日本版FITの問題点(3)

 電力会社の本質


電力会社というと、黒四ダムや、原子力発電所などの発電設備に目がいくが、事業の本質は「つなぐ」という事にある。数千万本におよぶ電柱、数百万kmにおよぶ電線、変圧器等々を営々と築き上げ、保守してきたのである。
そこには、用地交渉に始って、設計、工事、系統運用、保守等、様々なノウハウが蓄積されている。私は昔、外線設計をしていた事があるが、設計だけでも一人前になるには5年は必要だと言われた。

強度計算や電気設計、景観との調和など様々な要素の検討が必要である。電柱は何気なく立っているように見えるが、数十年間、風雨や街の変化に耐える設備には、それだけのノウハウが詰まっているのである。

これらのノウハウは電力会社の固有技術であって、施工業者は電力会社の指示通り工事をしているに過ぎない。日本版FITでは、アクセスラインの建設を新規の発電事業者に要求しているのであるが、果たしてそれが可能だろうか? 


新規事業者に電柱が建てられるか?

まず、新規事業者が電柱を建てる事は不可能に近い。山の中や、自分の土地に建てるのは自由である。しかし国道や県道など、いわゆる公道に電柱を建てるには、道路管理者の許可が必要である。電柱というのは、街の景観を劣化させる「迷惑施設」であって、道路管理者としてはなるべく建てさせたくないのである(1)。

電柱は道路に沿って敷設されるが、道路には左右に2つのサイドしかない。過去からの経緯により、電力とNTTが既得権を持っている。すなわち右サイドに電力が建てる場合は、左サイドにNTTが建てる。

電力の電柱には通信線を共架させ、NTTの電柱には、配電設備の設置を認める。NTTは電力会社のために、わざわざ高い電柱を建てるのである。こうして電力会社とNTTは、現場レベルの協力体制が出来上がっている。そこに新規の発電事業者が割り込む事は不可能であろう。

たとえ新規発電事業者が特高配電線の建設に成功したとしても、20年間余に渡り、設備を保守していく事は不可能であると言える。現在のルールは保安上も問題が大きい。

送電部門の人間は往々にして「配電線など送電線の先についている僅かな電線」程度に考えており、「施工業者にたのめば建設は簡単」、などと言ってくるのであるが、それは配電部門を見くびっている。通信線には「ラスト1マイル」という概念があるが、電力の場合も、電気の品質(電圧、供給信頼度)を決めているのは、大部分がラスト1マイルの配電系統なのである。


(1) 電柱問題に取り組まれた著名な学者が、東大先端研におられた大越孝敬先生である。先生の名著「光ファイバ通信」では、最後の章で日本の電線地中化が進まない原因を分析しておられる。私は縁あって、先生の亡くなられた翌年(1995)に、配電部門から光通信の研究に転じた。

電線地中化が進まなかった要因として、電力会社が株主から利益追求を要求される「株式会社」であった事が大きいように思う。これは福島の原発についても言えるであろう。経済性と安全性、美観との調和が問題である。

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