日本のエネルギー政策の混迷を正す(補遺その4) 北海道胆振東部地震で、原発用の揚水発電設備が水力発電用に用いられました。再稼働の廃止を含む「原発ゼロ」が実施できれば、原発用の揚水発電設備を水力発電用に使うことで、半永久的に使える真の再生可能な水力発電電力を得ることができます

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 水力発電の設備能力が増加しても、水力発電量は増えませんでした。それは、水力発電設備が原発用の揚水発電設備として使われているからです

② 3.11 原発事故の後も揚水/原発比は一定に保たれ、いや、むしろ増えています。いま、政府が進めている原発の再稼働に備えるためです

③ 揚水発電設備を水力発電に用いたときの水力発電量の値を推定するために、この揚水発電設備の水力発電設備としての設備稼働率の値を推定してみました

④ 「原発ゼロ」を実現できれば、原発用の揚水発電設備を水力発電用に活用することで、半永久的に使える真の再生可能な電力としての水力発電量を増やすことができ、電力会社にとって、原発の再稼働に勝る経済的な利益となるはずです

 

(解説本文);

① 水力発電の設備能力が増加しても、水力発電量は増えませんでした。それは、水力発電設備が原発用の揚水発電設備として使われているからです

日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文獻1 )と略記) の2017年版に記載の国内電力需給データから、一般電気事業者の水力発電能力(発電設備容量)の値と(水力発電量)の年次変化を図1 に示しました。ただし、発電量と発電能力の間には、次式の関係があります。

(発電量kWh)=(発電設備容量kW)×(8,760 h/年)×(発電設備稼働率)   ( 1 )

水力発電能力と発電量の年次変化(エネ研データ(文獻1 )2017年版に記載

の国内電力需給データから、一般電気事業者の値をもとに作成)

 

この図1 に見られるように、水力発電の設備容量が年次増えているのに、水力発電量は、1980年以降は殆ど増えていません。実は、この水力発電容量の値の中には。電力の需要変動に応じて供給量(出力)を調整するための揚水発電の設備容量が含まれています。

この揚水発電とは、電力需要と供給(出力)をバランスさせるために、出力が需要を上回る時に、一時的に、その余剰電力を使って、水をダムの下部の調整池から、上部のダムに汲み上げ、その水力を使って需用時の電力を生産する設備です。もともと、電力の生産は、水力が主体でしたが、電力需要量が増えるにつれて火力発電が用いられるようになり、その生産電力を需要負荷の変動に対応して有効に利用するために、揚水発電設備が用いられるようになりました。しかし、この揚水発電が、大規模に用いられるようになったのは、原発電力が用いられるようになってからです。需要負荷変動への対応力の弱い原発電力は、夜間の需要の少ない時間帯の余剰電力を貯留するための揚水発電が原発電力の利用効率を高めるために、原発電力の利用が始まった1970年度代以降、原発設備能力(容量)に対するほぼ一定比率の揚水発電設備が用意されてきました。結果として、エネ研データ(文獻1 )に、この揚水発電の設備容量の値が記載されるようになった2017版のデータ用いて作成した図2に見られるように、水力発電設備のなかで、電力生産には直接寄与しない揚水発電設備容量の比率が増加するとともに、図1 に見られるように、水力発電の発電量が増加しなくなっています。

揚水発電設備容量の対原発設備容量の比率(揚水/原発比)および揚水発電設備容量の対水力発電設備容量の比率(揚水/水力比)の年次変化、全国 (エネ研データ(文献1 )に記載の国内電力需給データをもとに作成)

 

しかし、この図2 に示したのは、国内平均の値で、揚水/原発比、揚水/水力比の値は、共に電力会社ごとに違っています。3.11以前の2010年度の各電力会社別の値を表1 に示しました。

 

表1 2010年度の各電力会社別の揚水発電の対原発発電設備容量の比率(揚水/原発比)と揚水発電設備容量の対水力発電容量の比率(揚水/水力比)の値 (エネ研データ(文献1 ) の2017年版に記載の電力需給のデータから、一般電気事業者のデータをもとに作成)

② 3.11 原発事故の後も揚水/原発比は一定に保たれ、いや、むしろ増えています。いま、政府が進めている原発の再稼働に備えるためです

上記(①)したように、現状の揚水発電の設備は、殆どが原発用だと言ってもよいでしょう。この状況の中で起こったのが、3.11の原発事故でした。それ以降、事故を起こした福島第一原発だけでなく、他の原発も、定期点検後の再稼働ができなくなり、現状では、国が新しい安全基準に合格したと認められたうえに、差し止め請求裁判に打ち克って稼働が許されている以外の殆どの原発が稼働を休止した状態が続いています。しかし、この状態で、すなわち、原発が稼働していない状態で、揚水発電設備が、そのまま保持されているのです。各電力会社が、いま稼動を停止している原発を再稼働させようとしている政府の方針に忠実に従っているのです。

そのなかで起こったのが、今回(2018/9/6)の北海道胆振東部地震でした。3.11以前、北海道内の電力の1/2近くを供給していた泊原発が稼動を停止中で、道内電力の85%程度を担っていた火力発電、その主力の厚真火力発電所が震源地に近かったため、地震による被害を受け、一時、道内全停電(ブラックアウト)を招きました。この時に、この地震被害からの電力の回復事情を説明する世耕経産相の口から出て来たのが、原発用の揚水発電の水力発電としての利用でした。詳細な説明はありませんでしたが、この電力生産で計画停電を免れたとのことでしたから、現在、遊休施設となっている原発用の揚水発電施設を活用することで、一定の電力供給が得られることが証明されたと考えてよいでしょう。

図2に示した全国平均の値と同様、旧北海道電力管内における揚水/原発比および揚水/水力比の年次変化を図3 に示しました。 この図3 に見られるように、北海道では、全国平均に比べて、揚水発電の建設が原発の設備増加に対して遅れたために、揚水/原発比の値が低く保たれていましたが、3.11以降も、原発の再稼働に備えて、揚水/原発比を、全国平均の50 %程度に近づけるべく、揚水発電設備の増加を行っていたことが判ります。

北海道における揚水/原発比および揚水/水力比の年次変化

(エネ研データ(文献1 )2017年版に記載の電力需給データをもとに作成)

 

③ 揚水発電設備を水力発電に用いたときの水力発電量の値を推定するために、この揚水発電設備の水力発電設備としての設備稼働率の値を推定してみました

上記(①、②)から判って頂けるように、いま、日本で、多くの国民が望んでいる「原発ゼロ」が実現できれば、その時、不要となる原発用の揚水発電設備を用いて、再エネ電力としての水力発電の電力が生産・利用できます。

エネ研データ(文獻 1 )2017年版の電力需給データをもとに、上記(①)の ( 1 ) 式から、次式

(発電設備稼働率)=(発電量kWh)/(8,760 h/年)/(発電設備容量kW)      ( 2 )

を用いて、全国の水力発電の設備稼働率の値の年次変化を計算した結果が図4です。この図4で、揚水発電を含む水力発電の設備容量の値を用いて試算したのが、(揚水発電を含む)とした(水力発電設備稼働率)の値です。この(揚水発電を含む水力発電の設備稼働率)の値は、余りにも低く、しかも、年次減少しています。その理由としては、水力発電設備容量の中に、水力発電には貢献してない原発発電用の揚水発電の(設備容量)が含まれているためと考えました。

実は、エネ研データ(文獻1 )の2016年版までには、この揚水発電設備容量の値が記載されていませんので、この揚水発電を加えた水力発電での揚水発電の影響を定量的に評価することができませんでした。ところが、エネ研データ(文獻1 )の2017年版には、一般電気事業者(電気事業法が改正される前の旧電力会社)の揚水発電の設備容量の値が。水力発電設備容量のなかに書き加えられたので、このデータを用いて、水力発電の設備容量の値から揚水発電の設備容量の値を差し引いた値で、( 2 ) 式を用いて計算した水力発電設備稼働率の値が、揚水発電設備を水力発電に用いたときの設備稼働率の値になるとしたのが、図4 の(揚水発電設備を除く水力発電設備働率(全国))の値です。この図4に見られるように、この(揚水発電設備を除く水力発電設備稼働率)の値は、同図に示した、揚水発電を含む水力発電の設備容量の値をもとに( 2 )を用いて計算した設備稼働率、(揚水発電を含む水力発電設備稼働率(全国))の値に較べて、2倍程度の30 % に近い値を示すとともに、その年次減少もいく分少なくなっています。

水力発電の年間平均設備稼働率(全国)の年次変化

(エネ研データ(文獻1 )の2017年版に記載の国内電力需要のデータをもとに本文中( 2 )式を用い計算して作成)

 

この図4 におけると同様の水力発電設備稼働率の計算を行った結果を、今回、揚水発電設備を水力発電に利用した北海道電力、および、国内で東京電力に次いで原発発電容量の大きい関西電力、さらには、原発は所有するが揚水発電を所有しない北陸電力について、それぞれ、図 5、図6、図7 に示しました。これらの図に見られるように、各電力会社の(揚水発電を除いた水力発電設備稼働率)の値、すなわち、(揚水発電設備を水力発電に用いたときの水力発電設備稼働率)の値は、図4に示す全国平均の値に較べて、やや高い50 % 程度の値を示します。そこで、他の電力会社についても2015年度の(揚水発電を除いた水力発電の稼働率)を試算してみた所、表2 に示すように、多くが、図4 の全国平均の31 %より高い50 % 程度の値をとります。

そこで、全ての電力会社の水力発電量、水力発電設備容量、および揚水発電設備容量について合計値を計算し、図4の作成のための計算に用いた全国の値と比較したところ、水力発電設備容量の値で、各電力会社の合計値との不一致が見られました。原因は不明ですが、この各社の合計値をもとに、改めて2015年度の設備稼働率の値を計算した結果が、表2 に示した全国の(揚水発電を除いた水力発電の設備稼働率)の値48.7 %です。

水力発電の年間平均設備稼働率(北海道電力)の年次変化

(エネ研データ(文獻1 )2017年版に記載の国内電力需給データをもとに、本文中( 2 )式を用い計算して作成)

6 水力発電設備稼働率の年次変化(関西電力)の年次変化

 (エネ研データ(文獻1 )2017年版に記載の国内電力需給データをもとに、本文中( 2 )式を用い計算して作成)

7 水力発電設備稼働率(北陸電力)の年次変化

(エネ研データ(文獻1 )2017年版に記載の国内電力需給データをもとに、本文( 2 ) 式を用い計算し作成)

 

2  旧一般電気事業者(電力会社)別の水力発電設備稼働率(揚水発電設備を除く)の試算値、2015年度(エネ研データ(文獻1 )2017年版の電力需給データをもとに試算した値)

注  *1;各電力会社の水力発電設備容量の合計値をもとに計算した稼動率の値です。しかし、エネ研データ(文獻1 )に記載の水力発電設備容量の値は、各電力会社の合計値と一致しません。このエネ研データの数値を、そのまま用いて計算した稼働率の値を、カッコ内に示しました(本文参照)。

 

ところで、ここで、目的としているのは、下記(④)するように、現有の揚水発電設備を水力発電設備に転用した場合の水力発電量の値ですが、全国の、この値の試算には、表2 に示した、最新の2015年度の(揚水発電設備を除いた水力発電の設備稼働率)の全国の値48.7 % を用いることにします。

 

④ 「原発ゼロ」を実現できれば、原発用の揚水発電設備を水力発電用に活用することで、半永久的に使える真の再生可能な電力としての水力発電量を増やすことができ、電力会社にとって、原発の再稼働に勝る経済的な利益となります

3.11 以後、多くの国民が希求する脱原発の願いに反して、政府と旧一般電気事業者(電力会社)は、3.11以後に停止した原発の再稼働に必死です。理由は、いますぐ原発を再稼働させないと、その分の電力の生産に必要な化石燃料の消費量が増加し、温暖化が進行して、地球が大変なことになるからとされています。

この原発の再稼働によって生産される電力を、3.11以前の2010年度の原発の発電量271.27×109 kWhの7割程度とすると、約190×109kWh程度と試算されます。一方、多くの国民の願いを入れて、原発の再稼働の廃止を含めて、「原発ゼロ」を実現すれば、それによって不要となる揚水発電の設備容量の値27.471×106 kW(エネ研データ(文献 1 )から)から、これを水力発電用に転換した場合の年間平均設備稼働率の値を上記(③)に

(発電量)=(揚水発電設備容量 27.471×106 kWh)×(8,760h/年)

×(年間平均設備稼働率 0.48.7)= 104×109 kWh

と計算されます。

この値は、上記の原発の再稼働で得られる電力190×109 kWhの半分程度ですから、これでは、原発の再稼働をしなければならないと思われるかもしれません。しかし、原発の再稼働による電力の生産では、原子炉の法定使用年数(寿命)を、現在の40年から60年に伸ばしても、残りが25年程度ですから、それ以降に原発電力の利用を継続するためには、新しく原発を建設しなければなりません。これに対して、揚水発電設備の水力発電設備への転換では、その後の電力生産は、水力発電設備の使用可能年数(寿命)から、ほぼ、半永久的と使えると考えることができます。すなわち、電力会社にとっては、原発の再稼働によるよりも、はるかに大きい経済的な利益が得られることになるのです。

それだけではありません。私ども(文獻2 )が主張しているように、原発電力の生産では、現在、その方法が確立されていないために、その費用の算出方法がないとされている核燃料廃棄物の処理・処分の費用が、次世代に先送りされています。さらには、3.11のような、その被害金額が予測できない過酷事故が起こる可能性もあります。

また、いま、「原発ゼロ」を訴える国民の要請に応えての、市販電力料金の値上げによって国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー全量固定価格買取(FIT制度)」の適用による新エネ(再エネ)電力の発電量は、このFIT制度の施行から3年後の2015年の値で、約40×106 kWhと推定されます。この発電量を上回る電力量が、「原発ゼロ」を実現すれば、原発用の揚水発電設備の水力発電設備への転用で、いますぐ、余りお金をかけないで、かつ、半永久的に生産できるようになるのです。

3.11以後、7年以上経ったいま、日本は、電力に不自由していません。長期的な視野に立って、日本のエネルギー政策の基本計画を考える時、どう考えても、いますぐ、「原発ゼロ」を実現して、現在、使われていない揚水発電設備の水力発電設備への転換を行うべきだとの私どもの提案を阻む理由は存在しません。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー・経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年版、省エネセンター、2018年

2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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