地球温暖化問題で嫌われ者になっている石炭に正しい役割を与えるJCOAL((財)石炭エネルギーセンター)の活動に期待しています

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

(要約)

① 私どもは、地球温暖化を促すとの濡れ衣を着せられている石炭に正しい役割を与えるJCOALの今後の活動に大きな期待を寄せています
② エネルギー資源としての石炭の利用の現状が正しく定量的に把握されるべきです
②-1. エネルギー資源としての化石燃料のなかで、最も豊富なのは石炭です
②-2.石炭のエネルギー源としての利用の主体は発電用の燃料としてです
②-3.世界で、火力発電用燃料として石炭が用いられるのは、発電コストが最も安いからです
②-4.電源構成のベストミックスは原発電力を再生させたいお役人の願望の産物です。
3.11原発事故後に求められるべき日本の電源構成は、原発電力分を、先ず安価な石炭火力に置き換えることです
②-5.世界に較べて、電源構成のなかの石炭火力の低い比率が日本経済を苦しめるなかで、石炭火力の増設に努める経産省に、環境相が待ったをかけました
③ 石炭利用技術の開発を進めてきたJCOALの今後の活動に期待します
③-1.先ず取り組むべき課題は世界一効率のよい日本の石炭火力発電の技術を世界に移転することです
③-2.エネルギー政策のなかに迷い込んだ地球温暖化対策の排除がJCOALの役目です。化石燃料の枯渇が迫るなかで、その消費の増加を前提として、CO2の排出削減を図るCCS(CO2の分離・回収・埋立)技術の開発はJCOALの仕事ではありません
③-3.やがてやって来る化石燃料の枯渇に備えて、残された化石燃料を大事に分け合って使うために、パリ協定が求めるCO2の排出削減を化石燃料消費の節減に代える改訂を行うべきとする私どもの提言案を政府に進言して頂くことをJCOALにお願いします
③-4.褐炭等の利用技術の開発は、途上国での自国産の発電用燃料としての利用に限定されるべきです

 

 (解説本文)

① 私どもは、地球温暖化を促すとの濡れ衣を着せられている石炭に正しい役割を与えるJCOALの今後の活動に大きな期待を寄せています

私どもは、3.11 福島原発事故の一年後に出版した著書(文献 1 )「科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る」の副題に、“石炭火力発電を当分利用すれば、経済的な負担のない原発代替は可能だ”と記しています。さらに近著「化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉(文献2 )」の「第4章 3.11事故後の国民の多数が願う脱原発を実現するために」に、“4.2 石炭火力を用いれば、国民に経済的な負担を強いる原発は不要であったし、いまも不要である”として、現状の石炭のエネルギー利用の目的を3.11福島事故後、運転停止を余儀なくされている原発の代替として、当面、石炭を使用すべきことを求めています。
その理由は、現代文明生活を支える発電用のエネルギーとして、核燃料廃棄物や廃炉の処理・処分のコストを含まないうえに、3.11で明らかになった事故リスクとともに、その事故の際に発生する大きなコストを次世代に先送りにする原発を利用するよりも、現状で、発電コストが最も低い石炭火力発電を利用する方が、経済的にはるかに有利だからです。
この石炭火力発電の利用で問題になっていた排ガスの処理コストを含んでも、安価なコストが保証できる世界一の発電効率を持つ日本の石炭火力発電技術の開発を担ってきたのが1992年に設立されたJCOAL((財)石炭エネルギーセンター)です(センターの紹介資料(文献3 )参照)。
ところが、いま、この発電用の石炭の利用が、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張する地球温暖化を促す元凶になっているとして、世界で、そして、日本で、嫌われ者になって、いわれのない非難を浴びています。
以下、本稿では、このいわれなき非難を打ち消して、世界の、そして日本の正しいエネルギー政策に貢献する火力発電用石炭の利用での、JCOALの今後の活動に、大きな期待を寄せながら、そのあるべき姿について、若干の注文を付けさせて頂きたいと考えます。

 

② エネルギー資源としての石炭の利用の現状が正しく定量的に把握されるべきです

②-1. エネルギー資源としての化石燃料のなかで、最も豊富なのは石炭です

日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー・経済統計要覧(以下エネ研データ(文献 4 )と略記)に記載のBP(British Petroleum)社のデータによる2014年の化石燃料の可採年数の値の年次変化を図1 に示します。ここで、可採年数とは、現状の科学技術の力で経済的に採掘可能な資源量としての化石燃料の種類別の確認可採埋蔵量の値Rを、その値が得られた年のそれぞれの化石燃料の生産量Pで割ったR/Pの値で与えられています。化石燃料資源の確認可採埋蔵量Rの値は、科学的な資源量探査の結果により、通常、年次増加してきましたが、世界経済の発展につれて、その生産量Pの値の年次増加が、それを上回るようにはりましたから、この図 1 に示すように、R/Pの値は、近年、減少傾向を示すようになりました。これが、現在、化石燃料の枯渇が言われるようになった所以です。
この図1に見られるように、この可採年数R/Pの値から、今後、生産量の増加を大幅に抑制しない限り、確実に、今世紀中に枯渇すると見られる石油や天然ガスに較べて、現状の可採年数の値が約2倍程度の石炭は、豊富なエネルギー資源とみることができます。

図1 化石燃料の可採年数R/Pの値(BP社による)の年次変化
(エネ研データ(文献4 )に記載のBP社のデータをもとに作成)

 

②-2. 石炭のエネルギー源としての利用の主体は発電用の燃料としてです

エネ研データ(文献 4 )に記載の IEA(国際エネルギー機関)のデータから、化石燃料換算の一次エネルギー消費のなかの一次エネルギー消費(石炭)の占める比率C/T(下記の E/Cとともに私どもが勝手に付けた名称です)、および一次エネルギー消費(石炭)のなかの発電用石炭投入量の占める比率 E/Cの値を計算して表1に示しました。
この表1に見られるように、現在、世界全体では、一次エネルギー消費のなかの同(石炭)の比率、C/Tの値は3割近い28.6 %ですが、国別で見ると、このC/Tの値が大きく変わっています。化石燃料資源としての石炭の主な用途は、一般炭としてのエネルギー利用と原料炭としての製鉄用に大別されますが、いま、世界で、鉄鋼の生産は、主に、中国やインドなどの新興途上国で行われているので、これらの国では、C/Tの値が世界平均を上回っています。これに対して、いわゆる産業のグローバル化の結果として、鉄鋼産業が衰退している先進国の多くでは、C/Tの値が世界平均を下回っている国が多くなっています。そのなかで、日本の鉄鋼産業は、よく頑張っていると言えます。

表1 各国の一次エネルギー消費のなかの一次エネルギー消費(石炭)の比率C/T
、および一次エネルギー消費(石炭)中の発電用石炭投入量の比率E/Cの値、2014年
(エネ研データ(文献4 )に記載のIEAデータをもとに計算して作成)

 

注; *1: IEAデータから、(世界の一次エネルギー消費(石炭))/(世界の一次エネルギー消費)として計算 *2; 同じIEAデータから(世界の電源構成、2014年、投入ベース(石炭))/ (世界の一次エネルギー消費(石炭))として計算

次いで、エネルギー源として用いられている一般炭の主な利用先は、火力発電用の燃料であることが、この表1の一次エネルギー消費のなかの発電用石炭投入量の占める比率E/Cの値からみることができます。 鉄鋼生産用の原料炭の使用が少ないと見られる先進国のE/Cの値が、オーストラリアの100 %、米国の91.9 % に見られるように、軒並み高い値を示しています。すなわち、エネルギー用の一般炭の大きな比率が発電用に用いられていると考えられます。

 

 ②-3.世界で、火力発電用燃料として主として石炭が用いられるのは、発電コストが最も安いからです

火力発電用の化石燃料種類別の発電コスト(燃料費)の値を、エネ研データ(文献4 )に記載されている一般電気事業者用電力について、次式を用いて計算し、その年次変化を図2に示しました。
発電コスト(燃料費)
=(燃料輸入CIF価格)×(単位発電量当たりの燃料使用量)       ( 1 )
この( 1 ) 式で計算される化石燃料種類別の発電コストは、化石燃料の輸入CIF価格に比例しますから、図2に見られるように、発電コスト(石油)の値は1980年度前後の石油危機と2005 ~2014年度の原油が先物市場で取引された異常高騰時を除けば、残存可採埋蔵量にほぼ反比例して確実に上昇を続けているように見えます。また、その輸入価格が原油に連動して変化する天然ガスについても、日本では、これを液化して輸入するので、単位発電量当たりの発電コスト(天然ガス)の値は、石油のそれと余り変わりません。これに対して、発電コスト(石炭)の値は、この 図2に見られるように、その年次変化は、石油のそれに連動するとは言え、石油のほぼ1/3程度と低くなっています。
この 図2 に示す発電コストは、化石燃料のほぼ全量を輸入に頼る日本での値ですが、国産の石炭が利用できる米国やドイツなど、世界の多くの国では、発電用コスト(石炭)の値は、さらに小さくなるでしょう。さらに、図1に見られるように、地球上のエネルギー資源として、石油や天然ガスの2 倍の可採年数R/P の値を持つ石炭では、この石油や天然ガスとの価格差は、今後とも大きくなることはあっても、小さくなることはないと考えられますから、世界における発電コストを重視した火力発電用の燃料は、今後とも、石炭になると考えるべきです。

注; 発電コスト(燃料費)の値は、本文( 1 )式を用いて計算、発電コスト(石油)では、輸入CIF 価格として、原油の値を使用
図2 一般電気事業者用電力の化石燃料種類別の発電コスト(燃料費)の年次変化
(エネ研データ(文献4 )をもとに計算して作成)

 

 ②-4.電源構成のベストミックスは原発電力を再生させたいお役人の願望の産物です。

3.11原発事故後に求められるべき日本の電源構成は、原発電力分を先ず安価な石炭火力に置き換えることです
日本の電源構成の年次変化を図3に示しました。この電源構成は、3.11福島原発事故の起こる直前の2010年度までの値を示しています。
いま、地球温暖化対策としてのパリ協定のCO2の排出削減目標数値に関連して、盛んに電源構成のベストミックスが言われています。しかし、これは、どうやら、3.11の福島原発事故以後に運転を停止していた原発をCO2の排出削減を目的にして、何とか再稼動させようとする資源エネルギー庁のお役人が言い出して、これに、判っていないメデイアが追従した非科学的な妄想以外の何ものでもありません。
本来、電源の種類別選択の比率を表わす電源構成は、安価な電力を生産すると想定して建設された発電設備のそれぞれの使用期間(寿命)中の発電量の比率として、結果的に与えられるものです。電力生産設備の寿命は、火力では20年、原子力では40年、水力ではもっと大きくなりますから、この設備の寿命を考慮すると、今日の最適は、明日の最適にはなりません。すなわち、電源構成の最適な比率(ベストミックス)は、あり得ないことになります。
日本が第2次大戦の敗戦の苦境から立直って、高度経済成長を遂げるようになった石油危機以前には、火力発電用のエネルギー源の主体は石油でした。それは、図2に示すように、発電用のエネルギー源として 石油が石炭よりも安価だったからです。したがって、1973年と1978年の中東での軍事紛争により起こった石油危機によって、石油の輸入価格が石炭のそれを大きく上回るようになってからは、安価な電力の生産のためには、石油火力の発電設備が、順次、石炭火力に置き換へられるべきでした。しかし、現実的な電源構成が、図3に見られるように、そうならなかったのは、下記するように、電源構成のエネルギー源種類別の選択には、発電コスト以外の複雑な各種要因が入っていたからです。

図3 日本の電源構成の年次変化(エネ研データ(文献4 )をもとに作成)

今後の電源構成について考える時、3.11原発事故の起こる前に、電力の約30 % を担ってきた原発電力をどうするかが当面の課題になります。3.11事故の悲惨な現状を考えるとき、原発の再稼働はあり得ません。原発電力の代替は、経済成長の抑制を前提とした省エネの徹底の上で、当面は安価な石炭火力が担うことになります。この石炭資源の枯渇が迫り、その輸入価格高くなって、国産の再生可能電力のうち、その発電コストが石炭火力の発電コストよりも安価になったものに、種類を選んで、順次切り替えて行くべきです。

 

②-5.世界に較べて、電源構成のなかの石炭火力の低い比率が日本経済を苦しめるなかで、石炭火力の増設に努める経産省に、環境相が待ったをかけました

日本の現実的な電源構成の年次変化を示す図3に見られるように、石油危機以降、火力発電用の燃料が、高くなった石油の代わりに、安価な石炭への移行が起こらずに、石炭よりも高価なLNG(液化天然ガス)の利用に移行したのは、石炭火力の使用での環境汚染が問題になったからでした。すなわち、石炭燃焼排ガスによる大気汚染と、石炭灰の廃棄処理・処分の問題の解決が迫られました。しかし、現在、これらの問題は殆ど解決されています。すなわち、排ガス中のSO2は、石膏として回収され、建築用の石膏ボードなどとして利用されており、石炭灰もセメント原料などとして利用されています。したがって、少なくとも日本においては、環境問題を理由にして、火力発電用の石炭の利用を阻むような規制を国が行わなければならない理由は無くなっています。
ところが、この電力生産の石炭の利用に大きく歯止めを掛けるようになったのが、1990年代以降の地球環境問題でした。地球温暖化の大きな原因になるとされた石炭の使用に大きなブレーキがかかるようになりました。このような状況下で、起こったのが、3.11 福島の原発事故でした。図3に見られるように、2010年に、電源構成のなかの3割近くを占めていた原発電力が、原発の稼働の安全性の問題から、消えてしまいました。
もともと、原発電力は、電力の需要変動への対応に弱い特性を持っていますから、国内では、夏期の冷房用電力需要のピーク時に備えて、火力発電の年間平均設備稼働率を50 % 程度として運転されていました。したがって、3.11の原発事故後には、失われた原発電力の代わりに、この火力発電の年間平均設備稼働率を60 %以上に引き上げるとともに、 すでに、その役割を終えて引退していた発電効率の悪い石油火力発電設備までが使用されたために、火力発電用の燃料として高価な石油の輸入金額が、原発事故以前の2010年度に較べて年間3兆円を超えて、日本経済を苦しめました。

図4 世界の電力消費の大きい国の火力発電の電源構成、2014年
(エネ研データ(文献4 )に記載のIEAデータをもとに作成)

さらには、結果として、日本では、世界のエネルギー消費大国との比較で、図4に示すように、2014年の火力発電用燃料として、石炭に較べて高価な石油が7.7 %もの高い電力量比率で用いられています。こんな国は、産油国以外では存在しません。
このような現状のなかで、電力生産での経済性を目的として、電源構成のベストミックスを言うのであれば、できるだけ速やかに、電源構成のなかの石炭の利用比率の増加が図られなければならないはずです。事実、国民の多数の反対で、原発の再稼働が思うように進まないいま、電力会社は、経済産業省の支援も受けて、石炭火力の増設に大わらわです。
これに対して、環境保全の問題を地球環境問題として、温暖化防止のための低炭素化社規の実現を推進しようとしている、エネルギー問題に無知な環境相が、環境保護団体の応援も得て、資源エネルギー庁が進める石炭火力発電所の増設計画に待ったをかけています。

 

③ 石炭利用技術の開発を進めてきたJCOALの今後の活動に期待します

③-1.先ず取り組むべき課題は、世界一効率のよい日本の石炭火力発電の技術を世界に移転することです

現代文明社会を支えている電力の生産手段として、いま、最も広く用いられている石炭火力発電技術の開発を進めているJCOALにとっての活動目的は、先ず、このJCOALが主体となって開発してきた日本の優れた石炭火力の発電技術を、世界中に移転・普及することによって、地球上の有限の化石燃料(石炭)をより長持ちさせることだと考えます。

注; IEAデータの(世界の電源構成、発電量ベース)の値と(世界の電源構成、投入ベース)の値から計算。最新の2014年のデータには、ミスプリントがあると思われたので、2012年の値を示しました。
図5 世界各国の石炭火力発電のエネルギー効率の試算値、2012年
( エネ研データ(文献 4 )に記載のIEAデータをもとに計算して作成)

エネ研データ(文献 4 )に記載のIEAデータをもとに計算した国別の石炭火力発電の発電効率の値を図5 に示しました。この図に示される発電効率の値のもとになるIEAデータはそれぞれの国の申請に基づくもので、図中の注にも記しましたように、その絶対値の精度には問題がありますが、現状での日本での際立って高い発電効率の値に注目すべきです。
この日本での高い発電効率の値は、国内で研究開発、実用化されてきた超臨界発電技術によって達成されたと考えられます。したがって、先ず、この優れた技術を世界に移転・普及させることによって、世界平均の火力発電の効率を40 % 程度にまで上昇させることで、世界の省エネの実効を促すことをJCOALの当面の活動目標とすべきと考えます。
さらに、この発電効率の値を60 %以上の高い値に高める技術として、石炭のガス化コンバインドサイクル発電技術の実用化利用があります。いま、この技術の実用化実証試験が国内でも行われているようですが、今後の課題は、この技術を、貧困な途上国でも利用できるようにするにはどうしたらよいかを検討することでしょう。

 

③-2.エネルギー政策のなかに迷い込んだ地球温暖化対策の排除がJCOALの役目です。化石燃料の枯渇が迫るなかで、その消費の増加を前提として、CO2排出削減を図る

CCS(CO2の分離・回収・埋立)技術の開発は、JCOALの仕事ではありません
JCOALの現在の活動目標が上記した現状で最も安価な石炭火力発電の技術の開発とその普及・拡大にあるとして、これと真っ向対立するのが、いま、地球環境の保全のためとされている地球温暖化対策としてのCO2排出削減の要請です。
化石燃料消費が増大して、大気中のCO2濃度が高くなると地球気温が上昇し、生態系に取り返しのつかない変化が起こるとするのがIPCCが主張する地球温暖化のCO2原因説です。この温暖化を避けて、CO2の大気中への排出を削減するためとして、IPCCが推奨しているのが石炭の燃料排ガス中からCO2を分離して、これを地中深く埋め立てるCCS(Carbon Captured and Storage)とよばれる技術です。JCOALも、すでに、産炭国のオーストラリアおよびカナダと協力して、実用化の実証試験を行ったとしています。
だが、考えてみて下さい。このCCS技術開発の最大の問題点は、これからも、日本を含む先進国において、化石燃料消費の増加を継続させて経済が成長できることを前提とたうえで、地球温暖化対策としてのCO2の排出を削減しようとしていることです。しかし、下記(本稿③-3)するように、世界各国が協力して化石燃料の消費を節減すれば、IPCCの主張するような温暖化は起こりません。これに対して、いま、世界で、深刻な問題になっているのは、経済成長に必要な化石燃料消費の不均衡に伴う貧富の格差が、宗教と結びついたタリバンに始まりISに至る国際テロ戦争によって、世界平和を大きく侵害していることです。
このような、厳しい世界情勢のなかで、先進国の一員としての日本が、経済の更なる成長のための化石燃料消費の増加を前提とした上でのCO2の排出削減のためのCCS技術の開発は、JCOALの仕事ではありません。

 

③-3.やがてやって来る化石燃料の枯渇に備えて、残された化石燃料を大事に分け合って使うために、パリ協定が求めるCO2の排出削減を化石燃料消費の節減に代える改訂を行うべきとする私どもの提言案を政府に進言して頂くことをJCOALにお願いします

ところで、やがてやってく化石燃料枯渇後世界では、国産の再生可能エネルギー(再エネ)のみにより、自国の経済を維持しなければならなくなります。その時の貧富の格差は、それこそ各国の自己責任となります。しかし、それは、大分先の話です。問題は、そこに至る過程において、貧困な途上国が、現状の経済的な苦境を乗り越えて、再エネのみに依存して経済を維持できる技術力を身に着けることができるかどうかです。
すなわち、エネルギー資源として現在、最も安価な石炭を含む化石燃料を、今世紀いっぱい大事に使いんがら、やがてやって来る化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する社会にソフトランデイングする方法が求められることになります。
この具体的な方策として、私どもは、2050年の各国の人口の増減を補正した一人当たりの化石燃料消費の値を、世界中の全ての国が公平に、現状(2012年)の世界平均の値1.54 石油換算トン/人にすることを提案しています。この提言案を図6 に図示します。

注; 図中星印が、2050年を目標として求められる2012年の世界平均の一人当たりの化石燃料消費の値1.54 石油換算トン/年。ただし、各国の値は、それぞれの国の人口の増減に応じて補正を行う。
図 6 世界各国の一人当たりの化石燃料消費量の年次変化と、私どもが提案する化石燃料消費の節減目標値(エネ研データ(文献 4 )に記載のIEAデータをもとに作成)

この私どもの提言案に対して、これは、実現不可能な理想論に過ぎないとの批判があるかもしれません。しかし、この提言案は、いま、地球温暖化対策として国際的な合意を得ているパリ協定の目標値を、CO2の排出削減から、化石燃料消費の節減に置き換えることで実行可能となります。これに対して、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を目的とする現行のパリ協定では、これを実行可能にする具体策が示されていません。一方、私どもの提言案が実行されれば、すなわち、今世紀末までの世界の化石燃料の年間平均の消費量を現状(2012年)の値に抑えることができれば、CO2の排出総量は、2.8 兆トン程度に止まります。したがって、IPCCが、温暖化の脅威が起こると主張するCO2の排出総量7兆トン、気温上昇幅4.8℃に達することはありません。なお、私どもの試算では、現在(2012年)の化石燃料の確認可採埋蔵量(本稿②-1参照)の全てを使いきってもCO2の排出総量は3.2兆トン程度に止まります。したがって、世界が協力して化石燃料消費の節減に努力すれば、もし、IPCCによる地球温暖化のCO2原因の仮説が正しかったとしても、地球気温の上昇幅は人類の歴史のなかで、温暖化の脅威に耐えることができるとされる2℃以内に止まります。また、パリ協定で決めたCO2の排出削減を実行可能な方法は、この私どもの提言する化石燃料消費の節減案を実行する以外にはありません。以上、詳細については、私どもの近著(文献2 )を参照して下さい。
この私どもの提言案の実行では、図6に見られるように、今後、先進諸国では、大幅な化石燃料消費の節減が要求されますが、反面、中国を除く途上国では、まだ、化石燃料消費を増加させて、経済成長を継続させる余地が残っています。途上国には、この成長を利用して、技術力を身に着け、やがてやって来る再エネ電力のみに依存する社会を創設して貰えばよいのです。
先進国の一員としての日本で、石炭利用の技術開発を行ってきたJCOALには、やがてやって来る再エネのみに依存する社会への移行の方法を示すこの私どもの提言案にご理解を頂いて、これを世界に共通のエネルギー政策とするためのパリ協定の改定のために、日本政府を説得して頂きたいと切にお願い致します。

 

③-4.褐炭等の利用技術の開発は、途上国での自国産の発電用燃料としての利用に限定されるべきです

JCOALの主な活動として、上記のCCS技術の開発の次に挙げられているのが褐炭等の利用開発技術です。その基盤技術として、JCOALは褐炭等をガス化して化学原料やクリーン燃料を製造する循環流動床方式の低温・常圧のガス化炉のパイロットプラント試験を行い、さらにその事業化の実証試験をインドネシアで実施したとしています。
確かに、一部の途上国においては、火力発電用の燃料として、瀝青炭より安価に利用できる国産の露天掘りの褐炭の利用を必要としている国があるでしょう。しかし、この褐炭の利用は、あくまでも、その国における、国産の褐炭の発電用燃料としての利用に限定されるべきと考えます。また、その輸送中の自然発火が問題になる褐炭を、例えば、現地で、クリーン燃料とされる水素に変換して日本に持ってくることも計画されているようですが、こんなことは、考えないで頂きたいものです。化石燃料が枯渇して、その輸入価格が高騰した後のエネルギー源は、この輸入エネルギーより安価に利用できる国産の再エネ電力でなければなりません。
さらに、JCOALは、褐炭のガス化技術を利用して、石油代替の化学工業原料としての炭化水素の製造も検討しているようですが、これは、かつての石油危機の後、石油の代替としての石炭を原料としたメタノール合成反応を基幹としたC-1化学の技術での原料を、より安価な褐炭に変えようとするものです。いまでも、石油の国内資源に乏しい中国では、この研究開発が継続されているようです。しかし、私の考えでは、将来、石油が枯渇に近づき、その価格が高騰して、自動車が再エネ電力を利用した電動車で動くようになれば、化学原料としは、現在は経済性の面から高くて使えない重質用などの石油資源を使われることになると私どもは考えます。さらには、化石燃料の枯渇後に、もし、化学工業用の原料としての水素がどうしても必要だとしたら、その水素は、国産の再エネ電力による水の電気分解でつくればよいでしょう。
いずれにしろ、いま、化学工業用原料として用いられている石油の代替に褐炭の利用を考える前に、この石油の枯渇後の石油の代わりに、何が用いられるべきかの事業化の可能性調査(FS)が先行すべきと考えます。この課題の詳細については、私どもの近刊(文献2 )の資料編A5をご参照下さい。
結論として、当面の日本の褐炭の利用技術の開発は、あくまでも上記したように、途上国での国産の褐炭の発電用の燃料の利用を目的とした途上国支援の技術開発とすべきことを進言します。

 

<引用文献>

1.久保田 宏; 科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日
3.一般財団法人 石炭エネルギーセンター;JCOAL “Coal, a Precious Resources“、”Towards More Efficient and Environmentally Friendly Utilization“
4. 日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2017, 省エネルギーセンター、2017年

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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