北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を低減するためにも 何としても原発の再稼働を停止しなければなりません

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・事務局長 平田 賢太郎

(要約)

① 内閣の支持率を回復するために、政府は北朝鮮の弾道ミサイルの恐怖を煽っています
② 北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を防ぐためにも原発の再稼働は止めなければならないと、脱原発を訴える河合弘之弁護士は訴えています
③ 3.11福島の事故後、原発電力がなくとも日本の電力需要は賄えていますし、これからも賄えます
④ いま、原発の再稼動の停止を含めて脱原発を訴える人々の多くは、原発を止めるには再エネ電力が必要だとしていますが、政府は、それでは国内電力需要を満たすことができないとして原発の再稼働を進めています
⑤ 「原発についての客観的、科学的な判断としての絶対の安全は、3.11で止まった原発を再稼働させないこと」を判事さんに知って頂けば、原発の再稼働の差し止めを訴える裁判の結果が違ってくると思います
⑥ いま、原発の再稼働を停止させるためには、河合氏らが主導している原発再稼働停止の裁判に勝って貰うしかありません
⑦ 原発を動かすことに新たな脅威が加わったことで、もはや、再稼働の必要性は全く無くなりました。これを裁判官の方に知って頂くことで、原発の再稼働が停止できます

 

(解説本文)

① 内閣の支持率を回復するために、政府は北朝鮮の弾道ミサイルの恐怖を煽っています

先月(8月)29日、北朝鮮の弾道ミサイルが日本の上空を過ぎ去ってからJアラート(総務省消防庁の全国瞬時警報システム)が発せられました。もし、この警報が、日本本土の上空を通過する弾道ミサイルの発射を知らせるものでしたら、「頑丈な建物や地下に避難して下さい」とのこの警告は、実際に、北朝鮮の弾道ミサイルからの防御を対象にした避難設備が用意されていない現状では、国民に、ただ、戸惑いをもたらすだけのものでしょう。
また、もし、本当に、北朝鮮の弾道ミサイルが日本に向けて発射されるとしたら、莫大なお金をかけて、有効な迎撃システムを米国から購入・配備しない限り、このような警報を発してみても、国民の生命や財産を守ることには、殆ど何の意味も持たないと考えるべきでしょう。すなわち、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を防ぐ唯一の方法は、かつて朝鮮半島を支配していた日本が、朝鮮戦争の終結のための米朝間の対話を促す以外に無いと私どもは考えます。
いま、この北朝鮮が繰り返し行っている弾道ミサイル発射の脅威に対して、日本政府は、世界各国に対して、石油の輸出制限などを含む経済制裁を訴えています。しかし、それは、あくまでも、これにより、米朝間の平和回復のための対話を促すものでなければならないはずです。しかし、いま、日本のメデイアの報じる日本政府の主張を見る限り、それは、北朝鮮の脅威を煽ることによって、加計学園問題などで低落した内閣の支持率を回復することで、日本が世界に誇ることのできる平和憲法を改訂して、日本を戦争のできる軍事大国にしようとするアベ一強政権の危険な政治戦略であるとしか思えません。

 

② 北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を防ぐためにも原発の再稼働は止めなければならないと、脱原発を訴える河合弘之弁護士は訴えています

いずれにしろ、北朝鮮の弾道ミサイルが、日本の稼働中の原発を攻撃すれば、日本は壊滅的な被害を受けることは間違いありません。この北朝鮮の弾道ミサイルの脅威について、弁護士の河合弘之氏は、朝日新聞(2017/9/9)のオピニオン欄の「私の視点」で、「弾道ミサイル 原発 停止しておくべきだ」との注目すべき主張をしています。具体的には、もし、北朝鮮の弾道ミサイルが、稼働中の原子力発電所に打ち込まれた場合、原子炉の稼働を緊急停止しても、緊急冷却などの制御装置の作動機能が失われると考えらますから、この稼働中の原子炉は、3.11福島の事故と同じようなメルトダウンを起こすことになります。すなわち、弾道ミサイルにとって、稼動中の原発は、核弾頭の役割を果たすことになり、福島事故以上の大惨事を引き起こす可能性があります。
いま、政府は、過酷事故防止のための安全対策を完備した原発について、順次、その再稼働を進めていますが、この北朝鮮の弾道ミサイルによってもたらされる原発事故の脅威から逃れるためには、この再稼働を停止する以外に方法が無いとするのが、この河合氏の主張です。
実は、この河合弁護士は、いま、原発の再稼働の差し止め請求裁判の弁護団の団長などを務めており、国内の脱原発運動のリーダー役を担っています(河合氏の著書(文献1 )参照)。

 

③ 3.11福島の事故後、原発電力がなくとも日本の電力需要は賄えていますし、これからも賄えます

もちろん、原発を再稼働させなければ、国民の生活と産業用に必要な電力が供給できないのであれば、話は別です。安全性のリスクを冒してでも、原発の再稼働を進めなければならないとの選択がでてくるかも知れません。
しかし、3.11福島の事故後、原発電力が殆ど使われていない状況下でも、私たちは、電力の需給にそれほどの不自由をしていませんでした。それは、総発電量の約25 %を担っていた原発電力を補うための国民の節電努力とともに、図1に示すように、需要負荷変動に弱い原発電力をカバーするために、年間設備稼働率50 % 程度に抑えて運転されていた火力発電の設備稼働率の値を60% 強に引き上げることで原発発電量の減少を補うことができていたからです。

図1 原子力および火力発電(一般事業用)の年間平均設備稼働率の年次変化
(日本エネルギー経済研究所編;エネルギー経済統計要覧(文献2 )記載のデータをもとに計算、作成した)

問題があったとしたら、この間の火力発電量の増加に伴い、その燃料として用いられていた化石燃料の輸入金額が、事故以前に較べて3兆円程度増加したことです。しかし、これも、石油危機以降、本来、火力発電用に用いられていた高価な石油に代わる安価な石炭への変換が行われていたら、この輸入金額の増加は1 兆円以下で済んだはずです。地球温暖化を促進するとして、石油火力から石炭火力への変換が遅れていたのが、この石油輸入金額の増加に繋がりました。いま、経産省は、貿易収支の改善のために、慌てて石炭火力発電所の増設を行おうとしています。以上、詳細は、私どもの近刊(文献3 )を参照して下さい。

 

④ いま、原発の再稼動の停止を含めて脱原発を訴える人々の多くは、原発を止めるには再エネ電力が必要だとしていますが、政府は、それでは国内電力需要を満たすことができないとして原発の再稼働を進めています

細川元首相や小泉元首相など、原発再稼働の停止を訴える人々や団体の多くが、原発電力の代わりに太陽光や風力などの自然エネルギー(再エネ)電力を用いることで、脱原発を実行すべきだと訴えています。河合氏もその一人で、脱原発の映画をつくって、この再エネ電力生産の必要性を訴えています(文献1 参照)。
しかし、これらの再エネ電力を今すぐ生産するには、電力料金の値上げで、広く国民に大きな経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」を適用しても、現状では、3.11事故前の原発代替分の電力が得られません。いま、政府は、これを理由に、3.11事故で稼働を停止した原発の再稼働を進めようとしています。
原発の再稼働による利益と、原発の再稼働によってもたらされるかもしれない万一の事故による損失、および、そのような事故が起こらなかったとしても、再稼働により確実に増加する、もって行く場所の無い使用済み核燃料廃棄物の処理・処分のための次世代に委ねられる計算不可能な経済的損失を比較すれば、原発は再稼働すべきではないはずです。にもかかわらず、いま、原発を再稼働できなければ、アベノミクスが求めるさらなる成長が維持できないとして進められているのが現政権が主導する原発の再稼働です。この行政の方針を無批判に支持する裁判所の判断により、次々と原発の再稼働を認可されようとしています。
もちろん、河合弁護士も認めているように、裁判所には、原発の問題を真面目に勉強している方も居られて、下級審においては、原告側の脱原発の願いが認められるケースがあっても、それが上級審を経て、最高裁まで行けば、行政の判断が優先される判決が出ることになってしまうでしょう。

 

⑤ 「原発についての客観的、科学的な判断としての絶対の安全は、3.11で止まった原発を再稼働させないこと」を判事さんに知って頂けば、原発の再稼働の差し止めを訴える裁判の結果が違ってくると思います

いま、原発裁判の争点になっているのは、原発の安全性です。政府は、原子力規制委員会により、新しく決められた安全基準をクリアしたと認められた原発の再稼働を進めています。しかし、この安全対策には、お金がかかります。したがって、すでに設計使用年数の40年に近づいている原発では、再稼働のための安全対策にお金をかけたのでは採算が採れないものが多数あるはずです。
これに対して、停止中の原発について、お金のかからない絶対の安全を求めるのであれば、それは、原発を稼働させないことです。これは、中学生にも判って頂ける科学の原理です。いま、日本人にとって、原発の再稼働による脅威は、何時起こるかも知れない地震や津波により誘発される3.11福島のような過酷事故とともに、原発の稼働によって確実に増加する捨て場のない核燃料廃棄物の増加に伴う、次世代の国民に対する大きな安全性と経済的な負担増なはずです。再稼働さえしなければ、これらの脅威を未然に防ぐことができます。処理・処分されないまま、原発立地などに保管されている使用済み核燃料廃棄物による放射能汚染洩れの事故も、完全には防ぐことはできませんが、最小限に止めることはできます。

 

⑥ いま、原発の再稼働を停止させるためには、河合氏らが主導している原発再稼働停止の裁判に勝って貰うしかありません

いま、政治では、原発の必要性を訴える勢力が圧倒的な力を持っています。私どもが、いくら原発再稼働の反対を訴えても、政治を脱原発に変えることは不可能でしょう。
原発の再稼働停止を実現するためには、いま、原発立地の各地で、河合氏らが中心になって行っている原発再稼働差し止め請求裁判に勝利して頂く以外に方法がありません。
そこで、私どもは、機会を捉えて(2015年12月)河合氏の弁護士事務所を訪問し、直接、河合氏に、私どもの考え、すなわち、上記したように“いま、日本では、原発が無くとも私どもの生活や産業に必要な電力に不自由はしていないこと、科学的に原発の絶対の安全を言うなら、原発を再稼働させないこと、これらを原発差し止め裁判での判事さんに知って頂くことで、河合氏らに裁判に勝って頂くこと”をお願いしようとしました。しかし、この会談の前日に、河合氏が、脱原発を訴える2本目の映画の海外ロケから帰国されたばかりとのことで、私どものお願いの主旨が伝わっていなかったこともあり、会談は、専ら、その映画についての河合氏の説明(宣伝)に終始してしまいました。結局、約束の時間が無くなったとのことで、残念ながら、私どものお願いを河合氏には殆ど聞いてもらえませんでした。

 

⑦ 原発を動かすことに新たな脅威が加わったことで、もはや、再稼働の必要性は全く無くなりました。これを裁判官の方に知って頂くことで、原発の再稼働が停止できます

河合弁護士は、稼動中の原発が、北朝鮮の弾道ミサイルに攻撃されれば、日本は取り返しのつかない被害を受けるから、この脅威を除くためにも“原発は停止しておくべきだ”と訴えています。すなわち、原発の稼働条件下での北朝鮮の弾道ミサイルの脅威について、“・・・超緊迫状態下では、何かのはずみで武力行使が起きないとは断言できない。そのおそれが1 % でもあるなら、対策として原発を停止しておくべきだ”と主張しておられます。この稼働中の原発に対する弾道ミサイルの脅威は、稼動中の原発にとっての何時起こるか判らない地震による被災と全く同じと考えられます。
すなわち、原発の再稼働に対するリスクに、いま、新たに、この弾道ミサイルによる脅威が加わったのです。この新しい脅威が加わった現状では、もはや、原発を再稼働する必要は無くなったのです。上記したように、いま、原発電力が無くても、私どもの生活や産業に必要な電力に不自由はありません。河合氏に心からお願いしたいと思います。先生が主導しておられる再稼働差し止め裁判において、是非、判事さんに、この原発再稼働の不必要を知って頂くことで、国民の多数が願うこの裁判を勝利に導いて頂くことを。

 

 <引用文献>

1.河合弘之;原発訴訟が社会を変える、集英社新書、2015 年
2.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016, 省エネルギーセンター、2016年
3.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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