第8章) ホモサピエンスの知恵が光る低エネルギー文明     (要約)現代石油文明の次はどんな文明か

(要約)現代石油文明の次はどんな文明か      
  (第8章) ホモサピエンスの知恵が光る低エネルギー文明

1.石油に依存しない低エネルギー文明のかたち

日本は先進国の中で「最も持たざる国」です。エネルギー資源のほゞ100%、食糧カロリーも61%が海外依存です。石油に依存しない低エネルギー社会とはローカリゼーションで、食糧の地域自給、エネルギーの地域自給、自然との共生、地域主権の確立です。

 

2.バイオリージョンが地域経済のユニット

日本列島は島国で、脊梁~丘陵~扇状地~沖積平野~海岸・前浜がユニットになって、バイオリージョンを形成しています。バイオリージョンは、陸水と生態系が循環的なつながりある地域で、自然エネルギー環境、生態環境が多様性、地域個性があります。

 バイオリージョンのかたちは地域個性的ですが、地形的、土質的に共通性がある程度あります。よって、多様な自然エネルギーの分布にも地域独自性と共通性があります。

 

3.日本の食糧自給は可能か

米と甘藷の作付けを混成すれば、日本人全体のカロリーをまかなえる勘定になります。二毛作、二期作を復活すれば、ゆとりが出ます。さらに穀樹を山麓に大量に作付すると豊かに自給できます。問題はどのように自給を達成していくかです。工業的換金型の石油依存農業から地産地消型の生態循環農業へ、切り替えることです。そして、新しい低エネルギー農業の魅力とその使命を啓蒙し、その担い手を大量に生み出さなければなりません。

 

4.低エネルギー社会に適した農業

 低エネルギー社会への移行は大都市から地方への人口移動が伴います。大都市では自動車から自転車へのシフトが進み、大都市には空き地が広がって都市農業が可能になります。

実際に欧米の先進都市では都市農業が広がり、さらに都市牧畜も展開されています。

日本の地形から、低エネルギー社会にふさわしいのが「立体農業」です。基本形は、平坦から山麓にかけて広がる土地を、田、畑、穀樹、果樹、牧畜、養魚を組み合せて多角的に行う農業です。久宗壮は立体農業の発展と普及に努めました。

 低エネルギー社会では、石油で動く農業機械、飛行機散布が出来なくなります。「石油農法」は労働力の削減だけで、EPRが悪くなり、経済的に合わなくなるからです。一方、畜力農業、人力農業は、どのカロリー作物に対しても、EPRが高い農法です。低エネルギー社会では、機械化農業による大農経営は採算がとれなくなります。

 

5.日本の自然エネルギーの特徴

エネルギーのポテンシャル量は、風力発電と地熱発電が大きい地熱発電のEPRは約7と評価されていますが、最近発見された在来型の石油天然ガスとほとんど変わりないですし、もちろんシェールオイル/ガス、オイルサンドのEPRより高い。

自然エネルギーのもう一つの質の問題は「エネルギー供給の安定性」です。電源として小水力発電、地熱発電は安定的ですが、太陽光発電、風力発電は天候で変化し、バイオマス発電も地域によって季節変化します。直接熱利用として、「自然熱」には、温泉熱、地下水熱、太陽熱、地中熱などがあります。過剰に熱採取をしなければ持続可能な熱源です。

在来型地熱発電は自然断裂系循環型で、同じ熱源を使う温泉業者と争いが付き纏います。 

新たな人工涵養地熱発電が期待されます。地球深部の延性帯の中に冷水水圧破砕によって「延性の中に閉じた脆性破壊領域」を造成して発電する方法です。注入水損失と誘発地震がなく、温泉業者との争いも生じません。日本列島は火山地帯に限らず、地温勾配が高いエリアが広範囲にあります。深度5,000m500℃の延性岩層の地域が多々あります。

地域エネルギー開発は、個々の再生可能エネルギーが小規模で安定的でないため、複数のエネルギーを組み合せて地域電力のスマートグリッドの構成がメリットあります。

 

6.輸送の低エネルギー化

 日本の一次エネルギーの年間消費量は477.6百万トン、自動車燃料に使われる石油が約76百万トン、飛行機・船舶・農業機械などが残りです。自動車の数は乗用車が約5750万台、貨物自動車が1800万台で、それぞれ38百万トンの消費です。乗用車1台に付き、1日平均約1.8リットル(1升ビン1本分)の消費です。

石油が高くて不経済になった低エネルギー社会では、長距離輸送を前提とした経済構造が成り立たなくなります。バイオリージョンの中の主な輸送手段は徒歩、自転車になり、リヤカーが復活するでしょう。日本は起伏がありますから、電気自動車、太陽光パネル付軽自動車、木炭車なども開発利用されるでしょう。

石油ショート後の都市間交通、地域間輸送は、鉄道と海運・水運が良いとEPRが教えています。海岸線が長く、河川がいたるところに発達しているので海運・水運も有用です。

 

7.ヒトの労働価値の再認識

現代社会の人々は体を動かさなくなりました。機械と石油、電力に頼っています。低エネルギー社会では、機械と石油に依存する働き方、生活スタイルが不経済になってきますす。

労働とは、ヒトが肉体的能力・精神的能力を使って外部の自然に目的意識をもって働きかけ、自然の恵みを得て、自然の恐怖に避ける活動です。目的をもって労働することによってヒトの肉体的・精神的能力は発展し、文化が生まれます。目的もなく強制された労働、過酷労働もヒトの肉体的能力、精神的能力、そして文化的能力を後退させます。

人力による稲作農業のEPR10以上です。古来から人間の肉体的労働が、文明を続け

てきたことが分かります。低エネルギー社会では、機械に頼らず身体を動かして移動する、労働することが非常に増え、後退した能力が回復されます。

  

8.低エネルギー社会の経済

石油の余剰エネルギーが減少すると、低廉な労働を求めて資本の国際進出する一方で、国内資本の剰余価値が減少します。さらに国の税制支援などに依存するなど資本主義経済の自立性が失われています。

低エネルギー社会では経済の地域化、食料とエネルギーの地域自給、中小資本の地域密着型経営が基本になります。一方、大資本には世界を見渡す戦略的な能力を生かして地域産業の生み出す価値を「三方良し」で世界に普及させる力があります。

経済活動における生産の三要素は変わりませんが、資本が強い立場になれない、資本よりも労働の知恵と技術が大きな役割を担います。加えて、地域住民の考えが重要で、資本、労働と住民の共同で経営する経済制度になると思います。

ドイツ人経済学者E.F. Schumacherは、第一次石油危機を予言して有名になりました。同氏の立場は、地球は有限、ヒトは生態の一部、ほどほどで幸せ、です。また、現代の巨大な科学技術が現代社会に次の3つの危機をもたらしていると指摘しています。

・第一の危機:技術、組織、政治の在り方が人間性にもとり、ヒトの心を蝕むものである。

・第二の危機:人間の生命を支える生物界という環境を痛めつけ、崩壊させている。

・第三の危機:化石燃料資源の浪費が極度に進み、近い将来、減耗する。

E.F. Schumacherから、低エネルギー社会の経済のかたち、必要な技術について基本的な考え方を学ぶことができます。

            

9.低エネルギー文明を支える思想

≪有限地球観≫

低エネルギー社会の基礎をなす世界観は「有限地球観」と「自然共生観」です。すなわち、有限な資源には、枯渇する資源と再生可能な資源があります。一方、資本主義経済は指数関数的な無限成長を原理とします。

EPRの高い枯渇型資源の生産が成長している間、資本主義経済は成長します。しかし、枯渇型資源の生産が減衰すると、資本主義が期する成長との乖離が大きくなります。資源が減耗する環境で経済成長に固執すれば社会矛盾が深刻になり、経済の方が壊れます。経済を永続させるには、定常的である再生可能資源に依存する経済体制の選択が最良です。

我々は有限地球観に立って、再生可能資源を自然共生観の下で活用し、経済もそれに合わせれば、子々孫々、人類社会が永続すると認識することが根本的に重要です。

≪もったいない生活観≫

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