シェアリングエコノミーの登場~資本主義は成功ゆえに自壊する~

田村八洲夫 

「有限地球」と「無限経済」の衝突

副題の「資本主義は成功ゆえに自壊する」は、経済学者シュンペーターの著書(1942)にある言葉である。良質の石油生産が有限のピークを続ける今日、現実的な意味を持ってきている。

一般的に言えば、資本主義経済は、資本の累積的成長による拡大再生産によって成功する。しかし、生産に必要な地球の資源エネルギーと環境収容力は有限である。それがゆえに資本主義経済は、「無限に成長は不可能」である。「成長の限界」に至り、それ以上に成長できず、自滅していく宿命にある。資本主義に替わる経済システムが準備されなければならない。

 

資本主義の盛衰を振り返ってみる

資本主義は石炭によって18世紀末に勃興し、20世紀になって、石油によって高度成長して豊かな社会生活の実現に成功した。ともに潤沢でEPRが高く、マージナルコストが殆どゼロの安価なエネルギーによるもの。ところが、石油の有限・稀少が分かり、EPRが低下し、価格が上昇すると、資本主義の経済成長は安定から低迷するに至った。1980年以降、とりわけ90年代以降であり、経済不況が四半世紀以上も続いている。

資本主義とは、資本が資源エネルギーと労働を支配し、利潤累積と拡大再投資/生産するシステム。この原理は経済が低迷しても変わらない。資本主義延命のために、エネルギーを石油代替と原発に求め、労働搾取の強化によって利潤累積に走る。資本は、労働者を低賃金に抑え込むが、労働者に消費依存する、すなわち「成長依存」するという矛盾がつねにつきまとう。しかし消費が低下すると、そして累積された資本の投資先が縮小すると、資本主義の実体は成長の好循環から外れていく。すると余った資本は資源と労働による実経済から離れてマネーゲームで儲けに走る。こうして資本主義の健全な生命力が衰退していく。

資本主義の原点は「人間は個々人が利欲で動けばよい」という考え。それが地球環境破壊による砂漠化、中間層の没落、地方の疲弊、浪費の増大、人心の荒廃を蔓延させ、世界的に貧困格差と憎悪の深刻化、海外市場の衝突と戦争危機の拡大を招いている。こうして資本主義の存立条件を自ら狭めて、すでに「存続の限界」にあり、石油ピークの現在、資本主義経済は、新たなシステム「シェアリングエコノミー」を孕みながら、自壊の道を下っている。

最近の脳科学の成果は、「人間は利己的だが、他人に依存し共生して生きる」、すなわち、シェアリングしてウィンウィンの関係がノーマルであることを、明らかにしている。

 

シェアリングエコノミーの出現

冷戦後、1990年代にインターネットが出現して以来、シェアリングエコノミー(共有経済)という新たな経済が広がっている。

資本主義の原理は、資本が資源エネルギーと労働を垂直統合支配して事業を展開し、市場競争に勝って、資本の利潤の最大化することにある。

それに対してシェアリングエコノミーは、人々が分散型インターネットによってパソコン端末を介して直接結びついて、「富の共有とP2Pの協働」がベースの経済システム。その原理原則は「分散型・水平統治」である。人々は「自分の使うモノや能力を、他人と分かち合って使うのが優れている。その方がカネが掛からない。」という価値観、共感と信頼がベースの共有・協働によって自己実現欲求の充足を覚えるというもの。競争排他による「私有」ではない。

AI搭載のロボットやセンサーを活用したIoTがシェアリングエコノミーの強力なツールとして、産業と生活の様々な分野で急速に普及してきている。そのため、これまで資本主義の下で発達してきた、もの作りの方法、取引決済方法、そして銀行機能までを、ガラッと変えている。さらに、生産と消費の関係が変わり、資本のために働く賃金労働者として甘んじてきた消費者がプロシューマ―(生産消費者)の群として広範に登場する。

プロシューマ―群とは、「自分たちに必要なものは自分たちで賄う人々」のことであり、日本の「百姓」に相当すると考える。百姓は、古来から農業コモンズ社会において、農作業とともに百にも上る多くの仕事を専門的に分担し、協働して地域社会を担っていた。シェアリングエコノミー時代の百姓は、農業/エネルギー生産+Ⅹ(専門的に分担)によって、地域の食とエネルギーの安全保障と地域の社会力を担っていくであろう。

シェアリングエコノミーの機能とビジネスモデルを、資本主義の枠内に閉じ込めて企業の収益事業にしようとする大企業の動きが起こっている。その動きは、「共有」を「私有独占」に閉じ込めて利益を得ようとする。グローバル水平展開のビジネスモデルを、排他的な垂直統合の枠組みに組み込もうとするもの。しかし、地域社会力を発揮するプロシューマ―の広範な活動を蔑ろにする限り、競争排他の資本主義経営が、それと相矛盾する共感信頼のシェアリングエコノミーの機能を、いつまでも内包できるわけがないだろうと考える。

P2Pインターネットも自然エネルギーも、広範に普及することによって、初期費用の一人当たりの分担は小さく、マージナルコストも殆どゼロにできよう。それが生み出す協働の「集合知」は、プロシューマ―が安く使えて、活用できるようになろう。それは私欲の知恵を必ず凌駕し、広く受け入れられる知性となって、人々の意識を、人類と地球の将来を豊かにするように変えていくものと考える。

 

シェアリングエコノミーで豊潤な日本をとりもどす

近い将来訪れるシェアリングエコノミー時代は、我が国でエネルギーと食糧の自給を取り戻し、食とエネルギーの安全保障を構築するオポチュニティである。沈みゆく石油文明を地域自然エネルギーで乗り越え、地方と都市の共存共栄、風土を生かした環境整備と、国民生活の豊かな日本社会を取り戻す。

国のアンケート調査によると、4割以上の大都市サラリーマンが、折りあれば地方に戻りたいようだし、ロボット・AIの普及で技術的失業者が50%に及ぶとの予測がある。これら、大都市から地方へ専門的な知識・技量を有する人々の労働移動が進むと、地方地域を再生する力となることは明らか。

そして、そんな地方地域が、資本主義時代の無駄を省き、日本の「新たな質の経済成長」を作り出していくと考える。

・脊梁山地から海浜に至る流域がバイオリージョンのユニットとなって、風水と地力、生態の循環を取り戻す。

・地域自然エネルギーを地域住民が工夫して開発し、エネルギーの地域自給を実現する。

・食料自給を達成する。立体農業、田園都市農業、救荒栽培を普及させる。

・大量生産方式から、プロシューマ―によるIoTと3Dプリンターによる小規模生産方式に転換していく。使う人が作ることに何らかの形で関与するようになると、交換価値以前に、使用価値が磨かれていく。

 

詳細は、筆者が出版の「シェアリングエコノミー」(幻冬舎の新書版、3月13日発売)を参照いただきたい。 人類史全体を俯瞰し、「技術とエネルギーと経済システム」の一体的な動向予測に基づいた「未来社会論」である。

 

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