TPPの荒波にも負けない農業とは何か

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とは経済社会のさらなるグローバル化を象徴するような動きですが、グローバル経済と言うものはあくまでも低価格エネルギーと言うものの存在下で運輸通信の費用が極めて安くつくと言う条件で存立しているものです。

TPPに日本が参加するかどうかを検討するにあたり、関税の相互完全廃止という大きな変革の中で日本の農業というものが守られるかどうかということが大きな論議を呼んでいます。

政府の方針は、TPPに参加はしても個別の農産物(米など)は保護するということで乗り切って他の旨味だけは吸っていこうということのようですが、果たしてそれが他国に対して通るかどうかというところでしょうか。

 

さて、その議論の中では食物を作り出す”農業”というものがその他の産業と同じように経済原則(安く売れるものが席巻する)に律せられて良いものかどうかという事が多くの人々の心の中で疑問を生み出し、それで反対という態度を取る人が多いものと思います。

 

そのような一見感情論のようにも見える意見ですが、その中には大きな真理が潜んでいるかもしれません。

一言で言ってしまえば、現在の”経済的に優位な農産物”というものは安価なエネルギーにより作り出されたものであり、エネルギー価格が変動すれば当然大きく価格も変動(上昇)するはずのものだということです。

 

石炭や石油などの化石燃料が広く使用されるまでの時代には、食糧生産も容易ではなかったものです。それが、安価なエネルギーが広く使われるようになって、農業機械の運用、栽培用水の利用(ポンプの使用、機械を使った土木工事等)、肥料使用(窒素肥料の合成、カリ・リン肥料の採掘および運搬)、温室などの設備運転による人為的な温度付加や二酸化炭素付加、農薬の製造・散布といった、農業の各段階におけるエネルギー使用が始まりました。今では昔の食糧生産の苦労もまったく忘れられているようです。

 

主に安価な石油を使うことにより農業の効率化が進み生産性が向上しました。産業の一種としての「農業」が初めて始まったとも言えるかも知れません。それが実施された先進地域(アメリカなど)はそれを取り入れることができなかった他の地域と比べると格段に安い農産物を生産できるようになりました。

 

今のTPP交渉では、この動きの最先端の農業生産物と価格競争をして行こうというものです。その結果としてもっとも効率的な生産地域に農業生産を集約しようとするものです。たしかに、今のエネルギー事情が続く限りにおいては、こういう方向性は間違いとはいえません。

しかし、こちらの学会の中でも議論されているように、安価なにエネルギーが得られる時代というものはいつかは終わるものと考えられます。

そうなるといかに現在先進的な農業生産地域とされているアメリカ等でもこれまでのような生産体制は続けることができないでしょう。

 

そうなったらどういうことになるのでしょうか。TPPにより、今の低価格エネルギーに依存した体制で安く農産物を生産できる国だけに農業生産を任せるという選択をした場合はその他の国の農業は次々と破綻して行くでしょう。

そのあとでエネルギー価格が天井知らずの上昇を始めたらもはや食糧を他から調達もできず、高いものを買っていかないといけないということになります。しかも必要な数量が生産できるという保障もありません。

そのような事態になった時に、今のTPPが目指すような国際的な分業体制(農業はあちら、工業はこちらというような)が確立していたとすると食糧の供給不足が避けられない可能性があると考えられます。

仮に今回のTPPが発効しないとしても、エネルギー価格上昇時代が来ればその影響は甚大なものになるでしょう。しかし、もしもTPPが動き出していたとすると、その災禍はさらに甚大なものになる可能性があります。農業はできるだけ”業”の範疇から除き、”食を作る”ことは身近に取り戻すこと、それが課題であり、できるだけ早く動き出す必要があるということです。

 

100年先どころか、10年先、5年先の見通しも怪しい政治家の連中には何を言っても無駄かも知れません。しかし”こうなるかもしれない状況”というものを提示することで今判断すべき選択をできるだけ間違いの無い方向へ誘導するのは、先の不安を見通すことができる者の義務かも知れません。

今必要なのは、経済とは関係のない農業、いわば「家庭菜園農業」とでも言うべきかも知れません。それである程度の食べ物を確保できる社会に向かっていくことがエネルギー高価格時代と言う破綻の影響を少しでも和らげるために取れる対策だと思います。

 

追記:本文は現在の日本の農業を守るためにTPPには参加するなと言う趣旨ではありません。エネルギー供給不安から農業に大きな影響が出るとすると、それがもっとも強く現れるのは実は日本農業です。それはすでにこれまでにも現れつつあるようです。石油価格上昇でハウスの暖房燃料が不足したり、農業機械運転の燃料費がかかったりして農家はかなり苦しくなっていると言うニュースが頻発しています。

今後もそれは続くでしょう。いくら「高いものでも品質が良ければ売れる」などといっても限度があります。

 

 

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