Dmitry Orlov氏の『アメリカの外交政策の大失敗』

 イラクもウクライナもエネルギー供給上の要所であるから、その地で続く混乱は対岸の火事では済まないはずで、事態の進展を注視していかなければならない。その際、私たちが接するメディアは西側に偏ったメディアであることを念頭に置いて、ニュース報道を咀嚼しなければならない。
 老子・第一章には「常無欲以観其妙、常有欲以観其徼」とあるのだが、たとえば、ヒトラーは悪い奴だと刷り込まれているあまり、裏でヒトラー政権を支えた人物にはさほど注目が集まらない。ドイツ帝国銀行総裁ヒャルマル・シャハトは国家社会主義ドイツ労働者党の資金面での後ろ盾となってヒトラー政権の誕生を支え、また、シャハトの親友のイングランド銀行総裁モンタギュー・ノーマンからの信用提供によってヒトラーの政策は実現された。本当に悪い奴は誰か?ともあれ、このような陥りがちな事例は、植え付けられた思考とメディアの関係を考える上で興味深い。 

 さて、本稿は、Dmitry Orlov氏のブログCLUBORLOV 2014年6月16日付けの記事"American Foreign Policy Fiascos"を訳したものである。Orlov氏の現状認識が記されており、西側メディアの報道姿勢とエネルギー問題の今後について思索を促す内容でもある。


Jon Shireman

 アメリカは今世紀、躍起になって大国の自滅に努めてきた。これは当初ゆっくりと進展していた。つまるところ、強大な帝国は一夜で消滅するものではない。だが、10年に及ぶ飽くなき取り組みの結果、破滅に向かうペースが上がり始めている。ほとんどの崩壊同様、アメリカがやらかした大失敗も当初ゆっくりと事態が展開し、そして、速やかに進展するようになっている。

 旧ソビエトのグルジアでの2008年の「戦争」を見てみよう。ペンタゴンはグルジアを反ロシアのアメリカの傀儡人形に仕立て上げるのに何年も費やした。そして、北京でのオリンピックの最中に、アメリカの教育を受けたグルジアの大統領は、ロシア系住民が暮らすグルジア内の係争中の領土の市民を爆撃し始めて、彼の主人を喜ばせることを決めた。それに応じて、ロシア人たちはグルジアに軍事介入して、掃討作戦を展開し、係争中の領土(及びもう一つの領域)を併合して(註:wikipediaの「南オセチア紛争_(2008年)」には「南オセチアとアブハジアの独立を承認」とある)、撤退した。西側メディアは忠実にグルジアにおける戦争犯罪を封印して、侵略者としてロシア人を描くことに尽力した。だが、主人たちは喜ばず、アメリカの教育を受けた大統領は政治的には死に体として気掛かりなまま放置された。

 同様の失敗は2014年の春にウクライナでも表面化し始めた。御存じのように、アメリカの外交政策と軍の高官たちはロシアに打撃を加えることに絶え間ない努力を惜しんだりしない。アメリカ政府を牛耳る1%たちもまたプーチンに対する個人的な怨念を抱いている。彼らは、エリツィン政権下のロシアを台無しにしていたロシアの寡頭政治の少数独裁者たちに対してプーチンが講じたことを許せないのでいるのだ。プーチンは少数独裁者たちの毒牙を退けて、彼らの政治参加を禁じて政治的影響力を剥奪したからだ。そして、ソチでの冬季オリンピックの間に、ウクライナの民主的に選出された大統領は偽旗作戦によるクーデターで転覆させられた。その偽旗作戦では、金銭目当てのスナイパーが多数の市民や警官を殺した。大統領の代わりに、アメリカはネオ・ナチ分子をも含む厳選された軍事政権を置いた。この失敗はまだ拡大し続けている。少し後で私はこの問題に立ち返るだろう。

 起ころうとしている別の失敗はアフガニスタンにおけるタリバン支配への回帰である。これは最長のアメリカの軍事作戦の最終的な結果であり、2兆ドルを費やして、数千人の死者と数万人の負傷者を出した。アメリカはオサマ・ビン・ラディンを探してアフガニスタンに入り込んだが、彼はパキスタンの軍事基地の隣で静かに暮らしていたことが後でわかった。嗚呼、なんておかしな国だろう! そして、パキスタンと言えば、ボーナスポイントとして、最近のカラチの空港爆撃が示すように、アメリカはこの核武装した国の不安定化を企てているのだ。

 ウクライナとアフガニスタンにおける外交政策上の大失敗は、必ずしも「今すぐどうこう」という段階にはない。だが、先週、私たちは珍しい見世物を与えられた。イラクの国民形成実験という2兆ドルのアメリカの投資が、米軍兵士の四千人の死者と5万人の負傷者を出して、無に帰したわけだ。アルカイーダから派生したはるかに過激なISISと呼ばれる集団がシリアから現れ、みるみるうちに北イラクを横切って虐殺を行って、今、バグダッドの戸口をノックしているのだ。これに応じて、アメリカ仕込みでアメリカが配備したイラクの警察と軍隊のメンバーたちは制服を脱いで、武器を捨てて、逃亡しているわけである。イラクにおける大失敗はシリアにおける大失敗と相乗効果を発揮する。シリアでの長期にわたるアメリカの体制交替の試みが内戦を生じさせ、内戦がISISの組織化と武装化を招来したわけだ。最終的な結末は、シリア、イラク、イラン支配下の南イラクとして知られる領域に力を及ぼす過激な反米カリフの領地の誕生だと判明するかもしれない。高い見込みがあることだ。

 その間に、ウクライナでのアメリカの企てが進捗し、西側メディアの報道管制によってウクライナで起こっていることは伝わってこない。これはロシアの話ではない。逆に、よく知られたロシア人ジャーナリストが親政府の人々に襲われて誘拐されているにもかかわらず、ロシアのメディアはウクライナのネオ・ファシストの行進や銃殺刑執行隊や残虐行為の詳細な報道を盛んに行っている。ちょうど昨夜も、ウクライナ人たちが産婦人科病棟を砲撃して、助産師を殺している。こういう報道がロシア人をとてもとても怒らせている。怒りの対象はウクライナ人ではなく、もちろん、ウクライナ軍でさえない。お察しのように、彼らは制服を脱いで武器を捨てるチャンスがある。だから、ロシア人たちは滅茶苦茶な状況の後ろにいるアメリカの操り人形の主人たちに怒っているのだ。

 ロシア人たちはまた、ロシアを軍事衝突に引きずり込もうとする考えに挑発されていることを完全によく理解しているように思われる。ここに示すものはアメリカのロシアに対する挑発のリストである。(このまとめについてはSakerさんに多謝)

暴力によって政権の座についた非合法的な政権の承認
ロシア国境地帯のネオ・ナチ体制の支援
西側の(少数独裁者が支配する)メディアの大規模な反ロシア・プロパガンダ
よく知られたロシア人ジャーナリストの誘拐事件
オデッサ(註:ウクライナ南部、黒海に面した港湾都市)とマリウポリ(註:ウクライナ・ドネツィク州の都市)における一般市民の大虐殺の隠蔽
禁止されているクラスター爆弾および白リン弾の一般市民に対する不法使用
街全体への砲撃
キエフのロシア大使館への攻撃
キエフのロシア大使館への攻撃を非難する国連安全保障理事会決議の妨害
東ウクライナで公務員の自動車に仕掛けた爆弾 ロシアに制裁を課す試み(失敗)
一般市民に向けて配備するためにNATO加盟国からウクライナへの飛行機およびヘリコプターの密輸
アカデミ社(旧ブラックウォーター社)からの数百人の西側傭兵の秘密利用
病院にいる負傷した兵士の大虐殺
ロシアの参加で達成したすべての協定の意図的侵害
教会および病院の爆撃(これはここ24時間に始まった)
逃げられない状況の一般市民に逃げ道を提供することの拒否

 こういった話は、あなたが西側に住んでいれば、聞きたくないことだろう。代わりにあなたが聞きたがることはプーチンがクリミアを侵略したという話だ。だが、彼はやっていない。ロシア軍は、長年続いている国際協定にもとづいて、ずっとクリミアに駐留していていた。そして、ロシア軍の地位は協定で決められた地位を決して超えなかった。あなたはまたプーチンが力ずくでクリミアを併合したと聞きたがるだろう。だが、彼はやっていない。クリミアの人々はウクライナに入れられたソビエト時代の決定を無効にすることに圧倒多数の投票をして、彼ら自身の自由意思でロシアに再び加わったのだ。今や平和で繁栄しているロシアのクリミア地方となり、ウクライナの国境を越えて流れてくるロシア人避難民を受け入れているわけだが、西側メディアによって絶え間なく繰り返される新たな呪文は、ウクライナ軍(よい子)は国の東側を混沌とさせている「親ロシア人分離主義者」(悪い子)と闘っている、というものだ。第一に、彼らは「親ロシア人」ではなく、彼らは生粋のロシア人であり、ロシア国境側の人々の権利と変わらない。第二に、彼らは「分離主義者」ではない。彼らはロシアに再び加わりたいのであって、ロシアの彼らの場所をウクライナに入れたソビエト時代の決定を無効にしただけだ。

 それで、ウクライナの主権と領土の統合性の雄々しい擁護者たちはどのようなことをしているのだろうか?親ウクライナの分離主義者たちは、スラビャンスクとクラマトルスクに近い一つの空港と一つの丘をほぼ治めている。彼らはキャスンイェー・ライマンを占領し、そこにある病院で大虐殺を犯した。そして、彼らはルハーンシク空港の事件に関わった約1000人の軍隊を明らかに持っている。彼らは救助と再供給のためにIL-76(世界最大の輸送飛行機)を送ったが、それは撃墜された。訓練不足のためにそうなったのではない。ウクライナ人たちは野球バットを持って恐怖のナチ風体制を始めて、次にナイフ、そして銃、アサルトライフル、マシンガン、迫撃砲、大砲、複数のロケットランチャー、攻撃ヘリコプター、攻撃機、クラスター爆弾と進んで、今では白リン弾を使うまでになったのだ。 

 その間に、数百人のウクライナ人兵士は、APC(註:Armoured Personnel Carrier、装甲兵員輸送車)や戦車を含む彼らの武器を持ったまま、もう一方の側へと逃亡している。物凄い数の徴集兵が殺されている。残っている軍団のいくつかは包囲され、一部は寝返っているが、自暴自棄の試みの兆候がある。

 ロシアの自衛隊に関しては、彼らはますますうまく事を運んでいるように思われる。彼らは良い防空ネットワークを構築しており、すぐに飛行禁止空域を設けることができる。彼らは、ほとんどウクライナから取り上げた戦利品の武器で、とてもよく武装している。最初のわずかな志願兵が今、誘い水となって、穴の多いロシア国境地帯に多くの志願兵を参加させている。(これらはロシア人であり、国境の両側にいることを忘れないこと)彼らはまたロシア産の新しいおもちゃのような電気機器や進んだ防空システムも持っている。そういうものすべてを用いて、彼らはウクライナ軍に向かって、攻撃の軍事行動を開始しようとしている。

 一つの成功物語としてのウクライナはこれでおしまいだ。だが、ウクライナはどうでもよい。なぜならばこれはすべてワシントンの仕業だからだ。そして、ワシントンはウクライナのことを心配しない。ワシントンはロシアに問題を創ることにだけ腐心している。おまけに、これまでのところ、ここで報告するような成功例はあまりない。制裁はロシアのドル売りとアメリカの銀行から自国への送金を促した。ロシア経済をドルの基軸体制から解放する取り組みが加速し、ガズプロム社はもう天然ガスをドルでは売らないと発表している。制裁が課されて以来、ロシアの株式市場はとてもよい動きをしている。プーチンの支持率は80%を超える。(一方、オバマの支持率は記録的な低さである。)EUとアメリカによる明白なダブル・スタンダードと汚い取引は、ヨーロッパから東側へとロシア人の向きを変えさせ、ユーラシアの統合という事業を最高潮にしている。(これがアメリカに何を意味するか?そうだね、アメリカはユーラシア大陸にはなかったね?アメリカはユーラシアに多くの軍事基地を持っているわけだが、その基地がはたしてどれほど有用なものなのかを知りたければ、上述したことをよく考えることだ。)これまで、ロシアに対して問題を創るためにウクライナを利用してきた取り組みは見事なまでに裏目に出ている。ロシアは(かつての)ウクライナの最もよいところ、つまりクリミアをいいとこ取りでき、今やアメリカと西側の影響から解放された政治勢力を持ちつつある。ウクライナから流れてくるロシア人難民を定住させる必要はロシアの公務員に仕事を与える。もちろん、ウクライナの残虐行為と銃殺刑執行隊のニュースはロシア人を過激化させるきらいがあり、政府はその問題について何らかの対策を表明しなければならないが、ロシア志願兵の組織化と勝利のニュースは問題を軽減することだろう。

 それで、時代は明らかにロシアの味方である。ロシア軍はウクライナに侵入してアメリカの挑発に乗る必要はない。志願兵からなる軍隊は自身の体を大事にしている。そうこうしているうちに、ウクライナは破綻したまま、国とは言えない状態に分解することだろう。ロシアは東ウクライナに工業生産の一部を委託していたが、もう委託していない。一方、ウクライナの西側(ウクライナ語を実際に話す人々が暮らす地域)は農業が盛んで、ここ数ヶ月の混乱で今年の穀物の収穫はひどいものになることが約束されている。

 これに、天然ガスを巡る政治的もつれを加味したまえ。ヨーロッパは天然ガスの3分の1をロシアから調達しており、その半分はウクライナを経由している。少し前にアメリカ人は、ロシアを締め出してヨーロッパへの天然ガス供給を乗っ取る、という精神が錯乱したようなプランを提案した。液化天然ガス用の港の施設とタンカーの建造には10年を要するということを忘れるなかれ。その天然ガスはロシア産の天然ガスの2倍のコストになることを忘れるなかれ。要は、必要不可欠な天然ガスが存在しないということなのだ。アメリカは正味では天然ガスの輸入国であり、在来型天然ガスの生産は絶望的に減耗している。以前にアメリカが将来の天然ガス生産について常軌を逸した声明を発することができたのは、ガズプロム社と戦えるだけの十分豊富なシェールガスあるという皮算用があったからだ。だが、アメリカのシェールガスの埋蔵量は96%減った。物語は終わりだ。だが、その間にもアメリカの高官たちはロシアからヨーロッパへのガス供給を困難にすべく働きかけている。ロシアは新しいパイプラインのネットワークの構築に向けて精を出して働いている。ウクライナを迂回する、いわゆる南回廊だ。だが、アメリカの高官たちはブルガリアにその建設を妨げさせようとした。なぜならば、建設に関わる企業がロシア系だからであり、ワシントンにより制裁が課されたのだ。彼らはまたウクライナの操り人形がガズプロム社と協定を結ぶことを拒否するようにも指導した。ガズプロム社はウクライナにすでに燃やされてしまった天然ガス代金の債務返済を求め(不合理な要求ではない)、そして、前金での支払いを求めるようになっている。ガズプロム社はまたウクライナに他のヨーロッパの顧客が支払う価格と同じ天然ガス価格を申し出た。ウクライナは拒否し、それで今朝、ガスの元栓が閉められたわけだ。西側への経路となるウクライナを通過する天然ガスはまだ流れているが、この流速では、キエフに灯りを点し続けるためだけにヨーロッパが犠牲を払い始めねばならなくなるまでに数ヶ月を残す問題だ。そして、忘れるなかれ、ウクライナは操業中のチェルノブイリ型原子炉をいくつか保有しており、原子炉が止まっても、メルトダウンを避けるためには送電網が機能し続けることを必要とする。そして、戦争が続けば、原子炉は止まるかもしれない。

 誰もが知っているように、予測することは難しいが(とりわけ、それが未来についてのことならば)、しかし、アメリカの外交政策の大失敗の中に既にウクライナを位置づけることは妥当であるように思われる。目下、それはまだゆっくりと進展している失敗だが、それがペースアップすることを私たちは予期すべきである。そして、失敗の規模が拡大することも予期すべきだ。次の冬、キエフの灯りが点らずヨーロッパの大部分が寒さに凍えているようならば、ウクライナの原子炉はメルトダウンの瀬戸際にあり、ヨーロッパの人々が、おそらくアメリカ人は私たちの友などではない、NATO加盟は悪い考えだ、EUとユーロと共にブリュッセルにいるアメリカの胡麻擂りは解雇されるべきだ、と考え始めるかもしれない。そして、このことが2015年の春をとても興味深いものにするだろう。

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