「温暖化物語」が終焉します。いや終わらせなければなりません。 エネルギー政策のなかに入り込んだ温暖化対策が日本を、そして人類を生存の危機に陥れようとしています

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の温暖化問題の研究に携わられておられる杉山大志氏が「温暖化物語」を修正すべしとの正論を発表されました

⓶ 杉山氏は、IPCCが作り上げた「温暖化物語」が、温暖化問題を専門とする研究者と、エネルギー政策の担当者(政治)に共有され、実際にあり得ない「温暖化の脅威」を煽る研究と、この「物語」の実践に必要な多額の国民のお金が使われていることを厳しく指摘しています

⓷ この「温暖化物語」を修正すべしとの杉山氏のお考えは、この「物語」が、IPCCが日本のエネルギー政策を混迷に陥れるようになってすぐから始まった私どものIPCC批判の訴えを正しいと認めて頂いていると考えます

⓸ 杉山氏が訴える「温暖化物語」の修正ではなく、脱却こそが、日本が、そして人類が、やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後の地球上に生き残る唯一の道です

 

(解説本文);

⓵ IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の温暖化問題の研究に携わられておられる杉山大志氏が「温暖化物語」を修正すべしとの正論を発表されました

キャノングローバル戦略研究所研究主幹でIPCC第6次評価報告書総括代表執筆者をなさっている杉山大志氏が、国際環境経済研究所のウエブサイトに、

・杉山太志;「温暖化物語」を修正すべし、ieei  2019/07/01

なる論考を発表されました。

この論考で杉山氏は、いま、温暖化問題について、次のような「物語」が共有されているとして、

“ 地球温暖化が起きている。このままだと地球の生態系は破壊され被害が増大して人間生活は大きな悪影響を受ける。温暖化原因となっているのは、化石燃料を燃やすことで発生するCO2であり、これを大幅に削減することが必要だ。パリ協定では2 ℃以下に温度を抑えることが国際的に合意され、日本政府はこれに向けて2050年までにCO2の排出量を80 %削減する。温暖化対策は待ったなしの状態である。”

と地球温暖化問題の現状を要約したうえで、

“ 政府は、この「物語」に沿って予算を獲得するとともに、温暖化問題を専門とする研究者が、必要な予算を獲得する、政府と研究者の利権構造ができ上っている。この「物語」は反復して強化されると、この「物語」に疑いを持つ人も、信じたふりをして、この「物語」を再生産するようになる。この「物語」は、科学的な真偽を問うことなくつくられたもので、科学のモラルに反する犯罪行為だ。“

と、「温暖化物語」を厳しく批判しています。

この杉山氏は、以前、(財)電力中央研究所の研究主幹として、電力生産技術の研究をなさるかたわら、「環境史から学ぶ地球温暖化(文献 1 )」の著者として、地球気象環境の歴史についてのご研究結果から、いま、起こっているとされる地球温暖化は、永い地球の歴史から見て、人類が対応できるはずだとして、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張する温暖化の脅威には、科学的な根拠がないから、「温暖化物語」は修正すべきとの、この「物語」をつくったIPCCには批判的な立場をとっておられます。IPCCの評価報告書総括執筆責任者でありながら、今回、「温暖化物語」をつくり上げた組織としてのIPCCに真っ向対立する論考を発表されたご英断には敬意を表せざる得ません。

 

⓶ 杉山氏は、IPCCが作り上げた「温暖化物語」が、温暖化問題を専門とする研究者と、エネルギー政策の担当者(政治)に共有され、実際にあり得ない「温暖化の脅威」を煽る研究と、この「物語」の実践に必要な多額の国民のお金が使われていることを厳しく指摘しています

杉山氏は、さらに、IPCCがつくり上げた「温暖化物語」について、この「物語」がつくられたのは、IPCCの報告書が出た1990年頃からで、その内容は、いまもほとんど変わっていないとして、この「物語」の問題点を、次のように纏めています。

 

ⅰ.温暖化が起こっているとされているが、それは、ゆっくりとしか起こっていない。温度上昇幅は、せいぜい100年間で1.5 ℃で、2000 ~ 2013年の停滞後は、エルニーニョ現象で上昇したが、17、18年にはまた下がった。

ⅱ.温暖化は危険ではない。過去100年の温暖化では何の被害もなかった。1990頃には、大西洋の海流の大激変が起こるとされたが、それも起こらなかった。

ⅲ.温暖化は人為的なCO2によるとされるが、それ以外の要因も大きく、本当のことは判っていない。気候変動のシミュレ-ション(巨大な天気予報のようなもの)は不確実性が大きい。シミュレ-ションは、一連の過去の変化を全然再現できていない。地球の気候は複雑で、将来の予測は不確実である。

ⅳ.大幅排出削減は待ったなしではない。「物語」は、この「待ったなし」を言うことが眼目で、そうしないと政府の研究予算がつかない。科学的にわからないことだらけで、被害も起こっていないし、さしたる危険も迫っていないのに、大幅なCO2の排出削減ための再生可能エネルギー(再エネ)電力の生産を促す「再エネ電力固定価格買取制度(FIT制度)」の適用により、電力料金の値上げで、年間2兆円ものお金が国民から徴収されている。

 

「温暖化物語」についての以上の認識の上で、杉山氏は、“ 必要なことは、過去30年の知見の蓄積を科学的(政治的でなく)に踏まえて「物語」を修正する必要がある” としています。さらに、この「物語」の修正に当たって、杉山氏は、“ 科学者は、科学を貫いて、時には一身を賭して、権威・権力と対決しなければならないことがある。ガリレオやダーウインも然りだ。既存の「物語」にぶら下がり、安逸をむさぼることは科学に対する犯罪行為だ。” と、この「物語」の修正に、並々ならぬ決意を述べておられます。

 

⓷ この「温暖化物語」を修正すべしとの杉山氏のお考えは、この「物語」が、IPCCが日本のエネルギー政策を混迷に陥れるようになってすぐから始まった私どものIPCC批判の訴えを正しいと認めて頂いていると考えます

実は、上記(⓵)したように、この杉山氏も、その統括代表執筆者として関係しておられるIPCCの第 5 次評価報告書の問題点について、私どもは、今回の杉山氏の上記論考が掲載されているNPO法人国際環境経済研究所のウエブサイトieei に、この国際環境経済研究所長の故澤昭浩氏のご厚意で、下記のような論考を掲載させて頂いています。

 

・久保田 宏;エネルギー政策の混迷をもたらしている地球温暖化対策 ieei  2013/10/04

・久保田 宏;IPCC第5次評価報告書批判―「科学的根拠を疑う」(その1 ) 地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である ieei  2014/01/15

・久保田 宏;IPCC第5次評価報告書批判―「科学的根拠を疑う」(その2 )地球温暖化のCO2原因説に科学的根拠を見出すことはできない ieei 2014/01/21

・久保田 宏;IPCC第5次評価報告書批判―「科学的根拠を疑う」(その3 )第5次報告書の信頼性を失わせる海面水位上昇幅予測値の間違い  ieei  2014/01/27

・久保田 宏;IPCC第5次評価報告書批判―「科学的根拠を疑う」(その4 )IPCCの呪詛からの脱却が資源を持たない日本が生き残る途である ieei  2014/01/31

これらの論考の内容の詳細については、それぞれの原報を見られたいと考えますが、私どもは、IPCCが、その第5次評価報告書で、「科学の真理」だと主張する人類の生存に大きな脅威となるCO2の大量排出による温暖化の脅威には科学的な根拠がないこと、したがって、IPCCが訴えるCO2の排出削減では温暖化を防げないだけでなく、世界のCO2の排出削減のためとして、IPCCが推奨している化石燃料の燃焼排ガスからのCCS技術(CO2の抽出・分離・埋立技術)を用いて、国民に不要な経済的な負担をかけるこが許されないことを、科学技術者の立場からの定量的な解析結果として示しました。なお、この私どもの批判に対しては、IPCCの国内委員のお一人から、いわれのないクレームが付いたことを付記します。

さらに私どもは、いま、化石燃料の枯渇が言われるなかで、IPCCが温暖化の脅威になると訴えるCO2の排出量を与える化石燃料が地球上には存在しないのではないかとの素朴な疑問を持ちました。そこで、日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献2 )と略記)に記載されているBP(British Petroleum)社による2010年の化石燃料の「確認可採埋蔵量(現状の技術と経済力で採掘可能な資源量)」の値を用い、これを使い尽くした時に発生するCO2の排出総量を試算したところ、3.23兆トンと計算されました。このCO2の排出量では、IPCCの第5次評価報告書の地球温暖化のシミュレーションモデルから計算される地球気温上昇幅は、1.6 ℃ 程度に止まることが判りました。すなわち、IPCCが訴えるような温暖化の脅威は起こり得ないのです。すなわち、人類の生存に脅威を与える温暖化が起こる前に。この温暖化の原因となるCO2を排出する化石燃料を経済的に掘り出すことができなくなるのです。

結論として、私どもは、

・久保田 宏:温暖化より怖いのはエネルギー資源の枯渇だ ieei  2014/03/14

なる論考をieei に投稿させて頂きました。

しかし、このIPCCが訴える温暖化のCO2原因の仮説が日本のエネルギー政策を混迷に陥れているとの私どもの主張は、国のエネルギー政策の担当者、エネルギーの専門家とよばれている先生方、そして、メデイアにも受け入れえて貰えませんでした。

今回、この私どもの訴えを支持して下さっているのが、上記(⓶)した、杉山氏の主張する「温暖化物語を修正すべし」ではないかと考えます。

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⓸ 杉山氏が訴える「温暖化物語」の修正ではなく、脱却こそが、日本が、そして人類が、やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後の地球上に生き残る唯一の道です

上記(⓷)の私どもが訴えるCO2の排出原因となる化石燃料の「確認可採埋蔵量」については、今後、科学技術の進歩により、その値が増加するとの反論が予想すされました。そこで、私どもは、エネ研データ(文献 2 )に記載のIEA(国際エネルギー機関)の石油換算の一次エネルギー消費量のデータをもとに、この化石燃料を今世紀いっぱい、その年間平均消費量を、現在(2012年)の値に止めた場合の累積CO2排出量を試算してみました。すると、この値は2.99兆トンとなり、IPCCのシミュレ-ションモデル計算で与えられるCO2に起因する気温上昇幅を1.4 ℃ 以下に止めることができることが明らかになりました。すなわち、世界中の全ての国が協力して、今世紀いっぱいの化石燃料の平均年間消費量を2012年の値に抑えることができれば、IPCCが主張する温暖化のCO2原因の仮説が正しいと仮定しても、彼らの主張するような温暖化と、それに伴う人類にとっての生存の脅威は起こらないことになります。と同時に、いま枯渇が言われている化石燃料を今世紀いっぱい使い続けることができるのです。

すなわち、人類にとって本当に怖いのは、IPCCが訴える温暖化ではなく、化石燃料の枯渇に伴う、その国際市場価格の高騰による配分の不均衡と、それに基づく国際的な貧富の格差で、それが、アルカイダに始まりISに至る国際テロ戦争として、すでに始まっているのです。

これを解消する唯一の方法として、私どもは、地球上に残された化石燃料を、全ての国が公平に分け合って大事に使うとする「世界の化石燃料消費を節減する対策」を実行することだとしています。具体的には、いま、トランプ米大統領以外の全ての国の合意のもとで進められている「パリ協定」の各国のCO2排出量削減目標に替えて、「2050年を目標に、全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を、2012年の世界平均値に等しくする」ことだとしています。これらの私どもの研究結果について、上記(⓷)のieei への掲載を希望しましたが、国際環境経済研究所長の澤氏が亡くなられてから、私どもの投稿ができなくなっていましたので、その概要をまとめて私どもの近刊(文献 3 )に発表しました。

しかし、この私どもの主張は、その発表後、すでに、5年以上経ちますが、日本のエネルギー政策の改訂には反映させていただけていません。これが、受け入れて貰えないのは、日本のエネルギー政策に携わるお役人、エネルギーの専門家とよばれる方々(敢えて研究者とよびません)、そして、メデイアとよばれる評論家、全ての人が、上記(➂)したように、杉山氏の言う「温暖化物語」にぶらさがって安逸をむさぼっていて、地球温暖化を防ぐためには、何が何でもCO2の排出量の大幅削減が必要だと考えているからだと言わざるを得ません。

日本が、そして人類が、やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後の世界に生きのびるためには、杉山氏の言う「温暖化物語」から脱却して、私どもが主張する「世界の全ての国が協力して化石燃料消費を節減する対策」の実行を、世界各国の合意のもとで進められている「パリ協定」のなかに取り入れて頂く以外にありますん。杉山氏のご理解とご協力をお願いします。

 

<引用文献>

  1. 杉山太志;環境史に学ぶ地球温暖化、エネルギーフォーラム、2012年
  2. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2019年
  3. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科 学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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