スマートアグリは日本の風土に向かない

≪スマートグリッドとは≫
スマートアグリとは、ICT(情報通信技術)を利用した農業のことで、天候のチェックや、農作業スケジューリングから栽培環境の制御まで、全ての農業経験をシステム化して行う人工培地による大規模植物工場をいいます。発電機や電動設備、空調設備が必須で、多量のエネルギーを消費する農業です。最少人数の管理者が農地でなく事務所のコンピュータで栽培環境の調整を行ないます。

≪オランダの真似はできない≫
スマートアグリと言えば、すぐ「オランダが先進に学べ」といわれますが、オランダはICTによる園芸農業で世界第二位の農産物輸出国です。
日本はTPP対応で輸出農業の振興です。「オランダでできて、日本でできないことはない」といわれますが、日本とオランダでは、自然環境、エネルギー利用、需給環境が、根本的に異なります。

≪自然環境の違い≫

オランダの農地は海抜ゼロメートル以下の干拓地です。干拓地の造成には長年のたいへんな苦労があったでしょうが、出来上がれば、広大で均一な平坦な農地です。気候災害や地震による施設倒壊の心配がほとんどありません。広大な栽培施設が建てやすい自然環境です。年中穏やかな西岸海洋性気候であることもエネルギー消費の点でスマートアグリの優位な条件です。
日本の農地は、河川流域の扇状地、丘陵地から沖積平野に広がっており、河川、起伏、集落が含まれた不均一な土地です。しかも台風や地震による施設倒壊の心配が常にあります。大がかりに造成し、強固な栽培施設に金をかけて作ることになります。 脊梁と海岸に挟まれた河川流域はバイオリージョンを構成します。そこに多様な植物と動物、そしてエネルギーを育む自然の力があります。1億千万人の食糧安全保障には、この自然の力に依拠した立体農業が最も有効です。

≪エネルギー環境の違い≫

オランダは天然ガスの生産量が世界9位で、輸出国です。国内価格は安く、農業用のエネルギーに使えると思います。もともと更地の干拓地なので、CO2、排熱を供給する製造工場を、栽培ハウス地区に近接して建てることができます。
日本の場合、電力料金や石油燃料費が高すぎて、普通の温室栽培に対してすら採算に合いません。モンスーン気候で温湿度の変化が大きく、エネルギー消費が多くなります。 脊梁と海岸に挟まれた起伏に富んだ地形からして、小水力、地熱、地下水などの地域エネルギー(電気、熱)を開発利用することになります。作目は採算性ある特定のモノに限られます。

≪需給関係≫
オランダは、フランス、ドイツなどと陸続きです。カロリーベースの食糧自給率(2005年)はオランダ62%、フランス129%、ドイツ85%です。オランダはオンリーワンの園芸作目の輸出で圧倒的なシェアをもっています。隣接国からのカロリー食糧の輸入が容易に輸入できる地位にあります。
日本が急遽取り組んで、オランダのような圧倒的な地位を得られるでしょうか。スマートアグリは、コンピュータ制御の作物工業です。中国などが本格的に取り組んだ場合のリスクを考慮する必要があります。

≪人工農業か自然共生農業か≫
スマートアグリには、栽培施設の外側での自然の動きに対して、全く考慮していません。 日常管理できていない栽培施設は、荒々しい日本の自然によって簡単に破損・流失されるでしょう。作目も稀少性の高い、しかもハウス栽培しやすい少品種の作目が中心で、多様性が失われ自然のバランスを崩します。
日本列島の自然はダイナミックです。動いているからこそ、人々に恵みを与え、逆に災いも与えます。このような自然環境においては、自然の形態を生かし、自然と共生する立体農業に勝るものはありません。 そして、自然の力を生かすため、立体農業にICTを活用することに何ら問題ありません。ノウハウの蓄積にもなります。
農業の世界がICTを利用するだけです。ICTの世界に農業を引き込むと失敗します。自然をコンピュータで制御できるわけがありません。

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