「自然エネルギーの利用・拡大」が無くとも、小泉元首相らの訴える「原発ゼロ」のいますぐの実現は可能ですし、実現しなければなりません

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・事務局長 平田 賢太郎

(要約)

① 小泉元首相らが提言する「原発ゼロ法案」は、同時に、「自然エネルギーの利用・拡大」を訴えています。しかし、この「自然エネルギーの利用・拡大」が進まないことを理由として原発の再稼働を進める安倍政権は、この小泉元首相らの提言を無視しています

②  化石燃料を用いない「自然エネルギーの利用・拡大」が前提とされる限り、いますぐの「原発ゼロ」を達成することは困難です。それは、「自然エネルギーの利用・拡大」だけで、国民が、いま、必要としている電力を賄うことが難しいからです。これが、安倍政権が、小泉元首相らの「原発ゼロ法案」の実現を不可能としている理由です

③ アベノミクスのさらなる成長が求められない限り、原発の再稼働の停止を含めた「原発ゼロ」の実現のための「自然エネルギーの利用・拡大」は不要です

④ 日本と人類の未来を破滅から救うための「原発ゼロ」は、「自然エネルギーの利用・拡大」を待たずに、いますぐ実現されなければなりません

 

(解説本文)

① 小泉元首相らが提言する「原発ゼロ法案」は、同時に、「自然エネルギーの利用・拡大」を訴えています。しかし、この「自然エネルギーの利用・拡大」が進まないことを理由として原発の再稼働を進める安倍政権は、この小泉元首相らの提言を無視しています

新春(2018年)1 月10日に発表された、小泉元首相らによる提言「原発ゼロ」の実現は、残念ながら、多数の国民の反対を押し切って、3.11福島事故後に運転を停止した原発の再稼働を強行しいる安倍政権には、殆ど打撃を与えていないようです。

今回の小泉元首相らの提言「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案(以下、「原発ゼロ法案」と略記します)」は、その名の示す通り、3.11福島事故の後、国民の反対で運転ができないでいる原発の再稼働の停止を含む「原発ゼロ」の実現とともに、太陽光や風力などの自然エネルギーを最大限、かつ可及的速やかに導入するとした上で、自然エネルギーの電力化率(電源構成のなかの自然エネルギー電力の比率)を2030年までに50 %、2050年までに100 %にするとの具体的な数値目標まで提示しています。

すなわち、自然エネルギー電力の利用をこの目標数値まで拡大することを、「原発ゼロ」実現の前提条件としています。しかし、考えて下さい。もともと「自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー(再エネ)の利用・拡大」は、いま、国際的な合意を得て進められている地球温暖化対策としての温室効果ガスCO2の排出を削減することが目的なのです。

いま、アベノミクスのさらなる成長のためのエネルギー源として、どうしても、原子力エネルギーが必要だとして、原発の再稼働を進めている安倍政権も、このCO2の排出削減のための「再エネ電力の利用・拡大」を懸命に進めています。

しかしながら、安倍政権は、市販電力料金の値上げで、国民に経済的な負担を押し付ける「再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下FIT制度)」を適用してみても、思うように、この「再エネの利用・拡大」が進まないので、その不足分を、再稼働を含む原発電力の生産で補う必要があるとしています。これが、安倍政権が、小泉元首相らの「原発ゼロ法案」を無視している理由と言ってよいでしょう。

 

②  化石燃料を用いない「自然エネルギーの利用・拡大」が前提とされる限り、いますぐの「原発ゼロ」を達成することは困難です。それは、「自然エネルギーの利用・拡大」だけで、国民が、いま、必要としている電力を賄うことが難しいからです。これが、安倍政権が、小泉元首相らの「原発ゼロ法案」の実現を不可能としている理由です

日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 )と略記)に記載のIEA (国際エネルギー機関) により与えられている「世界の電源構成(発電量ベース)」のデータから、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を用いた火力発電以外の原子力、水力、地熱・風力他、バイオマスと分類されている(以下、「非化石電力」とよぶこにします)発電量合計の総発電量に対する比率を「非化石電力比率」とよぶことにして、日本とともに、エネルギー消費の大きいEU、中国、および米国を加えた各国の最近の「非化石電力」の値の年次変化を 図1に示しました。ただし、日本における2030年および2050年の「非化石電力比率」)の値は、小泉元首相らの「原発ゼロ法案」に提示されている「自然エネギー電力の利用比率の目標値です。

注;1)本文中に記したように、1EAデータとして与えられた「世界の電源構成(発電量ベース)」から、化石燃料を用いた火力発電以外の発電量合計の総発電量に対する比率を「非化石電力比率」としました。 2)2030年、および2050年の日本の「非化石電力比率」の値は、小泉元首相らの提言する「原発ゼロ法案」の「自然エネルギー電力の利用比率の目標値」です。3)EUの値は、2014年まではEU27,2015年以降はEU28の値です。

 

1 日本およびEU(、米国、中国の「非化石電力比率」の年次変化, (エネ研データ(文献1)に記載のIEAデータをもとに作成)

 

この図1に示した「非化石電力」のなかには原子力(原発電力)も含まれていますから、3.11福島の事故で、この原発電力の大部分が失われた後の日本の「非化石電力比率」の現在(2014年)の値は、ここに示す4ヶ国のなかで最も低い値を示しています。

ところで、この図1に示す各国の「非化石電力比率」の値の年次増加の目的は、いま、世界で国際的な合意のもとで進められている地球温暖化対策としてのCO2の排出削減のための「自然エネルギーの利用・拡大」の目的と一致します。これは、日本でも同じで、いま、日本政府は、「自然エネルギーの利用・拡大」に懸命に努力しています。それが、EUより10年近く遅れて採用された「再生可能エネルギー(再エネ)固定価格買取制度(FIT制度)」の適用による「再エネ(自然エネルギー)の利用・拡大」です。

ところが、市販電力料金の値上げにつながるこのFIT制度の適用によっても、思うように再エネ電力の利用が拡大しないとの厳しい現実に直面している安倍政権は、地球温暖化対策としての再エネ電力の利用・拡大のなかに、原子力(原発電力)を入れざるを得ないとしています。すなわち、いま、地球温暖化対策としての「パリ協定」の国際公約を実行するための資源エネルギー庁の「長期エネルギー需給見通し」に記載されている2030年度の電源構成の目標数値は、再エネ電力が22~24 %、原子力が20 ~22 %とされています。

しかし、この目標数値は、地球温暖化対策としてのCO2排出削減、すなわち、化石燃料消費の節減のための自然エネルギー(国産の再エネ)電力の利用・拡大の目標数値なのです。これに対して、「原発ゼロ」を目的とした場合は、「原発電力」の代替は再エネ電力だけでなく、化石燃料を使用してもよいのです。すなわち、地球温暖化と、原発の使用とどちらが日本にとって、さらには、人類の生存にとって怖いのかを比較するとき、地球温暖化を最小限に止める範囲内で、化石燃料を使用することができるのです。このように考えると「原発ゼロ」を実現するための条件として、地球温暖化対策としての2030年の再エネ電力の利用比率50 % の目標数値とは無関係に、「原発ゼロ」のエネルギー政策が、いますぐ実現されるべきなのです。

これを言い換えると、今回の小泉元首相らが提言する「原発ゼロ法案」が、「自然エネルギーの利用・拡大」を前提とする限り、「原発ゼロ」が、当分は実現できないことになります。悲しいことです。

 

③ アベノミクスのさらなる成長が求められない限り、原発の再稼働の停止を含めた「原発ゼロ」の実現のための「自然エネルギーの利用・拡大」は不要です

上記(②)の図1に示すように、いま、日本においては、ほぼ「原発ゼロ」の条件下で、すなわち、原発電力を含まない「非化石電力」だけで、国民の生活と産業用に必要な電力を賄うには、相当な時間(年数)が必要になります。これは、日本だけの問題ではありません。原発電力を利用している世界各国の「非化石電力比率」の年次変化を示す図2に見られるように、世界の原発電力を使用する全ての国に言えることです。

 

注;エネ研データ(文献1 )に記載の1EAデータとして与えられた「世界の電源構成(発電量ベース)」から、化石燃料を用いた火力発電以外の発電量の合計の総発電量に対する比率を「非化石電力比率」としました

世界各国の「非化石電力比率」の年次変化 (エネ研データ(文献1)に記載のIEAデータをもとに作成)

 

これを言い換えれば、今回の小泉元首相らが提言する「原発ゼロ法案」が「自然エネルギーの利用・拡大」を前提とする限り、当分は実現できないことになります。

ところで、現状の日本は、ほぼ、「原発電力ゼロ」の状態のもとで、生活と産業用の電力に不自由していません。これは、実は、図3に示すように、原発電力を含む電気事業用の電力で、原発電力の3倍近い発電容量のある火力発電が、夏場の電力需要のピークに対応するために、下記に定義される

(年間平均設備稼働率)=(年間発電量kWh)/ (発電設備の設備容量kW)

/ (年間時間(365 日/年)×24 h/日)                                                         ( 1 )

の値が、50 %程度で運転されていたものを、3.11以後(2011年度以降)、原発電力のほぼ全量が失われるなかで、60 %程度に上げることで国民の電力需要を賄うことができたからです。したがって、今後、国民が、アベノミクスのさらなる成長による電力の増加を求めない限り、原発の再稼働の停止を含めた「原発ゼロ」のための「自然エネルギー電力の利用・拡大」の必要はないのです。

注; 本文中に示すように「年金平均設備稼働率」の値は、(年間平均設備稼働率)=(発電量kWh/年)/(発電設備容量kW)/(8,760 h/年)

3 電気事業用電力の原子力発電および火力発電の「年間平均設備稼働率」の年次変化 (エネ研データ(文献1 )に記載のデータをもとに計算、作成)

 

④ 日本と人類の未来を破滅から救うための「原発ゼロ」は、「自然エネルギーの利用・拡大」を待たずに、いますぐ実現されなければなりません

いま、世界で、「自然エネルギーの利用・拡大」が求められているのは、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減のためです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)は、世界が現状の化石燃料消費の増加を継続すれば、地球上の気温が上昇して生態系に不可逆的なダメージを受けると訴えてえています。しかし、私どもの計算では、世界の全ての国が協力して、世界の化石燃料の年間消費量を、今世紀いっぱい、2012年の値に抑えれば、IPCCが訴える地球気温の上昇を起こすようなCO2の排出はありません。

その具体化の方法としては、いま、地球温暖化対策として国際的な合意のもとで進められている「パリ協定」のCO2排出削減量の目標を、私どもが提言している化石燃料消費の削減に代えればよいのです。また、この世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減こそが、「パリ協定」CO2排出削減を実行可能とする唯一の方法なのです。詳細は、私どもの近刊(文献2 )を参照して下さい。

繰り返しになりますが、今回の小泉首相らの訴える「原発ゼロ法案」の実現は、地球温暖化対策として進められている「自然エネルギーの利用・拡大」とは無関係です。すなわち、「自然エネルギーの利用・拡大」の前提無しで、「原発ゼロ」は実現できるのです。いや、3.11福島に見られる大きな事故リスクのうえに、使用済み核燃料廃棄物および廃炉の処理処分の方法とコストが不明のまま進められている日本のそして人類の未来を破滅に導きかねない、原発の再稼働を含む「原発保持のエネルギー政策」は、いますぐ、廃止されなければなりません。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2017、省エネセンター、2017年

.久保田 宏、平田賢太郎、松田智;「改訂・増補版」化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――、Amazon 電子出版、Kindle、2017年

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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