アベノミクスは日本経済を破綻の淵に陥れる(その2)エネルギーを使わない経済成長のトリックに限界がきた

世界経済が低迷しているなかで、この低迷からの脱却を図るために、日本が先頭に立って世界経済を引っ張っていく。それが、先の伊勢志摩サミットで安倍政権が世界のG’7の首脳に訴えたアベノミクスの第3の矢、財政出動による経済成長である。

しかし、成長にはエネルギーが必要である。いま、世界の経済成長を支えてきたエネルギー源の化石燃料の枯渇が言われるなかで、このエネルギー消費の節減を図りながら経済成長を図ろうとしてきた資本主義経済のトリックが、もはや限界に達してきている。

 

(単位一次エネルギー消費当たりの実質GDPには国別に大きな差がある)

経済成長の指標としては、国内総生産(GDP)の値が用いられている。このGDPには、その国の通貨を用いた名目GDPと、現在、世界の基準通貨となっている米ドルとの間の為替レート(国により、また年次変化する)を考慮した値で表される実質GDPと2 種類がある。各国別の比較を行う場合には、後者の実質GDPの値が用いられなければならない。

また、経済成長のエネルギー源の主体である化石燃料が枯渇に近づこうとしているいま、その資源量に換算して表されたAエネルギーの値が一次エネルギーである。例えば、電力について、その発電量の値から、化石燃料を用いた火力発電の発電効率を考慮して、その生産に用いられる化石燃料の保有エネルギーあるいは質量(石油換算トン)の値で表したのが一次エネルギー(電力)の値である。

エネルギー経済研究所(エネ研)データ(文献1 )に記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータから、最近(2013年)の各国の単位一次エネルギー消費当たりで得られる実質GDPの値(以下 G/Eの値と略記)を計算して図1に示した、

この図1に見られるように、各国のG/Eの値には大きな違いがある。G/E(2010年換算米ドル/石油換算トン)の値が10 以上のEUや日本などの先進諸国と、5 以下の途上国の間にアメリカなど北中南米の国がある。このアメリカなどの中間部分の国を除けば、一人当たりのGDPの大きい国が高いG/E の値を示す。それには次の三つの要因があると考えられる。

先ず、第一の要因として考えられるのが、先進諸国と途上国の間のエネルギーの利用効率の違いである。例えば火力発電の発電効率や自動車の燃費の向上など、科学技術の進歩によるエネルギーの利用効率を向上させることで、先進諸国ではG/Eの高い値を得ることができる。しかし、それだけでは、先進諸国と、途上国との間の図1に示すようなG/Eの大きな違いを説明することができない。

 

図1 各国の単位一次エネルギー消費当たりの実質GDP、G/Eの値、2013

(IEAデータ(エネ研データ、文献2に記載)をもとに作成)

 

次いで考えられる第2の要因が、先進諸国のエネルギー消費の大きい産業の途上国への移転、すなわち、産業のグローバル化の影響である。この第2の要因は、図2に示す先進諸国を表すOECD 34と途上国を表す非OECDと産業用のエネルギー消費の年次変化の違

 

図2 OECD 34 と非OECD の最終エネルギー消費(産業)の年次変化

(IEAデータ(エネ研データ、文献2に記載)をもとに作成)

いにはっきりと見ることができる。ただし、産業用の一次エネルギーのデータが無かったので、最終エネルギー消費の値で示した。この図2 に見られるように、2000年代に入って、

OECD 34におけるエネルギー消費量の停滞のなかで、非OECD諸国でのエネルギー消費の年次伸びが大きくなっている。この非OECD諸国のエネルギー消費の増加は、単位エネルギー消費当たりのGDPの値であらわすことのできる人件費の高いOECD34諸国からの産業の移転、すなわち、産業のグローバル化によるものとして説明できる。

G/Eの値に大きな影響を与えている第3の要因と考えられるのは、特に先進国主体で行われている金融政策であろう。その典型例が、デフレ対策として2 % の物価上昇を目標として進められている日本におけるクロダノミクスに代表される超低金利政策であろう。結果として、日本では、庶民にとっての豊かさとは乖離した実態のないお金が増刷されて、単位一次エネルギー消費当たりのGDP、G/Eの値を大幅に上昇させていると見てよい。

 

(先進国ではエネルギーを使わないで、GDPを押し上げる仕組みができあがっている)

以上の三つの要因が重なって、各国の単位一次エネルギー消費当たりの実質GDP、G/Eの値が年次変化している。IEAのデータから、その様子を示したのが図3である。

 

図3 各国の単位一次エネルギー消費当たりの実質GDP(G/E)の値の年次変化

(IEAデータ(エネ研データ、文献2に記載)をもとに作成)

 

この図3に示す各国のG/Eの値に影響を及ぼす上記の三つの要因が、それぞれの国のG/Eの年次変化にどれほどの寄与を与えるかを定量的に知ることはできないが、第2の要因の産業のグローバル化と第3の要因の金融政策の影響が含まれないと考えられる途上国のG/Eの値が比較的緩やかな年次変化を示している。これに較べて、これまで、世界の経済成長を牽引してきた、ドイツ、アメリカ、日本などの先進諸国においては、最近のG/Eの値の著しい年次増加を見ることができる。特に、2010年以降の急激な伸びは、何とかGDPの伸びを確保するためとした金融政策の結果が如実に現れていると見てよい。しかし、金融政策によるG/Eの上昇効果には、当然、限界があると見てよいから、この上昇はどうやら2013年頃には止まったようで、これが、いま、GDPで示される世界の経済成長の停滞の主な原因になっていると見てよいであろう。

IEAのデータ(文献 1 に記載)から、各国の一人当たりの一次エネルギー消費と一人当たりの実質GDPの関係を図4と図5に示した。これを一つの図で示せなかったのは、先進国と途上国との間には、この一人当たりの値に余りにも大きな違いがあるためである。したがって、図4の先進国と図5の途上国のデータでは、縦軸・横軸のスケールを違えてプロットしてある。

先にも述べたように、経済の成長には、エネルギーが必要である。しかし、図4の先進国のデータを見ると、ここで示した各国では、エネルギーを使わないで経済成長ができる国がある。この原因としては、上記のG/Eの値を年次増加させている第2の要因、産業のグローバル化と第3の要因、世界各国の金融政策としてのマネーゲームの影響が考えられる、特に、後者の要因、すなわち、地球上の化石燃料が枯渇に近づき、成長に必要なエネルギー消費が制約されるなかで、政治が金融政策を使って、実際の豊かさの指標にはならなくなっているGDPの値を上昇させていることが判る。先ず、金融大国アメリカが先導し、その後を他の先進諸国が追従していることを図4がはっきりと示している。

 

 

注;プロットポイントは下から1971、73、80、90、2000,  05、10、12、13年の値

図4 先進各国の一人当たりの一次エネルギー消費と実質GDPの関係

(IEAデータ(エネ研データ、文献2に記載)をもとに作成)

 

 

注;プロットポイントは下から1971、73、80、90、2000, 05、10、12、13年の値

図5 途上各国の一人当たりの一次エネルギー消費と実質GDPの関係

(IEAデータ(エネ研データ、文献2に記載)をもとに作成)

 

確かに、これらの国では、一次エネルギー消費が年次減少しはじめているのに、GDPは余り減少していない。むしろ、僅かに増加している。しかし、消費が増えて成長が保たれているとは言えない。日本の場合で言えば、消費が低迷したまま、増刷されたお金は、どうやら貯蓄に回っているようである。多くの国民は消費を増やして、豊かさを味わう必要を感じなくなっているのではなかろうか。また、老後の年金の支給に不安があるために貯蓄に回していることも考えられる。 そのなかで、政府(安倍政権)は、公共投資の増加で景気を煽ろうとしているが、これでは、いま、世界一になったと言われる財政赤字がさらに積み増しされることになる。

すなわち、成長を促すとした低金利政策を推進するアベノミクスは国民に実質的な経済的利益をもたらすことはない。これを言い換えれば、エネルギーを使わないでGDPを上げる金融政策は幻想であることを示している。

一方、途上国のデータを示す図5では、もちろん、このような政治による金融政策を使ってGDPの値を上げることは行われていない。すなわち、成長に必要なエネルギー消費の増加にほぼ比例してGDPの値が上昇している。しかし、ここでも、国ごとにG/Eの値が大きく異なっている。原因としては、各国の通貨の基準通貨として用いられている米ドルとの交換為替レートの違いが大きく影響していると想像される。

 

(成長ができないなかで成長を訴えるアベノミクスは、日本経済を破綻の淵に導く)

世界経済の景気の指標として使われているGDPの値を何とか上げようとしている先進諸国は、競って金融緩和政策にその活路を見出そうとしている。その典型例が日本におけるアベノミクスである。いま、世界の経済が成長できなくなった根本的な原因は、成長のために必要なエネルギーが不足してきているためである。上記したように、先進各国が、単位一次エネルギー消費当たりのGDP、G/Eの値を上げようとした最後の手段として考えられた金融緩和策も、どうやら、限界に達し、その効用が得られなくなっている。

すなわち、エネルギーを使わないで、成長を図ろうとしてもそれができない。もはや、その弾丸が尽きたと言ってよい。しかも、この限界が最も早く表れるのが、単位一次エネルギー消費当たりのGDP、G/Eの値を世界一に近い高値を保ってきた日本と考えてよい。現状のエネルギー源の主役の化石燃料の全量を輸入に依存している日本にとって、それは宿命である。この苦境のなかで、アベノミクスは、成長の手段としての金融の異次元緩和が行き着いた先のマイナス金利政策をとらざるを得なくなった現状でも、いままでどおり、公共投資などの財政出動によって、何とか、この苦境からの脱出を図っている。

しかし、マイナス金利になっても、成長のための民間の投資が得られないからと言って、財政出動してみても、それは、すでに積み重ねられてきた1000兆円を超す財政赤字をさらに危機的な状況に陥れるだけである。もはや、消費税の増税では、この財政赤字は解消できないから、インフレ政策に頼る以外に方法がなくなっている(以上、私どもの近著、文献2 を参照されたい)。

このインフレ政策が異次元緩和政策と併用されれば、物価が何十倍も上昇するハイパーインフレーションを誘発して日本経済が破綻するとの指摘が現実化する懸念が大きくなってきている(文献 3 参照)。日本が、この経済危機の悪夢を避けるためには、マイナス成長の現状を率直に受け止めるなかで、エネルギー資源の配分の不均衡によってもたらされた貧富の格差を解消するための税制改革を含めた経済政策の改革を行う以外に手段はないはずである。

特に問題になるのは、選挙の票を大きく支配する社会保障のための財源の確保である。

安倍政権は、アベノミクスのエンジンをふかすことで、成長を図り、GDP 600兆円を実現できれば、税収が上がり、財源が確保できるとしている。しかし、図3に見られるように、エネルギー消費を増加できない条件下では、そんなことは、絶対にあり得ない子供だましの誇大妄想以外の何ものでもない。社会保障のための財源の確保のためには、アベノミクスが訴える公共投資のお金を使い、さらに不足分を消費増税で賄うほかない。

経済成長を訴える安倍首相には、成長のためにはエネルギーが必要であり、いま、化石燃料が枯渇に近づくなかで、エネルギーを使わないで成長することができないとの科学技術の原理・原則が判っていない。いや、安倍首相だけでない、彼を取り巻く経済学者も、エネルギーに関する科学技術の知識が根本的に欠如している。化石燃料の枯渇が言われても、その代替としての再生可能エネルギーが化石燃料と同様に効率よく使えるはずだとする科学技術万能の妄想が日本中に蔓延している。日本の科学技術行政政策の諮問に預かって、政治家やメデイアに、このような非科学的な妄想を植え付けている科学技術者、特に学識経験者と呼ばれている人々の責任が厳しく問われなければならない(文献 2 )。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;EDMC エネルギー経済統計要覧、省エネセンター,2016 年版、2016年

2.久保田 宏、平田 賢太郎、松田 智;化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉―科学技術の視点から日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、私費出版、2016年

3.志賀 櫻;タックス・イーター――消えていく税金、岩波新書、2014 年

 

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