水素社会」のフロントランナーFCV は、どうやら見果てぬ夢に終わる

科学技術の視点から、どう考えてもおかしい「水素社会」 :その2

「その1」の原稿を書いた後、トヨタの販売店に、燃料電池車(FCV)の MIRAI の 販売用のカタログを貰いかたがた、その売れ行きを聞きに行った。年間 700 台しか生産し ていないから、販売店には見本の車も置いていない。営業担当者もまだ、実物を見たこと がないとのことであった。一店舗当たり 10 台の販売割り当てだが、今年度(2014 年度) 分だけでなく、来年度分の予約も完売とのことであった。販売価格 700 万円、国の補助金 が 200 万円で、500 万円を支出しなければならない FCV を買えるお金持ちが居るものだ と驚いた。アベノミクスによる株価の高騰で大儲けした人が買っているのであろう? いずれ にしろ、庶民には関係のない話である。 

エネルギー源種類の異なる車の単位走行距離あたりのコストを表す指標としての「新燃費」の概念を提案する 

現在、自家用車として、ガソリン車(GV)が主体を占める現状で、その代替として、電 気自動車(EV)や FCV が広く庶民に普及するためには、これらを使用する消費者にとっ て、GV 使用の場合に較べて経済的支出としてのエネルギーコストが小さくなければならな い。GV などの内燃機関自動車(日本の場合、排ガス規制の関係で、自家用を含む旅客用自 動車の大部分が GV なので、以下、GV とする)に対して、その使用による消費者の経済的 な支出を表す指標として用いられているのが燃費の概念である。現在、GV に対する「燃費」 は、単位燃料消費量あたりの走行距離 km/l の値で与えられている。同じ GV 間の比較で あれば、この燃費の値で、車種別のエネルギーコストを比較できる。しかし、EV では、例 えば、日産リーフのパンフには燃費が 6.0 km/kWh と、異なった単位で記されており、こ のままでは、違った車種間のエネルギーコストが比較できない。 
 
そこで、私は、この在来の燃費に代わって、単位走行距離当たりのエネルギーコストを 表す次式で定義される「新燃費」の概念を提案することにした。 
(新燃費)= { 1 / (燃費) }×(エネルギー源価格) ( 2 – 1 ) 燃費 25 km/lの省エネ型 GV について、燃料ガソリンの市販価格 140 円/l とすると、 
 
GV の新燃費の値は、( 2 – 1 ) 式から、次のように求められる。 新燃費(GV)=(1 / 25 )×140 = 5.6 円/km 
一方、EV として日産リーフの燃費 6 km/kWh を用い、電力料金として家庭用の料金 24 円/kWh に、EV の蓄電池への充電コストとして、その 10 % を加えた 26.4.円/kWh の値 を用いると、EV については、 ( 2 – 1 ) 式から、 
 
新燃費(EV)= (1 / 6 )×26.4 = 4.4 円/km 
と求められる。
FCV については、MIRAI のカタログと販売店での聞き取りから、車の水素貯留タンク 
の満タン時の水素質量 4.6 kg での走行可能距離 650 km とあるので、FCV の在来の燃費 の値は 141.3 ( = 650 / 4.6 ) km/kg-H2 と計算される。これに、現在、利用可能な水素ステ ーションでの水素の販売価格 1,080 円/kg (販売店での聞き取りから)を ( 2 – 1 ) 式に代 入すれば、FCV の新燃費は、次のように求められる。 
 
新燃費(FCV)= ( 1 / 141.3 ) ×( 1080 ) = 7.64 円/km 驚いたことに、現状のエネルギー源価格では、省エネ目的での FCV の使用は、何と現 状の省エネ型 GV より 1.36 ( = 7.64 / 5.6 ) 倍もエネルギーコストが大きくなる。 

 

省エネ目的の電動車としての EV、FCV が GV 代替として普及するための条件 
上記した、私が提案する新燃費を指標として、現時点での、省エネを目的とした EV と FCV の GV 代替利用の可能性を考える。現在、日本における自家用車の平均的な使用条件 は、使用年数 10 年、走行距離 10 万 km なので、消費者にとっての車の使用期間内に想 定されるエネルギーコスト Co の値は、上記で求めた新燃費の値から、次式で計算される。 
 
Co =(走行距離 10 万 km )×(新燃費) ( 2-2 ) GV、EV、FCV 各車の使用期間内のエネルギーコスト Co の値は、この ( 2 – 2 ) 式を用 いて計算される上記のそれぞれの車種の新燃費の値から、次のように計算される。

Co(GV); 56 万円、 Co(EV); 44 万円、Co (FCV ) ; 76 万円 

これらの Co の値から、先ず、省エネを目的としてすでに市販されているEVが、現在、 一般的に普及している GV に代わって用いられるための条件を考える。いま、代替対象の EV とほぼ同じ車格の GV の市販価格を 210 万円として、この値に、上記のエネルギーコ ストCo(GV)とGo(EV)との差額 ΔCo=12(=56–44) 万円を加えた 222(=210+ 12 ) 万円以下であれば、省エネ目的の EV が GV に代わって利用・普及される可能性がある。日産リーフ(EV)の現在の市販価格 280 万円から国の補助金 53 万円(発売当初 78 万円が年々減額している)を差し引いた価格 227 万円とほぼ同じになる。にも関わらず、 思うように EV の利用・普及が進まないのは、GV に比べ、一充填走行可能距離(航続距離 と呼ばれている)が小さいのと、ガソリンスタンドに匹敵する急速充電施設が整備されて いないためと考えられる。しかしながら、いずれ、石油が枯渇に近づき、ガソリン価格が 上昇すれば、ガソリン価格に比例する GV の新燃費の値と市販電力価格に左右される EV の 新燃費との値の差が、現状に比べて次第に大きくなるから、もはや、航続距離が小さいな んて言っていられなくなり、やがて、EV の時代が訪れることは確かである。 
 
これに対して、FCV はどうであろうか?先ず、現在の FCV と EV の新燃費の値の比較 (FCV が EV の 1.72 倍)から判るように、将来とも、FCV が EV に代わって用いられる ようになることはないと考えるべきである。それは、本稿(その 1 )でも述べたように、 同じ電動車として、エネルギー源の電力を、直接使って走る EV に較べて、同じ電力を一度 水素にして、それを電力に再転換して使用する FCV のエネルギー効率が低下することは、 科学の必然だからと考えてよい。この違いは、将来、エネルギー源としての電力が、再エネ電力で賄われるようになっても変わることはない。 

 

「水素社会」のフロントランナーFCV の利用・普及は見果てぬ夢に終わる 
上記したように、同じ電動車としての FCV の新燃費の値が EV に比べて大きくなる、も う一つの原因として、エネルギー源としての水素を車に充填するために水素の製造プラン トから水素ステーションまで輸送するために水素を液化しなければならないことが挙げら れる。この水素ステーションでの水素の販売価格 1,080 円/kg-H2 の半分以上が、この水素 の輸送に必要な水素の液化のコストと試算される。この液体水素を用いて、水素が FCV 車 内の 700 気圧の特製の貯留容器(ボンベ)内に充填される。この満タン時の質量 4.6 kg の 水素が、一充填時走行距離 650 km の GV 以上の高い値を保証している。 
 
FCV の開発の当初から、積載可能な水素量が問題になっていた。在来から考えられてい た水素吸蔵合金を用いる方法などでは積載要求量を満たすことができず、トヨタは、一時、 LNG(液化天然ガス)から水素をつくる化学反応装置を FCV に積み込むことを考えた。化 学反応装置設計の研究を仕事としてきた私には、これは無茶だと、私的な反対意見を述べ たが、結局、この高圧ボンベ利用によるこの水素ステーション方式での実用化が進められ た。しかし、日本経済にとっての将来のエネルギー問題の重要性を考えるとき、上記の GV と EV の比較の問題でも述べたように、航続距離の問題を理由に FCV が EV に代わって用 いられなければならない理由はないはずである。 
 
それが、MIRAI の発売後、「水素元年」などと騒ぎ立てるメデイアを巻き込んで社会現象 に発展している。見かねて私は、上記したような、「新燃費」の概念を用いて、この FCV の実用化可能性評価の解析を行ってみた。結果は、私が想像した以上に、無残なものであ る。よく言われているように、官公庁用か、アベノミクスで大儲けした人以外に、FCV に 乗る人はいないと考える。

しかし、この厳しい現実が、いままで、誰にも知らされていな い。それどころか、つい最近、NHK TV の時論・公論で、解説委員の方が、トヨタが FCV 関連の特許を無料で世界に公開したことを取り上げて、この FCV を含む燃料電池を利用し た「水素社会」の技術を世界に売り込む国際的ビジネスを展開すべきだと訴えていた。何 の根拠も示さないまま、何のために、公共放送が、こんなことを訴えなければならないの であろうか?いま、大きな貿易赤字と財政赤字をかかえている日本経済の苦境を考えると き、このような国民不在の不毛なエネルギー政策プロジェクトに、国民の貴重な税金を浪 費する余裕は何処にもないはずである。 

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