Ugo Bardi氏の『ギリシャ:仲間内で迷惑をかける国ではない』

 目下、ギリシャの経済問題がマスコミを騒がせているが、思い起こせば、2009年10月のギリシャ政権交代による国家財政の粉飾決算の暴露からユーロ危機は始まった。しかるに、この度の騒動はこれまでのように問題を封じ込めることがいよいよできなくなったということを示唆しているわけだが、このことは成長を前提とする金融の仕組みと資源・エネルギー制約ゆえに成長し得なくなった生産活動の齟齬として解釈可能ではないか。
 本稿はローマ・クラブおよびASPO(association for the study of peak oil)のメンバーで、フィレンツェ大学地球科学学部の物理化学の教授であるウーゴ・バルディ氏のブログRESOURCE CRISIS 2015年7月2日付けの記事"
Greece: not the bad apple of the bunch" を訳したものである。現代の経済問題を考えるには「成長の限界」モデルを思い出す必要があるという見解が示されている。


Image by Vicky Brock

 ギリシャの財政状況についてのこの頃の議論はしばしばギリシャを他のユーロ圏と争わせようとするきらいがある。たとえば、Joergen Oerstrom Moeller氏は次のように書いている。

  2010年以来、ユーロ圏の経済は縮小から成長へと回復し、2015年の成長率の予想は1.5%、バンキングユニオン創設の取り組みはうまくいっており、防波堤となる対策が導入されている。

そして、

 ギリシャがEU加盟国の主流派によって採用された目的と手段を組み込んで自国の経済をリストラするつもりがないならば、なにゆえユーロ圏がギリシャを救済しなければならないのか?加盟国の残りが実施している経済のあり方と同様の経済活動に取り組むことを一貫して絶えず拒否しているメンバーを持つことの長所は何だろうか。アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアはすべて痛みの伴う改革を経て、はるかに改善された経済状況と明るい未来展望に報われているではないか。同じことをギリシャに要求しない議論は、一体どういうことなのだ?

 残念ながら、データはこれとは異なることを物語っている。経済問題を抱えているのはギリシャだけではなく、南ヨーロッパの国々は同様の傾向を示しているのだ。たとえば、一人当たりGDPについて見れば、ギリシャの落ち込みは他の南欧の国々より急峻ではあるものの、定性的に異なるというわけではない。(図はGoogle public dataによる)

 これだけでは十分でないならば、工業生産のデータ(出典:Bilbo Economic Outlook)を見てみよう。たしかにギリシアは落ち込んでいるが、イタリアもスペインもそうだし、フランスだって良好というわけではない。

  他にも同様の傾向を示すデータがある。要するに、ギリシャは仲間内で迷惑をかける国というわけではなく、単に2008年の危機の後で回復できなかった国々の中で最も弱い加盟国ということなのだ。

 ごく最近の投稿の中で私がギリシャについて書いたように、財政問題はより深刻な問題が顕在化した一つの現象にすぎないかもしれない。この問題は、最初のバージョンとしては1972年に公表された「成長の限界」と題する研究の中で、ずっと前から既に認識されていたことだ。「成長の限界」モデルの結果(下はその2004年のバージョン)は、南ヨーロッパの国々のGDPや工業生産の指標に観察された減退と同様なのだ。

 「成長の限界」モデルが現状を表しているならば、ギリシャの衰退はユーロやギリシャ政府の悪政に関連した問題の直接的な結果ではない。むしろ、衰退の根本原因は、汚染を抑制するコストの上昇並びに天然資源とりわけエネルギー資源の生産コストの漸増であると特定される。  

 これらの要因は先ず弱い経済を直撃するが、疑いもなく、ギリシャはその一つである。他国よりも弱いだけで、その経済構造において違いがあるわけではないのだ。それゆえ、この問題は財政政策によって解決が導かれることはなく、私たちは問題の根っ子を直視する必要がある。私たちは世界経済を化石燃料依存から脱却させ、減耗著しい資源に依存しない「循環型」経済に変革しなければならない。それは可能である。(たとえば、Ellen McArthur財団の最近のレポートに述べられている。)だが、もっと早く取り組み始めるべきだった。今となっては遅すぎて、ギリシャは大きなダメージを避けられないかもしれない。(そして、おそらく、世界の他の国々もそういう羽目に陥るかもしれない。)

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