用無しには、その利用・拡大を図ることができないメガソーラは、何か特別の理由が無い限り、利用の対象から外されるべきである。地産地消の再エネ電力として、FIT制度の適用無しにはその利用が拡大できないメガソーラは、いずれ、廃棄物の山を残して消え去るであろう。ただし、既設のメガソーラの生産電力を、国は、国が決めた20年間、契約時の高値で買い取り続けなければならないから、国民はそのお金を、そのメガソーラ設備の事業者に、貢ぎ続けなければならない。地産地消の電力生産のためとして、このような不条理が許されてよいのであろうか?

 

最後に、朝日新聞社にもの申したい。新聞の使命は、国の誤った政策を批判して改めさせることである。それができなくて、かつての日本は戦争に引き込まれてしまった。いま、国のエネルギー政策についても、先に、再エネとしてのバイオ燃料の利用・拡大を訴えたこの新聞を批判する私の投稿には耳を貸して貰えなかった。このバイオ燃料開発の国策は、何の成果をもあげることなく5年間で6.5兆円の税金を浪費した(文献3 )。 また、昨年(2015年)の「水素エネルギー元年」を社説でとりあげる不見識を批判する私の投稿も無視されたままである。この地産地消のメガソーラの利用拡大の政策も、数の多数を背景に、権力を乱用している安倍政権の誤ったエネルギー政策の一環である。言論の公器としての新聞が、政府のお先棒を担いで今回のような社説を掲載する必要はどこにもないどころか、敢えて言えば、これは、国民に対する反逆行為である。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2016 年編、省エネルギーセンター、2016年

2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、私費出版、2016年

3.久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年

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