エネルギー政策のなかに迷い込んだ地球温暖化対策が日本経済を破綻の淵に陥れます

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

(要約);
① 地球温暖化の脅威を防ぐためのCO2の排出削減が必要だとする世界の常識に米国のトランプ新大統領の出現が大きく水を差しています
② いま、地球上の人類にとって、温暖化より怖いのは化石燃料資源の枯渇です。世界が協力して、化石燃料消費の節減を図れば、IPCCが訴える温暖化は起こりません
③ CO2の排出削減では途上国が先進国にお金を要求していますが、化石燃料消費の節減では、その目標達成のための先進国から途上国への資金援助は不要です
④ 地球温暖化対策としての今すぐの化石燃料代替の再エネの利用を進めるのに使われている「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」は、即時廃止されるべきです
⑤ 化石燃料が枯渇に近づいているいま、アベノミクスのさらなる成長は、日本経済  を破綻の淵に陥れます
⑥ 日本経済が化石燃料枯渇後に生きの残る道は、エネルギー政策の中に迷い込んだ地球温暖化対策に無駄なお金を使うことなく、いま、現実となっているマイナス成長を素直に受け入れて、少ないエネルギー消費のなかで、真の豊かさを追求することです

 

(解説本文);
① 地球温暖化の脅威を防ぐためのCO2の排出削減が必要だとする世界の常識に米国のトランプ新大統領の出現が大きく水を差しています

昨年(2017年)秋、世界中の殆ど全ての国が参加して、パリ協定が締結された時には、地球温暖化対策としてのCO2排出削減が、地球上に生存する現代人の務めであるかのように報道されました。
これに、大きく水を差したのが、米国のトランプ新大統領の出現です。もともと、米国はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が訴える地球温暖化のCO2原因説には懐疑的でした。ブッシュ共和党政権時には、各国のCO2排出削減を義務付けた京都議定書に米国は加盟していませんでした。パリ協定への参加を進めた民主党オバマ大統領に代わって、共和党トランプ新大統領が出現して、米国は元に戻っただけの話です。
本来、地球温暖化の問題は、各国のエネルギー政策のなかに入り込んだ政治の問題でした。IPCCが訴える地球温暖化のCO2原因説は、気候変動のシミュレーションモデルをスーパーコンピューターを用いた解析解として得られた、実測データに基づく証明がなされていない科学の仮説に過ぎません。いま、起こっている地球気温の上昇が、地球上の気候変動の歴史のなかで周期的に繰り返されてきた現象だとの、いわゆる懐疑論も存在します。最大の問題は、いま、世界各国が、お金のかかる方法で、CO2の排出を削減したからと言って、いま起こっているとされる温暖化を防ぐことができるとの科学的な保証がないことです。こう考えると、トランプ大統領の主張を、地球に対する反逆だなどと非難することはできません。

 

② いま、地球上の人類にとって、温暖化より怖いのは化石燃料資源の枯渇です。世界が協力して、化石燃料消費の節減を図れば、IPCCが訴える温暖化は起こりません

起こるか起こらないか判らない温暖化の脅威に較べて、いま、地球上の人類にとっての真の脅威は、現代文明を支えているエネルギー源としての化石燃料の枯渇です。ここで、枯渇とは、現在の科学技術を用いて経済的に採掘できる資源量が少なくなり、その国際市場価格が高騰して、それを使えない人や国が出て来ることです。結果として、貧富の格差が拡大しています。それが、タリバンに始まりイスラム国(IS)に至る国際テロ戦争の形で現実化して、世界の平和を侵害しています。
この国際テロ戦争を含む世界平和の侵害を解決するには、地球上に残された化石燃料を今世紀いっぱい公平に分け合って大事に使うことで、貧富の格差を解消する以外にありません。具体的な方策は、私どもの近著(文献1)に示すように、今世紀いっぱい、先進国も途上国も、全ての国で、一人当たりの化石燃料消費量を、現在の世界平均の値以下に保つことを目標とするとの私どもの提言案を実現することです。
こんなことできるはずがないと言われるかも知れませんが、そんなことはありません。それは、この化石燃料消費の節減の私どもの提言案の実現が、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を図るとして国際的な合意が得られているパリ協定の実現の方策と一致させることができるからです。すなわち、パリ協定で決めようとしている、各国のCO2排出削減目標を、上記した、私どもが提言する、世界各国の協力による化石燃料消費の節減目標に代えて頂けばよいのです。この私どもの化石燃料消費の節減策こそが、パリ協定での世界のCO2排出削減を可能にする唯一の方策になります。

 

③ CO2の排出削減では、途上国が先進国にお金を要求していますが、化石燃料消費の節減では、その目標達成のための先進国から途上国への資金援助は不要です

化石燃料の節減対策であれ、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減であれ、これが実現できるかどうかには、お金の問題があります。昨年暮れのパリ協定での協議の場でも、CO2の排出削減への途上国の協力を得るために、先進諸国から途上国への支援金の額が、専ら協議の対象になりました。例えば、インドネシアは、自国で実行できるCO2の排出削減目標値とともに、先進国の資金援助があった場合の目標値の上積み案も提示しました。また、途上国のCO2排出削減量を先進国が自国のものにできるとする、CO2の排出削減をお金で解決する排出権取引の制度が、いまだに使われようとしています。
これに対して、私どもの化石燃料消費節減の提言案では、2050年の各国の一人当たりの化石燃料消費量節減目標の達成のために、図1に示すように、先進諸国では大幅な省エネ努力が必要です。この省エネ努力だけで不足する場合は、経済の許す範囲で再生可能エネルギー(再エネ)の利用を考えることになります。一方、中国を除く途上国では、まだ、化石燃料消費を増加して成長を続ける余地が残っていますから、再エネを導入するお金を、先進国に要求する必要はありません。

図 1 世界および各国の一人当たりの化石燃料消費の実績値と節減目標値の年次変化
(IEAデータ(エネ研データ、文献2に記載)の実績値と私どもの提言案の推定目標値)

地球上のエネルギー資源としての化石燃料が枯渇に近づいている今、先進諸国にとってのエネルギー政策として必要なことは、省エネルギーの徹底による成長の抑制でなければなりません。しかるに、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減で、IPCCは、お金のかかるCCS(石炭燃焼排ガスからCO2を抽出、分離、埋め立てる)技術の適用を推奨しています。これでは、CO2の排出削減はできても、化石燃料消費は増加します。もちろんこんな方法は途上国では使えません。

 

④ 地球温暖化対策としての今すぐの化石燃料代替の再エネの利用を進めるのに使われている「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」は、即時廃止されるべきです

起こるかどうか判らない地球温暖化を防止するためとして、CO2の排出削減に無駄なお金をかけている典型例として、今すぐの再エネ電力の利用を目的として設けられた「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」があります。
このFIT制度は、ドイツが主導するEUで制度化され、再エネ電力の利用の拡大に一定の成果を上げることができました。しかし、このFIT制度の適用による再エネ電力の利用では、現状の化石燃料主体の火力発電に較べて、高い発電コストを必要とする再エネ電力を利用するために、市販電力料金の値上げで国民に経済的な負担かけることになります。
したがって、再エネ電力の普及率が高くなるにつれ、図2に示すように、電力料金が高騰しましたから、国民の反発により、政府はこの制度による再エネ電力の買取価格を下げざるを得なくなり、 EUにおけるFIT制度は、再エネ電力の利用拡大の効用を失いつつあるようです。

図 2 主要国の電力料金(家庭用)の年次変化 (IEAデータ(エネ研データ、
文献2 に記載)を用いて作成)

想定される電力料金の値上げを懸念する経団連など産業界の反対で、EUに数年遅れてこのFIT制度を採用した日本でも、いま、総発電量に対する再エネ電力の利用比率がはるかに低い現状で、すでに、EUと同じようなことが起こっています。これは、発電コストの低い風力発電の利用が主体となっているEUと違って、日本では、発電コストの高い太陽光発電の利用が進められているからです。
本来、再エネは、化石燃料枯渇後のエネルギーです。すなわち、地球温暖化対策としての要請が無ければ、再エネの利用は、化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が高くなってからでよいのです。今でも、電力生産の主体を担っている石炭火力発電のコストは、再エネ電力の生産コストよりかなり安価です。したがって、日本経済の苦境の現状を考えると、やがて、石炭の輸入価格が高くなって、石炭火力発電を用いるよりも、再エネ電力を利用する方が経済済的に有利になってから、発電コストの安価な再エネの種類を選んで、FIT制度の適用無しで、その利用が進められるべきです。
日本経済に、マイナスの影響を与えている地球温暖化対策としての今すぐの再エネ電力の利用を避けるためには、いま、電力料金の値上げに繋がるとして問題になっているFIT制度は即時廃止されるべきです。

 

 ⑤ 化石燃料が枯渇に近づいているいま、アベノミクスのさらなる成長は、日本経済を破綻の淵に陥れます

安価な中東石油の恩恵によって高度経済成長を遂げて、中国に追い抜かれるまで、世界第2の経済大国にのし上がった日本ですが、いま、その成長を支えてきた化石燃料の輸入価格の高騰によって、マイナスの成長を余儀なくされています。いや日本だけではありません、世界経済がマイナス成長を強いられています。先進国に代わって世界の成長を支えてきた新興国の中国も、大きく成長が減退しています。この世界の成長の減速、その原因は、産業革命以降、成長を支えてきたエネルギー源の化石燃料の枯渇によるものです。
一時、騒がれたシェールガスやシェールオイルの開発も、どうやら幻想に終わりました。この化石燃料の枯渇による成長の終焉の影響を真っ先に受けるのが、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本経済です。その日本が、かつての経済成長のバブル後に起こったデフレを脱却しようとして採られたのが、アベノミクスのさらなる成長戦略です。
しかし、このアベノミクスの超低金利政策による円安誘導は、一時、輸出産業の回復で成功したかのように見えましたが、長続きはしませんでした。このまま、さらなる成長のための財政出動を継続すれば、世界一と言われる財政赤字を積み増すことで、自本経済は破綻の淵に陥るでしょう。

 

⑥ 日本経済が化石燃料枯渇後に生きの残る道は、エネルギー政策の中に迷い込んだ地球温暖化対策に無駄なお金を使うことなく、いま、現実となっているマイナス成長を素直に受け入れて、少ないエネルギー消費のなかで、真の豊かさを追求することです

 

<引用文献>

1.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――
電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日
2.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2017, 省エネルギーセンター、2017年

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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