IoTやAIの利用で、「モノやサービスがタダになる社会」が来ることはないが、リフキンの言う「資本主義の終着点での社会変革」の方向は、私どもが訴える「化石燃料枯渇後の世界の恒久平和のためのパリ協定の改定」につながります

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 副本部長 平田賢太郎

(要約)

「人口知能、インターネットの導入で世界の経済が大きく変わるとの予言がある」として、もったいない学会理事の田村八州夫氏から、著名な文明評論家と言われるジェメリー・リフキンの著書「限界費用ゼロ社会」を紹介されました。いま、IoT(インターネットの導入)やAI(人工知能)の社会進出による第4次産業革命が言われるなかで、これに懐疑的な私どもには、いささか違和感のあるご紹介の内容でしたので、不勉強で、この著書を読んでいない私どもですが、田村氏のご紹介による本書の要約文を読んだ範囲で、この著書が主張する「モノやサービスがタダになる社会」について、コメントさせて頂きます。
① 3Dプリンターでモノがタダでつくれるようになると考えるのは、モノとサービスととり違えたリフキン先生の勘違いでしょう
② インターネットの利用で、サービスがタダになるのは、IT事業者が、それを可能にして利益を上げるシステムができているからです
③ 再生可能エネルギー(再エネ)電力が安価になるとされています。であれば、電力料金の値上げで市民を苦しめる「再エネ固定価格買取制度(FIT制度)」を使って、今すぐの再エネの利用を拡大する必要はありません。再エネ電力は、現用の化石燃料使用の火力発電電より安くなってから、FIT制度の適用無で使えばよいのです
④ IoTやAIが世界を変えるとされていますが、それは一般市民にとっての幸せな社会とは言えないとの指摘もあります
⑤ コストゼロ社会とは無関係に、エネルギー源の化石燃料が枯渇を迎えるなかで起ころうとしているのが成長の終焉です。これは、資本主義の終着点ではなく、終焉です。この厳しい現実のなかで、人類がどう生き延びるかが、いま、求められています
⑥ 限界費用ゼロの社会が来なくとも、化石燃料枯渇に備えての再エネ電力に依存するマイナス成長が要求される社会では、リフキン先生の主張する「所有の時代」から「アクセスできる共有の時代」への移行も必要となるでしょう。

 

(解説本文)

① 3Dプリンターでモノがタダでつくれるようになると考えるのは、モノとサービスととり違えたリフキン先生の勘違いでしょう

リフキン著の「限界費用セロ社会」の紹介文のはじめに、リフキン先生は、IoTやAIの利用で、「数十年後にはモノやサービスがタダになると予言している」とあります。具体的には、「3Dプリンターを使えば、建物までタダでつくれる」としています。しかし、建物をつくるには建築材料の木材やセメントを何処かから買ってこなければなりません。また、これらの材料を加工する工作機械も必要です。建設作業員の代わりをするロボットもどこかから有料で借りてこなければならないはずです。いや、設計や作業用のロボットに指示を与える3Dプリンターだって、レンタルにしても、そんなに安く使えるはずがありません。それは、このプリンターをつくるのに多くの人が有料で働かなければならないからです。まあ、規格品の建造物をつくるのに専用のプリンターやロボットが使えれば、その製造コストが何割か減るでしょうが、タダになることはありません。個人の住宅をつくるのであれば、つくり主の希望を聞いてくれる設計者にお金を払わなければ楽しい個人向けの住宅は作れません。
この紹介文にはありませんが、AIを利用したモノつくりの代表には、無人工場があります。確かに、一定の規格品を造るのであれば、ロボットを使った無人工場ででも作れます。しかし、技術進歩が要求される現代社会では、絶えず新しいモノが要求されますが、その技術開発はAI(人工知能)に任せることはできません。この開発技術者に働いてもらうためにも、無人工場の製品の価格は、それほど安くすることはできません。もちろん、タダになることはありません。
タダにできるのはモノでなくて、下記(②)するようにインターネットにつながるサ-ビスだけでしょう。リフキン先生が、大きな勘違いをされておられるのか、あるいは、この紹介文にリフキン先生のお考えが誤って紹介されているかのいずれかでしょう。

 

② インターネットの利用で、サービスがタダになるのは、IT事業者が、それを可能にして利益を上げるシステムができているからです

上記のモノとともにタダになるとされるサービスについて、この紹介文では、「すでに、限界費用ゼロ社会は、現代にも一部現れ始めている」とあり、「たとえば、Skypeは、無料で電話やテレビ電話ができるサービスで、インターネットではニュースも無料で読める」とあります。しかし、これらの無料サービスを可能にしているのは、インターネットの利用の費用が、例えば、このインターネットに掲載されている企業の広告代金として、結局は、広く、一般市民のインターネットの利用の費用として徴収されていて、これにより、IT事業者が大きな利益を上げるシステムができているからではないでしょうか? しかも、このグローバル産業のIT事業者は、この利益をタックス・ヘイブンに隠して、法人税逃れをしているようだとの報道もあります。

 

③ 再生可能エネルギー(再エネ)電力が安価になるとされています。であれば、電力料金の値上げで市民を苦しめる「再エネ固定価格買取制度(FIT制度)」を使って、今すぐの再エネの利用を拡大する必要はありません。再エネ電力は、現用の化石燃料使用の火力発電電力より安くなってから、FIT制度の適用無で使えばよいのです

このリフキンの著書の紹介文では、「風力発電や太陽光発電の発電コストは、技術の進歩により安価になる」として、「2040年より大分前に、エネルギーの80 %までが再生可能エネルギー(再エネ)電力で賄われるようになる」としています。何を根拠にこのようなことを言っているのかは明らかではありませんが、日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データと略記、文献1 )に記載の IEA(国際エネルギー機関)データに、地熱・風力他と記載されている世界の再エネ電力の総発電量に対する比率は、2009年の1.89 %が2014年に3.90 %まで増加、すなわち5 年間に約4 %増加しています。今後、この比率で、再エネ電力が直線的に増加したとしても、2040年の世界の再エネ電力の総発電量に対する比率は、2040年に、せいぜい20 % (= (4 %)×(25年)/(5年))程度にしかならないでしょう。しかも、この再エネ電力は、EUを中心に、地球温暖化対策としてのCO2排出削減のためとして設けられた「再エネ固定価格買取制度(FIT制度)」によって、市販電力料金の値上げのもとで、その利用・普及の拡大が図られています。と言うことは、再エネ電力の普及率が高くなるほど、電力料金が高くなりますから、これではたまらないとの国民の反対で、EUだけでなく、日本でも、このFIT制度での電力買取価格が低い値に改訂されています。したがって、今後、この再エネ電力の利用率の伸びは、高くなるどころか、大きく抑えられることになるでしょう。
もともとCO2の排出を削減して、温暖化が防げるとの科学的証明は得られていません。現用の化石燃料資源の枯渇が近づき、その価格が高くなってから、その代替としての再エネ電力の利用が経済的に有利なった時に、それを使用すればよいのです。国民に経済的な負担を強いる不条理なFIT制度の適用で、今すぐの再エネ電力を利用する必要は何処にもなかったし、今後もありません。
なお、リフキン先生だけでなく、多くの人が、再エネ電力を安価だと思っているようですが、これは大きな間違いです。現在、再エネ電力の生産には、化石燃料エネルギーが使われています。また。化石燃料が枯渇して、その価格が高くなれば、再エネ電力は、再エネ電力に依存して生産しなければならなくなります。したがって、再エネ電力が、現用の化石燃料を用いた火力発電の電力より、安価になることはありません。
なお、再エネ電力が安価だとしている理由に、この再エネ電力をつくる際に必要なエネルギー(投入エネルギー)量が正しく評価されていないことが挙げられます。それは、この投入エネルギー量を簡易に計算する方法がないためです。したがって、この投入エネルギー量が無視されたまま、再エネ電力のコストが評価されているようですが、この投入エネルギーを考慮した場合の正味の再エネ電力の生産コストは大幅に高くなります。これが、上記したように、いますぐの再エネ電力の導入に、FIT制度を用いなければならない理由です。以上、詳細につては、私どもの近著(文献 2 )をご参照下さい。

 

④ IoTやAIが世界を変えるとされていますが、それは、必ずしも、一般市民にとっての幸せな社会とは言えないとの指摘もあります

IoTとは「もののインターネット(Internet of Things)」の略で、あらゆるものにセンサーとソフトウエアが組み込まれ、インターネットに結び付けられることになることだとされ、2030年には100兆個のセンサーがIoTに繋がると予想され、これによって、私どもは何でも「シェア」することができるとされています。しかし、これは、私ども一般市民にとって、どのような利益をもたらすのでしょうか?
大学の講義が何時でも、何処でもタダで聞けて、レベルの高い教育が受けられるとありますが、一般市民にとって本当にそんな必要があるのでしょうか?また、先に(①に)挙げたAIの利用による無人工場や、自動運転車、介護ロボットなどでもそうですが、これらは、あくまでも、人間の役割を補助すべきモノで、これらの使用により、人間が本来果たすべき役割を免れるために開発されるべきではないと私どもは考えます。
一方、ITの専門家の方から、このIoTは、一般市民にとっての管理社会につながるのではとの厳しい疑問が寄せられました。すなわち、全ての個人情報や行動が監視されるようになって、権力者にとって都合の悪い言動をする人を「共謀罪」で逮捕することができるようになるのではとの指摘です。日本を戦争のできる普通の国にしようとする安倍内閣は、まさに、この管理社会をつくるためのIoTによる「日本再興戦略2016」を推進するとともに、「共謀罪法」を官邸主導で成立させました。恐ろしいことです。

 

⑤ コストゼロ社会とは無関係に、エネルギー源の化石燃料が枯渇を迎えるなかで起ころうとしているのが成長の終焉です。これは、資本主義の終着点ではなく、終焉です。この厳しい現実のなかで、人類がどう生き延びるかが、いま、求められています

「コストゼロの社会が資本主義の終着点だ」とされています。であれば、上記したように、モノやサービスのコストがゼロにならなければ、資本主義社会に終着点が来ないことになります。
しかし、そんなことはありません。資本が利潤を追求して、産業の生産性を上げることで、供給が需要を上回れば、当然、モノ余り、カネ余りになります。これがバブルの崩壊です。いわゆる経済的不況がやってきて、モノの値段が下がります。このデフレで、失業者があふれて、社会不安が起こり兼ねません。これは、成長を前提とする資本主義社会に必然的に訪れる危機です。これに対処するために用いられてきた方法は、新しい需用の喚起でしょう。過去、この需要(=消費)の喚起に戦争さえもが使われました。
このようにして資本主義社会における景気は循環しましたが、成長のエネルギー資源が枯渇を迎えるようになったいま、もはや、需用があっても成長ができなくなっています。これが、成長の終焉による資本主義の終焉です。世界の景気循環の最後となった石油危機後の日本経済のバブルを救ってくれたのは、隣国中国の遅れて始まった経済の高度成長でした。世界一の人口を抱える中国の高度経済成長は、日本経済だけでなく、低迷していた世界経済の再生にも大きく貢献しました。また、中国自身も、日本を抜いて実質GDPの値で世界第2の経済大国になりました。しかし、いま、この世界経済を引っ張ってきた中国の経済成長にも陰りが見えています。2016年度のGDP成長率は、28年前の値の6.7 %まで低下し、バブルの崩壊が言われています。
資本主義社会の成長を支えるエネルギー源として、枯渇する化石燃料代替として期待されている再エネ電力は、上記(③)したように、現用の化石燃料エネルギーの代替にはなりません。唯一、考えられるのが、原爆の平和利用とされた原子力エネルギーを利用した原発電力でしょう。しかし、この夢のエネルギーにも、3.11福島の事故によって、引導が渡されたはずです。にもかかわらず、安倍政権は、アベノミクスのさらなる成長のためのエネルギーを3.11の事故後休止した原発の再稼働に求めようとしています。
これに対して、同じ日本の3.11事故後、脱原発政策にカジを切ったドイツのメルケル首相は、成長のエネルギーとして再エネに依存するとともに、少ないエネルギーによって成長が期待できるとされるIoTとAIの社会進出を第4次産業革命だとして、その成長に期待しているようです。これが、メルケル首相の言う産業構造の改革でしょう。いま、安倍首相も、アベノミクスのさらなる成長の行き詰まりのなかで、ドイツに倣って、この第4次産業革命による「日本再興戦略2016」を官邸主導の独裁政治のなかで進めようとしています。
しかし、地球上の化石燃料エネルギー資源の枯渇が迫るなかで、上記したように、このIoTとAIの技術開発を基盤とした第4次産業革命による世界経済の再生は、幻想に終わると私どもは考えます。いま、世界経済の長期低迷が続くなかで、マイナス金利まで導入せざるを得なくなった先進諸国における資本主義経済は終着点ではなく、終焉を迎えようとしています。世界は、この厳しい現実を素直に受け止めて、成長の不均衡に基づく経済格差による戦争のない人類社会の創設を追求して行くべきです。これが、化石燃料の枯渇後の地球上で、人類が生き残る唯一の途だと私どもは考えます。

 

⑥ 限界費用ゼロの社会が来なくとも、化石燃料枯渇に備えての再エネ電力に依存するマイナス成長が要求される社会では、リフキン先生の主張する「所有の時代」から「アクセスできる共有の時代」への移行も必要となるでしょう。

「モノやサービスの価格がゼロになる“限界費用ゼロの社会”がきたら、一体、どうなるのでしょうか」として、リフキン先生は大きく二つのことを挙げています。先ず、モノを「所有」から、必要なときにアクセスできる「共有」の時代が来るとして、卑近な例として、カーシェアリングをあげています。次いで、お金が役に立たなくなるから、協同組合などの組織を利用にした「信頼関係に基盤を置く社会システムの改革」が必要になるとしています。
では、このような、社会システムの改革には、リフキン先生の言う「限界費用ゼロ社会」の到来が必要なのでしょうか? 私どもは、そんなことは無いと考えます。それは、経済成長のためのエネルギーとしての化石燃料が枯渇に近づいているいま、この化石燃料が使えなくなって、全ての国が、自国産の再エネのみに依存しなければならなくなり、「経済成長が抑制される社会」の到来では、資本主義社会が要求してきた「所有(独占)」のための競争の手段としての軍事力に頼る戦争を使う社会」がなくなり、「人類にとっての恒久的な平和共存を可能にする理想社会」が期待できるからです。
さらに、いま、人類が求めるべきは、この人類が理想とする恒久平和の社会から大きく離れてしまった世界の現実、すなわち、現状の化石燃料エネルギー消費の不均衡配分によりもたらされている貧富の較差、それに宗教が結びついた国際テロ戦争による世界平和の侵害を、どうやって解消して、化石燃料枯渇後に期待される恒久平和の理想社会へソフトランデイングするかではないかと思います。
このために、私どもは、いま、地球上に残された化石燃料を、経済力のある先進諸国の「所有(独占)」から、全ての国がそれを公平に分け合って大事に使う「共有」へと移行することが必要だと考え、その実行を訴えています。
具体的には、「2050年の各国の一人当たりの化石燃料消費量を、2012年の世界の年平均値の1.54石油換算トン(ただし、人口の増減による補正を行う)に近づける」ことを提案しています。この私どもの提言案は、「いま、国際的な合意の下で進められている、地球温暖化対策としてのCO2排出削減を目的としたパリ協定の目標値を、CO2排出削減量から化石燃料消費の節減量に代えて頂くこと」で実行可能になるとしています。詳細については、私どもの近刊、文献2 を参照して下さい。
いささか、手前味噌になりますが、この私どもの提言案の実行こそが、リフキン先生の言う、世界の全ての国の「信頼関係」を基盤して恒久平和の実現のための「所有(独占)」から「共有」への移行にもつながり、人類が成長のエネルギー源の化石燃料の枯渇後の地球上で生き残る唯一の方法であると私どもは固く信じています。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2017, 省エネルギーセンター、2017年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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