カナダの石油・天然ガス開発の悩み

カナダのオイル・サンド
 
カナダの石油の可採埋蔵量はBPの2012年の統計によれば、1750億バレルである。これは全世界の埋蔵量の10%を占める。しかし1750億バレルのうち、1700億バレルがアルバータ州にあるオイル・サンドである。
 
オイル・サンドは固体のため自噴せず、石油と比較して生産コストが高く、さらに廃棄土砂の処理に多額の費用がかかるため、長い間経済的に採取することができない資源として放置されていた。
 
しかし、1978年から日本の企業数社は、カナダと協力して、オイル・サンド開発のために必要な技術開発を行ってきた。
 
現在石油価格は上昇し、オイル・サンドの開発も採算が合うまでになり、開発が進められている。日本企業は先見の明があったということであろう。
 
日本企業が取り組んだ技術開発によって、現在2つの方法でオイル・サンドを採掘している。
 
まず露天掘り、Miningと呼んでいる方法である。
 
高さが20メートル近くある電動ショベルでオイル・サンドを掘り出す。掘り出されたオイル・サンドにはタール状の油(ビチューメン)が付着している。オイル・サンドから1バレル(約160リットル)の石油を生産するのに、数トンのオイル・サンドを採掘する必要があり、そのままでは石油として利用することはできない。
 
そこで、オイル・サンドに80℃程度の熱湯をかけ、付着したビチューメンを分離・抽出する。この過程で、有毒物質を含んだ大量の水と土砂が発生する。
 
汚水は人口貯水池にためるが、たびたび流出し、周囲の民家の水道からはメタンガスが出てくるといった事故も報告されている。
 
アルバータ州のオイル・サンド採掘現場では、露天掘りでは採掘できない地下深くにもオイル・サンド層が広がっている。これをIn-Situと呼んでいる。
 
地下深くのオイル・サンドを採掘する場合は、オイル・サンドを液状化させて採取する。地下にパイプを通して高温の蒸気を大量に注入する。オイル・サンドは蒸気によって流動化し、ビチューメンが分離する。そのビチューメンをポンプでくみ上げる。
 
熱湯や蒸気は天然ガスを使ってつくられる。つまり大量の天然ガスを使ってオイル・サンドからビチューメンを抽出し、電気ポンプを使ってそれをくみ上げている。
 
アルバータ州のオイル・サンド採掘現場は、かつて豊かな北方針葉樹林の森であった。しかし、いまではその森は消失し、荒涼としたオイル・サンドの採掘現場に変わってしまい、汚染水がたまる広大な池も出現した。開発が終了すれば、当然元の自然に戻すことが義務付けられている。このコストも相当である。
 
下図は、採掘法別の生産コスト比較である。中東の石油は20ドル以下で最も安い。それに対し、オイル・サンドのMiningは63ドル以下で、In-situはそれより高く、59-70ドルである。
 
 
カナダ産オイル・サンドはコスト高ではあるが、近年の石油価格高騰によって、採算が合うようになり、開発が促進されるようになった。しかし、米国では非在来型天然ガスであるシェール・ガスが開発されるようになって、カナダ産オイル・サンドは苦境に立たされているようだ。
 
米国でなぜ非在来型天然ガスが成立するか?それは(1)傾斜掘りの機材が豊富にある、(2)水圧破砕の機材が豊富にある、(3)土地所有者に売上げの一部が配分されるといった地元が開発促進するインセンティブがある、(4)法律で化学物質の利用を認めるなどの環境規制が非常にゆるい、(5)ガスパイプラインが完備している、などからである。
 
このために、米国だけは生産コストが安くなる。現在の米国内の生産コストは石油換算にしてバレルあたり約20ドルと言われている。
 
しかしこの安いシェール・ガスを日本に輸出しようとすれば、専用運搬船を利用することになりコスト高になることは明らかである。
 
まず、天然ガスをマイナス162℃以下に冷却して液化し、魔法瓶のような断熱容器を搭載した専用船に積み込む。液化された天然ガス(液化天然ガス、LNG=Liquefied Natural Gas)は、もとのおよそ600分の1の体積まで縮小される。
 
日本の港に着くと、液化天然ガスはすぐに海水などで温められてガス化され、都市ガスや海岸付近につくられたガス火力発電所の燃料として使われる。
 
この過程で、多くのエネルギーが失われる。
 
まず、新たなパイプラインの敷設に使われるエネルギーである。つづいて、天然ガスを冷却し、液化するためにエネルギーが必要である。その量は天然ガス自体がもつエネルギー量の2割にも相当する。また、専用船による輸送にも1割程度のエネルギーが必要である。保管にもエネルギーが必要なので、すぐに利用しなければならない。
 
結局、天然ガスは輸送、保管のためにさまざまな施設や技術が必要で、エネルギーロスも大きく、日本に到着した時は、50%程度は割高になっていることが予想される。
 
カナダ産のオイル・サンドを含めた非在来型石油・天然ガスは主に米国に輸出していた。ところが米国では安いシェール・ガスが生産され、米国内の天然ガス需要よりも多い生産量を上げている。そのためカナダ産の非在来型石油・天然ガスは行き場を失い、だぶついてしまっている。
 
日本も投資して開発したオイル・サンドである。なんとかしなくてはならないということで、現在日本への売り込みを行っている。
 
しかし、米国産であれ、カナダ産であれ、中東の石油の生産量に比べれば遥かに小さい。中東が石油ピークを迎えた時、両国は非在来型石油・天然ガスを自国の消費に回すため、輸出する余力はほとんど無くなると思われる。
 
日本にとって、カナダ産石油の輸入は、供給の多様化によるエネルギー安全保障の向上、日本の石油企業の育成という点では非常にメリットは大きい。しかしこれで安心というわけではないことを肝に銘じておく必要がある。
 
やはり低エネルギー社会を目指すことが、一番の策である。

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