地域分散社会をつくる要件(試論)   

1)グローバル化による経済の変質
1990年代から自由主義経済のグロバリゼーションのかたちで石油文明の変調が進みます。石油ピークの前から「石油は有限・高価」の圧力の下で、先進国の資本主義経済は実体経済から金融経済へ変貌していきます。そして、地方を呑み込んだ大工業は人口の多い低賃金の国へ移転を進めます。この新たなグロバリゼーションによって、資本主義経済のシステムに3つの不正常な歪みが強まりました。
ひとつはカネによるモノ支配です。カネは先進国都市から後発国のものづくりに投資され、利潤が回収されます。貿易外収支が貿易収支の規模より大きくなっていきます。日本の食糧と生活物資の海外依存は欧米先進国に類例なく進んでいます。
次に、カネがカネを生む経済システムです。実経済を情報操作してカネを流通させるだけで、手数料、金利、配当、利鞘で巨万のカネが動く金融システムです。
3つ目は、モノとヒトの移動の長距離化です。すなわち飛行機、船舶、自動車輸送の燃料の石油が余計に消費されます。やがて石油ピークから減耗になる文明の局面において、輸送における石油の浪費が石油文明の存続に対して根本的な矛盾となってきます。

 

2)地域再生の失敗
自由主義グロバリゼーションは、石油文明の末期症状の表れです。それに気づいて、反グロバリゼーションの運動が草の根から台頭しています。欧米主要都市における「都市農業」、「自転車天国」です。日本では過疎化が進む「地域の再生」の動きです。しかし、地域再生が上手くいっている地域とそうでない地域があります。その岐路は何なのか。良く分析すると明確です。
地域再生に必ず失敗する方法は、中央依存の地域再生策です。外部からの企業誘致、中央の補助金依存がその典型です。
外部からの企業誘致の場合、地域の自然資源、歴史・文化資源を売り渡し、地域住民の知恵と創意が働かなくなる地域再生策といえます。住民は企業の労働力の対象であり、地域の諸機能は誘致工場に対するサービス機能になります。よそ者企業は、進出した地域から、将来必ず撤退します。原発誘致の地域も同じです。「文明の跡に砂漠あり」です。原子力発電所の跡に、放射能砂漠が残りましょう。100年のオーダーで考えるだけで明瞭です。100年後は、使用済み核燃料棒を移動させるクレーン車の石油燃料も簡単に手に入らなくなるでしょう。メガソーラー、メガウィンドのビジネスモデルも同じです。地域の労働力もビジネスも必要としない、製造される電力も都市に送られます。地域の過疎化が進むほど結構な事業です。
次に、中央政府の補助金依存の地域再生も失敗します。補助金が当たらなければ行わないシロモノです。地域の自治体、市民が、地域の永続のために、身銭を切ってでも実行したいという地域再生策になっていないのだと思います。
 
3)地域再生の成功要件
≪食糧とエネルギーの地域自給≫
地域再生策で成功できるのは、いくつかの要件があります。第一に、地域食糧自給と地域エネルギー自給は目指すことを軸にした地域再生です。地域の外の経済や社会がどうなっても、石油文明が崩壊しても地域の人々が飢え死にしなくて生きていくための前提です。
第二に、その地域再生策の内容を地域市民自身の知恵で考え、創意で実行していくが肝要です。どんな自然エネルギーが自分たちにとって良いのか、地域市民自身が決めることです。決して、中央政府や大企業の太陽光や風力のキャンペーンに不用意に乗ってはなりません。地域の自然との共生、代々引き継がれてきた作法を活かすことを前提にエネルギー自給の形を決めた地域が、地域再生に成功しています。
≪地域市民の絆とU Iターン≫
第三に、地域再生に取り組む市民の絆の問題です。地縁、血縁、メンツなどで起こりやすい市民の間の対立、内部摩擦は、地域再生にとって何のプラスにもならない。地域再生という大義があるわけですから、市民の絆、交流を話合いと理性でもって繋いでいくことが肝要です。
その上で、地域で起業家を育てる、U Iターンに活動の場を与えることです。U Iターンが次々とU Iターンを生んでいく人が増えるカラクリを創ることです。地域経済の成長のカラクリが動き出すと、身銭を投資しても、還元が期待されます。また、そのために必死になるはずです。なお、中央の補助金には依存しないがもらえるものはもらって構わないです。
≪地域経済成長のカラクリを≫
第四に、地域の人を増やすと同時に、地域のマネーを増やすカラクリです。先ずは、食糧とエネルギーの自給によって、マネーの外部への流出を減らしていくことです。すると地域市民の知恵と創意はより豊かになり、余剰農産物、余剰エネルギーが増し、地域の人口が増加し、新たな地域産業も成長してきます。そのようなカラクリが功を奏するようになれば、地域文明が形成されていきます。
 
4) 21世紀の地域再生活動を
徳川時代になって、戦乱で荒廃した日本の各地は、農業改革が進められ、食糧自給と文化豊かな地域社会、自然と共存の江戸文明の礎を築いてきました。農村地域の人口は、過疎化の進む現在と、徳川時代では、余り変わらないと思います。地域再生事業を、17世紀の日本人に出来て、21世紀の日本人にできないわけはありません。
群馬県上野村、日航機が墜落した御巣鷹山のふもとの村ですが、地域経済の成長、地域文明が生まれてきています。文献だけですが、それから学び、参考にして綴りました。

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