現代文明の血液:石油の基礎知識(1)

1.現代文明を創った安い石油
文明のかたちは、余剰エネルギーの質と量、そしてそれを使う社会の人々の創造的な知恵で決まります。質とはエネルギーの使い勝手が広いかどうか、量とは大量に安価で手に入るかどうか、ということです。創造的な知恵はホモサピエンスが有する能力です。
現代文明では、質的に最良のエネルギーである石油が水と同様に安価に手に入ります。1バーレル100ドル≒10,000円として、1リットル60円程度です。上乗せされる輸入税と諸経費抜きの価格ですが、石油高騰といってもコンビニで売るミネラルウォーターより安いです。 20世紀に入って1973年の第一次石油危機までのあいだ、世界の石油価格は現在価値で、概ね1バーレル20ドル以下でした。日本円でみて、戦後、1972年まで1キロリットル当たり5,000円未満、1リットル5円未満でした。東京都の業務用水道水は下水料金と合わせて1キロリットル当たり最大約750円です。石油が水とともに社会の生き血として、産業と生活の全体、すなわち運輸、工業、農業、サービス業、電力製造の主役・脇役、民生の隅々まで円滑に循環して、現代文明を築いてきたことは十分に納得いくことです。

最近、米国で「技術革新によってシェールオイル・ガス革命」が起こったようにいわれています。しかし、1990年代から石油価格がバールル当たり60ドル以上に高騰すると、シェールオイルの生産が可能がといわれていました。シェールガスも立方フィートあたり5-7ドルでないと採算が合わない高価な天然ガスです。現在石油ピークが進行して、石油価格の高騰と石油のエネルギー収支比が10以下に悪化してきているので、シェールオイル・ガスの開発が可能になったのです。これがコトの本質です。
あとで詳述しますが、石油のエネルギー収支比(EPR)と略称とは石油換算1バーレルを投入して生産される石油量(バーレル)であって、EPRが10以上でないと、石油文明が支えられなくなるといわれています。シェールオイル・ガス、さらにはメタンハイドレートでは、安い石油が作ってきた現代社会の構造を維持することはできません。  
現代社会は石油を「生き血」とする文明です。その石油が地下にどのように存在しているのか、石油の文明的意味をどう理解したらよいのかについて、中・高等教育、および社会教育で基礎的なことすら教えていないのが日本の教育です。そのような観点から、以下に、石油鉱床(油田)に関する基礎知識について述べます。


2.石油の生成と油田の形成

石油・天然ガスの元祖は、生物遺骸が泥質堆積物と一緒に堆積したもので、石油根源岩といいます。石油根源岩は地下数千メートルにまで埋没し、有機成分(炭素と水素の結合したモノ)が酸素によって酸化されることのない化学的条件の下で、地球の圧力と温度を受けて石油・天然ガスが生成されます。石油は90℃以下、天然ガスは110℃以上の温度環境で、何百万年もかかって生成されます。石油と天然ガスの生成の差異は、有機物の特徴にも因りますが、主として生成場の温度の差異で決まります。石油も天然ガスも、その生成だけでなく、油田、ガス田が形成される条件も同じです。
石油根源岩の中で生成した石油は、地層圧と浮力によって石油根源岩から排出され、多孔質の貯留層の中を上方へ移動していきます。何百万年もかかって移動し、貯留岩の高い場所で、これ以上浮力上昇できない場所に集積して油層が形成されます。油層はその上位と側方の石油が漏れない岩石でシールされる場所です。シールには孔隙のないシェール、稠密な石灰岩などがあります。そのような油層が上下に何層も重なって、また隣り合って形成されるものです。これらをまとめて油田と名付け、石油生産の単位になります。
油田の形状は産出する地域の地質環境によってさまざまです。油田は1層以上の油層からなります。各々の油層は孔隙のある貯留岩の中にできます。砂岩、石灰岩が代表的な貯留岩です。石油は水より軽いので、浮力が働いて貯留岩の中を移動し、高い場所に集積して油層を形成します。
油層の孔隙の中には、岩石粒子に付着している石油と流動できる石油の2種類があります。油層の中を流動できて坑井を通して採油できる石油が可採埋蔵量として評価される石油です。その可採量は概ね30%ですが、油田が形成されている貯留岩の性状、および貯留されている石油の粘性度(軽質成分が多いか、重質成分が多いか)によって異なります。


3.石油生産の特徴
≪一本の石油生産井≫

  油田に一本の石油生産井を掘削した場合を考えます。その一本の生産井からの生産量の推移を考えます。生産テストで最適な採油能力を決めてから商業生産開始です。
生産の初期には貯留岩にかかる地層圧が高いので勢いよく自噴します。地層圧と

は地層の孔隙のなかの流体の圧力のことです。ときが経つにつれて地層圧が減少して大気圧に近づくにつれて自噴力が弱まります。油層の下位にある端水面も上昇していきます。
石油生産をはじめると石油生産坑井に向かってその周辺から石油が流入して生産に寄与しますが、石油が流れ出た周辺では地層水が孔隙に浸入してきます。しかし、やがて地層水も採掘の坑井へ流入します。そして地層圧も減少して自噴できなくなり、ポンプで汲み上げること(リフティング)になります。
その次に油層の岩石粒子に付着している石油に流動性を与えて取り出す技術を増進回収法といいますが、回収量が限られており、エネルギーを多量に使うのでEPRが低くなります。そして最後は、採算合うまで水に薄く浮いた石油を回収します。 一本の石油生産坑井での生産量は、生産初期には大きいですが、次第に減量していくパターン(減衰型)になります。
このような採油の一生から、石油油田の経済的な寿命が有限な資源であることがよくわかります。

≪油田の生産≫
  油田の面積は10km2程度から1,000km2を超える規模のものまで様々です。世界一のガワ―ル油田は4,000km2に及びます。予め地球物理学的・地質学的調査を実施して油田の規模や構造、油層分布の概要を把握します。どんなに調査技術を進歩させ、駆使しても油田を生産の前に完全に把握することは不可能です。生産を積み重ねることによって次第に分かってくるものです。それが知り尽くせない地球の姿です。
油田の中の油層の形や孔隙率・浸透率は均質でなく、非常に複雑です。従って、生産リスクの少ないと想定される場所から生産坑井を適切な間隔で順次掘削し、生産量を増やしていきます。同時に油層の情報を集積して油田の全体像が明らかにし、油田全体に対して最適な生産坑井を配置していきます。
どの生産坑井でも生産推移のパターンは「減衰型」ですが、油田全体での生産推移は、「減衰型」の立ち上がり年、生産量の最大量、生産の継続年数の重ね合わせですから、油田での生産初期から生産坑井が油田全体に広がるにつれて増加します。そして油田全体での最大生産量(ピーク)に達してプラトーに推移します。その後は減少して行きます。これが油田の基本的な生産量推移モデルです。    
多くの産油国にはいくつもの油田があります。それぞれの油田の規模、生産開始の時期、生産能力が異なります。しかし一国の石油生産量推移モデルは、「ピークプラトーのあるベル型」になり、世界全体でのイージーオイルの生産量推移も、同様な型になっています。
(続)

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