天然資源の生産におけるEPRとエントロピーの一考察(1)

天然資源(自然に存在するエネルギー資源)の生産において、EPR(エネルギー利益率)とエントロピー(熱と物の拡散の程度を表す物理量)の双方について評価することが重要である。
EPR=自然から取り出すエネルギー(出力)÷取り出すために必要なエネルギー(入力)で定義される。EPRの値は、入力の方法や工夫によって大きくすることができる。
エントロピーとは「自然の状態では、熱は高温から低温に向かって流れ、物質は拡散していく」という現象を、‘エントロピーが増大する’として表す物理量である。よって、仕事(エネルギー)の適当な与え方によって、低温の熱を高温にしたり、拡散した物質を濃縮する、すなわちエントロピーを低減して、エネルギーや資源としての使用価値を高めることができる。 生産によって‘EPRの大きさ’と‘エントロピーの小ささ’がともに十分なモノは、安くて使い勝手が良い。しかし、通常の入力ではEPR<1だが、エントロピーが小さいモノもある。逆に、生産によってエントロピーが高くなるような工業プロセスはあり得ない。
イージーオイル減耗時代になって、石炭を除くほとんどの天然資源のEPRが10以下とみられる。エネルギー使用の節減、さらには低エネルギー化と再生可能エネルギーへの大幅な転換が求められる日本社会において、天然資源の生産におけるEPRとエントロピーを可能な限り高い精度で把握し、EPRを増大させ、エントロピーを低減させる知的工夫することが重要である。主だった天然資源のEPRとエントロピーの特徴について概観する。

(1)地下水の揚水
帯水層内を流れる地下水資源を揚水ポンプで取り出す場合、EPR<1である。なぜなら地下水が地表へ揚水することによって得られる位置エネルギーは、その揚水に必要なエネルギーに対して理想的には同じ量であるが、実際的にはポンプ電動力の機械効率によって70%程度、即ち、EPR≒0.7である。それでも、揚水された地下水は濃集度が上昇し、位置エネルギーを獲得した低エントロピー資源として使用価値が上がるので、運転エネルギーコストがかかるが、産業、生活に広く利用される。
なお、人力、馬力で、滑車つるべ桶、梃子の原理を工夫して揚水すると、その摂食エネルギー量に対してEPR≧1かもしれないが、揚水生産量が限られる。 電動式の地下水揚水システムは使用価値を高めるが、それに必要なエネルギーを多消費する。したがって、地下水揚水システムを、EPRが1より大きなシステムの中の部分システムとして位置づけて運転することになる。そのシステムの設計と施工に、科学技術の役割がある。
自然な地表用水路からの取水の場合、取水制御に必要なエネルギーは、平常使用時には少なくて済むのでEPR≫1だと認められる。ただ、異常気象の影響を受け、豪雨、洪水、渇水の場合に、用水量制御できない大きなリスクがある。

(2)在来型石油・天然ガスの採取

在来型の石油・天然ガスは、貯留層の孔隙(数%~数十%)に移動集積された流動拡散ポテンシャルのある資源である。しかし地下での産状は高エントロピー物質である。これを生産装置によって採油・採ガスすることによって得られる燃焼エネルギーポテンシャルは、際立って低エントロピー資源である。取り出すために必要なエネルギーは、自噴生産の場合、坑井等の生産設備建設エネルギーだけとみてよく、そのEPRは非常に大きく、EPR>100以上のケースもある。ポンピング生産の場合でも、良質な巨大油田ではEPR>30と見られる。低浸透率貯留層を刺激・破砕して採取する場合、EPR<10のオーダーとみられる。

(3)シェールオイル・シェールガスの採取

非在来型の石油・天然ガスは油母頁岩の中に残存しているので、ベーズンの油母頁岩分布がわかっている場合、発見失敗のリスクは小さい。流動拡散能力のない産状でエントロピーの非常に高い物質であるため、これを流体化して地表で生産する。そのために水平坑井をイージーオイル生産の場合と比べて小間隔で多数掘削し、それぞれに水圧破砕・フラック流動処理を加える必要である。多量の水を使用し廃水処理にエネルギーが追加的に必要である。採油・ガスの面積が小さく、水平坑井毎の生産減衰が大きい。よってEPR<1とみられるが、得られる石油・天然ガスの燃焼エントロピーが在来型と同様に低いため、特定の供給に対して高い使用価値が得らえうる。 EPRが小さいほどエネルギーを多消費し、生産コストがかかる。
米国において、シェールオイルの生産は、イージーオイル減耗時代に在来型石油の価格高騰と連動して事業的に成り立っているが、世界規模で石油文明を継続させる能力にはなりえない。 米国で在来型ガス価格が低値安定的($2-4/mcf)であるために、シェールガスのみの生産は生産コストが高く($6-8/mcf)、事業はシェールオイルに随伴のシェールガス生産に限定的になってきている。
シェールオイル・シェールガスの生産では、地層破壊に因る地下水汚染に伴う公害が問題視されており、今後、環境規制により内部経済化によるコスト上昇が予想される。

(4)地球熱の採取
社会が直接的に利用できる地球内部の熱資源は、その温度範囲が火山地帯の200℃以上の高温から、地表部浅層の15℃程度の定温にまで幅広く分布している。使用条件によっては、湖水、地底水(洞窟)、河川水、海水からも採熱できる。

① 地熱蒸気発電は、地下深部(2km前後)に200℃以上の熱水貯留層があり、坑井で等温 膨張して自噴した蒸気のエネルギーで発電し、エントロピーの低い良質の電力エネルギーを得る。生産に必要とされるエネルギーは、熱水貯留層の探鉱開発、蒸気生産設備の建設と改修、還元水処理、環境管理にかかるエネルギーである。地熱水は主として天水起源地下水が深部火山性熱源で加熱されたもので、地下での熱水生成量と地上への熱水採取量が均衡循環するようにエンジニアリングすることにより、永続的なエネルギーとなる。貯留層の熱水の質(温度と流量の安定、スケール成分)が、電力の安定的な生産、およびEPRに、直接的に影響する。

② 地熱貯留層の熱水温度が150℃程度~90℃程度の場合、バイナリ―発電方式によって、 低エントロピーの電力エネルギーを生産することができる。バイナリ―発電方式とは、地熱蒸気温度で気化温度の低い冷媒流体(アンモニア、アンモニア水等)を気化し、その蒸気で発電する方式である。地下からの熱水のエントロピーは①の場合の蒸気に比べて高いが、冷媒流体との熱交換器を追加することにより、地熱蒸気発電と同質のエントロピーの低い電力エネルギーが得られる。

③ 高温温泉水(100℃~45℃)の場合、従来はほとんどの場合、低いエントロピーの温泉 水に加水、あるいは湯漕ぎというタイプでエネルギーを投入して45℃程度にエントロピーを高めて浴用に使用し、その余り湯、排湯はそのまま廃湯している。 しかし、高温温泉水が配管を通して浴槽に運ばれるまでに温度降下するが、その際に放熱される熱エネルギーをカスケード利用するように設計し、温室園芸、施設暖房等の産業、生活に利用することができる。
温度降下は、エネルギーを使って制御する必要がないので、高いEPRと高い使用価値が得られる。

④ 浴用に使用後の廃湯や45℃以下の余り湯は、温度が30℃以下の高エントロピーに降温するまでカスケード利用することができる。

⑤ 地下水、地中熱の温度は15℃程度で年中安定的である。湧水、冷めた温泉水も含まれる。
この地下温度場の熱エネルギーを熱交換によって採取し、ヒートポンプによって高温にしてエントロピーの低い熱エネルギーを作る。主に、暖房、給湯などの使用価値のためにシステム設計される。冷房目的で、ヒートポンプで高温にして地下温度場に排熱することもできる。
EPRは、所定の室内温度にするために得られた熱エネルギーと、そのために必要なヒートポンプのエネルギー(圧縮機の軸動力)の比である。地中熱の場合、標準的にはEPR≒5である。       
即ち、温度15℃の高エントロピーの状態で存在する地下熱から、ヒートポンプ生産設備を用いて、暖房の場合に温度30℃の低エントロピー熱エネルギーを作り出す。冷房の場合は平均25℃程度の空調温度の室内から、ヒートポンプによって30℃の熱エネルギーを生産して地下の15℃温度場に放熱する。その生産のためにヒートポンプ運転に必要なエネルギー(軸動力:一般に電力)は、生産したエネルギーの1/5以下(EPR≧5)となる。

(5)空気熱の採取
  
日本のような中緯度では夏季と冬季の温度変化が大きく、標準の平均的気温は、夏は30℃、冬は0℃であるとみることができる。夏冬ともに、人間、および殆どの動植物にとって生活に快適な温度でない。そのため冬に暖房、夏に冷房等が簡便な空気熱交換によるヒートポンプ方式で工夫されてきた。最近では、エネルギー効率等に優れた地中熱ヒートポンプも普及しだしている。
空気熱利用ヒートポンプでは、冬は0℃のエントロピーの高い外気から、ヒートポンプ生産設備を用いて温度30℃程度の低エントロピー熱エネルギーを作り出すことになる。一方、夏は平均25℃程度の空調温度の室内から、ヒートポンプを用いて外気より高い40℃程度の熱エネルギーを生産して外気中に放出する。空気熱利用ヒートポンプでは、ポンプアップする温度が地球熱利用の場合と比べてかなり高くなる。よって、ヒートポンプ運転に必要なエネルギー(軸動力:一般に電力)が、地中熱の場合と比べて多量に必要である。

(6)ウラン資源の電力利用   
原子力発電は、ウラン資源を精製、濃縮した核物質、あるいは派生合成物質を原子炉の中で核分裂させ、それによって発生する膨大な熱エネルギーの一部でもって高温水蒸気を作り、その運動エネルギーでタービンを回転させて電力を製造する発電する方式である。
天然ウランの開発から核物質の濃縮・成型加工、原子炉設備、発電設備の全体に亘って、多量のエネルギー量(化石燃料、電力)が必要であるが、製造される電力量が際立って大きいため、EPRは4~17といわれている。なお、濃縮方法の差異によるエネルギー消費が、EPRの数値に決定的に影響するとのことである。   
ところで、原子力発電のEPR評価で排除されている本質的に重大なことは、核分裂に伴う放射性廃棄物と廃熱の取り扱いである。これを加えると、原子力発電のEPRは1よりはるかに小さくなる。
原子力発電は、発電される電力量だけをみると低エントロピー資源を作る優れものに見える。しかし、副産物として、事実上制御不可能な放射性廃棄物と廃熱を生み出す。これらは生体と生態を破壊するものであって、やがて日本社会の崩壊、人類社会の滅亡というエントロピーを最大化しうる恐ろしいものである。 放射能の生体への遺伝的悪影響を防ぐには10万年以上100万年の封じ込めが必要とされる。 人類はクロマニヨン人(原生人類の祖先)発生から4万年、ネアンデルタール人(旧人類)から20万、ジャワ原人から100万年未満といわれている。このような人類進化の時代スケールに亘って日本民族が管理できないことが自明である。
文明社会の時代スケールでみても、原子力発電の建設と操業が化石燃料依存型であるので、石油文明が間違いなく終焉しているであろう22世紀まで存続させると、設備更新能力はなくなり、事故確率が高くなり、人類社会の崩壊につながる。
活断層で縦横無尽に刻まれた地殻変動帯の日本で、明日かも知れないが1世紀以内にM8以上の巨大地震発生は確実である。その時に原発が存続していれば、次のレベル7事故は避けられないとみるべきである。
日本の原発の配置が、ミサイル攻撃で標的になりやすことも、近未来に国際力学によって起こりうる日本崩壊の深刻なリスクである。
原子力発電では発電量の約2倍の廃熱が発生する。この熱量を熱交換によって海水温度を7℃上昇させて海中に発電中常時に放熱している。現実の問題として、発電所周辺の生態が大きく変わり、食物連鎖への影響も大きいと思われるが、詳細は公開されていない。その生態の修復、保全にかかるエネルギーはEPRに考慮され得ないほど多量であると考える。
さらに、ベースロードの原子力発電には揚水発電がセットになっている。揚水発電では原発の夜間余剰電力を処理するために、下の池の水を上の池にポンプアップして水力発電する。ポンピングEPRが0.7程度であるので、1の電力で0.7の電力を作るという無駄なプロセスである。

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