「関東・東北大震災の影響と今後の日本経済復興」

現在、我が国は「関東・東北大震災」によって、未曾有の危機を迎えている。
この震災に関し、日本の危機管理システムや事前の対応戦略及び緊急措置の方法等多くの課題と改善事項を残しているが、その原因や今後の改善事項は徐々に明確になると思われる。ここでは、今何をなすべきかに重点を置いて、今後の日本経済の復興のための長期的
中期的政策と当面の政策に関して、提言することにしたい。
 
1.日本経済の基盤喪失
 今回の大きな危機は直接的には、地震と津波及び原発事故によるもので、死者・行方不明者15000人以上、被災者・避難民50万人以上という犠牲を払うことになり、また首都圏でも計画停電や物資不足による生活圧迫等広範囲な犠牲を招いている。
 この影響は、広域にわたり、長引くものであり、そもそも日本の社会インフラの限界の本質を見極めることなく、漫然と悪循環の政策を展開してきた為政者や行政及び専門学者の大きな責任でもあるが、3月11日は日本の戦後以降の大きな展開期となることは間違いないと思われる。
 この危機の中で、日本経済の基盤喪失としては、電力やエネルギーの脆弱性の表面化である。つまり石油依存等の省資源の問題とその運用システムの崩壊である。また政治家や行政等複雑な対応が要請される課題解決能力の低下である。我が国の文明の基盤である
石油依存の社会産業生活基盤の崩壊であり、教育を含めて課題の創造的な解決能力や人材の不足である。また従来から展開してきた日本の社会インフラの本質的な転換や産業政策の脆弱性がもたらした結果である。
 その意味では、従来から指摘された課題を放置したか、または解っていながら、変革を先送りした国民的意思や行政や官僚等の大きな責任でもある。
 
2.当面の課題
当面日本が実施すべき施策は、
 1)被災地・避難民の救済
   (食糧、水、燃料、医療、衣料、的確な情報、日用品、住居、職業、行政サービス、避難生活支援、各種手
 続き支援、精神療法、組織体制、ごみ廃棄物処理、排出物処理、治安、学校再開等) 
 2)被災地の復興
  (被災地整備、都市計画、復興資金、都市建設、移住、インフラの再整備、雇用、産業再生、コミュニティー
 再建、行政サービス等)
 3)生活インフラ再建
  (生活サービス、自治体制、自立構造、安定的な産業、新たなインフラの建設等)
これらの施策に関し、国家レベル、地方レベル等の支援資金規模を緊急対策として確保する必要がある。
(3月21日現在)
 ○危機への対応
 ・被災地での人命救済
 ・被災地の行政の復活や全国ボランティアの支援の動き
 ・緊急救援物資及び輸送開始
 ・被災者避難民の周辺自治体の集団受け入れ拡大
 ・原子力発電事故と危機管理
 ・発電所周辺住民避難
 ・計画停電(交通機関マヒ、間引き、電気の消費削減)
 ・被災地、避難民の情報ネットワーク(安否、物資等)
 
 ○政府等
 ・被害総額16から20兆円
 ・危機対応10兆円融資
  災害復旧ファンド検討
 ・被災地復興税の減免(生活支援緊急対策、復旧対策(被災企業への繰り戻し還付、復旧不能の固定資産
税の非課税等)、復興対策(登録免許税減免、特区利用の被災地の復興、地域金融機関への公的資金注
 入等)
 ・地震保険1兆円規模(’政府取り崩し)
 ・生活支援法(最高300万円等)
 ・原発事故住民賠償検討
 
 ○影響
 ・生産能力(素材、部品、製品、システム等)及びサービス生産性低下
 ・石油価格及び物価高騰
 ・停電等生活、交通機関混乱
 ・株価の低下(時価総額低下)
 ・財政悪化
 
3.長中期的施策
今後の長中期の施策は、
1)脱石油・低エネルギー社会の確立
  「安く、高品質の石油」の供給は、2005年以降ピークを過ぎたといわれる。
  我が国は、石油等のエネルギー資源を大幅に輸入に依存しており、今後の日本経済の再生には、低エネルギー社会の確立を図る必要がある。
 また原発の危険性が大きくなったため、原子力発電による電力供給は、今後スローダウンが予想される。
 ①代替エネルギー及び電力源の実用化
  ・太陽光、太陽熱、風力、波力、地熱、振動発電、海洋資源開発の開発
 ②藻等のエタノール開発等石油代替製品開発促進
  ・植物や藻の加工による石油代替の有機物の合成
 ③リサイクルシステムの推進
  ・廃棄物処理、都市鉱山等のリサークルシステムの推進
2)希少資源の確保
  ・レアアース、レアメタル等希少資源の確保の国家戦略の展開
 
3)スマートシテイー及びコンパクトシティー推進
 施設や移動手段等の効率的な配置と導線開発等都市生活の変革 
 
4)地域コミュニテイーの基盤強化
 地域コミュニティーの基盤(自立分散的なエネルギー利用、農作物等の生産システムの自立、高齢化社会を包含するコミュニティーの再興、互助協力体制の展開等)強化
 
5)都市と農村の交流と移動
 都市生活と農村との交流や相互移動の柔軟性の確保
 
6)広域連携ネットワークの展開
  地域広域連携ネットワークによる行政サービスの相乗りや相互支援機能の強化
 
7)自給構造の確立と地域連携ネットワーク
  地域自立構造の確立とさらなる連携(姉妹都市等隣接しない地域)ネットワーク構築 
 
8)創造教育
  画一的な教育から課題解決型創造教育の構築と多様なグローバル人材育成システム
 
9)IT等の有効な情報ネットワーク構築
  ICT等の有効な情報ネットワークや活用システムの構築
 
10)国家危機管理システムの再構築
  国家危機に対応する迅速な管理システムの再構築
  (専門家集団、政策決定能力、リーダーシップ等)
 
11)国家支援資金及び財政再建
  日本再建資金の獲得と並行しての財政基盤の再建
 
12)高付加価値を獲得する社会インフラ産業強化と新たな産業モデルの構築
  社会インフラを国家の持続可能性を加味し、技術のブレークスルーや国民の視点からの社会インフラ産業
の再構築と知識社会及び限界突破産業モデルによる新たな産業モデルの迅速な構築
  
4.今後の展開
我が国は、これまで、国家政策のイノベーションなき継続的な政策と推進基盤の脆弱性、国際的な視点による問題意識の欠如及び危機意識の弱さ、国際的な指標の低下傾向に対する対応の遅れ、企業においても、コスト競争力強化の延長における事業戦略、専門分化した集団経営による融合事業やシステム事業の弱体化、事業モデルの視点を忘れた選択経営モデル、事業特性に対応する顧客や市場志向の戦略機能の育成遅れ、国際的な買収や提携等の経営手段の遅れ、グローバル人材育成の遅れ、新産業の受け皿の脆弱性、ソフトや専門知識産業の育成遅れ等その構造は従来発想の旧態依然たる事業戦略であった。
この間、日本の国家戦略や国家ビジョンがないからであるとか、景気回復や経済回復の改革がないとか、社会保障や財政の立て直しを急げとか、内向き志向を嘆きグローバル人材を育成すべきであるとか等々で、日経2011年1月1日の社説でも「政治家と経営者は日本経済のこの大転換期にきわめて大きな責任を負っていることを自覚してほしい」と
結んでいるが、問題は危機意識とともに誤れる戦略から脱し、政策や戦略を正しく設定することではないか。
 今未曾有の危機に対して、国家戦略は、従来の内容を持続し、経費カット等を繰り返すのではなく、復興戦略を明確化することが不可欠である。これまでは政権政党、関係官僚が、政策を策定する手法も考えも持ち合わせていない結果である。政策の基本は、今後の将来の社会や国際競争等の条件を極めて、どのような国家像を描くかにある。日本再建と同時に、急速な知識社会への移行を目指さない限り、また資源小国の限界を如何に突破するかの戦略が不在であれば、それぞれの政策も一貫性がなく、重要施策の優先順位も不明で、その実現の仕組みや教育及び人材育成等の社会インフラの構築がなされないのも当然で、短期的な政策を継続することは避けなければならない。
産業政策もこうした展望に立たなくては、新産業を育成する土壌もなく、現状延長の業界主導の産業政策で、そこにはイノベーションはあり得ない。これまで企業は、競争戦略の主たるものは多少の技術革新に基づく変革はあっても、事業モデルの転換を意図したものではなく、単にコスト競争力のみの強化戦略にしか過ぎない。
我が国が独自に生き残る残る姿は、ものづくりでもなく、サービス事業拡大でもなく、
知識社会に必要な事業である。特に我が国の素材や部品や技術力を活かした、情報と物の一致させる機能を強化した「情物一致事業」で競争力を強化することである。
そこにはモノとソフトトサービスを一致させる付加価値の高い戦略機能ともいうべき
事業群を創造することで世界に冠たる産業を蓄積することができるのである。
またこのためには、科学・技術と社会価値が結合せざるを得ないことも理解され、教育や
人材開発の基本を変革することもできる。
当然、現在の専門分野を越えた新たな学問体系をつくることも必要になる。新たな人材には、新たな学問体系の確立とともに、社会の現場に基づく課題解決であり、また現場から提起される新たな解決の方法の体系的な展開である。
繰り返すが、日本の危機的な状態に加えて、世界は産業モデルや事業モデルの大きな転換期にある。この転換の本質を見極めて科学技術政策や産業政策を推進しなければ、投資は無駄になり、財政危機はますます拡大し、将来の方向性を見失うことになる。この危機を乗り越え、経済再生として成長戦略を強化推進する経済政策を推進強化することは、産業の内容を、改めて我が国が工業化社会、情報社会、知識社会へと移行する転換期として把握し、むしろ工業社会や情報社会の古い殻を引きづることではなく、投資を拡大し、国際競争に勝ち、収益を創造することではないか。この危機に対応し、国家戦略として、長中期の視点で戦略を描けない限り、持続可能な産業基盤を獲得することができないのである。
いよいよ誤れるまたは時代遅れの国家戦略と変化の本質を見極めない産業企業戦略を脱して、「日本経済の危機」を乗り越え、国家崩壊の道から未来創造への道を、政治家や経営者は危機意識を持って取り組み、実現推進すべきなのである。
今後日本の強さや特性を活かした政策論を本格的に展開すべき時期である。

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