2014年石油価格崩壊は現代文明終焉の始まり

要約
石油ピークの進行に伴って在来型石油供給の価格弾力性(供給/価格の変化率)が失われ、石油価格が高騰化しました。供給が伸びずに価格が非常に上がったのです。その機に、米国でシェールオイルの異常な開発が進み、市場自由主義ゆえに石油供給過剰を生み出し、石油市場は価格崩壊を引き起こしました。そして、シェール革命推進者たちは、需給調整の処理をOPECの在来型石油の減産に求めました。しかし、OPECは減産を受け付けず在来型石油のシェアを守りました。
 
市場自由主義は、文明の維持に依然有益なEPRの高い在来型石油を、文明維持に役立たないEPRの低いシェールオイルで置き換えようとしました。すなわち、市場自由主義は文明の生き血であるエネルギーの質を劣化させても、目先の利益を優先しました。OPECが減産を拒否して、EPRの高い在来型石油の供給シェアを守ったことの文明的な意義は大きい。
 
しかし、2020年代には、石油供給の価格弾力性がいっそう低下するだけでなく、石油欠乏に至ります。そして市場自由主義だと、石油とコモディティの価格乱高下を繰り返しながら、石油文明は非平和的に終焉するでしょう。今回の石油価格低落の背景に、ロシア、イラン等の経済破綻が意図されているとの推測があります。そうだとすると、世界に険悪な不安定対立が、この機に深まることになり、文明終焉のカタストロフィーが増幅されます。
 
石油文明の終焉が平和的か破局的かは別にして、その先のポスト石油社会はどのような社会なのか。それは、脱浪費の低エネルギー社会であり、有限な地球自然との共生社会であるに間違いない。なぜなら試みられている石油代替エネルギーと自然エネルギーのほとんどは、EPRが10よりも十分に小さく、石油文明と同等の経済システムと社会構造の維持ができない。
 
日本民族は、モンスーン気候の風土にある日本列島で、自然と共生して物質的、精神的に豊かな文明・文化を創り、営んできました。縄文時代、江戸時代がとりわけそうです。文明史的に特筆に値する日本民族の歴史を下敷きにすれば、日本は最も典型的なポスト石油社会を創り出せると考えます。

 

2014年下期 石油価格急落の経過
世界の石油生産は2005年に、日産7,300万バーレル、バーレル30ドル台の価格水準で石油ピークに至り(1)、その後、在来型石油生産はピークプラトー(高原状態)、すなわち有限の天井を着いた様相で、平均的に推移しています。その間、石油価格は2009年金融恐慌時の乱高下をはさみながら、中国等の発展国の経済成長による需要の伸びが、供給の価格弾力性の低下によって異常な価格高騰をもたらし、2011年には在来型石油価格は日産7,400万バーレル、1バーレル110ドル水準に至りました。
 
このような石油高価格化を背景に、とりわけ米国で、シェールガス・オイルの生産事業が地政的に優位な環境の下で急伸しました。米国でのシェールオイル事業は、石油価格が80ドルだと損益分岐点とされており、油価100ドルを超える水準に至って、2011年より米国シェールオイル生産量は急上昇しました。薬物注入フラクチャリング法による生産で、国民の生活環境と健康リスクを伴いながらも、シェールオイル生産によって石油供給量は増大し、2014年のシェールオイルを含む石油供給量は7,700万バーレルに至りました。
 
一方、世界経済は、2012年以降、欧米、日本の成長の停滞に加えて、中国等の成長鈍化が続き、世界の石油需要量は低迷し続けて、石油の供給過剰の状態が進行しました。そして2014年7月から原油先物取引市場で、価格下落が始まりました。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は7月28日に100ドルを切り、その後9月末まで90ドル台を緩やかに下落しましたが、10月6日に88ドルに下がって以降、急落して、12月6日に65ドル、12月29日に52ドルに至っています。

 
石油価格急落の要因(需要減退と供給過剰)
10月になって価格急落しましたが、10月1日にアラムコ(サウジアラビアの石油会社)がアメリカ・アジア向けの原油輸出価格を大幅引き下げしたことが引き金とみられています。また、アフリカの産油国の中に、買い手がつかず、アジアの製油所に買いたたかれる事例があるとの報告もあります。
 
石油需要減退を示す、7月以降の主な出来事を列記します。
・9月末に発表の米国消費者信頼感指数が4か月ぶりに低水準になったこと、
・ヨーロッパで景気低迷とデフレの影響で原油需要の減少していること、
・中国がGDP成長率見通しの下方修正を繰り返していること、
・国際エネルギー機関(IEA)が、9月に3か月連続で今年の石油需要見通しを引き下げたこと。
次に石油の供給過剰を示す、7月以降の主な出来事を列記します。
・シェールオイルの急増産によって、米国の石油生産量が2014年に850万バーレル/日に達し、過去30年来最高になること、
・米国で、外国産の在来型石油の国産シェールオイルへの置き換えが進み、輸入石油の消費が2016年に25%にまで減少する見込みであること(2005年には、60%)、
・米国は、カナダへの原油輸出を増やしていること、
・さらに、イラク・ロシアで石油生産量が伸びていること。
   
 
OPECの道理と決断の影響
サウジアラビア、およびOPECが減産の働き掛けに応じず、現在の供給量3,000バーレル/日を守ったことは、以下のように優れて道理にかなったことです。
 
・石油の供給過剰の原因が、紛れもなく米国のシェールオイル増産にあるわけなので、OPECの在来型石油を減産して、OPECがシェールオイルに屈してシェアを下げる筋合いはない。
・需給ギャップの解決を市場に任せることによって石油価格の急落し、シェールオイル事業を市場から有意に撤退させることができる。その結果、需給環境が健全になり、石油価格の適正な水準を回復が期待できる。
・米国では、シェールオイルへの性急な依存を克服して、輸入の在来型石油に回復することによって、石油消費価格が適切になり、国内経済の活性化にプラスとなるはずである。
 
年が明けて、石油価格は1バーレル60ドル以下に低落しており、シェールオイルの採算価格ラインを大きく割り込むに至っています。在来型石油のシェアを守るためとはいえ、ペルシャ湾岸諸国の多くは在来型石油の生産コストは5ドルから15ドルですが、国家予算は1バーレル80ドル~100ドルの収入で計画されており、国家運営に大きな痛手を伴うことです。さらに、国家財政を石油に強く依存しているロシア、ベネズエラ、ブラジル等では、石油価格下落が、通貨の急激な下落を引き起こし、国家と国民生活に、一時的にしろ、強く影響すると考えます。
 
 
シェール革命失敗の文明的教訓
 
シェールオイルが在来型石油に置き換わるとは、「質の良い石油を、質の悪い石油で置き換える」こと、すなわちエネルギー収支比(EPR)の高い在来型石油をEPRの低いシェールオイルに置き換えることになります。
 
石油文明の維持には多量の余剰エネルギーが要求され、エネルギー収支比(EPR)が10以上であることが必要とされています。在来型石油の多くは今日でもEPRが10以上ですが、これより非常にEPRの低い石油を、ここで「低EPRオイル」と呼びます。シェールオイル、オリノコタール、オイルサンドがそれに相当します。これら低EPRオイルのEPRは5以下であり、現代の石油文明の維持に必要とされる余剰エネルギー量を社会に供給できるものでありません。
 
在来型石油が低EPRオイルに置き換えられると、その分、社会に供給される余剰石油が減少します。そして、社会の余剰石油消費量の減少がGDPの減少に相関していることはよく知られており、それが経済の悪化、文明構造の悪化につながることも理解できます。米国の経済は、シェールオイルによる国産石油の増加で景気回復が期待されますが、実際には期待とは裏腹に、景気回復の効果がありません。それはシェールオイルが低EPRであるが由縁ということに気付くべきでしょう。
 
石油ピークの時代に、石油価格の高騰化の中で、米国における低EPR石油のシェールオイルの大量生産が市場自由主義的に進みました。しかし、アメリカ経済は良くなりません。米国では在来石油のシェールオイルへの置き換えが進んで、余剰石油量がむしろ減少傾向となり、それが経済低迷の主な要素と思われます。総じて、米国でのシェールオイルの大量生産化は世界経済の構造的な危機を招き、石油文明終焉の到来を早める作用をしていると考えます。
 
石油生産には、Low Hanging Fruits という木の実採集の例え話があります。採りやすい下枝の木の実から先に採取するという意味で、EPRの高いモノから先に採取することの例え話です。石油生産も、石油産業の黎明期以来、EPR高いモノから生産されてきました。低EPR石油が大量に生産されて、石油が高EPR石油に置き換わること自体が、エネルギー文明の在り方として不正常なことです。高EPRの在来型石油のシェアがもとに戻ることが文明的に健全な姿です。
 
石油文明の終焉期に差し掛かっています。文明の平和的移行の前提条件として、市場自由主義は破局を誘導しますから排除すべきです。そして、EPRに準拠して石油の生産と消費を制御、縮減しながら社会のかたちを変えていく知恵、技術、経済制度が求められます。現在の在来型石油のEPRは平均10余りと言われており、辛うじて石油文明を維持しうる限界値であるといえます。今後、時とともに次第に低下し、EPRが5~3になったとき、シェールオイルの開発利用に移行して「石油中毒社会」を追い求めると社会の破綻を招くでしょう。早いうちから、自然と共生の低エネルギー社会に平和的に移行すべきです。

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