世界の一国主義の台頭が世界の平和を侵害し、日本経済を苦境に陥れようとしています(その3)化石燃料代替の再生可能エネルギー(再エネ)の利用で、日本経済が世界とともに生き残る道を考えます(後編)

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

(前編の要約);

① 有限の化石燃料資源の枯渇に備えて、その代替のエネルギー源として、原子力とともに、再生可能エネルギー(再エネ)が利用されるようになりましたが、この国産の再エネを利用して、経済成長を抑制した平和な社会への移転が求められます
② 地球温暖化対策としての化石燃料代替の再エネの利用で、先ず政治的に進められた国策バイオ燃料の開発・利用は、多額の国費を浪費して、幻に終わりましたが、この失敗の教訓は何処にも生かされていません
③ 再エネの利用に際しては、それに先立って、その利用の効用を評価する事業化可能性評価(FS)が、科学技術者の責任で行われなければなりませんが、それが行われていません
④ 化石燃料枯渇後の自国産の再エネのみを利用する社会では、成長のエネルギー源の奪い合いの起こらない国際平和が期待できます。問題は、そこに至る過程です。各国が協力して残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、この平和が期待できる社会へのソフトランディングが求められます
⑤ 世界の化石燃料消費量を現在(2012年)の値に止める私どもの提言案が実行されれば、IPCCが主張する地球温暖化の脅威は起こりません
⑥ パリ協定のCO2排出削減を化石燃料消費の節減に変えることで、化石燃料枯渇後の再エネのみに依存しなければならない社会への移行への道が拓けてきます

 

(後編の要約)

⑦ 化石燃料の枯渇後に使われる再エネ電力としては、生産される電力のなかで、生活や産業用に有効に使われる再エネ電力の利用比率、「有効再エネ利用比率i 」の値が大きいものが選択され、利用されなければなりません
⑧ 化石燃料の枯渇後、再エネ電力をつくるのに再エネ電力を使わなければならない場合の「有効再エネ利用比率 io 」の値は、現状の化石燃料の「有効エネルギー利用比率」の値に較べ大幅に小さくなりますから、再エネのみの利用では、化石燃料エネルギーに支えられてきた経済成長はできません
⑨ 化石燃料の枯渇に備えて、その代替として、FIT制度によらないで再エネ電力を利用するための条件として、私どもは、「限界設備価格」の概念の導入を提言しています
⑩ 再エネ電力の利用の拡大には、再エネ電力種類別の導入可能量(ポテンシャル)の値がカギを握りますが、国内では、この導入ポテンシャルの値を無視した太陽光発電の利用が進められています
⑪ 化石燃料の枯渇後の再エネのなかに迷い込んだ水素エネルギーは、幻想として消え去ろうとしています。エネルギー科学技術の研究に無駄な国民のお金が使われている典型例が、化学技術の知識の無いメデイアが囃し立てる水素エネルギー社会です

 

(後編の解説本文);

以下、本稿(その3)後編においても、必要なエネルギー・経済のデータについては、日本エネルギー経済研究所編の「EDMCエネルギー経済統計要覧」に記載のデータ(エネ研データ(文献1 )と略記))を用いるとともに、このデータに基づいた本稿の解析内容についての詳細は、私どもの近著(文献2 )を参照して下さい。

 

⑦ 化石燃料の枯渇後に使われる再エネ電力としては、生産される電力のなかで、生活や産業用に有効に使われる再エネ電力の利用比率、「有効再エネ利用比率i 」の値が大きいものが選択され、利用されなければなりません

化石燃料の枯渇が近づいているいま、その代替として使われる再エネは、その名の示す通り、再生可能でなければなりません。しかし、現在使われている再エネは、再生可能とは言えません。それは、この再エネの生産設備の製造のためのエネルギーとして、有限な化石燃料が使われているからです。
すなわち、化石燃料が枯渇に近づいて、その国際市場価格が高騰すれば、再エネ生産設備の製造等に化石燃料が使えなくなります。したがって、再エネが真に再生可能になるためには、再エネ生産設備をつくるのにも再エネが用いられなければなりません。
以下、現在、実用化されている再エネ電力に限って、その利用での効用を評価する指標として、私どもが提唱している次式で定義される「有効再エネ利用比率 i 」の概念と、その値を求める方法について説明します。
「有効再エネ利用比率i 」
= {(産出エネルギー}-(投入エネルギー))}/(産出エネルギー)
= 1 - 1 / (産出/投入エネルギー比μ)        ( 1 )
ただし、
(産出 / 投入エネルギー比 μ)=(産出エネルギー)/ (投入エネルギー)   ( 2 )
で、EPR ( Energy Profit Ratio )ともよばれます。
ここで問題になるのは、投入エネルギーの値の計算です。この計算を行うには、大変な労力が必要なため、実際には行われることのないままに、その値は小さいとして無視されています。結果として、この再エネの利用の選択に、 ( 1 ) 式で定義される「有効再エネ利用比率 i 」の値による評価が行われないままに、手当り次第の再エネの利用が進められています。
これに対して、私どもは、以下のような簡易な計算方法を提案しています。
(投入エネルギー)= (エネルギー生産設備の製造・使用に要するコストT )
×(設備の製造・使用のコストを稼ぐために必要な一次エネルギー消費C ) ( 3 )
このC の値は、エネ研データ(文献1)を用いて、次式で計算します。
C = (国内一次エネルギー消費)/(国内総生産GDP )         ( 4 )
なお、将来、化石燃料が枯渇して、再エネ電力のみに依存しなければならない場合を想定し、それぞれの再エネ電力の種類別に、(投入エネルギー)の全てが再エネ電力で供給されなければならない場合には、
(再エネ電力のみに依存しなければならないときの投入エネルギー)
=(現在の投入エネルギー)×(再エネ電力のみに依存するときの補正係数)  ( 5 )
とします。ただし、
(再エネ電力のみに依存するときの補正係数)
=(再エネ電力のみに依存するときの投入エネルギー)/(現在の投入エネルギー)
={1 /(電力の一次エネルギー換算係数 f = 0.367 )}
/ { ( 1 -(現在の電力化率 0.478))×(電力以外の一次エネルギー換算係数 g = 1.082 )
+(現在の電力化率 0.478 )/(電力の一次エネルギー換算係数f = 0.367 )}
=2.725 / ( 0.5648 + 1.302 ) = 1.459
したがって、
(再エネ電力のみに依存するときの有効エネルギー利用比率 io )
=(現在の有効再エネ利用比率 i )×1.459 ( 6 )
として求めることができます。
以上、あくまでも、現状での推定可能な概算値ですが、この方法を用いれば、何とか、いままで求められていなかった再エネの有効利用比率の値を求めることができます。
現在利用されている再エネ電力の種類別に、この「有効再エネ利用比率 i 」などの私どもによる計算値を表1に示しました。
なお、この表1 に示す(有効再エネ利用比率 i )などの値の計算には、再エネ電力の利用・普及を目的として制定された「再エネ固定価格買取制度(FIT制度)」導入時(2012年7月)に、資源エネルギー庁が設定した設備・維持費 Tや使用年数Yの値、および当時の市販電力料金の値などを、電力の生産に化石燃料が主体として用いられている現状での国内の値として用いました。
したがって、化石燃料が枯渇に近づいて、そのエネルギー利用の比率が小さくなれば、ここで計算した値は変わって来るでしょうが、再エネ電力の種類別の相対的な関係は余り変わらないと考えてよいと思います。すなわち、化石燃料枯渇後に必然的にその利用が進められる再エネ電力の種類別選択に有効な知見を与えることになります。特に、いま、FIT制度の適用で電力買取価格が最高値を示す家庭外太陽光発電(メガソーラ)の極端に低い再エネ電力有効比率の値に注目して頂きたいと考えます。

表 1 再エネ電力種類別の「再エネ電力有効利用比率i」の試算値
(資源エネルギー庁によるFIT制度の認定に際して用いられた再エネ電力の実用化の設備費、設備の使用条件等の諸定数を用いて試算しました(文献2 参照))

注 *1 ; 再エネ発電の年間平均設備利用率 yの値、環境省の「再エネ導入ポテンシャル調査」報告書のデータからの推定値  *2 ; 設備使用年数の略、政府の決めたFIT制度の買取契約年数の値 *3 ;政府の決めたFIT 制度での設備建設コストT 、設備建設費に設備維持費{(年間設備維持費)×(使用年数Y)}を加算して求めた最大と最小の値 *4 ;産出/ 投入エネルギー比μの略、ただし、表中の定数値を用いて計算  *5 ;同上(注*4 )、再エネ電力のみに依存する場合の値、μo =μ/ 1.459 として概算(本文参照) *6 ; 出力変動の大きい太陽光、風力発電について、その変動を平滑化するための蓄電設備の製造・使用での投入エネルギーとして、設備製造・使用のエネルギーと同じ値が必要であると仮定した場合の産出/ 投入エネルギー比の値、(μ) =μ/ 2 として概算 *7; 再エネのみに依存する場合の産/ 投比μo (注 *5 )の値に、太陽光、風力発電の出力変動を平滑化するための蓄電設備の製造・使用での投入エネルギーを考慮した(注*6 )時の値、μo = μ / 2として概算 *8 ; 「有効再エネネ利用比率i 」の略、産/ 投比μ(注:*4 )の値を用いて i = ( 1 -1 /μ) として計算 *9 ;同上、再エネのみの場合μo の値に対応 *10 ;太陽光、風力で蓄電設備を考慮した場合の「有効再エネ利用比率i 」の値  *11 ; 同上(注*10 )、再エネのみに依存する場合のio の値

 

 ⑧ 化石燃料の枯渇後、再エネ電力をつくるのに再エネ電力を使わなければならない場合の「有効再エネ利用比率io 」の値は、現状の化石燃料の「有効エネルギー利用比率」の値に較べ大幅に小さくなりますから、再エネのみの利用では、化石燃料エネルギーに支えられてきた経済成長はできません

産業革命以来、資本主義社会の経済成長を支えてきたエネルギー源の化石燃料の枯渇が現実のものとなりつつある今でも、この化石燃料の代替の再エネ電力を利用することで、経済成長が継続できると思い込んでいる人が大勢居る、と言うよりも、そういう人が大部分ではないかと思います。
これが幻想であることは、上記の表1に示した「有効再エネ利用比率i 」の値を、表2に示した化石燃料を用いた火力発電についての( 1 )式と同様に定義される「有効エネルギー利用比率 」の値と比較して頂けば判ると思います。すなわち、化石燃料を用いた火力発電での「有効エネルギー利用比率の値は95 % 程度か、それ以上です。これに対して表1 に示される「再エネ電力有効比率 i 」の値は、比較的高い値を与える中小水力と地熱を除けば90 %を超えることはありません。

表 2 化石燃料種類別の火力発電の (産出/投入エネルギー比 μ )= EPR および 「有効エネルギー利用比率 」 の試算値
(計算の方法は、表1の再エネ電力の場合と同様(文献2参照)です)

いま、再エネ電力の「有効再エネ利用比率i 」の値が90 % と計算されたとします。この再エネ電力を用いた場合は、同じ電力量を生産するのに「有効エネルギー利用比率」95 %の化石燃料を用いた場合に較べ、その際の投入エネルギー、したがって、それに比例するエネルギー生産コストは、約2 倍 ( = ( 1 – 0.90 ) / ( 1 - 0.95 ) になります。
もし、再エネ電力のi の値が80 % であれば、その発電コストは、約 4 倍 ( = ( 1 – 0.80 ) / ( 1 – 0.95 ) になります。すなわち、このような2 ~ 4倍もする高い発電コストの再エネ電力を用いたのでは、現在の主として化石燃料を利用した場合の経済成長は継続できないと考えるべきです。

 

⑨ 化石燃料の枯渇に備えて、その代替として、FIT制度によらないで再エネ電力を利用するための条件として、私どもは、「限界設備価格」の概念の導入を提言しています

化石燃料の枯渇に備えて、その代替として用いられる再エネ電力は、その再エネ発電設備の設備費(設備の市販価格に使用期間中の維持費を含む)が、その設備の法定使用期間内の発電量に、この再エネ電力の代替対象となる化石燃料使用の火力発電電力の市販価格を乗じた金額と等しくなれば、利用可能となります。
したがって、地球温暖化対策としてのFIT制度の適用無しで、化石燃料の枯渇後、その代替となる再エネ電力の導入が可能となる再エネ電力の生産設備の「限界設備価格」は次式で求めることができます。
「限界設備価格B」=(単位発電設備容量当たりの年間発電量 P )
×(設備使用年数 Y)× (市販電力としての買取価格H )    ( 7 )
ただし、
(単位設備容量当たりの年間発電量P )
=(理論設備稼働時間 8,760 h/年)×(年間平均設備利用率 y )      ( 8 )
と与えられます。
また、再エネ電力の(市販電力としての買取価格)としては、(現用の化石燃料主体の電力の発電コスト)の値を用いますが、出力変動の大きい太陽光や風力では、買取価格が安価になるとして、(現用の化石燃料主体の電力の発電コスト)の 1/2の値を用いました。
なお、現用の化石燃料の全量を輸入に依存しなければならない日本では、自然エネルギー(国産の再エネ)の利用では、化石燃料の輸入金額が節減できるので、その節減額に相当する金額を、(国の補助金額 D)として、「限界設備価格 B 」に加えて、
「限界設備価格L 」= 「限界設備価格B 」+(国の補助金額 D)    ( 9 )
とすることができます。ただし、
(国の補助金額 D )
=(単位発電設備容量 kW あたりの生産電力による輸入化石燃料の節減金額)
=(単位発電設備容量kWあたりの年間発電量 P)
×(有効再エネ利用比率 i )×(単位発電量当たりの市販電力生産用化石燃料輸入金額U )×(設備の使用年数Y )                      ( 10 )
で求められます。
上記の計算法に従って求めた各再エネ電力種類別の「限界設備価格」の値を、この計算に用いた定数値とともに表3 に示しました。

表 3 再エネ電力の利用でのエネルギー源種類別「限界設備価格」の試算結果
( 表 1 に与えられた定数値をもとに計算、計算方法は本文参照(文献2 から))

注 *1 ; 再エネ電力の年間平均設備利用率 yの値、環境省「再エネ導入ポテンシャル」調査報告書から *2 ; 設備使用年数、政府の決めたFIT制度の買取契約年数の値。 *3 ;電力会社による火力発電での平均的な発電コストの値 7.5 円/kWh を、電力を需要端で販売できる太陽光(家庭)では、家庭用市販電力料金 24円/kWhをそれぞれ基準として、さらに、電力変動対策を電力会社が負担しなければならない太陽光や風力では、この基準値の半額を買取価格としました。 *4 ;有効再エネ利用比率i の略。表1で計算された値をそのまま使用。 *5 ;国の補助金なしの限界設備価格 Bの値。設備コストT の最小値と最大値に対して計算 *6 ;国の補助金額 Dの値。 ただし、単位発電量当たりの市販電力生産用化石燃料輸入金額 U =6.53円/kWh(本文参照). *7 ;国の補助金付き限界設備価格 Lで、L = B + D として求めた。*8 ;政府の決めたFIT 制度での設備建設コストTの値で、 設備建設費に設備維持費{(年間設備維持費)×(使用年数Y)}を加算して求めた値、設備規模の最大と最小に対する値で示した。

この表3 に見られるように、太陽光発電では、補助金Dを考慮した「限界設備価格L」 の値でも、(現状の設備価格T)の値を大きく上回っています。これが、この太陽光発電に対して、現在、今すぐの適用のための不条理なFIT 制度を適用した場合、特に高い買取価格を設定しなければならない理由になっています。
一方、他の再エネ発電方式では、同じエネルギー種類別で、発電設備コストTの値に、大きな幅(値の違い)があります。これは、単位発電容量(kW)当たりの設備コストTの値が、主として設備の立地条件により変化するからです。
したがって、L ≧ T を再エネ電力の実用化の条件とする場合、T の値が小さくなるような立地条件に設置される設備を選択して、順次、実用化・利用が進められるべきです。
このようにして、表 3を見ますと、先ず、中小水力発電では、かなりの場合で、L ≧ Tとなっており、今すぐにも、その実用化利用が進められると考えられます。次いで、風力発電でも、一部の立地では、今すぐにも、実用化・利用を進めることができます。さらに、地熱発電でも、現用の火力発電のコストがもう少し高くなれば、実用化の推進が可能となるでしょう。

 

⑩ 再エネ電力の利用の拡大には、再エネ電力種類別の導入可能量(ポテンシャル)の値がカギを握りますが、国内では、この導入ポテンシャルの値を無視した太陽光発電の利用が進められています

再エネ電力の導入に当たってもう一つ考慮しなければならない大きな問題があります。それは、「再エネ電力の導入可能(ポテンシャル)量」の存在です。環境省の再エネ電力種類別の導入ポテンシャル調査報告書(2011年)をもとに、発電設備容量で与えられている値を発電量に換算し、その値の国内発電量に対する比率の値を求めた結果を表 4に示しました。

表 4 国内の再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの推定値
(環境省報告書のデータをもとに計算して作成(文献 2 から))

注 *1;環境省報告書には記載がない。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の推算値 *2 ;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率

上記の表1に示した「再エネ電力有効利用比率 i 」の値から、今すぐにもFIT制度の適用無しに導入できるとされる中小水力発電が、残念ながら、この表 4に見られるように、その「導入ポテンシャル」が国内発電量合計の僅か7.5 %しかありません。
これに対して、風力では、その「導入ポテンシャル」は、洋上と陸上を合わせると現状の国内発電量の4.6倍もあります。その上、表1に記したように、「再エネ電力の有効利用比率 i 」の値から、FIT制度の適用無しに今すぐ利用できる立地条件のものが2割程度あると推定できますから、計算上は、現在の火力発電の全量に近い量を風力で賄うことができます。
この風力発電では、その適地が北海道など、需要地から遠く離れていて、送電線の問題がその利用拡大を阻んでいるとされています。しかし、この環境省報告書をもとに私どもが試算した結果では、原発のある地域の海岸での風力発電で、現在の国内電力需要がほぼ賄えると推定されています。なお、現在、世界でも、風力発電の利用が、再エネ発電のなかで圧倒的なシェアを占めています。
これに対して、太陽光発電は、表 1 に示した「再エネ電力有効比率」の値が小さいだけでなく、この表4に見られるように、狭い国土の制約から、その導入ポテンシャルは、家庭外と家庭用合わせても原発発電量の1 / 2程度にしかなりません。 現在までに導入された太陽光発電(家庭外)は、その寿命を終えた後、再生されることがありませんから、将来、その廃棄物の処理・処分が大きな社会問題になると考えるべきです。

 

 ⑪ 化石燃料の枯渇後の再エネのなかに迷い込んだ水素エネルギーは、幻想として消え去ろうとしています。エネルギー科学技術の研究に無駄な国民のお金が使われている典型例が、化学技術の知識の無いメデイアが囃し立てる「水素エネルギー社会」です

2014年の暮れにトヨタが燃料電池車ミライを売り出したことで、翌2015年の1月、メデイアが一斉に水素元年と騒ぎたてました。このメデイアを扇動したのがアベノミクスのさらなる成長を訴える政府です。TVの画面で安倍首相がこの燃料電池車ミライに試乗して、はしゃいでいました。
エネルギー源としての水素、そんなものは地球上には存在しませんから、再エネ電力を使って無尽蔵に存在する水を電気分解して造った水素を燃料電池で電力に変換して、電動自動車を走らせています。こんなことするぐらいなら、再エネ電力を直接使って、蓄電池を備えた電動車、電気自動車を走らせた方がエネルギー利用効率がよいに決まっています。にもかかわらず、水素元年が言われるいま、現状で最も安価につくられる天然ガスからの水素を燃料とした700万円の燃料電池車ミライが国民の税金から200万円の補助金を受けて市販されています。こんなバカなことは止めるべきだとの私どもの一人の朝日新聞社への投書(意見を寄せろと言うので意見を出しました)には、何の返事も貰えませんでした。販売部数の減少により苦境にある新聞社にとっては、貴重な収入源となっている自動車産業界の広告を失いかねない、このような批判的投書などは掲載できないと言うことだとして納得しました。
確かに、水素をエネルギー源として、それを直接電力に変換する燃料電池は、科学技術の素晴らしい発明です。しかし、それを実用化しようとなると、エネルギー効率と経済性が問題になります。もともとのエネルギー源が再エネ電力であれば、上記したように、それを直接利用する方が有利になることは科学技術の常識でなければなりません。いま、この科学技術の常識が政治によりゆがめられています。上記した、すばらしい科学技術の成果である燃料電池の技術を何とか実用化させたいと願っている学者先生方が、政治に取り入って自分たちの科学研究費を稼いでいるのが、この燃料電池車を未来の車とする「水素元年」のエネルギー政策の実態と言えるでしょう。
さらに信じられないことは、この化石燃料代替の水素エネルギーを、安価に生産できるとして、海外で造って輸入する非常識が、エネルギー政策のなかで真面目に検討されていることです。化石燃料が枯渇して、経済成長のためのエネルギーを再エネのみに頼らなければならなくなった時に、この水素を買ってくるお金をどうやって工面するのでしょうか?このように、2重にも3重にも科学技術の常識を無視した水素エネルギー社会は幻に終わるくことは間違いありません。
最後に付け加えなければならないことがあります。それは、未来に水素エネルギー社会があるとしたら、それは、あくまでも化石燃料枯渇後のことです。ところが、いま、水素エネルギーに使われている水素は天然ガスから造られています。現在、世界の食料生産に欠かせない窒素肥料アンモニア(NH3)の製造原料の水素の最も安価な原料は、天然ガス(CH4)です。この化石燃料(天然ガス)が無くなった後の水素は、水(H2O)のなかの水素(H2)以外にありませんが、このH2の製造には大きなエネルギーが必要です。であれば、上記したように、そのエネルギー源の再エネ電力を直接使う方が有利なこと、これは、科学の常識でなければなりません。少なくとも、私どもの知っている良識ある科学技術者でこの水素エネルギー社会を支持する人はおりません。もし居るとしたら、それは、日本のエネルギー政策のなかに迷い込んだ水素エネルギーの開発研究に多額の研究費の恩恵を受けている人々ではないでしょうか?これが、悲しい日本のエネルギー科学技術研究の実態です。
敢えて断言させて頂きます。この科学と科学技術の常識を無視して進められている「水素エネルギー社会」は、アベノミクスのさらなる成長の行き詰まりとともに、幻として消え去ることは間違いありません。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2017, 省エネルギーセンター、2017年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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