中東の石油がもたらす格差の拡大が、人類の平和共存を脅かしている

貿易赤字の続くなかでの原油価格の急落:その3
 
第2次大戦後の世界の、特に日本の高度経済成長を支えてきたのが中東の石油である。実は、この経済成長をもたらしてきた石油の産地の中東で、石油利益の分配に伴う所得格差の拡大により、いま、人類の平和共存の望みが脅かされている。この脅威から逃れるための経済大国、日本の果たすべき役割について提言する。 
 
 
世界の石油資源の国別の配分
現在の科学技術の力で経済的に採掘可能な化石燃料の資源量を表す指標として確認可採埋蔵量(以下、可採埋蔵量)の値がある。したがって、石油について、その国際貿易市場価格が高くなれば、可採埋蔵量の値は増加する(高い石油でも掘り出して使える)一方で、この国際市場価格が高くなれば、使いたくとも使えない人が増えて来るから、石油の消費量、すなわち、生産量が減少する。このように、エネルギー源としての石油の可採埋蔵量、生産量の値は、世界経済の動向により左右される値である。
 
したがって、石油の場合、本稿(その1 )、(その2 )に記したように、現状では、原油が金融市場での投機の対象となった異常価格上昇の影響を受けた可採埋蔵量だと考えてよい。このように、多くの不確定要因を含んだ、発表機関の恣意の入りこむ値であるが、現状では、世界の石油の供給可能量を定量的に評価するためには、この可採埋蔵量の公表値を用いる以外に方法がない。
 
ここでは、世界の石油資源供給の現状の概要を把握するために、日本エネルギー経済研究所(エネ研)のデータ(文献3-1 )から、BP社による石油についての2012年の確認可採埋蔵量、生産量、可採年数R/P(確認可採埋蔵量Rを生産量P で割った値)、および、IEA(国際エネルギー機関)による一次エネルギー消費(石油)の2011年の値を、国別で比較して表3-1 に示した。
 
表3-1 石油の確認可採埋蔵量、生産量、可採年数、消費量(一次エネルギー消費(石油))の値の国別の比較(上位10ヶ国、カッコ内数値は、対世界比率)
  (エネ研データ(文献3-1 )の数値を基に作成、)
 
 
石油の資源量、生産可能量は、中東に集中している
 
この表3-1を見ても判るように、可採埋蔵量の値で与えられる石油資源量でみると、中東地域が世界全体の48.4 %、生産量では 32.8 % を占める。さらに、この可採埋蔵量R を現在の生産量Pで割った可採年数R/Pの値が、世界平均の値 52.9 年を超えている国が中東に集中している。こ中東以外では、南スーダン、ベネズエラ、カナダの3か国があるが、南スーダンは資源量が小さく問題にならない。また、べネズエラ、カナダの石油は重質油で、軽質化のための原油生産コストが高くなるから、安価に供給可能な原油とは言えない。
 
一方、生産量、消費量で10 指に入るロシア、アメリカ、中国の可採年数が、それぞれ、22.4、11.4、10.7年と小さく、ロシア以外では、将来的には、中東への依存度を高くせざるを得ないと予想される。また、中東の国別で見ると、サウジアラビヤが可採埋蔵量で第2 位、生産量で第1位を占め、石油危機の頃に比べて、その力が衰えたとは言え、今回の原油価格の大幅下落に見られるように、サウジが主導するOPEC(石油輸出国機構)が依然として原油価格の決定に強い影響力を持つことを示している(本稿(その1 )参照)。
 
中東石油への依存がもたらす格差の拡大が人類の平和共存を脅かしている
 
石油の消費量で世界第3位を占めるなかで、その全量を輸入に依存しなければならない日本は、石油危機時の苦い経験から、中東への石油依存率を削減するための懸命の努力を続けてきた。しかし、この原油輸入量の中東への依存率の年次変化を示した図3-1 に見られるように、その依存率は、1985年頃を底に2000 年代には、石油危機以前の値にまで戻ってしまっている。日本が、この中東への高い依存率が許されているのは、石油危機以来、つくられてきた中東諸国との友好関係維持努力の結果とみるべきである。
 
このように、世界の、特に日本の石油供給が、大きく中東に依存することからも、この中東における政治的な安定が強く望まれなければならない。ところが、石油危機後、小康を保っていた中東の政治情勢は、イラン革命、アルカイダにつながる9.11事件に関連した米国のイラク進攻まで、この中東石油の供給の安定化を阻害しかねない不安定要因が後を絶たない。その根底にあるものは、石油を主体とするエネルギーを用いた経済成長に伴う大きな貧富の格差の拡大である。
 
 
図3-1 日本の原油輸入量の中東への依存比率の年次変化
 (エネ研データ(文献3-1 )を基に作成)
 
中東の石油の生産による利益は、開発資金を投資している先進諸国の利益に還元されるとともに、石油の生産国においても、一部の権力者により独占されている。これに不満を持つ人々と宗教とが結びついたのがアルカイダによるテロであり、それが、つい最近のイスラム国にまで発展したと見てよい。これは、第2次大戦のような、軍事力を使った国家間の大規模な戦争を行えない人々による、テロの形をとった第3次大戦だと考えるのは私の思い過ごしであろうか。
 
いま、米国が先導する先進諸国は、これを軍事力を使って平定しようとしている。しかし、拡大するテロ行為を警察力や軍事力で解決することは到底不可能である。確かに、テロ行為は、人道上、許されないことではあるが、この問題を根本的に解決するには、このテロ発生の原因となっている貧富の格差の解消以外には方法がない。これをエネルギー資源の問題としてみれば、世界中が協力して、エネルギー消費の増加を必要とする成長を抑制し、残された石油資源を皆で分け合って大事に使うことで、貧富の格差を解消することでなければならない。これを世界に向って訴えることが、いままで、中東の石油の最大の恩恵を受けてきた日本にとっての世界平和、人類の平和共存に貢献する道であると同時に、エネルギー資源を持たない日本経済の生き残る途である。
 
引用文献;
3-1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2014年

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