何故、いま、「第5次エネルギー基本計画」のなかで、2030年度の原発比率の20 ~ 30% が必要なのでしょうか?(補遺 その2) 「アベノミクスのさらなる成長」が求める原発の再稼働では「第5次エネルギー基本計画の原発比率20 ~ 22% 」を達成できません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 今夏閣議決定された第5次エネルギー基本計画で、2030年の原発比率が20~22 % とされました。この原発比率の達成のために、政府は、3.11 以降、運転停止を余儀なくされている原発の再稼働に躍起です。しかし、そこでは、原発の新増設無では、その実現は不可能だとの科学の事実が無視されています

② いま、原発再稼働の差し止めを訴える裁判では、3.11事故の教訓から再稼働に伴う原子炉の安全性が争点となっています。しかし、科学的な絶対の安全は、原発を持たないことですし、持ってしまった原発は動かさないことです。現在、原発電力無で、国民の生活と産業用に必要な電力は賄えています。日本経済を破綻の淵に陥れようとしている「アベノミクスのさらなる成長」を求めなければ、放射性核燃料廃棄物の処理・処分の問題を次世代送りする原発の再稼働は不要で、いますぐの「原発ゼロ」が求められるべきです

③ 「第5次エネルギー基本計画のなかの原発電力の20 ~22 %」は、エネルギー政策のなかに迷い込んだ地球温暖化対策としてのCO2排出削減の要請によるものです。しかし、このCO2排出削減は、世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減で、実行可能となります。具体的には、いま、国際的な合意で進められている「パリ協定」のCO2排出削減を化石燃料消費の節減に代えることを世界に向って訴えること、これが、化石燃料枯渇後の世界に、日本が、そして、人類が生き残る唯一の道です

 

(解説本文);

① 今夏閣議決定された第5次エネルギー基本計画で、2030年の原発比率が20~22 % とされました。この原発比率の達成のために、政府は、3.11 以降、運転停止を余儀なくされている原発の再稼働に躍起です。しかし、そこでは、原発の新増設無では、その実現は不可能だとの科学の事実が無視されています

この7月3日に閣議決定された、「第5次エネルギー計画」では、2030年に原発比率(国内総発電量のなかの原発電力の比率)20 ~ 22 %を実現するとされています。この原発比率を達成するために、政府は、3.11の福島原発事故後、運転の停止を余儀なくされている原発の再稼働を進めようとしています。

日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 )と略記)に記載の国内電力需給のデータから計算した国内の原発電力比率の値の年次変化を図1 に示しました。原発が電力生産に用いられるようになった1970年代から、順調にその値を伸ばしてきた原発比率は、1995~2000年頃の30 %に近い値をピークにして、3.11福島原発事故の起こる前の2010年度の値は25 %程度になっていました。 したがって、今回の「第5次エネルギー基本計画の2030年度の原発比率20 ~ 22 %の値は、2030年度の国内総発電量が、現在と変わらないとすると、3.11.以前に稼働していた原発の大部分が、2030年度には再稼働していることが要求されることになります。

注; 2030年度の十字印は、第5次エネルギー基本計画の原発比率の目標値です。

図1 国内原発比率(原発電力の国内総発電量に対する比率)の年次変化

(エネ研データ(文献1 )の国内電力需給のデータを基に作成)

 

ところで、原発電力(原発の発電量)の値は、その設備能力(設備容量)の値に、年間平均の設備稼働率の値を乗じた次の ( 1 ) 式で表わすことができます。

(原発電力;原発の発電量kWh/年)

=(原発の設備容量kW)×(8,760h/年)×(年間平均設備稼働率)        ( 1 )

エネ研データ(文献1 )に記載されている(国内の原発発電量)と(原発の設備容量)の値から、( 1 ) 式で計算される(国内原発の平均設備稼働率)の実績値は、図2 に示すように与えられます。すなわち、主として経済的な理由から、法的に義務付けられている定期的な検査時以外は稼動を継続して、なるべく80 % 以上の年間稼動率が要請されている原発ですが、実際の操業では、図2に見られるように、3.11 直前の70% 程度が実用の稼働率の値と考えるべきでしょう。

図 2 国内の原発の年間平均設備稼働率の値の年次変化

(エネ研データ(文献1 )に記載の原発電力関連のでーたから、本文中 ( 1 ) 式を用いて計算、作成しました)

 

一方、1970年度の使用開始以降、年次、その数を増やすことで、その設備能力(設備容量)を増やしてきた国内の原発ですが、現在、法律で定められている原発の使用年数40年の制約を受け、すでに廃炉になった原発、また、間もなく廃炉にしなければならない原発が多数出てきています。すなわち、この法定使用年数40年のもとでは、今後、原発の新増設を行わない限り、2010(=1970 + 40)年度以降、図3に示すように、国内原発の設備容量が年次減少し、2030年度に稼働が可能となる原発の設備容量は17.3百万kW程度になると推定されます。したがって、これらの原発が全て稼働できたとして、その年間平均の設備稼働率を70 % とすると、

(原発電力(2030年度))

=(17.3×106kW)×(8,760h/年)×0.7 =106,084 百万kWh

と計算されますから、2030年度の総発電量が2016年度の999,891百万kWhと変わらないとすると、その10.6 % (=106,084 / 999,891) にしかなりません。

国内原発設備能力(設備容量)の年次変化 (エネ研データ(文献1)に記載の電力需給データを用いて推定計算を行い作成)

 

そこで、政府により考えられたのが、この法定使用年数の60年への延長です。この延長を、図3に示すように、2020年度に実施すれば、2020年度の原発設備容量33.3百万kWが、2030年にも使えることになりますが、原発電力は、年間平均設備稼働率70 % として、

(33.3 百万kW)×(8,760 h/年)×0.70 = 204,196百万kWh

となり、これでも、2016年度の総発電量 999,891百万kWhの20.4 %、にしかなりません。いま、政府は、国民の多数の反対を押し切って、可能な限りの原発の再稼働を強行しようとしていますが、実際に実行できるのは。現在運転休止中の原発の7割程度だろうと言われています。

すなわち、原発の再稼働だけでは、「第5次エネルギー基本計画の原発比率20 ~ 22 %」は達成できないことになります。したがって、もし、この「第5次エネルギー基本計画の原発比率20~22 %」を達成しようとするのであれば、どうしても、原発の新増設をしなければなりません。しかし、いま、政治は、この新増設を言ったのでは、世論の反撥を受けて、当面の目標である再稼働もできなくなるとして、新増設についての態度を明らかにしないまま、何とか、再稼動を実現しようとしています。

 

② いま、原発再稼働の差し止めを訴える裁判では、3.11事故の教訓から再稼働に伴う原子炉の安全性が争点となっています。しかし、科学的な絶対の安全は、原発を持たないことですし、持ってしまった原発は動かさないことです。現在、原発電力無で、国民の生活と産業用に必要な電力は賄えています。日本経済を破綻の淵に陥れようとしている「アベノミクスのさらなる成長」を求めなければ、放射性核燃料廃棄物の処理・処分の問題を次世代送りする原発の再稼働は不要で、いますぐの「原発ゼロ」が求められるべきです

ところが、いま、安倍政権による原発の再稼働に対し、これに反対する運動が、再稼働の差し止めを裁判に訴えています。この原発の再稼働を巡る裁判では、3.11福島の事故の厳しい現実から、原発の稼働での安全性の問題が主な争点になっています。政府は、原子力規制委員会が3.11後新しく決めた安全対策基準をクリアしたと認めた原発は再稼働してよいとしているのに対し、再稼働の差し止めを請求する原告側は、国が定めた安全基準には合理性が認められないとして争っています。しかし、原発の安全性は、裁判官にとっては、判断の困難な科学の問題ですから、結局は、原発電力がなければ、国民の生活と産業用に必要なエネルギー源としての電力が賄えないから、多少のリスクがあっても原発の再稼働が必要だとする行政府の主張を支持して、原発の再稼働を許可する判事の方が、特に、上級審において多いようです。

しかし、私ども以外には誰も指摘しないのですが、「原発についての科学的な絶対の安全」はあるのです。それは、「3.11福島のような過酷事故を起こす原発は、これを持たないこと、持ってしまった原発は稼動させないこと」です。もちろん、原発電力を持たないと国民の生活と産業用の電力が賄えないのであれば、話は別ですが、そんなことはありません。上記(①)の図2に示すように、3.11以後、現存の原発の稼働率がゼロに近い現状の下で、国民は、電力に不自由をしていません。3.11 の直後、原発電力の代替として用いられた火力発電の燃料の輸入金額が年間3兆円を超えて、わが国の貿易赤字を増加させたとされていますが、それは、当時、緊急措置として発電用に用いられた石油火力発電用の原油の国際市場価格が、2005年頃以降、化石燃料の枯渇が迫るとの危機感から石油が先物市場の商品とされて、バレル百ドルを超えて異常高騰していたためです。また、経済性を考えれば、火力発電用の燃料としては、最も安価な石炭が用いられるべきなのですが、かつて、石油危機の以前に用いられていた石油火力から石炭火力への切り替えが、地球温暖化を促進するとして、遅れたためでした。もし、この燃料の切り替えが行われていれば、石炭の代わりに用いられていた火力発電用燃料の石油や天然ガスの輸入金額は大幅に減少したはずです。いずれにしろ、このような、原発電力に関連する科学の常識が、一般に知られ、報道されていれば、原発の再稼働差し止め請求裁判に携わる判事の先生方の判断も違ったものになることが期待できるはずです。

実は、この科学者としての私どもの考えと要望を、原発差し止め裁判に預かっておられる著名な弁護士の先生に、直接、お手紙するとともに、面談でもお伝えしましたが、相手にして頂けませんでした。

原発の再稼働の問題は、この安全性の問題だけではありません。小泉元首相らが訴えるように、その処理・処分の方法に全く目途が立たない放射性核燃料廃棄物量を積み増して、国民を「トイレの無いマンション」に住まわせ続けさせる原発の再稼働は、人類の未来を破滅に導く大きな犯罪なのです。小泉元首相らが訴えるように、原発電力代替の自然エネルギーの使用が間に合わなくても、いますぐの「原発ゼロ」が実行されなければなりません。

 

③ 「第5次エネルギー基本計画のなかの原発電力の20 ~22 %」は、エネルギー政策のなかに迷い込んだ地球温暖化対策としてのCO2排出削減の要請によるものです。しかし、このCO2排出削減は、世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減で、実行可能となります。具体的には、いま、国際的な合意で進められている「パリ協定」のCO2排出削減を化石燃料消費の節減に代えることを世界に向って訴えること、これが、化石燃料枯渇後の世界に、日本が、そして、人類が生き残る唯一の道です

もう一度、「第5次エネルギー基本計画のなかの2030年度の原発比率20~22 %」の目的について考えてみます。この原発比率と同時に決められた、再エネ電力22~24 %、さらには、石炭火力電力26 % の値から判るように、この原発比率の値は、いま、国際的な合意の下で、「パリ協定」として進められている地球温暖化対策としてのCO2の排出削減の目標値なのです。しかし、このCO2排出削減目標は、原発電力の利用が無くても達成できます。私どもの試算では、世界中が協力して、CO2の排出源である化石燃料の年間消費量を今世紀いっぱい現状の値に止めれば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する地球気温の上昇を、人類の生存を脅かすとされる2 ℃ 以内に止めることができます。

したがって、いま、安倍政権が進めている地球温暖化対策の低炭素化を目的とした原発の再稼働は必要がないのです。原発の再稼働は、安倍政権が求める「アベノミクスのさらなる成長」のためなのです。いま、この「アベノミクスのさらなる成長」戦略が、世界一と言われる国家財政赤字を積み増して、日本経済を破滅の淵に陥れようとしています。この「アベノミクスのさらなる成長」が要求されなければ、原発の再稼働は必要がありません。すなわち、今夏、閣議決定された「第5次エネルギー計画の原発電力の20~22%」が求める原発の再稼働は、日本のエネルギー政策を混迷に導く以外の何ものでもありません。原発の再稼働の中止を含む国内の「原発ゼロ」の実現と、国際的には、「パリ協定」のCO2排出削減目標を化石燃料消費の節減に代えることに、世界各国の協力を訴えるべきです。詳細は、私どもの近刊(文献2 )ご参照ください。

 

<引用文献>

1、日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年版、省エネセンター、2018 年

2、久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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