未来のエネルギーって原子力のこと? カザフスタンのEXPO2017より

大久保泰邦
もったいない学会会長
宇宙システム開発利用推進機構

 ご存じの方は少ないと思うが、カザフスタンの首都アスタナで2017年6月10日からEXPO2017が開催されている。タイトルは「Future Energy」、「未来のエネルギー」である。ここではカザフスタンで開催されているEXPO2017などを紹介する。

カザフスタンはなぜ遷都をしたか
カザフスタンはソ連崩壊後、1991年12月に独立した。石油、鉱物資源に恵まれ、中央アジア一裕福な国となっている。近年、経済発展が目覚ましく、そのため、援助される側から援助する側に変貌しつつある。日本はこれまでカザフスタンに対して、アスタナの空港の建設などを支援してきた。しかし現在は国際支援のパートナーとなりつつある。
首都はかつて南のアルマトイであったが、1997年にアスタナへの遷都が行われた。アスタナ遷都の理由は、アルマトイが中国との国境に近すぎるなどいくつかあるが、その一つは活断層があり地震多発地帯であることが挙げられる。
下の図は、人工衛星データから作成した30 m間隔の数値地形データの陰影図である。陰影図は地形の凹凸を強調する。アルマトイの南方には東西に伸びる山脈が走り、その真ん中に東西に長く伸びる窪地が見える。これは右横ずれの活断層である。文献によればこの他にも多くの横ずれ断層があり、これが地震の巣になっている。

ASTER 全地球数値標高モデル(宇宙システム開発利用推進機構提供)の陰影図。

下の写真はアルマトイの飛行場から南の山脈を撮ったものである。東西に長く伸びた山々の山頂には雪が積もっている。この山脈の斜面も活断層である。

 

アルマトイ空港から撮った東西に伸びる山脈。

シルクロードは中国とヨーロッパを東西に結んでいるが、この地域はちょうどシルクロードが通る場所である。活断層は、山を切り裂いて連続した谷地形を作る。そのため活断層は恰好の道路となる。シルクロードの大部分は活断層上にできたものと思われる。
つまり遷都の理由は、首都の安全性を考慮したことによる。カザフスタンはロシア、中国の列強に囲まれていることから、安全保障の意識は非常に強い。首都が安全な場所であるべきと思うのは当然と言える。

アスタナEXPO2017
EXPO2017が開催されているアスタナは、推計人口100万人のアルマトイに次ぐカザフスタン第2の町である。1997年に首都となって以来、黒川紀章の都市計画案に基づき開発が続けられている。ロシア、イスラム、中国、ヨーロッパの文化が入交り、建物は日本人の想像を超えた建物が林立する。
下の写真はその一つで、まるでビルがダンスをしているように曲線を描きながら聳えている。

アスタナの町に聳える高層ビル。

EXPO2017の会場は町の南に作られた。ここでは「未来のエネルギー」をテーマとした世界各国のパビリオンが開設されていた。もちろん日本のパビリオンもあり、3次元映像で再生可能エネルギーなどを紹介していた。
下の写真は、EXPO会場の中央に位置する巨大な球状の建物で、これがEXPO2017のシンボルとなっている。

EXPO2017のシンボルとなっている建物。

シンポジウム「未来のエネルギー」
今回、EXPOのオープニングとなるシンポジウムが開催され、著者はそこに講演者として招かれた。
未来のエネルギーであるから、東北地方太平洋沖地震と津波、原発事故とその後の再生可能エネルギー開発による地域活性化の話を用意した。下のURLから著者が発表した資料を見ることができる。

https://drive.google.com/open?id=0B0Jd3Vk-wP-mOUV4NkRwTEQ5bEU

これはもったいない学会で議論してきたことと、2017年2月24日に日本学術会議で開催された公開シンポジウム「分散型再生可能エネルギーの可能性と現実」をまとめたものであった。著者は再生可能エネルギーの本質を指摘したものと自負していた。
概要は以下の通りである。
• 2011年、東北地方太平洋沖地震と津波によって東北地方は大きな被害を受けた。
• 福島の原発も津波によって冷却装置が停止し、そのため炉心のメルトダウンと水蒸気爆発が起きた。
• 放射性プルームも発生し、東京近郊まで達した。
• 原発周辺の住民は避難を余儀なくされ、町は人っ子一人いない状態になった。
• 風評被害が起き、農産物は売れなくなった。
• 一方、再生可能エネルギーによって地方都市を活性化する動きがある。
• 例の一つは福島県である。風力、バイオマス、太陽光、水力、地中熱などさまざまな再生可能エネルギー開発が行われている。
• 二つ目は山梨県である。高低差があるので水流が強いことを利用した水力、晴天の日が多いことを利用した太陽光、農業が盛んなことからバイオマスなど地域の特色を生かした再生可能エネルギーのビジネスを自治体と県民が投資して運営し、利潤を上げている。
• 三つ目は東近江市である。売る良し、買い手良し、世間良しといった三方良しの商売をモットーに、市民が投資し、売り上げを市内で使える商品券で受け取るシステムを作り上げた。これによって、東近江市内でエネルギーとお金が好循環する社会となった。
• 再生可能エネルギーは量的な限界があるが、地域経済の発展に役立つものである。しかしこれを実現させるためには、人材とやる気が必要である。
• これからの再生可能エネルギーの発展のためには、経験を交換し合える機会を設けることである。

この話を事前にカザフスタンの事務局に送っておいた。そしてプログラムを見た時愕然とした。著者の発表は最後のセッションの最後であった。この理由はシンポジウムが開催されて分かった。発表者のほとんどは原子力関係者だったのである。
カザフスタンはウラン生産量が世界一、二を争っている。日本は2011年の原発事故以前はカザフスタンから大量のウランを輸入する計画であった。つまりカザフスタンは「未来のエネルギー」とは「原子力」と言いたかったのだと思う。つまり再生可能エネルギーは隠れ蓑、原発事故はタブーだったのだと思う。
そんなことは知りながら、著者は声高に原発事故の話をした。講演が終わってから会場から簡単な質問が一つだけあったが、反応はほとんど無かった。それでもシンポジウム終了後良かったと言ってくれた方がいた。

最後に
講演者の中にアメリカ人が一人いたのでいろいろ話をした。彼の名はSteven。彼はIdaho National Laboratoryに勤める原子力の専門家であった。彼に仮に日本がミサイル攻撃を受けたらアメリカは守ってくれるか訊いてみた。答えは「技術的に難しい。」とのことである。うすうす覚悟はしていたが、実際にアメリカ人からそう聞かされると狼狽えた。その夜、もったいない学会の理事宛てにその話を伝えた。
カザフスタンで感じたことは、国は常に危険にさらされており、国の安全は自分で守る覚悟が必要であるということである。
石油ピークについても、世界の石油生産量が落ち込む前に生産国は必ずグローバリズムからナショナリズムへと変身し、石油は輸出しなくなるはずである。つまり石油ピークとは国家安全保障の問題と思っている。
Stevenは著者に、トランプ大統領がパリ協定を離脱したことをどう思うかと訊いてきた。パリ協定離脱もナショナリズムの現れである。アメリカの今までの政策とは180度違う。この決断にアメリカ人も世界がどう見ているのか気になるのである。著者はパリ協定とは温暖化の問題ではなく、政治の問題なので離脱には感心がないと答えた。Stevenはそう政治の問題だと言って安心したようであった。しかしその後著者は、温暖化は自然の影響の方が大きいはずだから、数十年後には寒冷化になるかも、と付け加えた。すると政治の問題は目を丸くして絶句していた。原子力推進派にとって原子力が二酸化炭素を排出しないことが生命線なので、人為的影響は少ないという考えは受け入れ難いのである。
最後にもったいない学会会長の立場として発言すれば、もったいない学会は、石油ピークをはじめとした国家安全保障について今後議論していきたいと思っている。

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