COP 21を成功に導くために  その2

途上国と先進国の間の化石燃料消費の格差の是正こそが求められている
 
温暖化対策としてのCO2排出削減のためのお金を途上国が求めている
本稿(その1 )でも述べたように、今年(2015年)の暮れの国連気候変動枠組み条約の締結国会議(COP 21)では、地球温暖化対策としての全ての国に、CO2排出の削減義務が課されることになった。すなわち、2013年までのCO2排出量を決めた京都議定書の協議で、その削減義務な免除されていた途上国にもCO2排出削減が義務付けられた。しかし、現状では、このCO2排出削減対策にはお金がかかるので、途上国は、そのための資金援助を先進国に求めている(以下、朝日新聞(2015/11/11)の報道から)。
 
いま、多くの途上国は、会議の要請に従って、CO2排出削減の自主的な目標値を設定しているが、同時に、この削減目標には、先進国からの資金援助があれば、目標値をどこまで上げることができるかの数値とともに、そのための援助資金額も提示しているようである。例えば、インドネシアは、2030年までの削減目標として、排出量29 % 削減を提示しているが、資金援助があれば、これを41 % まで引き上げられるとしている。途上国によるこの援助資金の要請額は、20年までに、1千億㌦、20年以降にはさらに引き上げが必要で、不安定な民間投資を含まない、政府の途上国支援(ODA)による要請になっている。
これに対して先進国側は、ODA予算の支出制度には国別の違いがあり、将来にわたる援助額は約束出来ない、支援額には民間の投資も含めたい、さらには、経済力のある新興国や産油国にも拠出をお願いしたいなどと、途上国の要求に難色を示している。
このCOP 21 における国際間協議での資金援助は、温暖化対策のCO2排出削減目標の達成に途上国の協力を求めるための「切り札」とみなされているようだが、この会議に出席している日本政府代表団幹部は「資金援助の話は、最後までもつれるだろう」と話したと報道されている(以上、上記、朝日新聞の記事から)。

途上国への資金援助なしでも世界のCO2の排出は削減できる

地球温暖化対策としてのCO2排出の削減を求めるための先進国と途上国との間の資援金額を巡る協議を難しくしているのは、いま用いられているCO2の排出削減対策には、お金がかかるとされている上に、その金額が明確に示されていないからである。当然のことだが、もし、このCO2排出削減にお金がかからなければ、先進国から途上国への資金援助の必要は無くなる。一方で、どうしてもお金がかかるCO2排出削減対策を用いなければならないのであれば、先ず、いま、採用の対象になっているCO2排出削減対策について、その単位CO2排出削減量当たりの必要金額を明確にした上で、その方式を採用しようとしている途上国への支援金額の妥当性が議論されるべきである。
具体的例で示すと、現在、CO2の排出削減対策で最も安価な方法として、IPCCも推奨している石炭火力発電所の燃焼排ガスに対するCCS(CO2の抽出、分離、埋立)技術がある。少しデータは古いが、そのコストはCO2 1トン当たり6 ~ 8 千円とされているから。この金額をもとにCO2の排出削減に必要な金額が算出できる。ただし、この技術の環境影響評価が不十分で、実用化できないのであれば、すでに、実用化されている別の方法について、上記と同様の検討を行えばよい。
しかし、どのような方法を用いるにしても、それを、今すぐ途上国で実施する必要はない。何故なら、そのような実用可能なCO2 排出削減対策を用いるのであれば、先ず、現在、その技術と資金を持つ先進諸国からその実用を始めて、その効果が明らかになってから、漸次、途上国に移転して行けばよい。少なくとも今すぐ、温暖化対策としてのCO2排出削減への協力を求めるために途上国に支援金を支出する必要はない。もし、そんなお金があるのであれば、本稿(その1)に記した、自然災害を含めた異常気象による防災対策のための途上国への支援金額を増額すればよい。

化石燃料消費を節減すれば、お金をかけないでCO2による温暖化の脅威が防げる

より基本的な問題がある。それは、世界的な経済成長の停滞が進行するなかで、お金のかかるCO2排出削減対策に使うお金を増やすことができなくなってきている。これに対して、いや、化石燃料の代わりに自然エネルギー(再生可能エネルギー、以下、再エネと略記)を用いれば、お金をかけないでもCO2の排出を削減できると言う人がいる。
しかし、それは違う。現状では、再エネは、主として電力にしか変換・利用できないから、化石燃料枯渇後の再エネのみに依存しなければならない社会は、化石燃料消費に支えられている現代文明社会の延長線上にはない。科学技術の進歩で、どこまでそれがカバーできるかは判らないが、先進国における現在の文明社会を基準にして考えるとき、少なくとも当分は、再エネを使って、化石燃料を使う場合以上にお金を稼ぐことが、すなわち、経済成長が図れることはないと考えるべきでる。これは、特に、化石燃料資源のほぼ全量を輸入に頼っている日本にとっては、非常に厳しい現実なのである。
また、最近(2013 ~ 2014年)発表されたIPCCの第5次評価報告書は、世界が、現状の化石燃料消費の増大を継続すれば、今世紀中のCO2の排出の積算量が7兆トンに達し、地球大気の温度上昇幅が4.8 ℃になり、地球生態系にとりかえしのつかない脅威がもたらされるとしている。しかし、現状の技術力と経済性から採掘可能な化石燃料の量には大きな制約がある。これが確認可採埋蔵量(以下、可採埋蔵量)である。私どものが、この可採埋蔵量の値をもとに、これを全量使い果たしたとして計算した CO2の排出総量は、3.2 兆トンに止まる。また、化石燃料の枯渇を考慮し、世界各国が協力して化石燃料の年間消費量を現状(2012年)の値以下に抑えることができれば、今世紀中に排出されるCO2の累積量は2.9兆トンに止まると計算される。これらの値であれば、IPCCが主張する地球温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、地球気温の上昇幅は、生態系の変化が人類の生存に与える影響を何とか最小限に止めることができるとする2℃ 以内に抑えることが可能である(文献2 – 2 参照)。
もちろん、経済力のある大国が、成長のために、化石燃料の可採埋蔵量の制約を無視して、その消費の増加を継続させることが考えられる。しかし、こんなことをすれば、その国際市場価格が高騰するから、使いたくとも使えない国や人が出てくる。いや、すでに、それが現実のものになっている。すなわち、この化石燃料資源の配分の不均衡による貧富の格差の拡大が、宗教と結びついて起こっているのがアルカイダによる国際テロであり、これを軍事力で押さえつけようとしているアメリカが主導する先進覇権国への反発がイスラム国にまで発展して、いまの世界の平和に大きな脅威を与えている。

世界の化石燃料消費の削減への協力の具体策についての私どもの提案

上記したように、いま、COP 21 の協議の場で対象になっている地球温暖化対策としてのCO2排出の削減目標は、世界の化石燃料の消費量を、現在の値に抑えることによって達成できる。この実行を可能にする具体的な方法として、私どもは、先進国、途上国の差別無しに、世界各国が公平に、今世紀中の一人当たりの化石燃料消費量の年平均値を、現在の世界平均の一人当たりの化石燃料の年間消費量 1.55 石油換算トンにすることを提案している。ただし、各国の化石燃料消費の総量を決めるときには、それぞれの国の人口の変化についても考慮しなければならない。また、この達成目標(1.55石油換算トン/人/年)を、今すぐ実行することはできないから、現実的な目標達成年を今世紀半ば(2050 年)とする。各国の一人当たりの化石燃料消費量の年次変化と、この2050 年の世界各国共通の目標値を示したのが図2-1 である(以上、文献2 – 2 参照)。


注; 図中星印は、2050年の目標値として決められる2012年の世界平均の一人あたりの化石燃料消費量の値、1.55トン-石油換算トン/年

図2-1 各国の一人あたりの化石燃料消費量の年次変化と、私どもが提案する世界の化石燃料消費の節減目標値(IEAのデータ(エネルギー経済研究所データ(文献2 – 1 )から)をもとに作成)

 

この図2-1 の縦軸を一人当たりのCO2排出量に置き換えれば、COP 21の協議の目的である地球温暖化対策としてのCO2 の排出削減目標を決めることに役立つと考えられるかもしれない。しかし、それは、違うことに注意して欲しい。すなわち、例えば、このCO2の排出削減目標の達成のために、上述したCCS技術を用いるとすれば、先進国と途上国の間の化石燃料の消費量の不均衡が是正されないだけでなく、却ってそれを助長し、貧富の格差の拡大による世界平和を脅かすことになる。いま、世界にとって、人類社会にとって、最大の脅威は、この貧富の格差の拡大によって起こっている世界平和の崩壊である。これを救ってくれる唯一の方法は、図2 – 1に示す化石燃料の消費量の不均衡を是正するための世界の協力でなければならない。

化石燃料消費の節減のための世界の協力こそがCOP 21を成功に導く唯一の途である

この私どもの提案は、実現不可能な理想論だとの批判があるかもしれない。確かに、この方策では、先進諸国で、大幅な化石燃料消費の節減、すなわち、そのための経済成長の抑制が強いられる。しかし、地球上に残された化石燃料を長持ちさせて大事に使うためには、この方法しかない。やがて、化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰すれば、経済成長を犠牲にしても、いま、先進諸国がその利用の増加に取り組んでいる再エネを用いることで、化石燃料消費を減らさなければならなくなる。
一方、図2 -1 には、インド一国のデータしか示していないが、近年、急成長を遂げて、一人当たりの化石燃料消費量が世界平均を上回っている中国以外の途上国では、2050年にかけて、まだ、化石燃料消費を増加させる余裕がある。その余裕は、国により違いがあるが、自力で、成長をコントロールすることで、化石燃料消費を調整できるし、また、先進国からの技術移転で、化石燃料代替の再エネを利用することも可能となるであろう。
化石燃料消費の節減のカギを握るのは中国の対応である。世界の工場となって、高度の成長の継続を訴える中国に、化石燃料消費の節減を促すための成長の抑制を要求するのは酷な話かもしれないが、エネルギー消費の効率アップなどに最大限の努力を払いながら、世界の平和のためにも、何とかこの化石燃料消費の2050年の世界共通の目標の達成の努力をお願いしたいものである。
この化石燃料消費の公平な再配分を世界の全ての国の協力により実現すべきとする私どもの提案は、経済力のある先進諸国が、経済成長を競って化石燃料の大量消費を継続してきた結果として生じた貧富の格差による世界平和の崩壊を防ぐための唯一の方策である。同時に、いま問題になっている地球温暖化の脅威を防ぐためのCO2排出削減を世界に訴えてノーベル平和賞を授与されたIPCCが主導するCOP 21 を成功の導く唯一の方策である。

<引用文献>

2 – 1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧 2015、省エネルギーセンター、2015年
2-2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;化石燃料の枯渇がもたらす成長の終焉――日本経済を破綻の淵から救う正しいエネルギー政策を創る(電子出版)、2015年
 

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