人類生存危機の到来

田村八洲夫  2016年2月

1 人類の危機レポート『成長の限界』の予測
現実に進んでいる石油文明崩壊の危機は、1972年にローマクラブが刊行した「人類の危機レポート『成長の限界』」の将来予測と大局的に符合する。ローマクラブは、資源・人口・経済・環境破壊等の全地球的な課題に対処する目的で、世界の各分野の学識者100名で、1970年に正式設立された民間のシンクタンクである。「成長の限界」の将来予測は、ローマクラブが米国マサチュセッツ工科大学のデニス・メドウズを主査とする国際チームに委託してなされた研究成果である。その要点は以下の通りである。
・世界の石油・石炭・鉱物を含む地下資源の生産は2020年にピークにいたり、一人当たりの工業生産、および農業生産も20年ころにピークに達する。地下資源に依存した物質的に過剰に豊かな文明、現代文明のピークである。
・その後、地下資源の生産の減少と同様な傾向で、一人当たりの工業と農業の生産量が減少していくが、生産量の総量が過剰なあいだは世界人口が増えつづける。そして、2050年に過剰量が払底して世界人口が100億人でピークにいたる。地球環境汚染も増えつづけて2035年にピークに達し、地球の環境収容力が最も縮小する。
・2050年以降、資源の減少とともに、農業生産の総量と工業生産の総量が、それぞれ減少する。そして、一人当たりの必要最低限の農業生産量を維持しながら、世界人口は急速に減少していく。
石油ピークは2005年であったが、地下資源の生産ピークが2020年になるのかどうか、そして、地下資源の生産ピークが工業生産の総量、および石油依存の農業生産の総量のピークが対応しているのかどうかわからない。しかし農業生産には、地球環境の汚染や破壊に伴う食糧生産基盤の劣化が強く影響しよう。地下水過剰揚水による灌漑農業の危機、砂漠化による農牧地の減少などである。
世界の穀物消費量は、途上国の人口増加、肉食の増加等に伴って増加しており、生産量は、主に反収の伸びによって消費量の増加に対応してきている。2017年の世界人口約71億人に対する消費量は25.4億トンで、生産量25.6億トンに拮抗している。しかし、現在の世界人口71億人に一人当たりの年間標準穀物量180kgを平等に分配すれば、消費量は約13億トンで足りる。この穀物消費量と標準総量との差の約12億トンは「過剰総量」であり、それは、①標準量を越えた過食量の増加、②家畜飼料の増加、③食料廃棄によるものである。それでも、FAOによると飢餓での死者が1年間に1500万人以上にのぼり、栄養失調が8億7千万人も出ている。これが「穀物分配量格差」の深刻な現実である。
今後、環境破壊による食糧生産基盤の劣化が続いて、反収が向上しても食料生産量は減少していくであろう。しかし「過剰総量」が切り詰めることができる分、世界人口は増え続けていく。「人類の危機レポート『成長の限界』」によると、それが2050年における100億人ピーク、標準総量18億トンということである。
地球環境汚染は、地球の自然環境破壊であり、人類の食糧生産基盤の劣化、および環境変化に脆弱な生物種からの絶滅による生物多様性の劣化が伴う。汚染がピーク後に緩和されても、汚染された環境が「可逆的」に復元されていくわけではない。

図表1「成長の限界」

 

2.人類の絶滅危機を乗り越えよう
2020年以降の21世紀は、どんな世界になるだろうか。世界人口が100億人となる2050年は、「石油文明の崩壊危機」という、人類社会の内部構造の盛衰、破綻というレベルことだけではない。文明活動による地球環境破壊に起因した「生物多様性の崩壊」が招く「生物種としての人類存続の危機」である。すなわち、過去の5回にわたる地球生命絶滅が生物にとって不可抗力な気候変動によるものであった。しかし、差し迫っている「第6地球生命絶滅の危機」は、人類文明の破たんが引き起こしている。この人類の犯罪について、改めて以下にレビューする。
スタンフォード大学、プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校の専門家らの研究によると、その共著論文において、「地球では現在、恐竜が絶滅して以降、最も速いペースで生物種が失われており、6回目の大量絶滅に突入していることを示している。」としている。図表2で、現在の生物種の絶滅のスピードの異常さがわかる。そして、「すでに脅威にさらされている生物種を保護するため、生息圏の喪失や経済的利益のための搾取、気候変動など、生物種にかかっているそうした圧力を緩和する集中的な取り組みが早急に必要」だと呼び掛けている。(以上はhttp://www.afpbb.com/articles/-/3052392 2015年6月22日の記事をまとめたもの)
石油文明の経済行動が、森林の過伐、海洋劣化、耕作地劣化、砂漠化拡大を起こし、生物の生息地が侵された。その結果、生物の多様性が劣化し、食物連鎖のネットワークの喪失進んで、生物の大量絶滅が目の前で進行している。
生息環境が変われば、高等動物ほど絶滅しやすい。下等動物ほど変異して絶滅の危機を乗り越えて種の生命をつないできている。ウイルスや細菌がそうである。すでに鳥インフルエンザウイルスの変異によって人への伝染が危惧されている。今後、人類は変異する
生物種の絶滅のスピード
時 代 年間の絶滅数 種の絶滅スピード
恐竜時代 0.001種/年 1000年に1種
隕石消滅後 10~100種/年 恐竜絶滅に60万年
一万年前 0.01種/年 100年に1種
1,000年前 0.1種/年 10年に1種
200年前 0.25種/年 4年に1種
40年前 1,000種/年 9時間に1種
20年前 40,000種/年 13分に1種
様々なウイルスと細菌の攻撃を招いて、人類絶滅、さらに「地球生命の第6の大量絶滅」を呼び込むものと怖れる。専門家はそれに気付いていると思う。
図表2
時 代 年間の絶滅数 種の絶滅スピード
恐竜時代 0.001種/年 1000年に1種
隕石消滅後 10~100種/年 恐竜絶滅に60万年
一万年前 0.01種/年 100年に1種
1,000年前 0.1種/年 10年に1種
200年前 0.25種/年 4年に1種
40年前 1,000種/年 9時間に1種
年代の予測に多少のズレが生じても、いずれ「文明崩壊の危機」と生物的な「人類絶滅の危機」が露わになり、人類は飢餓恐怖の中で生き残りを賭けて食料を奪い合い、殺し合うのではないか。そして人類の蛮性が、数百万年かけて積み上げてきた知性を失い、ヒステリーに陥ってジェノサイドを起こし、核兵器が飛び交うことになれば、地球は人類の自殺行為によって、「地球生命の第6の大量絶滅」に至る。フィクションだと片づけられまい。
6500万年前、爬虫類の絶滅は巨大隕石という宇宙的原因による気候変動が起こした不可抗力な事件だった。人類の破滅は、石油文明の最大の「負の遺産」である地球環境破壊によっても起こり、人類の産みの親であり、共生の仲間である生物界を巻き込んで進んでいる。
しかし、そのような犯罪を防止できうる潜在能力を人類の知恵が持ち合わせているのも事実である。
その知恵で、石油文明の崩壊を防ぎ、ポスト石油文明社会、すなわち「脱浪費もったいない社会」に、平和的に移行することが人類絶滅を防ぐための必要条件である。

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