日本のエネルギー政策の混迷を正す(その1 ) 何故、いま、第5次エネルギー基本計画のなかの原発比率20 ~22 % が? 地球温暖化対策のための原発の再稼働は日本を、人類を、破綻の淵に陥れます

東京工業大学名誉教授 久保田 宏

日本技術士会中部本部 事務局長 平田賢太郎

 

(要約);

① いま、日本のエネルギー政策の基本となるのは、そのほぼ全量を輸入に依存している化石燃料の枯渇後、その代替となるべきエネルギーとして何を選び、それをどう利用するかです。そのなかに入り込んだのが、今夏、閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」のなかの、地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のための原発比率 20 ~ 22 % の達成を目的とした「アベノミクスのさらなる成長」のための原発再稼働の要請です

② 地球温暖化対策のCO2原因説を唱えるIPCCがノーベル平和賞を授与されて、「再生可能エネルギー全量固定価格買取制度(FIT制度)」による、いますぐのCO2排出削減を行おうとしたEUでの再エネ電力の利用が、電力料金の高騰を招き、FIT制度での電力買取価格を低下せざるを得なくなって、EUでの太陽光発電の利用は停滞しています

③ 3.11 過酷事故後、原発電力代替の再エネ電力を利用するために、EUに倣って、FIT制度を適用した日本での再エネ電力の導入も効果が得られていません。そのなかで、地球温暖化対策としての「パリ協定」を守るために、原発を再稼働させようとしているのが、「第5次エネルギー基本計画」のなかの2030年の原発比率20 ~ 22 % です

④ 日本のエネルギー政策の基本は、地球温暖化対策のCO2排出削減を目的とした原発電力の利用ではありません。3.11以後の現在、原発電力無で、国民の生活と産業用の電力に不自由はしていません。また、「脱原発」の流れは、世界でも起こっています。国内だけでなく、世界でも、化石燃料資源枯渇後のエネルギーは、原発電力ではなく、化石燃料を用いる火力発電のコストより安くなってからの再エネ電力の利用でなければなりません

⑤ 当面の日本の、そして世界の「エネルギー政策の基本」は、残された化石燃料を、人類が公平に分け合って大事に使うことです。この実行を可能にする唯一の方法は、いま、国際的な公約として進められている「パリ協定」のCO2排出削減を、私どもが提案する化石燃料消費の節減に代えることで実行可能とされなければなりません

⑥ 何故、いま、政府は、「第5次エネルギー基本計画」の原発比率20 ~ 22 % を「日本のエネルギー政策の基本」にしなければならないでしょうか? それは、「アベノミクスのさらなる成長」のために原発を再稼働させる必要があるからです。先進諸国の経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇後、人類の生存を保証する道は、世界の全ての国が協力して、化石燃料代替の自然エネルギー(再生可能エネルギー)に依存する、貧富の格差の無い平和な世界を創る以外にありません。それが、日本が、世界に訴えるべき「エネルギー政策の基本」でなければなりません

 

(解説本文);

① いま、日本のエネルギー政策の基本となるのは、そのほぼ全量を輸入に依存している化石燃料の枯渇後、その代替となるべきエネルギーとして何を選び、それをどう利用するかです。そのなかに入り込んだのが、今夏、閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」のなかの、地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のための原発比率 20 ~ 22 % の達成を目的とした「アベノミクスのさらなる成長」のための原発再稼働の要請です

いま、日本のエネルギー政策を考える時、問題にすべきは、日本経済を支えて、つい最近、中国に追い抜かれるまで、世界第2の経済大国にまで、日本経済を押し上げてきた化石燃料の枯渇後、その代替となるエネルギーの供給をどうすべきかではないでしょうか?

ところで、この化石燃料の枯渇とは、地球上の化石燃料資源の供給量が需要に追いつけなくなり、その国際市場価格が高騰して、その利用可能量が減少することです。この利用可能量の減少から、それを使えない人や国が出てきます。このエネルギー需給の不均衡によってもたらされる貧富の格差の増大が、世界の平和を、人類の生存すら脅かしています。

いま、この枯渇する化石燃料の代替として期待されているのが、原子力エネルギーと風力や太陽光、地熱などの新エネルギーとも呼ばれる自然エネルギー(再生可能エネルギー)です。しかし、これらの化石燃料代替のエネルギーは、その使用形態の主体は電力ですから、いままで、そして、いまでも現代文明社会を支えている化石燃料のように、万能の、すなわち、その利用形態として、電力と電力以外の両者に利用することができません。

したがって、これら原子力および再生可能エネギー(再エネ)を用いなければならない時には、その主な使用形態である電力とともに、電力以外のエネルギーの供給についても配慮しなければなりません、それが、生物起源のバイオマスのエネルギーの利用や、つい最近では、再エネ電力による水の電気分解によりつくられる水素エネルギーにも期待が集まっています。

やがて、化石燃料資源は確実に枯渇します。この化石燃料資源の枯渇を表わす指標として用いられているのが可採年数です。この化石燃料資源の可採年数とは、現在の科学技術の力で採掘可能な資源量を、現在のその資源の年間生産量(=消費量)で割った値です。日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 )と略記)に記載されている、現在、最も信頼できるとされるBP(British Petroleum)社のデータによると、この化石燃料の可採年数は、石油で50.6年、天然ガスで52.5年、石炭では153年とあります。これを、長いと考えるか、短いと考えるかは別として、今夏、閣議決定された「第5次エネルギー基本計画(以下、「第5 次計画」)のなかの原発比率(原発電力の発電総量に対する比率)を20 ~ 22 %とする2030年に較べれば、その枯渇までには、まだかなりの時間的な余裕があります。特に、電力生産の主な原料である石炭についてみれば、その余裕はさらに増加します。これを言い換えれば、当面の間、世界中が協力して化石燃料の消費量を節減して、具体的には、私どもが提案しているように、現在(2012年)の値に止めることができれば、3.11福島の事故で、その使用による怖さを思い知らされた原発電力の使用を避けることができるのです。

では、なぜ、いま、日本のエネルギー政策(「第5次計画」)のなかで、原発比率の20 ~ 22 % が求められなければならないのでしょうか? それは、いま、世界にとっての、地球にとっての、化石燃料の枯渇より怖い新しい脅威が加わったためではないでしょうか?この新しい脅威とは、前世期の末頃から問題にされるようになった地球温暖化の脅威です。すなわち、化石燃料の使用により排出される温室効果ガス(その主体は二酸化炭素で、以下、CO2)によって、地球大気の温暖が上昇し、生態系に不可逆的な、取り返しのつかない変化が生じるから、いますぐにも、全ての国が大気中へのCO2の排出削減に協力すべきだとする、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の政治への要請によるものです。この地球温暖化対策としてのCO2排出削減の要請は、2016年暮れに締結された「パリ協定」の国際公約として、実行されようとしています。

この地球温暖化対策のためのCO2排出量削減の具体的な方法として、EUでは、「再生可能エネルギー全量固定価格買取制度(FIT制度)」の適用で、化石燃料代替の再エネ電力のいますぐの導入が行われるようになりました。一方、日本では、EUに較べて10年近く遅れて導入された、このFIT制度の適用での再エネ電力の利用は、思うように進んでいません。これが、いま、「第5次計画」のなかの原発比率の値にみられる「エネルギー政策の混迷」をもたらす原因になっています。

 

② 地球温暖化対策のCO2原因説を唱えるIPCCがノーベル平和賞を授与されて、「再生可能エネルギー全量固定価格買取制度(FIT制度)」による、いますぐのCO2排出削減を行おうとしたEUでの再エネ電力の利用が、電力料金の高騰を招き、FIT制度での電力買取価格を低下せざるを得なくなって、EUでの太陽光発電の利用は停滞しています

前世紀末から顕著になった地球温暖化、すなわち、地球大気温度の上昇をもたらすのが、化石燃料の使用により排出されるCO2に起因するとの「温暖化のCO2原因説」を科学の真理だと主張し、そのためのCO2排出削減を政治に訴えたのが国連の下部機構のIPCCでした。このIPCCがノーベル平和賞(物理学賞でなく平和賞)を授与されて(2007年)、EUを中心に各国政府が、CO2の排出削減を行わないと、地球が大変なことになるとして、地球温暖化対策としてのCO2排出削減を政策として行うようになりました。このEUにおいて、いますぐのCO2の排出削減(低炭素化)の目的のために有効だとされているのが再生可能とされる自然エネルギー、すなわち再生可能エネエネルギー(再エネ)電力の導入で、この導入促進のために用いられたのがFIT制度です。再エネ電力を利用するためには、その発電コストが、現用の化石燃料を用いた火力発電のコストより高くつくために、それをカバーするために、この発電コストの差額分を市販電力料金に上乗せして広く国民から徴収するのが、このFIT制度です。

しかし、EUにおけるFIT制度の適用による再エネ電力の利用の増加は、その代償として、市販電力料金の大幅な値上げをもたらしました。エネ研データ(文献1 )に記載のIEA(国際エネルギー機構)のデータによる各国の電力料金の年次変化を図1 に示しました。EUにおける電力料金の値上に大きな影響を与えたのは、その発電コストが大きいために、FIT制度の適用での買取価格が最も高く設定された太陽光発電でした。産業界からの大きな反発を受けて、このFIT制度での買取価格の値下げが行われたEU諸国では、エネ研データ(文献1 )に記載のBP社のデータによる、この太陽光発電の年末累積設備容量は、その年次変化を示す図2 に見られるように、利用の伸びを失いました。結果として、図1に見られるように、電力料金は下がりましたが、その再エネ電力の利用量が、図2に見られるように、顕著な停滞を示しています。

注;国際間の比較が判るように、国際的な基準通貨の米セントで表わされています

図 1 世界各国の電力料金(産業用)の年次変化(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに作成)

 

図 2 世界各国の太陽光発電設備容量の年次変化 (エネ研データ(文献1 )に記載のBP社のデータをもとに作成)

 

③ 3.11 過酷事故後、原発電力代替の再エネ電力を利用するために、EUに倣って、FIT制度を適用した日本での再エネ電力の導入も効果が得られていません。そのなかで、地球温暖化対策としての「パリ協定」を守るために、原発を再稼働させようとしているのが、「第5次エネルギー基本計画」のなかの2030年の原発比率20 ~ 22 % です

このEUと同じ地球温暖化防止対策のためのCO2の排出削減を図ろうとした日本が、先ず取り組んだのは、植物起源のバイオマスは大気中のCO2を固定化して成長するから、そのエネルギー化利用では、地球大気中のCO2濃度を増加させないとの「カーボンニュートラルの原理」を適用した、バイオマス原料の自動車用燃料(バイオ燃料)の製造などのバイオマスエネルギーの利用が、2006年以降、「バイオマス・ニッポン総合戦略」の名の国策として推進されました。地球環境科学者を自称するお偉い先生がリードし、「明日のエコでは間に合わない」とのNHKのコマーシャルに代表される日本中のメデイアを巻き込んだ、このバイオマスのエネルギー利用が、地球大気中のCO2の排出削減に貢献しないことは、地球上のバイオマスのエネルギー化利用可能量の科学的な事前解析調査を行えば容易に判ることでした。驚くべきことには、このような事前調査が行われずに進められたこの国策は、開始から2011年までの5年間で6.5兆円を超す国費を浪費して、何の成果も得られませんでした。詳細は、久保田らによる「幻想のバイオ燃料(文献2 )」、「幻想のバイオマスエネルギー(文献3 )」などを参照して下さい。

このバイオマスのエネルギーの利用に代って、太陽光や風力発電などの新エネルギーの導入を促進するために、EUに倣って、FIT制度の適用を閣議決定したのが、奇しくも、3.11原発事故当日の午前でした。ここで、奇しくもと記したのは、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減に、いわゆる「鳩山25 %」の削減目標を掲げて自民党からの政権交代に成功した(2009年)民主党のCO2排出削減対策が、現用の技術で確実にCO2排出削減効果が期待できるとされる原発電力の倍増計画だったからです。

この3.11以後、原発事故の余りにも厳しい現実から、エネルギー政策の基本を脱原発に切り替えた当時の菅直人元首相の下で、2012年7月にFIT制度が施行されました。それから6年経ったいま、地球温暖化対策としての再エネ電力の利用の拡大は、少なくとも日本では、思うような進展を見せていません。

そのなかで、2016年の暮れに、この地球温暖化対策としてのCO2の排出削減が、国際的な合意の下で決められた「パリ協定」として、世界各国に自主的なCO2排出削減目標を決めることを求められています。しかし、この「パリ協定」でのCO2排出削減の具体策を決めた「COP 21」の会議では、地球温暖化によって被害を受ける途上国の災害対策費が、この被害をもたらすCO2を排出した先進国の責任だとして、その拠出金額を先進諸国に要求する途上国の主張が通ったため、この先進諸国の拠出金額の配分が「パリ協定」の前段の「COP 21」での主な議題となってしまいました。この会議で決められた米国の大きな負担金額に対して、一国主義を掲げて大統領選に勝利したトランプ大統領は、この「パリ協定」からの離脱を表明しています。私どもが提案している化石燃料消費の節減のように、お金をかけないでCO2の排出を削減する方法がある以上、科学的には、トランプ大統領の主張にも一理があると言えます。

一方、国連が求める国際協約に忠実に従おうとする日本は、国内の再エネ電力の利用の伸びが進まないなかで、世界のCO2排出削減への貢献を、原発の再稼働電力に求めようとしたのが、今夏(7月3日)閣議決定された「第5 次計画」のなかの原発比率20 ~22 % の値です。これが、同時に決められた再エネ電力比率22 ~ 24 % の値とともに、先に、日本が「パリ協定」のCO2排出削減の自主目標を達成するための電源構成のなかで実行しようとして資源エネルギー庁が提案している原発と再エネ電力の利用比率なのです。

 

④ 日本のエネルギー政策の基本は、地球温暖化対策のCO2排出削減を目的とした原発電力の利用ではありません。3.11以後の現在、原発電力無で、国民の生活と産業用の電力に不自由はしていません。また、「脱原発」の流れは、世界でも起こっています。国内だけでなく、世界でも、化石燃料資源枯渇後のエネルギーは、原発電力ではなく、化石燃料をあ用いる火力発電のコストより安くなってからの再エネ電力の利用でなければなりません

IPCCによる温暖化のCO2原因説は、科学の仮説です。CO2の排出を削減しても、現在起こっているとされる地球温暖化を防止できるとの科学的な保証は何処にも存在しません。また、地球温暖化は、地球すなわち、世界の問題です。現在、世界のCO2排出量の僅か4 % 程度しか排出していない日本が、原発電力の利用で、CO2排出削減の努力をしてみても、世界のCO2排出削減には殆ど貢献しません。

エネ研データ(文献1 )で見ると、3.11以後4年後の現在(2016年度)、国内総発電量の僅か1.8 %の原発電力の使用で、国民は、生活と産業用の電力に不自由していません。いま、日本で、原発電力が無くて困っているのは、「アベノミクスのさらなる成長」のためのエネルギーとしての原発電力の利用を訴えている安倍政権(政府)だけと考えてよいでしょう。

いま、政府は、3.11以降、稼動停止を余儀なくされている原発の再稼働に躍起です。政府は、新しい原発の安全基準を設定したうえで、この基準を満たした原発について、順次、その再稼動を認めるとともに、原発の法定使用年数を、現在の40年を60年に延長するとしています。一方で、現在、稼動停止中の原発の7割程度を稼働しようとしていますが、実は、それでは、「第5次計画」の2030年の原発比率20 ~ 22 % の目標は70 %程度しか達成できません。しかし、政府にとって、そんなことはどうでもよいのです。いますぐ、原発が再稼働できれはよく、いまから12年先の2030年のことに責任を持つ必要は無いのです。これが、今回の「第5次計画」のなかで、将来の原発の新増設については一切触れないまま、核燃料廃棄物の処理処分を次世代送りして、原発を再稼働しようとしている理由です。

以上が、「第5次計画」を発表した安倍政権の本音です。これに対する海外の政府の原発電力利用の問題はどうなのでしょうか? 日本における3.11 以降、海外では、ドイツにおける原発の廃止に見られるように、脱原発への動きは、日本より確実に進んでいると見てよいでしょう。最近では、日本の隣国、韓国や台湾でも、政府の主導で原発の廃止を決めています。

世界における原発利用の将来問題を考えるとき、世界全体では脱原発に向っていることは間違いありません。人間の良識が、原発を原爆と関係づけています。すなわち、現在の軽水炉型原発の原料の濃縮ウランと、廃棄物から抽出されるプルトニウムは原爆の原料となります。そのために、現在、原発を持つことを許されていない国は、将来的に原発を持つことも許されていないのです。それが、北朝鮮やイランにおける原発・原爆の開発の問題です。今後、化石燃料の枯渇が迫るにつれて、原発を保有する先進国と原発の利用が許されない途上国との間の貧富の格差が一層拡大されることが予想され、人類の生存にも影響する世界平和の侵害が懸念されます。

以上から判るように、国内においても、国外においても化石燃料の枯渇後、その代替のエネルギーは、原発電力ではなく、再エネ電力でなければなりません。しかし、それは、あくまでも、化石燃料の国際市場価格が高くなって、再エネ電力の利用の方が経済的に有利になってからでよいのです。そして、世界の貧富の格差の増加をもたらす原発電力ではなくて、世界の全ての国に公平な富と平和をもたらすことが期待できる再エネ電力が利用されるべきだとする私どもの提案こそが、日本だけでなく、世界の全ての国と共有すべき、人類の生き残りのための「エネルギー政策の基本」でなければなりません。

 

⑤ 当面の日本の、そして世界の「エネルギー政策の基本」は、残された化石燃料を、人類が公平に分け合って大事に使うことです。この実行を可能にする唯一の方法は、いま、国際的な公約として進められている「パリ協定」のCO2排出削減を、私どもが提案する化石燃料消費の節減に代えることで実行可能とされなければなりません

いま、世界の平和を侵害しているのは、いままで、経済成長のエネルギー源であった化石燃料資源の枯渇が迫ってきて、その国際市場価格が高騰し、これを使える人や国と、使えない人や国が出てきて、貧富の格差が拡大しているためです。この貧富の格差の拡大が、先進諸国の経済成長をもたらした世界の石油の主産地の中東で、宗教と結びついたアルカイダに始まり、ISに至る国際テロ戦争をもたらしています。いま、これを軍事力によって抑え込むことに成功しているように見えますが、それは、一時的なもので、この根本的な解決には、地球上の貧富の格差の解消以外にありません。

いま、世界では、自国さえよければとの国際間の貧富の格差を容認する一国主義が、トランプ大統領の米国をはじめとする先進諸国の間でも台頭し、民主主義の崩壊の危機さえ言われています。この危機を防ぎ、全ての国が平和的に共存できる理想の社会(世界)を創るには、経済成長のエネルギー源である残された化石燃料を、公平に分け合って大事に使いながら、化石燃料の枯渇後、各国が自国産の再エネ電力に依存する、競争の無い平和な世界に移行する以外にありません。

具体的な方策として私どもは、全ての国が、今世紀中の一人当たりの化石燃料の消費量を、2012年の世界平均の値 1.54石油換算トン/年/人に等しくすることを提案しています。この一人当たりの化石燃料消費量が、国別で大きく異なる現状から、この目標の達成年を2050年とした場合の私どもの提案を図示したのが図3です。この図3に示すエネ研データ(文献1 )記載のIEAデータから計算した各国の一人当たりの化石燃料(石油換算)の消費量の値の年次変化からみて、この私どもの提案を実行するためには、先進諸国には、大幅な化石燃料消費の節減が強いられる反面、中国を除く途上国では、この2050年目標値の達成には、まだ、かなりの消費量増加の余地が残されていることが判ります。ただし、人口増加の大きい途上国では、この人口増加を考慮した目標値の補正が求められます。

注;2050年の十字印は、世界各国が目標とすべき、1012年の世界平均の化石燃料消費量の値1.54石油換算トン/年/人です。

今世紀中の世界各国の一人当たりの年間平均の化石燃料消費量を2012年の世界平均値に等しくすべきとする私どもの提案の図示(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算して作成)

 

この私どもの提案に対し、これを非現実的な理想論だとする批判があるかもしれません。しかし、この私どもの提案と同じことが、地球温暖化対策のCO2排出削減対策としての「パリ協定」の具体策として実行されようとしているのです。この「パリ協定」の具体策を各国の一人当たりのCO2排出量の実績値とともに、図4に示しました。

注;2050年の十字印は、2012年の世界平均の一人当たりのCO2排出量4.53 CO2 トン/人としました

図4 世界各国の一人当たりのCO2排出量の年次変化の値と、それぞれの国の「パリ協定」のCO2排出削減を目的とした自主的なCO2排出量の目標値 (エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAデータの実績値に、各国の「パリ協定」への自主目標値を加えて作成、私どもの近刊(文献4 )から再録)

 

この図3と図4の比較から、私どもが提案する世界各国の一人当たりの化石燃料消費の節減案が、いま国際的な合意のもとで進められている「パリ協定」におけるCO2排出削減量の目標値を化石燃料消費の節減目標値に代えることで、実行可能となることが判って頂けると思います。

すなわち、地球温暖化対策として、IPCCが推奨する、お金持ちの国でしか適用できないCCS技術(化石燃料の燃焼排ガス中からCO2を抽出、分離して埋め立てる技術)などを用いてCO2の排出削減を行う代わりに、世界中の全ての国が協力して、化石燃料消費の節減を行うことが、「パリ協定」の目的が実行できる唯一の方策であることを示しています。

 

⑥ 何故、いま、政府は、「第5次エネルギー基本計画」の原発比率20 ~ 22 % を「日本のエネルギー政策の基本」にしなければならないでしょうか? それは、「アベノミクスのさらなる成長」のために原発を再稼働させる必要があるからです。先進諸国の経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇後、人類の生存を保証する道は、世界の全ての国が協力して、化石燃料代替の自然エネルギー(再生可能エネルギー)に依存する、貧富の格差の無い平和な世界を創る以外にありません。それが、日本が、世界に訴えるべき「エネルギー政策の基本」でなければなりません

今夏、閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」の原発比率は、自国さえよければよいとのアメリカ第一のトランプ大統領の一国主義につながる「アベノミクスのさらなる成長」のための原発の再稼働の要請に沿ったエネルギー政策に外なりません。この原発再稼働の最大の問題点は、小泉元首相らが訴えるように、人類の生存を脅かす放射性核燃料廃棄物の処理・処分を次世代送りしにしたまま、原発を使用し続けようとしていることです。

日本を含む先進諸国が独占していると言ってよい化石燃料の枯渇後、その代替として、どうしても、原子力エネルギー(原発電力)に依存しなければ、国民の生活と産業用のエネルギーが得られないのであれば、これも止むを得ないことかも知れませんが、そんなことはありません。化石燃料の枯渇後、その代替のエネルギーとしては、原発に較べれば安全で、持続可能なエネルギーとしての再エネ電力があるのです。ただし、地球上の化石燃料資源の枯渇後、その代替としての再エネ電力に依存する社会は、化石燃料の利用でのエネルギー利用効率と、再エネ電力利用でのそれとの大きな違いから判るように、経済成長の抑制を強いられる社会(世界)です。しかし、その反面、世界の全ての国が、自国産の再エネに依存する世界では、経済成長に必要なエネルギーを奪い合うための争いのない平和が期待できるのです。問題は、争いの好きな人類が、己の欲望を抑えて、この平和な世界にたどりつくことができるかどうかです。唯一、その方法があるとしたら、それは、上記(⑤)したように、いま、国際的な合意の下で進められている「パリ協定」のCO2排出削減を、私どもが提案する化石燃料消費の節減に置き換えることで、世界の全ての国が、地球上に残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うことを、世界に訴えることです。それが、地球家族の一員としての日本の「エネルギー政策の基本」でなければなりません。詳細は私どもの近刊(文献4 )をご参照下さい。

 

<引用文献>

1、日本エネルギー・経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年版、省エネセンター、2018年

2.久保田宏、松田 智;幻想のバイオ燃料―科学技術の見地から地球環境保全対策を斬る、日刊工業新聞社、2009年

3、久保田宏、松田智;幻想のバイオマスエネルギー―科学技術の視点から森林バイオマス利用の在り方を探る、日刊工業新聞社、2010年

4.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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