脱原発の実現こそが、化石燃料枯渇後の世界で日本が生き残ることのできる唯一の道である

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

――要約――

① 3.11 福島後の脱原発の国民の多数の願いは、アベノミクスのさらなる成長戦略に妨げられています
② 有限の化石燃料の代替として、その開発が進められてきた原子力エネルギーの利用には、大きな技術上の制約があり、化石燃料の代替とはなりません
③ 核燃料サイクルを実現する高速増殖炉が実用されない限り、現用の軽水炉型原発は化石燃料代替の持続可能なエネルギー源とはなりません
④ 原発の開発にブレーキをかけるようになった3.11福島の過酷事故の再発を防止できる唯一の方法は、原発を動かさないことです
⑤ 3.11 福島の過酷事故後、原発電力無でも国民の生活と産業用の電力は確保できています
⑥ いま、火力発電用石炭の使用を阻んでいる地球温暖化のCO2 原因説には科学的根拠がないことが、一般には知らされていません
⑦ 当分、安価な石炭火力発電を使うことが、原発電力無しで、生活と産業用の電力を賄って脱原発を実現するための前提条件となります
⑧ 地球温暖化より怖い化石燃料の枯渇に伴う貧富の格差の拡大による世界平和の侵害を防ぐには、世界各国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使う私どもの提言案(文献2)が実現されなければなりません。
⑨ 脱原発の実現のためには、アベノミクスのさらなる成長政策の廃止が求められなければなりません
⑩ 脱原発が実現できなければ、日本に未来はありません

補遺 ① 脱原発のために、化石燃料より高価な再エネの今すぐの利用を訴えたのでは、原発の再稼働を止めることはできません
補遺 ②; 安倍首相主導で進められている原発技術の海外売り込みは、すでに崩壊に瀕している日本の原子力産業に引導を渡すことになります
補遺 ③; 福島における除染に国民のお金(税金)を使う前提条件はとして、政府は脱原発を宣言しなければなりません

―― 以下解説本文――

 ① 3.11 福島後の脱原発の国民の多数の願いは、アベノミクスのさらなる成長戦略に妨げられています
脱原発、それは、3.11 福島の過酷事故が起こってからの国民の多数の願いではないでしょうか? しかし、3.11福島から6 年経った今でも、それが実現されないだけでなく、現安倍政権は、再稼働を含む原発の保持政策を継続しようとしています。
これは、安倍政権が掲げる、さらなる成長を訴えるアベノミクスの政治戦略の推進のためのエネルギー源として、原発電力が必要だと考えているからです。
しかし、3.11福島の事故後、生活と産業用の電力は、原発電力無しでも何とか間に合っています。

 

 ② 有限の化石燃料の代替として、その開発が進められてきた原子力エネルギーの利用には、大きな技術上の制約があり、化石燃料の代替とはなりません
1970 年代から、先進国で、その実用化が進められてきた原子力エネルギーの平和利用として進められてきた原発電力の利用ですが、日本エネルギー経済研究所データ(以下、エネ研データと略記、文献1 )に記載のIEA(国際エネルギー機関)データをもとに作成した図②-1 に見られるように、21 世紀に入ってから、その伸びが停止していました。
その理由の一つとして、電力の需要負荷変動への対応に問題のある原発の利用では、現状の発電総量に占める原発電力の比率は、経済性の点からも、原発電力以外の電力との交換が可能なフランスやウクライナを除いては、図②-2に示す2010年の日本での値に見られるように、せいぜい25 % 程度が限界とされているからと考えられます。

注; 2011年以降の世界の原発発電量の減少は、日本の3.11事故による減少です
図 ②-1 世界、米国、日本の一次エネルギー消費(原子力)の年次変化
(IEAデータ(エネ研データ(文献1 )に記載)をもとに作成)

図 ②-2 原発保有各国の総発電量に占める原子力発電量の比率、2010年
(IEAデータ(エネ研データ(文献1 に記載)をもとに作成)

この図②-1に示される21世紀に入ってからの世界の原発電力の伸びは、10年以上遅れで開発が進められ、原発電力の総発電量に占める比率が20 %に届いていない中国などの新興途上国での原発の実用化の継続によるものと考えられます(図②-2参照)が、今後の世界経済の不況が予想されるなかで、これがどうなるかは不確定です。

 

③ 核燃料サイクルを実現する高速増殖炉が実用されない限り、現用の軽水炉型原発は化石燃料代替の持続可能なエネルギー源とはなりません
いま、実用化されている原発の殆ど全ては、今回、福島で事故を起こした軽水炉型原発です(注③-1)。この軽水炉型の原発では、核燃料サイクルの実現のための高速増殖炉が実用化されない限り、核燃料原料のウランは使い捨てになりますから、持続可能なエネルギー源とはなりません。
いま、日本では、高速増殖炉「もんじゅ」が廃炉に追い込まれようとしています。したがって、軽水炉型原発の利用では、燃料ウランの可採年数(経済的に採掘できる確認可採埋蔵量の値を生産量で割った値)は大きく見積もっても78年程度にしかなりませんから、もし、この軽水炉型原発の電力を、化石燃料を用いた火力発電用電力の代わりに用いたとしたら、化石燃料代替の核燃料ウランの可採年数は僅か5.1年と計算され(注③-2 参照)、化石燃料(石炭、石油、天然ガスの合計)の可採年数の推定値81.9年(注②-3)に較べて1/16 と小さい値になります。すなわち、核燃料サイクルの実用化の目途が立たない現状では、化石燃料代替の原発利用は、持続可能なエネルギー源にはなりません。
注②-1; チェルノブイルは黒鉛炉で、現状ではこの型の原発はほとんど使われていません。
注②-2; エネ研データ(文献1)から、2012 年末、200ドル/kgのウランの埋蔵量について(ウランを最大利用するケースとして)、ウランの現状の可採年数は、
(ウランの可採年数)=(ウランの確認埋蔵量4,587,200 ウラニウムトン)
/ (ウランの生産量 58,816 ウラニウムトン)= 78 年
と計算される。この値から、ウランを化石燃料の代替としでの石油換算の埋蔵量は、
(ウランの確認埋蔵量)= (一次エネルギー(原子力)642 石油換算トン)
×(ウランの可採年数78 年)= 50,071 石油換算トン
したがって
(化石燃料火力発電を原発電力で賄うときの利用可能年数)
= (ウランの確認埋蔵量 50,071 石油換算トン)
/(一次エネルギー(石炭、石油、天然ガス)10,867 石油換算百万トン)= 5.1年
注②-3; エネ研データ(文献1 )記載のBP社データから、2013年末の 化石燃料の確認埋蔵量は、石油換算十億トンの単位で、石炭425.5、石油239.8、天然ガス168.5 の合計882.8 と計算される。一方、IEAデータから、一次エネルギー消費(化石燃料;石炭、石油、天然ガスの合計)の値は10.787 石油換算十億トン/年であるから、出典の違うデータからの概算値であるが、
(化石燃料(合計)の見かけの可採年数)=882.8 / 10.787 = 81.9 年

 

④ 原発の開発にブレーキをかけるようになった3.11福島の過酷事故の再発を防止できる唯一の方法は、原発を動かさないことです
21世紀に入り停滞する世界の原発の利用・拡大に、さらに大きなブレーキをかけたのが 3.11福島の過酷事故です。しかし、いま、安倍政権は、事故後にできた安全対策基準について、原子力規制委員会が、この基準をクリヤした運転停止中の原発について、順次、その再稼働を認めようとしています。
これに対して、脱原発を訴える人々は、原発立地の地域住民が原告となっている原発再稼働の差し止め請求の裁判を支援することで、何とかして脱原発を実現するとしています。現在の所、この裁判での裁判官の判断の結果は5分5分です。
ところで、原発について、絶対の安全を求めるのであれば、再稼働を含めて、原発を稼働させないこと以外にありません。これは、中学生にも判って頂ける簡単な科学の原理です。いま、原発を再稼働させるために、電力会社は安全対策に多額のお金を使っているはずです。そのお金は、結局は、電力料金の値上げの形で、国民から徴収されることになりますが、再稼働をしなければ、国民は、そんなお金を徴収されることはありません。

 

⑤ 3.11 福島の過酷事故後、原発電力無でも国民の生活と産業用の電力は確保できています
もちろん、原発を再稼働させなければ、国民の生活と産業用に必要な電力が供給できないのであれば、話は別です。安全性のリスクを冒してでも原発の再稼働を進めなければならないとの選択がでてくるかも知れません。
しかし、3.11福島の事故後、原発電力が殆ど使われていない状況下でも、私たちは、電力の需給にそれほどの不自由を感じませんでした。それは、総発電量の約25 %を担っていた原発電力を補うための国民の節電努力とともに、図⑤-1に示すように、需要負荷変動に弱い原発電力をカバーするために、年間設備稼働率50 % 程度に抑えて運転されていた火力発電の設備稼働率の値を60% 強に引き上げることで原発発電量の減少を補うことができているからです。

図⑤-1 原子力および火力発電(事業用)の年間平均設備稼働率の年次変化
(エネ研データ(文献1 )をもとに計算、作成した)

問題があったとしたら、この間の火力発電量の増加に伴い、その燃料として用いられていた石油の輸入金額が、事故以前に較べて3兆円程度増加したことです。しかし、これも、石油危機以降、本来、火力発電用に用いられていた高価な石油に代わる安価な石炭への変換が行われていたら、この輸入金額の増加は1 兆円以下で済んだはずです。地球温暖化を促進するとして、石油火力から石炭火力への変換が遅れていたのが、この石油輸入金額の増加に繋がりました。いま、経産省は、慌てて、石炭火力の増設を行っています。

 

⑥ いま、火力発電用石炭の使用を阻んでいる地球温暖化のCO2 原因説には科学的根拠がないことが、一般には知らされていません
3.11福島の直後から、原発電力の代替には、当面石炭火力発電を使用すべきだとする私どもの主張を阻んでいるのが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張する地球温暖化のCO2の原因説です。現在、このIPCCの要請を、国民の多数が当然のこととして受け入れています。例えば、新設の火力発電の主体を石炭にしようとする経産省に対し、環境相が待ったをかけています。
しかし、CO2の排出の増加により、地球気温が上昇して、人類の生存を許さない脅威をもたらすとするIPCCの主張は、地球気候変動のシミュレーションモデルをスーパーコンピューターを用いて解析した結果であり、観測データによる裏付けのない(これから起こることなので実測の裏付けが取れない)科学の仮説に過ぎません。
いま、世界の政治を動かしているIPCCの第5次調査報告書(2013 ~ 2014年)によれば、人類が、現状の化石燃料の消費の増加を継続すれば、今世紀末までのCO2の排出総量が7兆トンに達し、地球気温が4.8℃上昇して、取り返しのつかない生態系の変化がもたらされるとしています。しかし、私どもの計算(文献2)では、現在の科学技術の力を用いて経済的に採掘できる化石燃料の資源量、確認可採埋蔵量の値(文献1)から計算されるCO2の排出総量は、3.23兆トンにしかなりません。また、今後、世界各国が協力して、今世紀いっぱい化石燃料の年間平均の消費量を現在(2012年)の値に抑えることができれば、CO2の排出総量は2.8兆トンに止まります。これらの値であれば、もしも、IPCCが主張する地球温暖化のCO2原因の仮説が正しかったとしても、地球気温の上昇幅は、IPCCが人類の歴史から、人類がそれを耐えることができたとされる2℃以内に止めることができます。

 

 ⑦ 当分、安価な石炭火力発電を使うことが、原発電力無しで、生活と産業用の電力を賄って脱原発を実現するための前提条件となります
3.11福島の過酷事故が起こる以前から、政府や電力会社は、原発の発電コストは、最も安価だとして、原発の利用の拡大に躍起になっていました。しかし、この原発の発電コストには、実行できるかどうか判らない上に算定の困難な核燃料廃棄物の処理・処分や廃炉の費用は含まれていません。さらには、今回の3.11福島のような過酷事故が起こった場合の、放射性物質の除染を含めた被害者への賠償金や、いま、大きな問題になっている過酷事故を起こした原発の廃炉の処理・処分の費用などが一切含まれていません。
すなわち、今までの原発の利用では、この見積もり不可能な大きなコストが、次世代の負債になって残っています。原発を再稼働すれば、これら次世代が負担しなければならない負債は、さらに増加します。これら次世代への経済的負担を少しでも軽くするためにも、原発の再稼働を停止するとともに、節電の徹底のもとでの現状で最も安価な石炭火力を利用すべきだとするのが私どもの主張です(文献 2 )。
現在、世界の電力生産の主体は石炭火力です。IEAデータ(エネ研データ(文献1)に記載)から、2013年の世界の電源構成のなかの石油火力発電量に占める比率5.5 % に較べ、日本のそれは15.8 % にも上ります。こんなもったいないことをしている国は、安価な石油の生産地の中東以外にはありません(注⑦-1)。
日本で、石油火力発電が多く用いられているのは、石油危機以前の日本の高度成長期には、中東から輸入される石油が、バレル1ドル台で、水より安いと言われるほど安かったからです。
注⑦-1; 各国の電源構成のなかの石油火力発電の比率;
日本 15.8 %、イタリア 8.3 %、米国 0.93 %、ドイツ 1.13 %、中国 0.15%、中東 39.3 %

 

⑧ 地球温暖化より怖い化石燃料の枯渇に伴う貧富の格差の拡大による世界平和の侵害を防ぐには、世界各国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使う私どもの提言案(文献2)が実現されなければなりません
いま、地球上の人類にとって本当に怖いのは、起こるかどうか判らないCO2の排出増加に起因するとされる地球温暖化の脅威ではありません。いま、地球上で続いている、経済成長のための化石燃料消費の増加の継続によってもたらされ、その供給の不均衡に伴う国際間の貧富の格差の拡大です。それが、アルカイダに始まりイスラム国(IS)に至る国際テロ戦争の形で現実化しています。
いま、この世界平和の侵害を防ぎ、人類が生き残る道として、私どもは、世界中の全ての国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、やがてやって来る再エネのみに依存しなければならない社会へとソフトランデイングすることを提案しています。
具体的には、2050年を目標年として、世界の全ての国が、一人当たりの化石燃料消費を現在(2012年)の世界平均値 1.52トン/人とすることです。ただし、この目標値は、各国の2050年と現在(2012年)の人口の増減比率により補正する必要があります。
詳細については私どもの新刊(文献2)を参照して頂きますが、この私どもの提言案は、日本を含む先進諸国にとっては、今後、大幅な化石燃料消費の節減が要求される厳しい目標です。しかし、この提言案の各国の化石燃料消費の節減目標値を、CO2排出削減目標値に代えて頂けば判るように、この私どもの提言案こそが、いま、国際的な合意になっているパリ協定での地球温暖化対策としての世界各国のCO2の排出削減の実行を可能にする唯一の方策となっています。
さらには、この私どもの提言案は、現状の世界の化石燃料消費の不均衡を正すことで、先進国・途上国間の貧富の格差を是正し、世界に平和を取り戻す唯一の方策となります。

 

⑨ 脱原発の実現のためには、アベノミクスのさらなる成長政策の廃止が求められなければなりません
地球上の化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰すれば、これを使えない人や国が出てきて、世界の経済はマイナス成長の時代に入って行きます。これが、いま、世界経済の不況、マイナス成長の時代の到来、資本主義社会の終焉として、現実のものとなっています。
いや、化石燃料が無くなっても、再エネがあるから大丈夫だと言う方が居られるかもしれませんが、それは、科学技術を知らない人の妄想です。現状では、再エネ電力の生産には、化石燃料が用いられていますが、この再エネ電力で再エネ電力をつくらなければならなくなる場合には、生産されたエネルギーの中の大きな割合が経済成長に使えなくなります。
この厳しい現実を無視して、いま、さらなる成長を求めようとしているのが、安倍政権が掲げるアベノミクスの成長戦略です。物価の2 % 上昇によるデフレからの脱却を求めてきたアベノミクスの成長戦略は、世界一と言われる国家財政赤字を積み増すだけで、やがて崩壊を迎えようとしています。
アベノミクスのさらなる成長戦略に必要なエネルギーを供給するために安倍政権が強行している原発の再稼働も、今までの所、脱原発を願う国民の反対を受けて思うようには進んでいません。再稼働を目的とした安全性の確保のための設備投資を行った原発が、再稼働できなければ、その投資資金は無駄になってしまいます。少子高齢化が進む中で、膨らんで行く福祉関連の予算を賄うためにも、再稼働のための安全性の強化に投じられる無駄なお金(税金)を減らすためにも、一日も早い、再稼働の廃止を含めた脱原発の実行への決断こそが、安倍政権に求められています。

 

 ⑩ 脱原発が実現できなければ、日本に未来はありません
産業革命以降、経済成長を支えてきたエネルギー源の化石燃料が枯渇を迎えようとしている今、この化石燃料の代替として、持続可能な夢のエネルギー源として期待されたのが、科学技術の力で人類を滅ぼしかねない原爆に使われた原子力エネルギーの平和利用を目的とした原発でした。
しかし、この原発の利用では、人類を破滅の淵に導きかねない大きな放射能汚染の問題を抱えています。すなわち、3.11 福島に見られるような原発の過酷事故だけでなく、原発の稼働に伴う核燃料廃棄物の処理・処分法が未解決のままです。
また、上記したように、アベノミクスが求めるさらなる成長が求められなければ、再稼働を含む原発の使用は必要がありません。
徹底した省エネの実行の下で、当分は、安価な石炭火力の電力を用いながら、それより安価に生産できるような再エネ電力の種類を選んで利用することで、マイナス成長のなかで、真の豊かさを求められるべきです。例えば、リニア新幹線の新設のような財政出動の無駄を排すれば、経済成長の抑制のなかで、豊かさを追及できる余地は十分あるはずです。
放射能汚染のリスクの大きい原発の再稼働を含む原発の保持を、アベノミクスの詐術を使って獲得した国会議員の数の力で推し進める政治は、日本の未来を踏みにじる許しがたい蛮行と断ぜざるを得ません。

 

補遺 ① 脱原発のために、化石燃料より高価な再エネの今すぐの利用を訴えたのでは、原発の再稼働を止めることはできません
いま、小泉元首相をはじめ、原発の再稼働を含めて脱原発を訴える人々の多くが 原発電力の代替に再エネ電力の利用を訴えています。
しかし、脱原発の目的が、安全性のリスクの回避であれば、上記(本文 ④)したように、原発の再稼働を止めるとともに、原発電力の代わりに、現状で、最も安価な石炭火力発電を使用すればよいのです(本文⑦)。それが、石炭火力ではなく、今すぐの再エネ電力を用いるべきだとするのは、1990年代以降、原発の使用目的に、地球温暖化対策としてのCO2排出削減が加わったからです。
しかし、電力の生産に再エネを、特に、日本で再エネ電力の主体となっている太陽光発電を利用したのでは、「再エネ電力固定価格買取制度(FIT制度)」の適用による電力料金の値上げで国民に経済的な負担をかけることになります。しかも、現状では、この太陽光発電主体の再エネ電力を利用したのでは、表補遺①-1に示すように、3.11福島以前の原発発電量に較べて、ごく僅かな電力しか供給できません。したがって、脱原発のために、今すぐの再エネ電力の利用を訴えることは、多くの国民が願っている脱原発の実現を遠ざけてしまうことになることになります。

表補遺①-1 再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの推定値
(環境省委託事業;「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査
報告書、平成23年3月」のデータをもとに計算して作成)

注 *1 ;原報の再エネ電力種類別の導入可能設備容量に、年間平均設備稼働率の推定値を乗じて計算した発電量 *2; 環境省調査報告書には記載がない。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の推算値 *3 ; 各再エネ電力種類別の導入ポテンシャル(発電量)の値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率

 

補遺 ②; 安倍首相主導で進められている原発技術の海外売り込みは、すでに崩壊に瀕している日本の原子力産業に引導を渡すことになります
2006年に米国のWestinghouse(WH)社を買収した東芝の経営が危機に瀕する大損失を蒙ったと報じられています。これは、世界の原子力産業の将来見通しを誤ったためとか、WH社に騙されたとか言われていますが、政治と産業の癒着で進められてきた日本のエネルギー政策の基本的な誤りに気がつかなかった東芝経営陣の責任と言わざるを得ません。
いま、原発のセールスマンに成り下がった安倍首相は、日本の原子力産業技術の海外への売り込みに必死です。しかし、3.11福島の過酷事故後の後始末、特に、メルトダウンを起こした廃炉の処理の目途が全くつかない現状を隠蔽したままの売り込みで、売り込んだ原発が3.11 福島のような過酷事故を起こしたらどうなるかを考えているのでしょうか?
福島第一の例に見られるように、この過酷事故の賠償金額は、一企業によって、負担できるような額ではありません。したがって、安倍首相が、万が一の場合を保障して、この海外売り込みを成功させようとしているのであれば、それは、一国の首相が博徒に成り下がって、国を売ろうしている恐ろしいことと言わざるを得ません。そういえば、安倍政権は、海外からの観光客を呼びこむためにカジノ法案を国会を通過させました。

 

補遺 ③; 福島における除染に国民のお金(税金)を使う前提条件として、政府は脱原発を宣言しなければなりません
3.11以後、福島第一の過酷事故により汚染した土壌の除染には、いくらお金をかけてもよいとして、避難指定地域の除染が進められました。2015年度までの5年で2兆円余の国費が投じられ、16年度も1兆2千億円が見込まれていると報じられています(朝日新聞 2017/3/21)。同紙は、さらに、これをビジネスチャンスと捉えて、各種企業により、福島県内の自治体に除染技術の売り込み合戦が繰り広げられており、そのなかで、この除染技術の開発に際して技術評価の相談に乗っている内閣府認定の公益財団法人「原子力バックエンド推進センター(ランデック)」と業者の関係が問題になっていると報じています。すなわち、巨額の除染事業は、震災前の公共事業の減少に苦しんでいた建設業界を活気づけましたが、今後工事が本格化する汚染土保管の中間貯蔵施設に絡んで、その除染技術の採択を目指す企業と、除染のキーマンとされるランデックの理事長の間の銀座のクラブでの接待の問題もあるようです。
この問題はさておき、ここでは、福島第一での除染についての安倍首相の態度を問題にしたいと考えます。一体、安倍首相は、この放射線で汚染された国土を誰のものと思っているのでしょうか? この除染を終えた避難指定地域の住民に対して、安倍首相は、帰還を強要しているようにさえ見えます。それは、今回の福島第一の事故を、できるだけ小さく見せようとしているからでしょう。先に、東京オリンピックの際に、福島第一の汚染水は完全にコントロールされていると宣言したと同じ政治的意図からです。しかし、実際の除染では、汚染土壌が指定された保管地に一時的に貯留されているだけです。また、費用の関係から森林の除染は手つかずに放置されたままです。このような避難指定地域に、除染が完了したから帰還しろと言われても、帰還できるのは、生業を持たない年金暮らし老人ぐらいでしょう。もともと、原発事故の被災地は、そこに住んでいた人々のものです。帰還する、しないは、住民の自由です。できるだけ原発事故の被害を小さく見せることで、原発再稼働を進めようとしている安倍首相の意図は余りにも明白です。
原発事故による被災地を、完全に元の状態に戻すことは不可能です。せめて、一部の人に戻って貰えるようにするだけでも、相当な時間とお金がかかります。この金額は、加害者の東電が負担できる額ではないから、国民のお金(税金)を使わざるを得ません。したがって、この除染に国民に経済的な負担をかける原因をつくった政府には、二度とこんな不条理が起こらないようにするために、脱原発をはっきりと宣言することが求められなければなりません。私どもは、原発事故の直後から、除染の仕事に関わる人々にこれを訴えてきましたが、聞き入れてもらえませんでした。

 

<引用文献>
1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016, 省エネルギーセンター、2016年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――
電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日:
https://kdp.amazon.co.jp/bookshelf?ref_=kdp_RP_PUB_savepub

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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