日米同盟の強化と日本エネルギー安全保障(その1)化石燃料供給安定化のために日米同盟の強化は不要である

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

 日本のエネルギー安全保障のために、日米の軍事同盟の強化が求められている
安倍首相は、この(2017年)2月10日、米国大統領に就任したばかりトランプ氏との信頼関係を築きあげようと新大統領のもとを訪れた。選挙前に米国にとっての対日貿易赤字の原因になっている日本の円安誘導策や、米国車の日本での販売不振に対する日本側の対応など、いわれのない経済摩擦問題で日本を批判していたトランプ新大統領は、この経済問題を一切封印したまま、今回の安倍首相の訪問を、氏のフロリダの別荘への招待と、4度の会食、ゴルフで歓迎し、今回の会談の成果を、その共同声明のなかで、日米同盟の強化とする安倍首相の要請に合意した。
この日米同盟の強化の具体的な内容は、日本側の強い要請で共同声明に盛り込まれた尖閣列島を日米安保の対象とするなどの軍事同盟の強化である。これに、たまたま安倍首相のトランプ氏の別荘訪問中に起こった北朝鮮のミサイル発射実験が加わり、早速、安倍首相の要請に応えて、トランプ大統領の日本への100 % のバックアップ発言も引き出された。
この日米同盟は、いま、日本経済にとっての大きな関心事になっている「エネルギー安全保障」に大きな影響があるとされ、日本のエネルギー・経済問題の調査・研究機関である財団法人日本エネルギー経済研究所(法人化される前は、通産省の下部機構で、以下エネ研と略記する)による「日本エネルギー安全保障調査報告書 2014年 3 月」(以下文献1 )にとりあげられている。
このエネ研の調査報告書で、第一にとりあげられているのは、一頃、エネルギー問題でシェールガス革命と騒ぎたてられた、米国における水平掘削技術の開発による、天然ガス生産量の飛躍的な増加が期待された米国産のシェールガスを日本に輸入する可能性について記されている。次いで、第二の問題としては、その内容が、いささか焦点ぼけしていて判り難いが、日本のエネル―ギー源として、現在(2014年度)、の石油の需要量の82.7 %を占めている中東の石油の日本への輸入量の確保と、輸送の際のシーレーン防衛の問題がとりあげられている。さらに、第三の問題として、3.11福島の原発事故で、現在、その生産が殆ど行われていない原発電力の確保の問題に関連して、原発産業の振興での日米同盟の重要性が記されている。
以下、本稿(その1)では、この調査報告書(文献1 )でとりあげられている三つの「日本エネルギーの安全保障」の問題の中の、第―、第二の問題について、私どもの見解を述べる。より詳細について、私どもの新刊(文献2 )を参照されたい。

 

 米国のシェールガスは日本での輸入の対象にならない
先ず、この調査報告書(文献1 )が、日本への輸入の対象としている米国の天然ガスについての輸出可能量について調べてみる。この調査報告書を作成したエネ研の統計データ(文献3 )について、天然ガスの生産量(BP(British Petroleum)社のデータ)と消費量(IEA(国際エネルギー機関)のデータ)の最近(2006 ~ 2013年)の年次変化を調べてみた結果を図1に示した。この図1から、2010年頃から、生産量が消費量を上回るようになっていたことが判る。これは、米国における最近のシェールガスの開発に由来すると考えてよく、米国では、発電用の燃料の一部が地球温暖化対策として、CO2排出量の多い石炭から天然ガスへの切り替えが行われ、また、余剰の天然ガスがヨーロッパに輸出されるようになったと報じられている。しかし、この生産量と消費量の差は、ごく僅かである。

注;生産量はBP社データ、消費量はIEAデータ、BP社のm3 で与えられた生産量の値を、0.919 石油換算トン/m3 (2005 ~ 2010年)、0.901 石油換算トン/m3 (2011 ~ 2014年)として石油換算トンに変換した。
図 1 米国における最近の石油の生産量と消費量の年次変化
(エネ研データ(文献3 )に記載のBP社データとIEAデータをもとに作成)

日本は、天然ガスの需要のほぼ全量を、輸入先国での液化の費用を加えて液化天然ガス(LNG)として輸入している。エネ研データ(文献3 )でみると、実は、日本にとっての最初の輸入国は米国で、1969年度から1,000千トン前後の輸入量を維持してきたが、1970年代以降、他国からのLNGの輸入量が急速に増える中で、輸入量合計(輸入計)に対する米国からの輸入量比率は図2に示すように、急速に減少して、2014 年には輸入計に対する比率は、僅か0.29%にまで落ち込んでいる。この米国からのLNGの輸入は、日本にとって、一度つくった液化設備の寿命に関係するLNGの売買契約上の理由での購入ではないかと考えられる。

図 2 日本におけるLNG輸入量合計(輸入計)のなかの米国からの比率の年次変化
(エネ研データ(文献3 )をもとに作成)

LNGの場合、2014年度の日本にとってのその輸入先国は、輸入量の多い順に(括弧内に輸入計の比率を示す)、オーストラリア(22.0 %)、カタール(18.5 %)、マレーシア(17.2 %)、ロシア(9.6%)、UAE(5.0%)、インドネシア(6.4 %)等20ヶ国以上にも及び、中東への依存度が82.7 %と高い石油とは異なり、その輸入先の多様化が十分確保されている。
したがって、石油生産の随伴ガスなどに較べて、はるかに生産コストの高い米国のシェールガスに液化の費用を加えたLNGを、エネルギーの安全保障のためとして、今後、その輸入量を増加させる必要は全くないと考えてよい。

 

エネルギー安全保障のための米国からの化石燃料の輸入は考えられない
次いで、この調査報告書(文献1)では、現在、経済成長のエネルギー源の主役を担っている化石燃料について、そのほぼ全量を輸入に依存している日本における、その輸入量の確保に関する安全保障の問題を調査の対象にしている。
そこで、先ず、日本の化石燃料の種類別に、日本の輸入量合計に対する米国からの輸入量の比率をエネ研データ(文献3 )で調べてみると、2014年度の値として、一般炭で 1.10 %、原料炭で6.03 %と計算される。
石油について、米国は、つい最近までは、図3に示すように、国内消費量が生産量を大幅に上回り、輸出余力が無かったのが、水平掘削技術の開発で、シェールオイルが生産されるようになって、石油の輸出国に転じた。しかし、BP社データの確認可採埋蔵量(以下、可採埋蔵量)の年次変化で見ると、図4に示すように、さほどの増加とは言えない。

注; 生産量 b/d を72.96 石油トン/年として換算した。
図3 米国における石油の生産量と消費量の年次変化 (エネ研データ(文献2 )に記載のBP社データ(生産量)およびIEAデータ(消費量)を用いて作成)

図 4 米国における石油の可採埋蔵量の年次変化 (エネ研データ(文献 3 )記載のBP社データから)

これは、新たに生産されるようになったシェールオイルでの1本の掘削井戸当たりの掘削可能石油量が少なく、その生産コストが高くなることが判ったためである。したがって、2014年の可採埋蔵量の値Rを、同年の生産量Pで割った可採年数(R/P)の値は、13.4 年と世界平均の54.1年を大きく下回っている。
エネ研データ(文献3 )には、現在、石油についての日本の米国からの輸入量の記載はない。ところが、つい最近、朝日新聞(2017/2/24)に、わが目を疑う次のような記事があった。
「政府 米国原油に熱視線 トランプ氏パイプライン建設許可受け」の表題で、トランプ政権の発足で、政府は、米国のエネルギー事業へ本格的な関与を検討するとして、「調達 脱中東へ戦略」の副題で、23日まで開かれている外務省の「エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議」の内容が報道されていた。
技術革新によるで劇的な供給増を可能にした「シェール革命」で増産された米国の原油が、トランプ氏の大統領就任で、原油輸入量の8割を中東に依存する日本の原油調達先を広げる好機が到来したとするものである。その上で、この中東依存からの脱却がエネルギーの安全保障に貢献し、米国の原油パイプラインの建設や原油の輸入拡大がエネルギー分野における日米同盟の強化に繋がるとしている。
しかし、上記したような米国における石油の生産事業の実態を知るならば、外務省官僚によるこのようなエネルギー関連の外交戦略は全くの的外れの構想に過ぎないことが容易に判るはずである。まさに、この国の混迷するエネルギー政策の典型例と言ってよい。
さらに、天然ガス(LNG)についも、上記したように、日本の輸入量合計に対する米国からの比率は0.3% 程度と無視できる量でしかない。
以上から判るように、日本のエネルギー安全保障にとって、米国からの輸入化石燃料の寄与は、現状では殆ど無視できるし、将来も有意の貢献は考えられない。したがって、日本のエネルギー安全保障のために、日米同盟の強化が必要だとすれば、それは、現在(2014年度)、輸入量の82.7 % を占める中東石油の供給の安定化を確保するための日米間の軍事同盟の貢献ではないかと考えて見る。

 

中東石油の安定供給の確保のためには、中東地域における平和の確立以外に方法が無い。
第2次大戦後の日本経済の高度成長を支えてきた中東の石油は、石油危機によって、その国際市場価格が一挙に10 倍以上も高騰し、さらにその枯渇への懸念から、乱高下はあるものの年次上昇を続けている。いまでも、そして、その代替エネルギーが受容可能な価格で入手できるようになるまでは、将来も、日本経済にとっての生活と産業用に極めて重要な役割を担い続けるのは中東の石油であろう。
この中東石油の供給の一時中断の恐怖は、1970年代の中東地域での軍事紛争に端を発した石油危機のときに嫌と言うほど思い知らされた。この石油危機時の教訓から、石油の備蓄が行われるようになったが、これは、あくまでも、中東での平和の回復による石油の供給の安定化までの一時しのぎの対応に過ぎない。
したがって、石油危機後も、アルカイダにはじまり、イスラム国(IS)に至り、さらにシリアの内戦など、中東での軍事紛争が絶えないなかで、現在(2014年)、世界の石油の生産量の32.2 % を占める中東の石油の安定供給の保障は、世界の火薬庫とも言われてきたこの中東地域の平和の確立以外にないことを厳しく認識すべきである。
では、何故、このような中東の平和を乱す過激化勢力が現れたのかを考えてみる。それは、イスラム教徒にとって、アラーの神の恵みと言われる豊かな石油の利権が、産油国における一部の権力者と、その権力者に石油開発技術を提供してきたメジャーを通して先進諸国に独占されるようになり、その恩恵に預かれない人々にとっての貧富の格差への不満が、宗教と結びついて、政治構造の改革を求める過激な国際的なテロ活動へと繋がって行ったと考えることができる。
現代文明社会の矛盾を批判して国際的なテロ活動を始めたアルカイダを殲滅するとしたブッシュ政権によるイラク進攻は、フセイン政権を倒したが、代わってできたイラク新政権に反対する人々が、世界中のイスラム過激派の義勇兵を集めて、イスラム国(IS)の建国を宣言するとともに、イラクの隣国シリアの内乱にも介入して中東地域の軍事紛争を拡大させた。結果として生存の地を追われた人々による深刻な難民問題が発生している。
このISの殲滅を図ろうとする米国が主導する有志連合諸国による空爆に反発するISは、いま、国際テロ戦争を中東以外の世界各国に広めている。この国際テロ戦争は、追い詰められたISによる最後のあがきだと見る人も居るが、これが宗教活動と結びついて、自爆テロの形をとって続けられる以上、これを軍事力によって殲滅することは不可能と考えるべきである。
何とかして、これらIS 国を支持する人々との融和を図り、世界の平和を取り戻すには、有志連合諸国とISとの間を仲介できる中立国の存在が必要ではなかろうか。いま、世界でその役割を果たすことができるとしたら、宗教問題に最も寛容であるとされる上に、第2次大戦での敗戦の苦い経験から憲法九条による戦争放棄を国是とする日本でなければならなかった。幸い、つい最近まで、日本は、イスラム過激派の人々によるテロの標的となるようなことはしてこなかった。
ところが、イラク戦争の結果成立したISに対し、有志連合国が空爆によって、その殲滅を図ろうとした時に、あろうことか、安倍首相は、真っ先にこの空爆を支持すると発表して、日本をISによるテロ戦争の標的にしてしまった。
さらに、安倍政権は、歴代内閣が違憲としてきた集団的自衛権に対する憲法解釈を変更して、多数の国民の反対を押し切って成立させた安保法制の下で、米国の軍事行動の後方支援のための自衛隊の海外派遣を合法化したことで、中立国として、中東の平和を仲立ちできる日本の立場を放棄してしまった。

 

中東石油輸入でのシーレーンの確保のための日米軍事同盟が必要とは考えられない
安倍政権による安保法制の主な目的のなかには、中東石油を日本まで運ぶシーレーンの防衛が明確に示されている。この目的のためには、シーレーンを脅かす仮想敵国をつくらなければならない。この仮想敵国としては、ホルム海峡ではイランが、また、南シナ海では、南沙諸島の領有権を主張する中国が想定されている。
安保法制の成立に際し、日本の安全保障を巡る国際環境が大きく変わったと安倍政権は盛んに訴えているが、その一つが、中国との間の尖閣列島を巡る領有権の問題である。しかし、この問題は、日中平和条約の締結時に、両国の次の世代に先送りすることが決められていたはずである。その約束を破ったのは、日本側による国有化であった。安倍首相は、米国の新大統領のトランプ氏との日米会談で、尖閣列島を日米安保の対象とするとの言質をトランプ氏からとりつけた。
さらに、安倍政権にとっての仮想敵国としては、北朝鮮がある。既に原爆を保有し、米大陸まで到達可能な大陸間弾道弾を開発中の北朝鮮の攻撃目標に日本が含まれるとして、このミサイルを撃ち落とすための日米軍事同盟の強化もトランプ大統領に依頼したようである。しかし、北朝鮮の核兵器開発の目的は、朝鮮半島の非核化の要求を呑まない北朝鮮に経済制裁を加えている米国との間で、何とか平和条約を締結することでhなかろうか。いかに非常識な行動をとる金正恩であっても、米国に原発を打ち込むような国家消滅のリスクを冒すとは考えられない。
安倍政権が仮想敵国とする中国と北朝鮮に対する防衛費として、どれだけお金をかけたらよいのか、実は見当もつかない。地球上の化石燃料資源が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰して、日本の貿易赤字の継続が予想されるなかで、安保法制下での国益に反する国防費を増加させることは、すでに、世界一の財政赤字を抱えて苦境にある日本経済を破綻の淵に陥れるのを早める以外の何ものでもない。

 

<引用文献>
1.日本エネルギー経済研究所;日本エネルギー安全保障調査報告書、2014年3月
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――
電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日:
https://kdp.amazon.co.jp/bookshelf?ref_=kdp_RP_PUB_savepub
3、日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016, 省エネルギーセンター、2016年

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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