アベノミクスは日本経済を破綻の淵に陥れる(その4) 経済成長の終焉と心中するクロダノミクス、2 % 物価上昇は誰のため?

(デフレ脱却のためとする 2 %物価上昇は、誰のために必要なのか?)

1990 年代から続いたデフレの脱却のために、2 % の物価上昇を達成させなければならな
いとするのが、日銀黒田総裁による異次元とも言われる量的金融緩和政策のようである。
しかし、この最終目標の 2 % の物価上昇が、黒田総裁の就任以来 3 年半以上たった今も達
成されていない。
そこで、この金融緩和の手法を修正しようとしたのが、今回(2016 年 9 月 21 日)開か
れた日銀の金融政策決定会合であるらしい。ここで、ようであるとか、あるらしいと書い
たのは、経済学の知識に疎い私どもには、今回の会合の内容を報じた新聞(朝日新聞
(2016/9/22))で読んでもその内容が必ずしも十分には理解できないからである。
しかし、このよく判らないとするだけで、いま、苦境にあると言われる日本経済を左右
する金融政策が果たしてこれでよいのだろうかとの素朴な疑問は拭い去れない。
この金融緩和政策が始まった当初から、私どもがずーっと疑問に思っていたこと、それ
は、「一体、誰のために物価を 2 %上昇させなければならないのか」と言うことである。
どうも、これは、産業を主体とする日本経済の成長のためではなかろうか? もちろん、
この産業のためが、結果として国民のためになるのであればそれでよい。狭い国土に大勢
の人口を抱える日本で、国民が、一定の水準の生活を維持していくためには、エネルギー
資源や食料を輸入しなければならない。そのためのお金を稼ぐ産業、特に輸出産業の振興
は必要だからである。敗戦の苦境のなかから立ち直って、一時、世界第 2 の経済大国にま
で成長した日本経済を支えてきたのが、この輸出産業であった。

 

(年金生活者が困るような物価上昇は未だ起こっていない)

先進国、新興途上国の輸出産業が世界中で飽和に達し、その伸び悩みにより、世界経済
が不況に陥った。これが、国内でのもの余りとなって、日本では、失われた 20 年と言われ
るデフレが起こっている。このデフレからの脱却のために掲げられたのがクロダノミクス
の金融政策のなかの物価上昇率 2 % の達成目標であろう。
しかし、一般市民としての国民の立場に立って考えると、物価が上昇すれば、それだけ、
市民生活の質が低下するから、決して喜ばしいことではない。物価が 2 %上がることは、国
民の多数から嫌われているはずの消費税が 2 % 上がるのと同じことになる。
したがって、この物価上昇を目的とした経済政策には反対の声が起こってもよいはずだ
が、そうはならない。それは、いわゆる景気対策として、日銀がどんどんお札を刷り増し
ているからである。世間に流通するお金が増えれば、仕事が増えて雇用が促進される。労
働者の賃金も上がり、物価上昇による生活費のマイナスがキャンセルできると期待される
からであろう。しかし、経済、経済と声高に叫びまくるアベノミクスでは、この物価上昇
の目的は達成できていないようである。
ところで、この政策的な物価の上昇が実現されれば、私どものような年金生活者にとっ
ては大きな問題となる。年金には物価上昇分の値上げが行われることはないから、物価上
昇は、確実に、年金収入の実質的なマイナスをもたらす。したがって、少子高齢化が進む
なかでのデフレ脱却を目指した物価上昇の金融政策は、年金生活者を狙い撃ちした福祉切
り捨ての政策と言ってもよい。
いや、年金生活者だけではない。いま問題になっている貧富の格差によって、社会の片
隅に追いやられている生活保護を受けている人々などにとっても、この物価上昇は、最低
生活の維持にとっての大きな障害になる。
では、何故、いま、この金融政策に対する反対の声が国民のなかからあがってこないの
であろうか? それは、黒田日銀総裁が必至になってこの物価を上げるためのバズーカ砲を
打ち上げてみても、物価は思うように上昇しないからである。年金生活者や生活保護受給
者などにとっての生活費の実質的な目減りが余り顕著になっていない。

 

(物価が上がらない原因が「原油価格の暴落」のせいだとおっしゃる黒田総裁)

私どもにとって、もっと判らないこと、不思議なことは、今回の日銀の金融政策の修正
のための会合のなかで、黒田総裁が、現在、この 2 % の物価上昇が達成できていない原因
を、「原油価格が暴落」としていることである。
確かに、2014 年度の後半に起こった原油価格の暴落は黒田総裁にとっては、予期せぬこ
と、都合の悪いことであったろう。しかし、この原油価格の暴落は、市民生活にとっては
大きなプラスをもたらしたはずである。直接、ガソリンや灯油の値段が下がっただけでな
く、間接的には、多くの消費物価の低下を招き、さらには、原油の輸入価格の低下に伴う
化石燃料全体の輸入価格も低下したから、それまで輸出の伸びの停滞で続いていた貿易収
支の赤字も削減し、日本経済にとってもプラスになったはずである。
この国民の多数にとって利益をもたらした原油の輸入価格の下落で困ったのは、物価の
2 % 上昇を金融政策での公約としていた黒田総裁と、この物価上昇を誘導するための金融
緩和政策による景気回復で予想される株式の上昇で利益をあげることを期待していた一部
の富裕層だけではなかろうか?
すなわち、物価の上昇目標を達成できなかったことを「原油価格の暴落」のせいだとす
る黒田総裁の発言は、自身が主張するクロダノミクスの物価上昇を目的とした金融緩和政
策が、国民(一般市民)のための政策ではないことを公然と表明したことになる。TV の画
面で、この発言をされる総裁の顔を見て、私どもはただ唖然とするばかりであったが、メ
デイアがこれに対して、なんの懸念も示さなかったことに、私どもの驚きはさらに倍増し
た。
この国の経済政策の責任書としての日銀総裁であれば、日本経済に大きな影響を与えた
「原油価格の暴落」について、その原因と、今後の見通についても、きちんとした調査を
してから発言すべきであったと思うし、その義務があるはずだと私どもは考える。
実は、この原油価格の暴落前の2005年頃に始まった乱高下を伴う原油価格の異常高騰は、
石油資源が枯渇に近づいていると言われるなかで、先進国でだぶついていたお金が先物取
引市場での原油の投機買いに使われたために起こっていたのである。各国の年金資金もが
この投機資金として使われたようである(文献 1 参照)。
したがって、2008 年のリーマンショックに見られるような国際的なマネーゲームの弊害
が明らかになるとともに、この原油高に釣られて、採掘コストの高いシェールオイルの採
掘ブームが起こって、世界の原油生産量が増加したことで、原油の国際市場価格が異常高
騰前の水準に戻ったのは当然のことであった。
私どもの予測では、世界各国が協力してこのような不条理なマネーゲームを避けるよう
に努めれば、今後、このような異常な原油価格の高騰と、それに続く暴落も起こることは
ないはずである。すなわち、これからの原油の国際市場価格は、石油の確認可採埋蔵量(現
在の科学技術と経済条件の下で採掘可能とされる資源量)の値にほぼ反比例して、ゆるや
かに上昇するはずである(文献 2 参照)。
世界経済の安定化のためにも大きな影響力を持つ日本の中央銀行の総裁として、この原
油の国際市場での安定化についても、責任をもった対策を考え、それを世界に向って提言
する義務があるはずである。

 

(アベノミクスに従属するクロダノミクスが日本経済を破綻の淵に導く)

何故、いま、日銀が、物価を上昇させなければならないのかと言うと、それは、黒田氏
を日銀総裁に任命した安倍首相が進める経済政策、アベノミクスが、資本主義社会が要請
する経済成長を継続させなければならないとしているからであろう。
しかし、いま、この経済成長は、日本だけでなく世界中で終焉を迎えようとしている。
それは、成長にはエネルギーが必要であるが、そのエネルギー源である化石燃料が枯渇に
近づいているからである。ただし、ここで、私が枯渇と言うのは、現状の科学技術の力で
経済的に採掘可能な資源量が限界に達し、その国際市場価格が高騰して、これを使えない
国や人が出てくることである。実は、既に、それが現実のものになりつつある。それが、
いま、世界経済に不況をもたらし、貧富の格差を拡大することで国際テロ戦争を伴う世界
平和に大きな脅威を与えている(文献 2 参照)。
この現状を無視して、かつての高度経済成長の時代に用いられたと同じ手法で、公共投
資を主体とする財政出動による成長を求めれば、世界一と言われる財政赤字を積み増して、
日本経済を破綻の淵に導くことになりかねない。
本来、中央銀行は、時の政府とは無関係の独立した機関として存在しなければならない。
その中央銀行が、時の政府に従属して、物価上昇を基本とするインフレ政策を促す金融緩
和政策を継続すれば、物価が際限もなく上昇する恐ろしいハイパーインフレーションを誘
発することになりかねない。繰り返しになるが、経済の成長には、エネルギーが必要であ
る。その安価なエネルギー資源の枯渇が近づき、世界経済が成長の終焉を迎えようとして
いる。真っ先に、この破綻の淵に追い込まれるのが、経済成長のエネルギー源の化石燃料
のほぼ全量を輸入に依存している日本経済である。
日本経済がマイナス成長を強いられるなかで、これまでの歴代内閣が続けてきた社会福
祉政策を現状のレベルに維持するためには、消費税を 25%に引き上げても間に合わないと
言われている(文献 3 参照)。
日本経済が、この厳しいマイナス成長の時代に生き残るには、世界で不可能とされてい
る経済成長を、日本ならできるとして訴えるアベノミクスから速やかに脱却する以外に道
はないはずである。

 

<引用文献>

1.水野和夫、川島博之編著;世界史のなかの資本主義、エネルギー、食料はどうなるか、東洋経済新
報社,2013 年
2.久保田宏、平田 賢太郎、松田 智;化石燃料の枯渇がもたらす掲載成長の終焉、科学技術の視点か
ら、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、私費出版、2016 年
3.志賀 櫻;タックス・イーター――消えてゆく税金、岩波新書、2014 年

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