資源量の制約を無視して進められているバイオマス発電事業 FIT制度無しでは成り立たないバイオマス発電事業は廃止されるべきである

東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

1.FIT制度の適用を受けたバイオマス発電量は余りにも小さい
NPOバイオマス産業ネットワーク(BIN)のバイオマス白書 2016年(文献 1 )から、2015 年12月末時点で、再生可能エネルギー(再エネ)固定価格買取制度(FIT制度)の認定を受けたバイオマス発電設備容量(ただし、石炭混焼のバイオマス発電でのバイオマス利用比率から計算した設備容量の値を含むが、正味でプラスのエネルギーを生産しないメタン発酵の値は除外した)は、2,818,792 kWである。
いま、このバイオマス発電設備の年間平均の設備稼働率を0.8 と仮定すると、
(バイオマス発電量)= (設備容量2,818,792 kW) × (年間平均設備稼働率 0.8)×(8,760 h/年)= 197.5 億kWh/年
と計算される。
これは、日本エネルギー経済研究所の統計データ(エネ研データと略記、文献 2 )に記載の2014 年度の国内総発電量 10,536.3 億kWh.の僅か1.87 % にしかならない。ただし、これは認定済みの設備での発電量の推定値である。
同じデータ(文献 1 )から、現在稼働中の設備の発電量を、同様にして、設備容量の値459,696 kWから推算してみると、32.2 億kWh/年で、上記の認定量の 16.3 %、国内総発電量に占める比率は0.31 % と極めて僅かな値にしかならない。

表 1 再エネ電力種類別の発電量「導入可能量(ポテンシャル)」の推定値の対国内発電量(2010年度)比率(環境省の調査報告書をもとに作成、文献4 から)

太陽光
(住宅)
太陽光
(非住宅)
風力
(陸上)
風力
(洋上)
中小水力 地熱 バイオマス*1
導入可能
発電量 億kWh
315.36 1,122 7,138 49,768 522.2 870.7 66.8
対国内
発電量比率*2 %
2.7 10.2 60.1 411 7.1 7.5 0.58

注 :1;環境省の調査報告書には記載がない。国内の人工林を100 %利用したと仮定して、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量利用した場合のエネルギー利用可能木材量11,175千m3 (文献3 参照)からの推定発電量で、原料木材の密度、0.5t/m3、木材の発熱量3,400 kcal/kg、 発電効率30 % として計算した。 *2;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年度)1,156,888百万kWhに対する比率

なお、この認定済みの設備での発電量の推定値は、表1 に示した私ども(文献 3 )が国内の人工林を100 %利用して用材を生産する(木材の自給率100 % )と仮定して、用材の生産・使用の残りの廃棄物の全量を利用した場合の推定発電量、すなわち、国内の木質原料を用いたバイオマス発電導入可能量 66.8 億kWh/年 の3 倍に近い値である。
これを言い換えると、日本の木材の自給率が100 % になっても、その時の木質廃棄物を利用したのでは、現在FIT認定済みのバイオマス発電所の発電可能量の 1/3も賄えないことになる。
したがって、FITで認定済みのバイオマス発電所の全てを稼働させようとすると、下記するように、現在、林業の生産物である建設用の用材を燃料用に使わなければならないから、それでも足りない分の多量の木質原料を海外から輸入せざるを得なくなる。

 

2.FIT制度を用いたバイオマス発電は、日本の林業を破滅の淵に導く
バイオマス白書 2016 年(文献1 )から、メタン発酵を除く、木質発電原料種類別の認定済みと稼働中の設備容量(kW)の値と、その合計量に対する内訳(カッコ内数値)、および同稼働中の設備の設備容量と認定済みの設備容量の比を計算して 表2 に示した。

表2 FIT制度の認定を受けたバイオマス発電の原料種類別の設備の設備容量 kW、
2015年末の値(バイオマス白書(文献1 )のデータをもとに作成)

稼働中(比率)*2187,661(40.8)137,699 (30.0)9,300 (2.02)125,036 (27.2)459,696

原料種類 未利用木質 一般木質 リサイクル木材 廃棄物 合 計
認定済(比率) *1 390,927 (14.0) 2194,979 (77,9) 11,060 (0.39) 221,826 (7.86) 2,818,792
稼働 / 認定比*3 48.0 6.27 56.3 56.4 16.3

注 *1;各原料種類別の認定済み設備の設備容量kW(同対合計量比率 % )、 *2;同上、稼動中の設備の設備容量kW(同対合計量比率%)、 *3; 各原料種類別の稼働中の設備容量 対 認定済み設備容量の比 %

この表 2で、質量基準での発電効率の値が発電原料の種類によって変わらないと仮定する(実際には、原料種類により発電規模が変化し、発電効率の値も変わると考えられるが)と、発電原料種類別の設備容量の値が、近似的に原料種類別の使用量(質量)に比例すると考えることができる。
したがって、この表2から、発電原料種類別の原料使用量の値では、認定済み設備に用いられる一般木質原料が合計量の77.9 % と圧倒的に大きな比率を占めることが判る。しかし、この一般木質原料の使用量の稼働中の設備の認定済みの設備での使用量に対する比率(稼働 / 認定比)は6.27 % と極端に低くいために、この一般木質原料の稼働中の設備でも、その使用量の合計量に対する比率は30.0 % と少なくなっている。
これに対し、一般木質以外の原料では、稼働中の設備で用いられる原料量と認定済みの設備で用いられる原料量の比率、稼働 / 認定比 の値が50 % 前後なのに、一般木質原料についてのこの稼働 / 認定の比率の値は6.27 % と小さいために、原料合計の稼働 / 認定比の値も16.3 % と大幅に小さい値をとる原因になっている。
表2 に見られるように認定済み設備の原料(合計)のなかで91.9 ( =14.0 + 79.9 ) %、稼働中でも70.8 ( = 30.8 + 40.0 ) %と大きな比率を占める一般木質および未利用木質のなかの国産材は、本来は、用材用として使われなければならない貴重な資源である。もし、これらが、FIT制度の適用を受けることで、発電用原料として消費されることになれば、これらの用材用に利用される木材の自給率が30 % 程度の日本において、さらに、その自給率が低下せざるを得なくなる。
いや、それだけでない、これらの建設用材等の生産を目的として、その自給率を2020年に50 % まで上げようとしてきた林野庁の計画など、どこかに吹っ飛んでしまう。しかし、驚いたことには、この林業の再生を訴えている林野庁が、このバイオマス発電を支持している。

 

3.貿易赤字を増大させるだけのバイオマス発電原料を輸入することは考えられない
同じバイオマス白書(文献 1 )に記載されている経済産業省が2016 年3月に公表した「持続可能なバイオマス発電のあり方に関する調査報告書」によるFIT認定された発電所の原料利用予定量」の値を表3 に示す。

表 3 FIT 認定されたバイオマス発電所の原料利用予定量(2015 年7月末時点)
(バイオマス白書2016 (文献1 )から、資源エネルギー庁公表の数値)

輸入材チップ、ペレット PKS 未利用材 一般木質(国内) 合 計
417 万t (31 %) 334 万t (24 %) 93万t (29 %) 221万t (16%) 1,365万t

注; 括弧内数値は各原料量の合計量に対する比率

この木材原料(合計)から、木材の発熱量を3,400 kcal/kg、発電効率を30 % として、発電量を概算してみると、
(発電量)=(13.65 百万t)×(3.4百万kcal/t)×(0.30 )/(860 kcal/kWh )
= 161.9 億kWh
となり、上記のFIT認定済みの設備の発電量の推定値(179.5億 kWh)をやや下回る程度である。
それはともかく、問題は、表2 に見られるように、現在稼働中の設備に供給されている原料量の約6 倍(6.13 = 2,818,792 /459,696)もの原料を調達するためには、大量の原料木材を海外から輸入せざるを得なくなることである。
表3 を見ると、原料利用予定の輸入材(チップ、ペレット)が417万t、対合計量比率31 %と、PKS(アブラヤシ核殻)が334 万t、対合計量比率24 %、合わせて、原料利用予定量の55 % もが、海外からの輸入品とされている。
本来、バイオマスが、発電用原料として用いなければならないとされたのは、エネルギー供給の安全保障の観点から、いま、日本がその全量を輸入に依存している化石燃料の枯渇後(私どもは、枯渇とは、その資源量が少なくなり、その国際市場価格が高騰して、それを使えない国や人が出てくることとしている)の代替としてであった。であれば、化石燃料が、なかでも安価なエネルギー源としての石炭が使用できる間は、バイオマスを発電用に利用する必要はないはずである。
ところが、いま、その石炭が、その使用により地球温暖化を促進するCO2を排出するとして、嫌われ者になっている。いや、IPCC(気候変動に関する国際間パネル、国連の下部機構)が要求する地球温暖化防止対策としてのCO2排出削減の要請が、国のエネルギー政策の基本計画のなかに入り込んできたから、電力生産ためにFIT制度を適用してのCO2を排出しないとされる再エネ電力の利用の拡大が要求されるようになった。
いま、FIT制度を適用して、その導入が図られようとしている再エネ電力は、バイオマス発電以外は全て国産である。国産であれば、その利用により、今まで使われてきた化石燃料の輸入金額が節減でき、いま、貿易赤字に苦しむ日本経済の救済に役立つ。一方、バイオマス発電の原料を輸入に依存する場合には、このような貿易収支改善のメリットが無くなる。
したがって、表2に示したように、国産原料によるバイオマス発電の余りにも小さい国内導入ポテンシャル量を合わせ考えると、少なくとも、輸入原料の利用に依存しなければならないバイオマス発電のFIT制度の適用による導入はあり得ない、いや、あってはいけないと考えるべきである。
なお、木材加工工場で木材の乾燥用に、そこで発生した木材廃棄物の燃焼エネルギーを利用する際に、余剰のエネルギーを発電に用いることは、FIT制度の施行される前から行われていた。このようなFITに依存しないバイオマス発電は今後も継続して行われてよい。と言うよりも、行われるべきである。

 

4.地球温暖化対策としての“今すぐの”再エネ導入を期待できないFIT制度は見直しでなく、廃止されなければならない
いま、バイオマス発電を含む再エネ電力の生産が、やがて枯渇する化石燃料の代替利用であれば、上記したように、“今すぐの”利用は必要がない。そこで、政府は、IPCCの主張するCO2の排出の増加に起因する地球温暖化を防止することを目的とすることで、FIT制度の適用による今すぐの再エネの導入を図ろうとしている。
このFIT制度は、新規の再エネ電力(新電力ともよばれる)の生産事業者が生産した電力を、政府が、現在の市販電力料金より高い価格で在来の電力会社に買い取らせるとともに、この高い電力を買い取った電力会社に、この買取価格と現状の電力の市販価格との差額分を市販電力料金の値上げの形で、広く国民から徴収させている。
このFIT制度による再エネ電力の買取価格は、再エネ電力の発電コストをカバーして、再エネ電力の生産が収益事業として成立するように、政府により決められているから、このFIT制度を用いた再エネ発電事業が、新しいビジネスになるような制度設計がなされている。
しかし、この新ビジネスの収益が、国民の生活や産業にとって必要な市販電力の料金として広く国民から強制的に徴収される以上、国民にとって、この支出に見合った利益がもたらされなければならないはずである。このFIT制度の施行に当たり、政府は、再エネ電力を利用すれば、地球温暖化が防止できるとして、FIT制度の適用による多少の経済的な負担は我慢して欲しいと国民に訴えた。しかし、下記する(本稿5.参照)ように、地球温暖化を防止するために、再エネ電力を利用しなくても済む方法があれば、FIT制度適用の必要は無くなる。
にもかかわらず、2012年7 月にFIT 制度が施行された結果、今すぐ利用できる再エネ電力として、買取価格の高い太陽光発電やバイオマス発電がFITの認定を受けることになった。しかし、この両再エネ電力の導入では、表1 に示すように、その導入ポテンシャルが小さいために、政府が求める“今すぐの”再エネ電力の導入必要量が得られないだけでなく、生産電力の高い買取価格に目をつけて、FIT制度の設備認定を受けただけで、その稼働を後回しにする事業者も続出した。
この事態を受けて、この制度の実施を与かる資源エネルギー庁は、このFIT制度を見直すとして、認定を受けた発電所の早期稼働を義務付けるとともに、電力の買取価格の引き下げを行っている。しかし、このFIT制度の見直しは、新規に認定を受けようとする事業者のみが対象となり、すでに認定を受けた事業者からの買取価格は、もとのまま据え置かれることになるから、このFIT制度の見直しによる国民の経済的な負担の軽減効果は限定的なものとなる。
要するに、このFIT制度の適用による再エネ電力の生産では、全ての国民の経済的な負担のもとで、グリーンビジネスとよばれる産業の振興を図る、すなわち、特定企業の利益が図られると言う理不尽ことが起こっている。
しかも、この一部の特定企業に利益をもたらすためのお金が、税金からでなく、電力料金の値上げの形で広く全ての国民から徴収されている。一見、公平に見える仕組みのようであるが、とんでもない。電力は、全ての国民にとっての生活のための必需品である。したがって、市販電力料金の値上げは。収入の少ない人の生活に重くのしかかり、貧富の格差を拡大させる要因の一つになっている。
いま、デフレ対策としての経済成長を訴えて、見かけの成長を図ることで、国民の利益より、特定企業の利益を優先させている「アベノミクス」の成長戦略の一環として機能している再エネ生産のためのFIT制度は、見直しでなく、即刻廃止されるべきである。
正しい日本のエネルギー政策にとって、FIT制度が無くなっても何の障害も起こらない。

 

5.化石燃料消費の節減が、地球温暖化対策としてのCO2排出削減のための唯一の現実的な方策である
いま、IPCCは、世界各国が現状のままのCO2の排出を続けると、地球が温暖化して大変なことになるとして、各国政府に、CO2の排出削減を要求している。これに応えて世界各国は、昨年(2015年)暮れのCOP 21で、それぞれのCO2排出削減目標を提示することで合意した。しかし、その削減目標を達成するための具体的な方策は明らかにされていない。
このCO2排出削減の実行可能な方策として私どもは、世界が協力して、今世紀中の平均の年間の世界の化石燃料消費量を現在(2012年)の値以下に抑えることを提言している。これは、もともとは、エネルギー源としてかけがえのない化石燃料を、世界各国が分け合って大事に使うための方策として提言したものである。しかし、この方策が実行されれば、今世紀中の世界のCO2の累積排出量をIPCCが地球の温暖化の脅威を何とか防ぐことができるとしている値以下に抑えることができる。すなわち、この方策は、いま、世界の経済成長の抑制が迫られているなかで、全ての国がお金をかけないで、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を可能にする唯一の方策であると言ってよい。
具体的な世界の化石燃料消費の節減の方策として、私どもは、2050年を目標に、世界の全ての国が、公平に、一人当たりの化石燃料消費量を等しくすることを提言している。
この私どもが提言する化石燃料消費の節減量をCO2の排出削減量に換算して、各国の一人当たりのCO2排出量の年次変化を図 1 に示した。この図1 には、いま、IPCCの要請を受けて、昨年暮れのCOP 21に向けて各国が提出したCO2排出削減率の目標値から人口の変動を無視して計算される一人当たりのCO2排出量の計算値も示した。
この図 1に見られるように、この私どもの提言目標の達成には先進国には大幅な化石燃料消費の節減が要求される。しかし、先進国とは言えない(?)大国、ロシアを除いた各国は、私どもが提言で目標としている2050年の一人当たりの化石燃料消費量の値をCO2の値に換算したCO2排出量目標値(図中の十字印)に向かって、CO2の排出量を減らそうとしている様子が見てとれるようである。
一方、経済成長の低下により化石燃料消費の節減を図らなければならない中国を除く途上国には、経済成長のための化石燃料消費の増加の余地が残されている。
すなわち、ロシアと、少し問題のある中国を含めた世界中の全ての国が協力して、この私どもが提言する化石燃料消費の節減目標の達成に努力することが、いま、地球温暖化対策として国際的な公約となっているCO2の排出削減の実行を可能にする唯一の現実的な方法であることが判って頂けると思う。

biomass_chart

注; 十字印は、2050年の目標値として私どもが提言する2012年の世界平均の一人当たりの化石燃料消費量のCO2排出量への換算値(本文参照)
図 1 各国の一人当たりのCO2排出量の年次変化(1971 ~ 2012年)と、COP 21 で各国が自主的に決めたCO2排出率から計算したそれぞれの国の一人当たりのCO2排出量の目標値(2020、2030年)(IEAのデータ(エネ研データ、文献2 に記載)をもとに作成した)

私どもは、昨年暮れのCOP 21のパリ協定に、この提言を行って欲しいと訴えたが、政府は耳を貸してくれなかった。いまからでも遅くない。是非、この方策を日本のパリ協定の批准の条件として提言して欲しいと私どもは願っている。
以上、本節の詳細については、文献5 を参照されたい。

6.世界のバイオマスのエネルギーの利用は電力でなくて、熱利用が主体である
FIT制度の適用によるバイオマス発電の利用・普及に関連して見落とされている重要な問題がもう一つある。それは、このFIT制度による再エネの導入では、電力だけが対象になっていることである。
化石燃料の枯渇に備えてのその代替の再エネであれば、現在、化石燃料資源換算量(石油換算百万t (以下Mtoe ))で表されている一次エネルギーとして1 / 2以上を占める電力以外のエネルギー代替の再エネの利用についても考えなければならない。
ところが、現在、化石燃料代替として、その開発・利用が図られているのは、太陽光や風力発電などに見られるように大部分が電力である。電力以外の再エネとして、唯一、一定の利用量を期待できるのがバイオマスであるから、このバイオマスのエネルギー利用では、電力以外の熱利用についても考えなければならない。
エネ研データ(文献2 )に記載されているIEA(国際エネルギー機関)のデータから、2013年、「世界のバイオマスエネルギー(一次エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)とある。その主体をバイオマスとみなした)」の値は1,377 Mtoeで、その「世界の一次エネルギー消費(合計)、2013年」の値13,555 Mtoeに対する比率は、10.2 %、さらに、そのなかの「バイオマス発電量(世界の電源構成(2013年、投入ベース)とある)」143 Mtoeの比率は10.4 % である。すなわち、世界のバイオマス発電量の一次エネルギー消費量に対する比率は僅か1 %程度である。
同様の値を、先進国(OECD 34 )と新興・途上国(非OECD )、およびいくつかの国について計算して表4に示した。この表 4の計算結果に見られるように、日本のバイオマスエネルギーの利用比率が2.4 %と際立って低い中で、その電力利用比率が71 %と異常に高い値を示している。
この理由は、日本の場合、ここでバイオマスのエネルギー利用と見なした「一次エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)」の大半が、都市ごみや産業廃棄物の中に含まれる廃プラスチックなどの有機系可燃物で、これらの焼却処理の際のエネルギーが、電力として回収されているためではないかと考えられる。一方、上記した(本稿1.)ように、FIT制度の適用を受けた木質バイオマスの発電量の推定値(2015年)は、国内発電量(2014年)の僅か0.3 % 程度でしかない。

表4 各国の一次エネルギー(バイオマス)*1の同(合計)に対する比率、バイオマス発電量*2の同一次エネギー(バイオマス)に対する比率、およびバイオマス発電量の一次エネルギー(合計)に対する比率*3の計算値、2013 年の値、%
(エネ研データ(文献2 )記載のIEAデータをもとに計算、作成した)

世界 OECD 34 非OECD 米国 中国 ドイツ 日本 ブラジル アフリカ
バイオマス
比率*1
10.2 5.5 13.7 4,45 7.2 8.6 2.4 27.6 20.5
バイオマス
発量比率*2
10.4 30.4 4.9 22.1 8.0 47.1 71 9.0 0.28
バイオマス
発電対一次*3
1.06 1.67 0.67 0.98 0.58 4,05 1.70 2.51 0.26

注 *1 ;IEAデータ(エネ研データ(文献2 )に記載)の「世界の一次エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)」の値をバイオマスの一次エネルギー消費量とし、この値の「世界の一次エネルギー消費(合計)」に対する比率の計算値、 *2; IEAのデータ(*1同様)から、「世界の電源構成(2013年、投入ベース)のバイオマス発電」の値の「世界の一次エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)」の値に対する比率の計算値、
*3 ;バイオマス発電量の一次エネルギー消費に対する比率((*1 の値)×(*2の値))

一方で、表4に示した日本以外の世界、特に途上国では、「一エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)」の大きな部分が、薪炭材に農作物残査などを含むバイオマスと見なしてよく、そのエネルギー利用の大半は、電力以外の熱利用とみてよい。非OECD諸国のなかの貧困な途上国の多くでは、家庭の厨房用の熱エネルギーとして、このバイオマスが利用されていると考えられる(文献 7 参照)。IEAせーた(文献 2 に記載)から、現在(2013年)、世界人口の82 %を占める新興・途上国(非OECD)のバイオマスエネルギー利用量「一次エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)」が、世界のバイオマスエネルギー利用量の78.7 % を占めている。

7.FIT制度の適用無しには成立しないバイオマス発電事業は存続できない
上記したように、いま、バイオマス発電を含む再エネ電力の利用・普及の目的は、産業革命以来続いてきた世界の化石燃料消費に伴うCO2排出量の増加の継続として起こるとされる地球温暖化を防止するためとされている。
この再エネ電力の利用・普及のために、政府は、FIT制度の適用により、全ての国民に、電力料金の値上げによる経済的な負担をかけている。先にも述べたように、この国民一人当たりの経済的な負担は大きくないかもしれないが、貧困層にとっては大きな負担になる。
しかしながら、上記した(5.参照)ように、世界の化石燃料消費量を現在の値以下に止めることができれば、世界のCO2の排出量を、IPCCが温暖化の脅威が起こるとしている値以下に抑えることができる。この私どもが提言する化石燃料消費の節減方策を世界が協力して実行すれば、FIT制度の適用により国民に経済的な負担をかける今すぐの再エネ電力の利用・普及は必要がなくなる。
すなわち、再エネ電力の利用・普及は、それが、現用の電力料金より安価に供給できるようになってからでよく、国民に経済的な負担をかけるFIT制度を適用しなければ収益事業として成立しないバイオマス発電事業は、もはや、その存続の意義を失うことになる。
同じバイオマスのエネルギー利用であれば、電力利用ではなく、熱利用の方が、はるかに国民にとっての経済的な利益が大きい。それは、バイオマス発電では、安価な輸入石炭の節減が利益になるが、熱利用であれば、石炭に較べて、単位保有エネルギー当たり3倍近く輸入価格の高い石油の輸入金額が節減でき、貿易収支の赤字に苦しむ日本経済にとって、その改善に貢献するからである(文献3、7 参照)。
さらに、電力利用の促進のためのFIT制度が廃止されれば、いま、バイオマス発電での利用の対象とされている林業生産事業で発生する木質バイオマス廃棄物などの価格が低下するから、これらを有効利用することが、熱利用事業推進に有利な条件となる。
ところで、バイオマス発電がその存在意義を失った場合、問題となるのは、現在、FITの認定を受けて進行中のバイオマス発電事業をどうするかであろう。
この対策としては、先ず、すでに、FITの認定を受けただけで設備建設未着工の事業は、認定を返上する。
次いで、石炭へのバイオマス混焼の発電では、この混焼を停止する。
最後に問題として残るのは、現在、FITの認定を受けた建設済みの設備で、稼働中、および、稼働準備中の事業をどうするかであるが、これについて、私どもは、次の方策を提言する。
FIT制度は、政府が決めた制度だから、FITの認定を受けた設備建設済みの再エネ電力の生産者との約束は、むやみに変えることはできないであろう。しかし、このFIT制度の適用のもとでのバイオマス発電の継続が、国民に経済的な不利益を与えることが明らかである以上は、今後の国民の利益が損なわれることを止めるためにも、その買取価格を、できるだけ早い機会に、現在の化石燃料主体の発電コストまで引き下げることで、事業者の了解を得る必要がある。
ただし、この引下げ買取価格では事業を継続できないと申し出る事業者に対しては、代案として、既設設備の建設コストの未償却分を、税金の中から保障することも止むを得ないであろう。とはいえ、国家財政が破綻するような経済危機に追い込まれた場合は、この保障金の支払いもできなくなる。
成長のエネルギー源の化石燃料の枯渇が言われており、世界全体がマイナス成長を強いられるようになった今。成長の継続を前提としなければ成り立たないようなFIT制度の適用による今すぐの再エネ電力利用の拡大はあり得ないし、あってはいけないことである。
このように考えると、国民に経済的な負担をかける不条理なFIT制度の適用が無ければ成り立たないバイオマス発電、特に、その発電用のバイオマス原料を輸入に依存しなければならない発電事業の拡大は、直ちに廃止するとともに、国民の利益を守るための国産バイオマスエネルギーの熱利用の推進と、この原料の安定供給と量的な拡大を保障するための日本林業の創生こそが強く望まれる。

<引用文献>
1.NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN):バイオマス白書2016、ダイジェスト版、2016年
2.日本エネルギー経済研究所 計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016、省エネセンター、2016年
3.久保田 宏、中村 元、松田 智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会2013年
4. 久保田 宏:科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る。日刊工業新聞社、2013年
5.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済のいきのこりのための正しいエネルギー政策を提言する、私費出版、2016年
6.久保田 宏、平田 賢太郎、 松田 智; 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉;日本経済を破綻の淵から救う正しいエネルギー政策を創る。アマゾン電子出版、kindle版、2015年
7.久保田 宏、松田 智;;幻想のバイオマスエネルギー―― 科学技術の視点から森林バイオマス利用のあり方を探る、日刊工業新聞社、2010年

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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